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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン6 黄金に輝く太陽の炉心

 
前書き
前回のあらすじ:外で陽動に励む糸巻の元に放たれたプロの傭兵デュエリスト、蜘蛛。しかしその心の奥底に潜むエンターテイナーとしてのプロ意識を(口八丁で)引き出した彼女は、真のプロデュエリストとしての理不尽をいやというほどに叩きつけ逆転勝利を収めるのだった。 

 
 時間は再び前後して、糸巻と蜘蛛のデュエルに決着がつき、彼女が次の陽動に移る少し前。防音遮断された兜建設謹製ドームの内部では、外の闘争など知る由もなく。申し訳程度の休憩時間の後、今まさにコロシアム2回戦が始まろうとしていた。

「よろしく」

 鳥居と向かい合うなりそう言って頭を下げたのは、この華やかな場にはあまりにも場違いなくたびれたグレーのスーツ姿の男。やや薄くなった頭に若干突き出た腹、そしてよく言えば人畜無害だが悪く言えば何の特徴もない顔つきの、極めて平凡極まりない中年。大げさな仕草で一礼を返しながら、この平凡な男が勝ちあがってくることを予想していた女上司の言葉を思い出す。

『で、だ。1回戦はこんなもんだが、次は2回戦だな。多分勝ち上がってくるのはこっち、青木のおっさんだろうな』

 そう言って彼女は、何のためらいもなく隣のブロックの結果を予想したものだ。

『この青木のおっさんだがな、アタシより年は上だがプロ入りしたのはアタシより後だ。なんでもその前はどっかのブラック会社でソーラーパネルの営業やってる社畜だったらしいんだが、ある時に死んだ目でフラフラ外回りしてたら偶然カードを拾ったらしくてな』
『は、はあ』

 そしていきなり始まった謎の語りに困惑する彼の反応を知ってか知らずか、赤い髪を揺らしながら丸暗記しているらしいその後輩の話をぺらぺらと続けたのだ。

『それまでデュエルモンスターズには興味もない、ルールも何も知らないおっさんが、そのカードにだけは何かを感じたんだろうな。なんとなく拾ってお守り替わりに持ち歩き、イラストを見ては強いのかどうかも全く分からないテキストを何度も読んで、それだけを心の支えにしてたらしい。あ、本人に直接聞いた話だから信憑性は確かだぞこれ。で、そんなときにその会社が倒産したわけだ。急に仕事がなくなった青木のおっさんは少ない貯金でどうにか凌ぎながら、次の仕事を探す時間を丸々つぎ込んで手探りでルールを覚えてデッキも作り、はじめは町内大会あたりからだんだん勝ち上がっていってな。どう見ても素人の、明らかに浮いてるおっさんの姿がマスコミの目について、面白がったスポンサーが付き、あとはとんとん拍子のプロ入りだ』

 なるほど、と目の前の青木の姿を見て、彼はその時の糸巻の言葉にようやく得心がいった。13年前の「BV」事件よりも前の世界では、老若男女のあらゆる人間がデュエルを楽しんでいたといっても過言ではない。町内大会に中年男が出場する光景も、それ自体は何もおかしなことではなかった記憶が彼にははっきりと残っている。
 だが目の前のこのくたびれた男は、なんというか覇気が薄いのだ。デュエリスト特有の匂いというか気配が、妙に薄くしか感じられない。あれから長い時がたった今ですらこの調子なのだから、当時は確かに目立って仕方なかっただろうと心の中で頷く。例えるならば英語版のキラー・トマトがずらりと並んでいる中に、1枚だけ日本語版を紛れ込ませるようなものだ。

『だがな、経歴が浅いからって油断すんなよ。青木のおっさんのプロとしての2つ名は「太陽光発電」……すぐにその意味も分かるだろうが、なかなかどうして骨のある相手だぜ。あのおっさんは正直デュエルポリス(こっち側)に来ると思ってたんだけどな……最後に会った時はローンやらなんやらで首が回らないとか言ってたから、まずいとこに金借りちまって断り切れなかったんだろうな。なにせ、薄給のアタシらと違って動く金はあっちの方が桁違いだ』

 そこまでの会話を思い返したところで、頭上のスピーカーがタイミングよくがなり立てた。

「さあ、いよいよ準決勝。2回戦の始まりだぜ!今注目度の高いブロックはBブロック、新進気鋭の大型新人の鳥居浄瑠……そして対するは中年の星、輝け太陽光発電!今大会の最年長選手、青木(まさる)!時間も押してるからじゃんじゃん行くぜ、さあ……」

 会場に設置された時計の秒針がきっかり真上を向いた瞬間、2か所のデュエルフィールドで同時に試合が始まる。今回は鳥居が先攻であり、じっくりと布陣を整えることができる。

「「デュエル!」」

「『さあさあさあ、ご用とお急ぎでない方はお立会い。これより始まりますは、魔界劇場は第2幕。次なる演目を皆様にお目にかけましょう!』」

 大見得を切ったところで、彼は会場の反応から確かなその手ごたえを感じていた。先の1回戦を経て、確実に会場の注目は自分へと注がれている。無論、そうは言ってもまだ大した程度ではない。自分たちの反対側にあるデュエルフィールドではシード枠がデュエルを始めており、つい昨日まで無名の新人でしかなかった自分よりもそちらの優勝候補が注目を集めるのは当然だろう。
 しかし、そんなことは彼にとって気にならなかった。大事なのは1回戦よりも会場の熱気が確実に上がっており、それに自分が一役買っているという事実だけだ。視線を集め、熱狂を注がれ、そしてそれを自分が巻き起こす快感。それこそが、彼にとって一番のモチベーションだった。

「『それでは、開演のお時間がやってまいりました。路傍に佇む要石、魔界劇団-エキストラを通常召喚!』」

 最初に鳥居が繰り出したモンスターは、上部に穴が開いた小型の円盤のような物体。そこからむくむくと3つの人型が持ち上がり、やがてそれぞれがお揃いの帽子をかぶり赤、黄、緑の3色のチョッキをそれぞれ羽織った個別のモンスターとなる。

 魔界劇団-エキストラ 攻100

「『おやおや、これは大変です。エキストラばかりが舞台を練り歩き、肝心の主演役者の皆様が影も形もございません。どうやら彼らはこの大一番に出番を忘れてしまった模様、大至急呼び出してもらいましょう。エキストラのモンスター効果、発動!このカードをリリースすることでデッキから別の魔界劇団1体を選択し、そのカードを(ペンデュラム)ゾーンへと直接発動いたします。レフトPゾーンにスケール0、世界が誇る我らの歌姫。魔界劇団-メロー・マドンナをセッティング!』」

 3体のエキストラが一斉に元の円盤の中へと引っ込むと、まるで本物のUFOよろしくそれがふわりと浮き上がる。そのままふわふわと鳥居の指示した左手の方向まで移動した円盤が白い煙を吹き出して視界を遮り、その煙が晴れた時その位置には光の柱、そしてその中心には大胆なスリット入りの黒い服にピンクの長髪をなびかせる女性型モンスターが静かに目を閉じて自らの出番を待っていた。

「『さらにここで、前奏曲としてメロー・マドンナのペンデュラム効果を発動いたしましょう。私のライフ1000をコストに、彼女は仲間を呼び込む戦いの歌を歌います。その歌声につられることで、私はさらなる魔界劇団を手札に加えることが可能となるのです』」

 鳥居 LP4000→3000

「ならばここで、手札から幽鬼(ゆき)うさぎの効果を発動しましょう。相手フィールドに表側で存在するカードが効果を発動した際、このカードを捨てることでそれを破壊」
「『おおっと!?』」
「そして使い手の君に言うまでもないでしょうが、メロー・マドンナはその性質上、発動にチェーンして破壊された場合にサーチを行うことはできない」

 腰に手を当て、光の柱の中で今まさに歌い出さんとした歌姫に鋭い鎌の魔の手が迫る。銀髪の少女によって光の柱を両断された歌姫はやむなくその歌を中断し、その場から一時的に退場した。

「『嗚呼なんということでしょう、興奮した少女による客席からの乱入により、前奏曲は一時中断となってしまいました。しかし、演者のいない舞台などはあまりにも締まりません。ここは一時幕を引き、仕切り直しといたしましょう。ライトPゾーンにスケール7、魔界劇団カーテン・ライザーをセッティング!そしてカーテン・ライザーは自身の効果により、演者のいない舞台に対し1度だけ緊急登板することを可能とする能力を持っています。カーテン・オン・ステージ!舞台を回す転換の化身、カーテン・ライザーの登板です!』」

 鳥居の右手に光の柱が立ち上り、まるで開いたテントから手足が生えたような人間離れした姿の劇団員がその中に浮かぶ。その団員はしかしPスケールの中で大人しくしていることを良しとせず、すぐに光の中から飛び出して自らの体をパラシュート代わりにしてふわふわと宙を舞い誰もいない舞台の中央に着地した。

 魔界劇団カーテン・ライザー 攻1100→2200

「『カーテン・ライザーは場面に自身しか存在しない時、その攻撃力を1100ポイント上昇させる不思議な力の持ち主。さらにそのカーテンの内部は摩訶不思議、彼らの楽屋と舞台袖を繋ぐ四次元通路。カーテン・ライザーの体を通じて舞台袖(デッキ)から魔界台本1冊を墓地に送り、楽屋(エクストラデッキ)に表側で存在する魔界劇団1体を私の手札へと呼び寄せるのです。魔界台本「オープニング・セレモニー」を墓地に送り、メロー・マドンナを手札にて再スタンバイしていただきましょう。このまま効果へと繋げたいところですが、あいにくと彼女がそのたぐいまれなる美声を披露するのは1ターンに1回のみ。私はこれで、ターンエンドです』」

 手痛い妨害を受けつつも、どうにか最低限のリカバリーを終えてターンを終える鳥居。しかし目の前の冴えない男は仮にも1回戦を勝ち抜いてきた強者、彼としてはデュエル中1度しか使えないカーテン・ライザーの効果まで切ってこれでは不服な結果である。

「では、私のターン。鳥居君、でしたか。先ほどのデュエル、拝見させていただきましたよ。実に見事なショーでした」
「……」

 ターンが移る。だが青木がカードを引くよりも先に口にしたのは、対戦相手への称賛の言葉だった。その真意を測りかねる鳥居に、しかし、と言葉を続ける。

「君のように未来ある若者には大変申し訳ありませんが、私にとってもこの1戦は生活のかかった大事な試合。決して手を抜くような真似はしませんので、そのことだけはお覚悟ください」
「『当劇団はいつでもどこでも真剣勝負。そして勝利の瞬間をお届けする。筋書などはありませんが、結末は常に1つをモットーとしております』」
「そうですか。ですが私も、負けるためにこの場へと来た覚えはありません。私のターン、ドロー。私のフィールドにモンスターが存在しない時にSR(スピードロイド)ベイゴマックスは手札から特殊召喚でき、さらにこのカードが場に出た際に私はデッキから別のSRモンスター1体をサーチします。タケトンボーグを手札に加え、そのまま効果を発動。タケトンボーグは自分フィールドに風属性モンスターが存在するとき、手札から特殊召喚が可能です」

 無数に連なったコマのようなモンスターに、竹トンボが変形して小型ロボットのようになったモンスター。召喚権すら使わずに手札消費1枚からモンスターを2体並べるこの強力なコンボは、本家【SR】のみならずあらゆるデッキに採用の余地がある。
 そして逆に言えば、この段階では幽鬼うさぎ含めまだ汎用カードしか使用していない青木のデッキ内容はわからない。いずれにせよ、次に出すカードでその内容も見えてくると気を引き締めた。

 SRベイゴマックス 攻1200
 SRタケトンボーグ 守1200

「チューナーモンスター、A・ジェネクス・ケミストリを召喚します」

 A・ジェネクス・ケミストリ 攻200

 そして通常召喚されたのは、機械の体を持つ小柄なチューナー。紫の体の背中には赤と緑のボンベを背負い、カラフルな印象を抱かせる。

「風属性モンスターであるレベル3のベイゴマックス、及びタケトンボーグに、レベル2のケミストリをチューニング。レアルの炉心に集いし風よ。声なき彼らの祈りに応え、いざ戦場の神風とならん!シンクロ召喚、レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト!」
「『ジェネクス……』」

 ベイゴマックスとタケトンボーグが連なって飛び、それを包むようにケミストリが2つの光の輪となる。合計レベルは、8。

 ☆3+☆3+☆2=☆8
 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻2400

 全体的に緑色のカラーリングを施された、後部に巨大なジェット噴射器を持つ平べったい近未来的な戦闘機。先端の赤い2つの丸みを帯びた窓も相まって、鳥居にはそのデザインは全体的に昆虫のような印象を抱かせた。

「バトルフェイズ。ヴィンディカイト、カ-テン・ライザーに攻撃!ブローエネミー・スカイハイ!」

 戦闘機が垂直上昇し、その上部に備え付けられた機銃から無数の弾丸を撃ちつける。カーテン・ライザーの体はすぐにその着弾による爆風にのみ込まれ、やっと煙が晴れた時には跡形もなくいなくなっていた。

 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻2400→魔界劇団カーテン・ライザー 攻2200(破壊)
 鳥居 LP3000→2800

「『なんということでしょう、カーテン・ライザーが無慈悲なる戦闘機による空襲によりその身を炎に焼かれてしまいました!第一幕にて立ち向かいし海の脅威に引き続き、第二幕における今明かされた敵襲の名はジェネクス!声なき鉄の兵器に対し、魔界劇団はどう立ち向かうのか!?まずは手札より、メロー・マドンナの効果を発動!私のペンデュラムモンスターが戦闘破壊されたタイミングで、歌姫は戦場へと勇敢なる戦士を称える鎮魂歌を奏でるために手札より特殊召喚が可能となります。そしてメロー・マドンナの攻撃力は、私の墓地に存在する魔界台本1冊につきぴったり100ずつ上昇いたします』」
「ではこちらも、モンスターを戦闘破壊したヴィンディカイトの効果を発動しましょう。デッキからジェネクスを1体手札に加える……私が選ぶのはこのカード、ソーラー・ジェネクス!」

 魔界劇団-メロー・マドンナ 守2500 攻1800→1900

 黒衣の女性、メロー・マドンナがヴィンディカイトの前に立ち塞がると同時に、青木がデッキから1枚のカードを引き抜く。遠目から見ても一目で判別できるほどにぼろぼろの、まるで長いこと屋外に放置されていたようなカード。それを見て、改めて上司の言葉が鳥居の頭に蘇る。あの1枚が話に聞いた、この冴えない中年の人生を大きく変えるきっかけとなった1枚なのだろうとはすぐに察しがついた。
 そういうこだわりは、彼自身も決して嫌いではない。

「カードを1枚伏せ、ターンエンドです」
「『なるほど、先ほどのターンでは妨害、そして展開と見事に我々の先を行かれてしまいました。しかし一方的にしてやられるのみではショーになりませんし、なにより私自身も性に合いません。場面代わりまして魔界劇団反撃の狼煙、私のターン、ドロー!』」

 ハードルを上げるだけ上げてからカードを引く。レアル・ジェネクス・ヴィンディカイトは攻撃力こそそこまで高いわけではないが、強力なサーチ効果の他にも相手モンスターからの攻撃対象とならない効果を持つ。つまり、あのカードのみが居座っている限り鳥居は一切の攻撃宣言が封じられたに等しい。
 しかし、その程度で攻め手がまごつくようなことはない。この手札であれば、十分に勝機はあると彼は見た。

「『魔法カード、魔界台本「ファンタジー・マジック」を発動!私のフィールドに存在する団員であるメロー・マドンナを選択することで、このターン彼女がバトルを行ったモンスターをバウンスすることが可能となります。鋼鉄の侵略者に立ち向かうは、剣と魔法が世の習い。我らが歌姫には、脅威に立ち向かう女勇者の役を演じていただきましょう!そしてメロー・マドンナの攻撃力は、私の墓地に存在する魔界台本1冊につきぴったり100ずつ上昇いたします』」

 マドンナが片手に持った分厚い台本にパラパラと目を通し、身にまとった黒衣をさっと脱ぎ捨てる。外から見えぬよう巧みに隠されていたその中には、惜しげもなくその体の線を強調する明るい色の軽装にクールさを印象付ける青い首元のスカーフ。腰にはこの手のお約束として細身の長剣を下げ、強気に腰へ手を当てヴィンディカイトと向かい合う……女勇者が、そこにいた。

「……?だが、ヴィンディカイトは攻撃対象とならない。ファンタジー・マジックを使おうとも、戦闘を行えなければ意味はないはずですが」
「『いかにもその通り。残念ながら、今回のファンタジー・マジックそのものに意味はありません。ですがこの瞬間、私の求めた真の狙い。メロー・マドンナのモンスター効果を発動いたします!このカードがモンスターゾーンに存在し、魔界台本の封が切られたその瞬間。デッキよりレベル4以下の魔界劇団1体を、彼女の歌に合わせて踊るダンサーとして配備することが可能となるのです。再び出でよ、エキストラ!』」

 メロー・マドンナが剣を抜いて高く掲げると、そこに従う従者といった雰囲気のエキストラが再び円盤に乗ってふよふよと近寄ってくる。

 魔界劇団-エキストラ 攻100

「『そして、このターンもエキストラのモンスター効果を発動。このカードをリリースし、新たなる団員をレフトPゾーンへと配置いたします。そう、彼こそはスケール8にて波乱を起こすアドリブの達人。魔界劇団-コミック・リリーフの登場です!』」

 左手に上がった光の柱には、8と書かれた光の数字……そして、その中でジャグリングをしつつぐるぐる模様の瓶底メガネの奥から舞台の様子に目を光らせるむっちりと太った悪魔の姿。
 ここは本来ならば目当てのコミック・リリーフを直接持ってくるのではなく、まずもう1体のメロー・マドンナを発動し、そちらのP効果を経由してリリーフをサーチするべき場面であった。そうすればデッキの圧縮に繋がるだけでなく、左右で0と8のスケールを描くこともできただろう。
 しかし、彼はそれを選ばなかった。その躊躇いの理由こそが青木が先ほど伏せたカードの存在であり、もうひとつが先のターンにサーチされたソーラー・ジェネクスの存在である。彼自身【ジェネクス】にはそこまで詳しいわけではないが、あのカードがバーン効果を持っているということは頭の片隅に覚えていた。まだまだ数字に余裕があるとはいえただでさえ減っているライフをさらに減らすことを、彼の勘は良しとしなかったのだ。

「『そして私の手札には、こちらの団員がもう1体。魔界劇団-コミック・リリーフを通常召喚!』」

 魔界劇団-コミック・リリーフ 攻1000

 光の柱の中にいるコミック・リリーフが短い手を振り回して指示すると、その真下からもう1体、そっくり同じ瓶底メガネの小さな悪魔が自分の背丈ほどのサイズのボールで玉乗りすることでその低い身長をごまかしながらも出陣する。ただしその恰好は適用中のファンタジー・マジックの世界観に合わせてか妖精のような羽根を背中に装着し、手には魔法の杖らしき棒を握りしめてのまるで似合わない妖精スタイルであり、その姿に客席から思わずといった様子の失笑が漏れる。

「『さあ、舞台は整いました。カードを1枚セットして、コミック・リリーフのP効果を発動!相手モンスター1体と私の魔界劇団1体をそれぞれ選択し、その2体のコントロールを入れ替えたのちに自らを破壊してしまうのです。レアル・ジェネクス改め魔界劇団-ヴィンディカイトには、彼らの専用機となっていただきましょう!』」

 妖精ルックのコミック・リリーフが魔法の杖を放り投げ、代わりに懐からペンキとハケを取り出してヴィンディカイトを魔界仕様に塗装すべく指をワキワキとさせながら玉乗りしたままの怪しい笑顔でにじり寄っていく。
 これが通りさえすれば、もはや勝負の大勢は決するほどの一手。事実そこいらのチンピラが相手であれば、これは必殺の一撃となりえたであろう。しかし、青木はプロデュエリストだった。

「させるものか!永続トラップ、ディメンション・ゲートを発動!このカードは発動時に私のモンスター1体を除外し、このカードが墓地に送られた際にそのモンスターを再び特殊召喚する。また相手プレイヤーが直接攻撃を宣言した際、表側のこのカードを破壊することができる」

 コミック・リリーフから逃れようと大急ぎでジェットを全開にし垂直急上昇した緑の機体が、そのまま上空に突然開いた次元の裂け目の中へと消えていく。効果が空振りに終わったリリーフが残念そうにペンキをしまい、玉乗りを崩さないままに鳥居の元に帰還する。
 そうして青木がコントロール交換を回避した一方で、悩ましい選択を迫られたのが鳥居である。このままコミック・リリーフで攻撃を行えば、青木は確実にヴィンディカイトを帰還させるだろう。リリーフのP効果は1ターンに1度しか発動できないため、そのままターンを終えるしかない。となれば何もせずにターンエンドを行う、それも1つの選択ではある。しかし、ディメンション・ゲートはただ漠然と回避に使うよりもどちらかといえばコンボ向けのカードであり、あのカードを場に残すことでそのコンボ成立の手助けをしてしまう可能性も高い。永続トラップを墓地に送ることで2枚ドローするマジック・プランターや、自分フィールドにモンスターがいない状態でなおかつ表側のカードを破壊することを要求するものの古代の機械を無条件にリクルートできる古代の機械射出機(アンティーク・ギアカタパルト)をモンスターを帰還させつつ発動できる、などがその最たる例だろう。
 攻撃するか、しないか。どちらにせよ、ダメージを与えることはできない。ほんの1瞬だけ悩んだのち、鳥居は場に向けて言い聞かせるように指示を出した。

「『それでは、メロー・マドンナは守備表示のままに。反撃の狼煙も不発に終わり、いまだ長い冬、雌伏の時を迎えし魔界劇団は、果たしてここからどのような大逆転を果たすのか。どうか皆さん、この息詰まる戦いを最後までお楽しみください。私はこれにて、ひとまずターンエンドといたしましょう』」
「では私のターン。攻撃を行わず、ヴィンディカイトを除外ゾーンに残すことを選んだ……その判断は残念ながら、あまり正しくはなかったようですね。通常魔法、予想GUY(ガイ)を発動。私のフィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚することが可能となります。ジェネクス・コントローラーを特殊召喚!」

 ジェネクス・コントローラー 攻1400

 金属製の顔に小さなタイヤの足が生えたようにも見える、声なき機械生命体。ジェネクスの原点にしてその核、コントローラーが青木の場に呼び出される。

「そして手札のこのカードはレベル7であるものの、ジェネクスをリリースする場合消費1体のみでアドバンス召喚することが可能。我が人生に光を差した、決して消えない不屈の太陽。たとえ幾たび沈もうと、明日が来ればまた日は昇る。アドバンス召喚……さあ行きましょう、相棒!ソーラー・ジェネクス!」

 ソーラー・ジェネクス 攻2500

 ゆっくりと腕を伸ばし高く天を指した青木の頭上で、突如爆発的にオレンジの光が弾けた。眩く暖かい光の粒子を身にまといそこに現れたのは、すらりとした人型のジェネクス。両腕と背中には戦闘機の翼を思わせる意匠が取り込まれ、その胸の中央には太陽の光を受けて輝く黄金の炉心が無尽蔵とも思える光を放つ。
 しかし、そのソリッドビジョンはどこか不安定だ。具体的にどこが、というわけではないが、微妙にその細部には通常よりも粗が見られる。カードそのものがボロボロであるせいか、読み取りに若干の不具合が生じてしまっているのだろう……過去に様々なカードを見てきた経験から、そう鳥居は推測する。
 正直な話ソーラー・ジェネクス自体はさほどレアリティが高いわけでもなく、いまだ営業を続けている適当なカードショップにでも行けば、それこそワンコインでもっと状態のいいものが買えるであろう。それでも青木は、この1枚を自らの相棒と呼んだ。この傷ついた1枚こそが彼の人生を一変させた恩人であり、彼のデュエリストとしての第二の人生の象徴でもあるからだ。これは、社会の荒波の中で自分を信じる気持ちを失った彼にとっての心の拠り所。このカードと共に戦う時だけは、不思議と負ける気を感じなかった。

「『ついに輝く太陽が、我々の頭上に昇ってしまいました!風、そして太陽。鋼鉄の兵団ジェネクスは、恐るべきことにその空の全てを手中に収めてしまったというのでしょうか!大いなる海に引き続き、偉大なる空を敵に回すこととなった魔界劇団。果たしてこの状況からどのように勝利という名のエンディングを導くのか、皆様どうか最後まで目を離さずにご鑑賞お願いいたします!』」

 しかし、それは鳥居も同じこと。青木が人生をカードに救われたというのなら、彼もまたその人生をカードに導かれた存在。物心ついたときから肌身離さずカードに親しみ、舞台をそれらと共に駆け回り、まるで生あるもののように接してともに成長してきた彼の半生こそが、たとえどんな相手にどれほど追い詰められようとも最後の最後までこの演劇デュエルという自信の信じるデュエルスタイルを、そしてエンタメを捨てない確固たる自信とプライドの源だった。それにそもそも、まだデュエルは始まったばかりなのだ。

「通常魔法、サモン・ダイスを発動。ライフ1000を支払うことでサイコロを1度振り、その出た目に応じた効果を発動します。私の出す目は……3!よって私の墓地から先ほどリリースしたジェネクス・コントローラーをそのまま蘇生。そして永続魔法、マシン・デベロッパーを発動。このカードが存在する限り、互いのフィールドに存在する機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップします」

 青木 LP4000→3000
 ジェネクス・コントローラー 攻1400→1600
 ソーラー・ジェネクス 攻2500→2700

 再び現れたコントローラー含め、2体のジェネクスのステータスが上昇する。それは数値こそわずか200にすぎないが、今この場では計り知れないほど大きな意味を持っていた。メロー・マドンナの守備力と拮抗していたソーラー・ジェネクスの攻撃力が、ほんのわずかにだがそのバランスを崩したのだ。

「バトルフェイズ。まずはジェネクス・コントローラーでコミック・リリーフに攻撃!」
「『ならばこちらも、コミック・リリーフのモンスター効果にてお相手いたしましょう。このカードが戦闘を行う際、彼の産み出す不可思議なギャグ補正の空間に相手をいざなうことでプレイヤー、つまり私の受ける戦闘ダメージは0となるのです!』」

 玉乗りしたままくるりと反転し、デュエルフィールドを駆けまわって逃げるリリーフに、そのタイヤを目一杯に回転させたジェネクス・コントローラーが追いすがる。最後には途中でバランスを崩したリリーフが短い両手を必死にばたつかせながらも派手な音とともに顔面から地面に激突したところに、勢いよくジャンプしたコントローラーがその背中へとのしかかった。

 ジェネクス・コントローラー 攻1600→魔界劇団-コミック・リリーフ 攻1000(破壊)

「戦闘ダメージは入らずですか。それでも構うことはない、ソーラー・ジェネクスでメロー・マドンナに攻撃。ソーラーショット・HINODE(ヒノデ)!」

 太陽の名を持つジェネクスの背部装甲がかすかな唸りを上げてゆっくりと開き、格納されていたソーラーパネルが表を向く。天井から降り注ぐ電灯の光を一身に吸収し、胸の炉心がひときわ鋭く光り始めた。そしてソーラー・ジェネクスがその腕を前に突き出すと、肘から手首の部分にかけて巨大なレーザー砲がその内部から展開される。

「撃てぇっ!」

 主の号令をトリガーとし、レーザーが破壊の光を解き放つ。腰に差した長剣を抜いてそれを正面から切り捨てて防ごうとするメロー・マドンナの抵抗も無尽蔵な光の奔流には耐えきれず、先に限界を迎えた剣がその手の中から弾かれる。そしてそのまま、女勇者の姿は光の中に消えていった。

 ソーラー・ジェネクス 攻2700→魔界劇団-メロー・マドンナ 守2500(破壊)

「『ああ、これは予想外の番狂わせです!鋼鉄埋めつくす暴虐の空へと反旗を翻すべく立ち上がった今回の主役、勇者メロー・マドンナはしかし、天より降り注ぐ太陽の鉄槌の前にはかなくも力尽きてしまいました!それでは、今宵の演目はこのままバッドエンドにて終了してしまうのか!?いえいえ、ご安心ください。勇者とはすなわち英雄。とあれば、その英雄の心は決して挫けません。何度でも立ち上がり、勝利のために戦い抜くのです……そう、ペンデュラムの力によって!無論言うまでもありませんが、メロー・マドンナはペンデュラムモンスター。フィールドから墓地へと送られる場合、墓地ではなくエクストラデッキへと送られます。正義求める不屈の魂に終わりなどありません。何度傷つき力尽きても、勇者は必ず立ち上がるのです!』」

 再びがら空きになった鳥居のフィールドの空白を埋めるように、朗々とした彼の声が響き渡る。いささかもその闘志に揺らぎがないことを示す言葉のリカバリーに、わずかに青木の表情が変わる。

「なるほど、どうやらあなたのことを私は誤解していたようですね。これだけの観衆を前にしながら、まるで衰えないその自信。私があなたほどの年の頃には、決して持ち合わせていなかった……いえ、つまらない話でした。私は、これでターンを終了します」
「『それではこれより私のターン、ドロー!』」

 彼の手札は、このドローを含め残り2枚。だが、まだ足りない。彼の今求めるカードは、手札にない。

「『ならば、このターンは……私はライトPゾーンにスケール2、魅力あふれる魔法のアイドル!魔界劇団-プリティ・ヒロインをセッティング。これにて描かれしスケールは2と8、すなわちレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能となりました。ペンデュラム召喚!』」

 彼のエクストラデッキに、表側で存在するペンデュラムモンスターは全4体。しかしリンクマーカーが1つも向いてない彼のフィールドにそこから呼び出せるのは、そのうちわずか1体のみ。そして彼がこの局面で選んだのは……フィールドが丸い影に覆われたかと思うと、体を開くことで空気抵抗を目一杯に生かし、ふわふわとテントに手足が生えたような奇抜な団員が最初のターンと同じように降りてくる。

 魔界劇団カーテン・ライザー 攻1100→2200

 ここで、彼にはもう1つの選択肢があった。彼のPゾーンにはいまだ、コミック・リリーフが生きている。適当にペンデュラム召喚を行い、直後にその効果を発動すれば青木の場からソーラー・ジェネクスを奪い取ることもできたろう。その際にもう1体のコミック・リリーフを送り付けさえすればその効果……コントロールが移った際に元々の持ち主が自身のセットされた魔界台本を破壊できる強烈な能力を発動することも、十分に狙えたはずだ。
 それでも彼がその選択肢を選ばなかったのには、いくつかの理由がある。まずソーラー・ジェネクス自体の効果がジェネクス専門であり、彼のデッキではその力をまるで発揮できないこと。またこのターンに何をしたところでディメンション・ゲートとその先に帰還するレアル・ジェネクス・ヴィンディカイトの布陣を突破し青木のライフを0にすることまでは不可能で、それならばペンデュラム効果の発動後に自壊してしまうリリーフをプレッシャーとしてこのままPゾーンに置いておくのも悪くない、そう判断したからだ。だが何よりの理由としては、あくまでデュエルを演劇として捉える彼自身のファイトスタイルにある。自他ともに認めるほどのエースモンスターを奪い取るのならば、それなりの下地と脚本を演出しなければならない。なんの脈絡もなくただ相手のエースを寝返らせるような真似はしない、それが彼の美学だった。

「『カーテン・ライザーの効果を発動!といってもすでに、その力のほどは皆さんもお分かりですね?デッキより魔界台本「火竜の住処」を墓地に送り、エクストラデッキから勇者メロー・マドンナをまたしても私の手札へと帰還。この帰還も本来ならば勝利の凱旋といきたいところでしたが、なかなかそううまくは参りません。死んだら終わり、逃げるが勝ちとも申します。永続魔法、魔界大道具「ニゲ馬車」を発動!カーテン・ライザー、そして私自身の身をこの馬車に預け、空の色が変わるよりも速いスピードでの逃避行へと移りましょう』」

 鳥居の背後から突然に、どこからともなく現れた魔界の馬車がその蹄に紫の炎を纏いながら駆け抜けていく。その右端からは鳥居自身が、そしてその左端からはカーテン・ライザーが、同時にジャンプして小人の御者の両隣へと滑り込む。
 奇想天外なプレイングに観客がどよめいたちょうどその時、タイミングよくスピーカーの主もまた彼らのデュエルに目を移したらしい。驚愕の色を隠しきれない、すっとんきょうな実況が大きく響いた。

「決まったぁーっ!Aブロック、準決勝は試合終了だ!強い、強すぎるぜチャンピオン!今年も優勝候補の大本命は格が違うってもんよ!さーって、お隣のBブロックは……な、なんだぁ!?彗星のごとく今年現れた期待の新人、鳥居浄瑠が、「BV」を利用して永続魔法に直接乗り込んでいるぞぉっ!?」

 まず最初に彼が感じたものは、まるで雲の上にでも乗っているかのように不安定で頼りない感覚だった。馬車のしっかりとした座り心地はそこにはなく、いまにも自分の尻の下で消え失せてしまいそうな幻影の座席。
 そして、その理由はわかっている。投影された粒子の固定化、質量の一時的増加。いまだ人類には早すぎた、世界を壊すソリッドビジョン……ブレイクビジョンが本来の力を発揮できていたならば、その感触すらも正しく見た目通りのものが伝わってきただろう。それを妨害し抑え込んでいるからこその、この中途半端な実体化によるふわふわとした感覚。
 しかし彼はそれを喜ぶべきか悲しむべきか、その判別がつかなかった。こうして質量を得たカードと共に彼自身のデュエルを行うことができるというのは、元劇団員としての彼の夢であった。しかしデュエルポリスとしての彼にとって、今この状況は間違っても喜べるものではない。会場の中と外で彼自身、そして糸巻が今現在も「BV」妨害電波を2人がかりで垂れ流しているこの状況下にあってさえ、こうして人間1人をどうにか支えられるほどのビジョンを生み出すほどに「BV」の力は強い。それはとりもなおさず、デュエルポリスとテロリストの技術の差を物語っているからだ。

「……くそっ」

 今まさに完成へと近づいているかつての夢の実現を、その全てを壊すために今の自分はいる。「BV」の力を目の当たりにして、この仕事を選んだ時にはわかっていたはずの現実が再び彼の方を向く。誰にも聞こえないように、小さく吐き捨てる。歯を食いしばったその表情は、カーテン・ライザーの横に長い体が覆い隠してくれた。ぐっと力を入れて両目を閉じ、鋭く息を吸い、吐く。彼はどこまでもエンターテイナーであり、観客の前では絵に演者のあるべき姿を魅せねばならない。どうにか気持ちを落ち着かせてカーテン・ライザーの影から飛び出し、青木の周りに円を描くよう走り続けるニゲ馬車の上に立ち、そのまま大きく両手を広げる。

「『さあ、まだまだ勝負はここからです!朝に昇りし太陽は、夕には沈むが世の習い。ならばその時その瞬間を、皆様に見極めていただきましょう!私はここで今現在私自身が乗り込んでいる忠実なる大道具、ニゲ馬車の効果を発動!1ターンに1度自分フィールドの魔界劇団1体を選択してこの馬車へと乗り込ますことで、次の相手ターン終了時までそのモンスターを相手の効果対象に選べない状態にします!』」

 そう言うなり、カーテン・ライザーの全身がニゲ馬車の炎と同じ紫のオーラに包まれる。そのオーラ自体はすぐに消えてしまったが、付与された耐性が消えることはない。

「『これにてターンエンド……と、申し上げたいところですが、その前に最初の反撃を。バトルフェイズに移行し、カーテン・ライザーでジェネクス・コントローラーへの攻撃!』」

 攻撃宣言と同時にニゲ馬車がその向きを変え、青木の……いや、正確にはその横に佇む小さなジェネクス・コントローラーへと爆進する。無論それを操るのは、御者から一時的に手綱を受け取ったカーテン・ライザーだ。そして駆け抜ける勢いそのままに、コントローラーを跳ね飛ばす。

 魔界劇団カーテン・ライザー 攻2200→ジェネクス・コントローラー 攻1600(破壊)
 青木 LP3000→2400

「ぐううううっ……!しかしこの瞬間、マシン・デベロッパー及びソーラー・ジェネクスの効果が同時に発動!まずは機械族モンスターが破壊されたことで、マシン・デベロッパーにはジャンクカウンターが2つ乗ります」

 マシン・デベロッパー(0)→(2)

「そして、ソーラー・ジェネクスの効果発動!私のフィールドからジェネクスが墓地に送られるたび、500ポイントのダメージを受けてもらいましょう。ソーラーシュート・NICHIRIN(ニチリン)!」

 太陽のジェネクスのソーラーパネルに、墓地に送られたコントローラーの魂が光となってまっすぐに向かった。そしてその光をまたしても吸収したソーラー・ジェネクスが、そのエネルギーを凝縮させることで額から細いものの力強い一筋の光線を放つ。いくら直進するニゲ馬車といえど、光よりも速く走ることは不可能。背後からみるみるうちに距離を詰めた光線は、座席に穴をあけつつ鳥居の体を突き抜けた。

 鳥居 LP2800→2300

「『ぐっ……ですが今度こそターンエンド、ターンエンドです!』」

 軽い火傷の痛みが服を、そして胸を突き抜けて彼を襲う。しかし「BV」の効力が弱まっているうえに元のダメージ自体も500と微量、すぐに冷やしておけば跡が残るようなこともないときっぱりとその痛みを脳から遮断した。エンタメを行う演者として、舞台上で役としての演技ではなく自分自身の苦しみをあらわにすることは本来あってはならない。例え舞台で骨が折れたとしても、それを客に悟られるようではまだ二流。彼はそう教わってきたし、それが正しいことだと思う。

「馬車に……いや、魔法カードに直接自分が乗り込んでデュエルとは、まったく恐れ入りました。しかし、いくら常識破りのことをしたとしてもデュエルには影響を及ぼさない、それだけで勝利を掴むことは不可能。私のターン、ドロー。通常魔法、マジック・プランターを発動。永続トラップ1枚をコストに、カードを2枚ドロー」

 青木がカードを引く様子を、やはりあのカードが入っていたか、とニゲ馬車から冷静に観察する鳥居。となると、彼のデッキにはほかにも永続トラップが何枚か入っている可能性は高い。しかし、彼はここまでにいまだ1枚しか永続トラップを使用していない。となると、確率的にもそろそろ他を引いてもおかしくない頃か?

「そしてディメンション・ゲートがフィールドから墓地に送られたことで、除外されていたヴィンディカイトは再びフィールドへと帰還。マシン・デベロッパーの効果により攻撃力アップ!」

 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻2400→2600

「さらに私はここで、ジェネクス・サーチャーを通常召喚。そしてこのカードも機械族、よって攻撃力がアップ」

 ジェネクス・サーチャー 攻1600→1800

 装甲に覆われていないむき出しの配線や、体のあちこちから飛び出るコードもそのままに上級ジェネクスと並んで召喚された、メインカメラの代わりらしき赤色ランプをゆっくりと回転させる機械の兵士。今にも機能停止してしまいそうなその体はしかし、そのフレーム丸出しの細い両足で会場の床をしっかりと踏みしめていた。

「バトルフェイズ。まずはジェネクス・サーチャーで、カーテン・ライザーに攻撃!」

 サーチャーが赤色ランプを走り続けるニゲ馬車に向け、ぎこちない動きで小型ミサイルを放つ。だがそれよりも早く敵襲を察知したカーテン・ライザーが再び手綱を操り、いくつもの小爆発を巧みに潜り抜けてその発射元を再びニゲ馬車と共に引き潰した。

 ジェネクス・サーチャー 攻1800(破壊)→魔界劇団カーテン・ライザー 攻2200
 青木 LP2400→2000

「そしてこの瞬間、再びマシン・デベロッパー及びソーラー・ジェネクスの効果が発動。ソーラーシュート・NICHIRIN!」

 マシン・デベロッパー(2)→(4)
 鳥居 LP2300→1800

「さらに、戦闘によって破壊されたジェネクス・サーチャーの効果を発動。このカードが戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下のジェネクス1体を攻撃表示でリクルートできる。私が選ぶカードは、タービン・ジェネクス!そしてこのカードが表側で存在する限り、すべてのジェネクスの攻撃力は400ポイントアップ。そしてタービン自身もマシン・デベロッパーの効果を受け、さらに攻撃力200ポイントアップ」

 大量の蒸気とともに、文字通り回転し続けるタービンがその体の大部分を占めた更なるジェネクスがサーチャーの残骸から現れる。

 タービン・ジェネクス 攻1400→1800→2000
 ソーラー・ジェネクス 攻2700→3100
 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻2600→3000

「『空の鋼鉄兵団、逃避行へと追いすがりその先鋒を務めたのは攻撃力で劣るジェネクス・サーチャー!それを辛くも撃退したカーテン・ライザーですが、しかしそれさえも全てはその鋼鉄の手のひらの中で行われた遊戯にすぎなかったというのでしょうか!この圧倒的な布陣を前に、どうするカーテン・ライザー!』」
「レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、追撃のブローエネミー・スカイハイ!」

 再び上空に浮かび上がった緑の戦闘機が、空高くからニゲ馬車周辺にいくつもの爆弾を落とす。しかし爆風で何度も転びそうになり、その熱であちこちに焦げ跡を作りつつも、どうにか炎に包まれてその歩みを止めることなくカーテン・ライザーたちはその爆心地からの脱出に成功した。

 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻3000→魔界劇団カーテン・ライザー 攻2200
 鳥居 LP1800→1000

「『この瞬間、ニゲ馬車の更なる効果適用!ニゲ馬車がフィールドに存在する限り、私の魔界劇団はすべて1ターンに1度だけ戦闘によって破壊されません。さらに私が戦闘ダメージを受けたことでプリティ・ヒロインのペンデュラム効果発動、メルヘンチック・ラブコール!相手モンスター1体を選択し、その数値だけ攻撃力を永続的にダウンさせます。キュートな彼女の愛の魔法で、太陽すらも包み隠してみせましょう!』」

 ニゲ馬車について回っていた光の柱の片方で、魔法少女が杖を振るう。無数のカラフルな星型弾がソーラー・ジェネクスの周辺を包みこむと、その黄金の輝きがほんのわずかに弱まった。

 ソーラー・ジェネクス 攻3100→2300

「無論、ここでその効果を使うことも承知の上でのこと。攻撃力が下がろうと、いまだソーラー・ジェネクスの攻撃力はカーテン・ライザーを上回る。攻撃せよ、ソーラーショット・HINODE!」

 またしてもソーラーパネルを展開したソーラー・ジェネクスが、その勢いで体の周りを包む星型弾を弾き飛ばす。自由になった太陽が再び腕を伸ばしレーザーを放つと、その一撃は今度こそ回避に失敗したニゲ馬車の中央を打ち抜いた。突然の衝撃から鳥居はニゲ馬車の背にしがみついて持ちこたえたものの、カーテン・ライザーの方は急停車の衝撃に耐えきれず吹き飛ばされて退場してしまう。

 ソーラー・ジェネクス 攻2300→魔界劇団カーテン・ライザー 攻2200(破壊)
 鳥居 LP1000→900

「『魔界劇団が戦闘によって破壊されたこの瞬間、手札からメロー・マドンナの効果を再び発動!歌姫の勇者メロー・マドンナは、味方の危機を見捨てはしません。正義のために立ち上がり、三度この場に参上します!』」

 地面にだらりと垂れたニゲ馬車の手綱を、どこからともなく現れた女勇者が優しく手に取った。時同じくしてその馬たちもレーザーの衝撃から立ち直り、礼儀正しくその新たな御者の指示を待つ。ひらりと華麗な動きで空いた座席に飛び乗ったメロー・マドンナが3体ものジェネクスを横目に見ながら手綱を引くと、再びその蹄に魔界の炎をともしてニゲ馬車は走り出した。

 魔界劇団-メロー・マドンナ 攻1800→2100

「ですが、まだ私のターンは途中。このメインフェイズ2にマシン・デベロッパーの更なる効果を発動。このカードを墓地に送ることで、その時に乗っているジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスター1体を私の墓地から蘇生。ジャンクカウンターの数は4、よって私が選ぶのはレベル3のジェネクス・コントローラー」

 ジェネクス・コントローラー 攻1400
 タービン・ジェネクス 攻2000→1800
 ソーラー・ジェネクス 攻2300→2100
 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻3000→2800

「ともに機械族モンスターのタービン・ジェネクス及びジェネクス・コントローラーをそれぞれ右、そして下のリンクマーカーにセット。声なき者の祈りに応え、勝利と未来が今その両腕に繋がれる。追撃のリンク召喚、機関重連アンガー・ナックル!」

 それは、途方もなく巨大な機械の両腕を生やす列車型モンスター。文字通り行く手にあるはずの勝利と未来をすべてこの手でつかみ取ると言わんばかりの質量で迫るそれが、ソーラー・ジェネクスの正面にくるようにして鳥居の前に立ち塞がる。タービン・ジェネクスがフィールドから消えたことで2体の最上級ジェネクスの攻撃力はさらに低下するが、それでもなお太陽のジェネクスはその身を輝かせた。

 機関重連アンガー・ナックル 攻1500
 ソーラー・ジェネクス 攻2100→1700
 レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト 攻2800→2400

「今、私のフィールドからは2体のジェネクスが墓地へと送られた。しかし、そのタイミングが同時であったためにダメージは1度しか与えられない……ソーラーシュート・NICHIRIN!」

 鳥居 LP900→400

「『ぐぐぐ……っ!い、いよいよ追い込まれてまいりました!しかし、デュエルとはすなわち最後の最後まで結末の見えない台本なき演舞。その結末を直接見届けるまではどのようなどんでん返しが何度起こるかもわからない、それゆえに面白い。どうか最後の最後、おそらくは次の私のターンまで、どうか目を離さずにお待ちください!』」
「このターンで終わらせられなかった私の言えたことではないが、まだそこまで言い切ることができるとは。それが若い力というものか……だとしても、私にも勝つ理由がある。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 心底感心したように頷き、最後の手札を伏せる青木。おそらくは、次のターンで勝負が決まる……それは、互いにとっての共通認識であった。このドローで鳥居が何を引くか、それによってすべてが決まる。いよいよ長い戦いもクライマックスに至ったとあって、観客の視線が彼の手元に集まる。

「『私のターン、ドロー……来ました!魔法カード、デュエリスト・アドベントを発動!私のPゾーンにカードが存在することをトリガーに、デッキからペンデュラムと名の付くカード1枚をサーチします!私が選ぶのは通常魔法、ペンデュラム・ホルト!このカードは私のエクストラデッキに表側のペンデュラムモンスターが3種類以上存在するときにのみ発動でき、このターン他の効果によるドローが行えなくなる代わりに2枚ものドローを可能にいたします。続けて、ドローっ!』」

 サーチカードを経由してのドローソース。土壇場で手にした2枚のカードに目を走らせ、大きく息を吸う。

「『それでは皆様お待ちかね、いよいよ第二幕のクライマックスシーンがやってまいりました。この圧倒的に不利な状況を、いったいどのように覆すのか?まずはお決まり、ペンデュラム召喚から参りましょう。スケールはいまだ組み合わされたままの2と8、よってレベル3から7のモンスターが召喚可能!手札より満を持して現れよ、栄光ある座長にして永遠の花形!魔界劇団-ビッグ・スター!』」

 どこからともなく射し込んだスポットライトの光に照らされて、上空高くからスタイリッシュなポーズを決めつつ名優、ビッグ・スターが走り続けるニゲ馬車の上に着地する。その座席の上で左右をメロー・マドンナとビッグ・スターに挟まれる格好となった鳥居が、指をパチンと打ち鳴らす。

 魔界劇団-ビッグ・スター 攻2500

「『そして、ビッグ・スターの効果発動!デッキより台本1冊を選択し、私のフィールドへとセットいたします。選び抜かれし演目の名は……ここは王道を行く、私の一座で最も人気の高いあの演目といたしましょう。魔界台本「魔王の降臨」をセット!』」

 ビッグ・スターがニゲ馬車に座り込んだまま横に手を伸ばすとその手の中に光が集まり、次の瞬間には分厚い1冊の台本が握られる。まさにそれを開こうとしたタイミングで、青木が最後の抵抗に打って出た。

「この瞬間に永続トラップ、ディメンション・ガーディアンを発動。私のフィールドで表側攻撃表示のソーラー・ジェネクスを選択し、このカードが存在する限り選択したモンスターは戦闘及び効果によって破壊されない!」
「『なるほど、太陽は沈まない、というわけですか。ですが、もし私がそれを待っていたとしたら、どういたしますか?』」
「な、なに?」

 困惑と同時にかすかな後悔が、青木の表情をよぎる。その姿が、ニゲ馬車の上にいる鳥居からははっきりと見えた。まさに彼が狙っていたのは、あの唯一の不確定要素であった伏せカードが表を向くこの瞬間。この瞬間、彼の勝利は決定した。

「『あなたにとってそのソーラー・ジェネクスは、相棒と呼ぶほどに大切なモンスター。そして先ほどあなた自身が使用していたマジック・プランター。この2つの要素が明らかになった時から、想像はついていました。おそらくあなたの伏せカードは永続トラップ……それもソーラー・ジェネクスを蘇生させるリビングデッドの呼び声、あるいは破壊から守る安全地帯のように防御的なカードだろうとは感じていましたが、どうやら当たりだったようですね』」
「私の伏せカードを読んでいた、と?」
「『ええ。ですがそれはただの予想であり、確信には至る証拠はない。そこで、ビッグ・スターには一芝居打っていただきました。レベル7以上の魔界劇団が存在するときに相手からのチェーンを許さない魔王の降臨をセットすれば、もしその伏せカードがフリーチェーンで発動できるタイプのカードならばその発動タイミングはセットから発動までのほんのわずかな隙間、まさにこの瞬間しかありませんからね。とはいえかなり綱渡りでしたよ、もしソーラー・ジェネクスをフィールド外へと逃がすディメンション・ゲートのようなカードを伏せられていたら、私としてもかなり困った状況に追い込まれていました』」

 隣で手綱を取る女勇者に合図して、ニゲ馬車をその場に停止させる。馬車の上と下でわずかに向かい合い、最後の手札をデュエルディスクに置いた。

「『それではここまでの激闘に敬意を表し、ジェネクスの皆様を私たちの劇場へとご案内いたしましょう。フィールド魔法、魔界劇場「ファンタスティックシアター」を発動いたします!』」

 そう宣言した瞬間、コウモリをかたどったオレンジ色の風船が一斉に空に浮かんだ。風もないのに同じ方向へと流れていく風船たちの向こうでは花火が上がり、クラッカーが弾け、どこからともなく楽しげな音楽を奏でる楽団の音色が会場に響く。スポットライトが舞台を照らし、色とりどりのネオンが彩る。
 ここはまさに、魔界劇団による魔界劇団のための劇場。糸巻の領土がアンデットワールドというのならば、このファンタスティックシアターこそはまさしく彼の本拠地だった。

「こ……これは……!」
「『それでは皆様お待ちかね。リバースカードオープン、魔界台本「魔王の降臨」!攻撃表示で存在する魔界劇団の数までフィールドのカードを選択し、魔王の暴威でそのまま破壊!ヴィンディカイト及びアンガー・ナックルのご両名は、これにて退場と相成ります』」

 女勇者の格好のままのメロー・マドンナの横で、ビッグ・スターが以前と同じく漆黒のマントを体に巻き付ける。再び走り始めたニゲ馬車による人馬一体の突撃は緑色の戦闘機が張ったバリアをものともせずに突き破り、そのままの勢いで隣にいた腕の生えた列車も跳ね飛ばした。

「『そしてあなたのフィールドからジェネクスが墓地に送られたことで、ソーラー・ジェネクスの効果が発動します』」

 太陽のジェネクスが、まるで鳥居の書いた台本に従うかのように正確なタイミングでレーザーを放つ。狙いすまして放たれた、本来ならば彼のわずか400しか残っていないライフを奪い取るほどの一撃。しかし、それが彼の体を射抜く時はついに訪れなかった。彼がその寸前にニゲ馬車の足元から取り出して体の前で構えた、1冊の魔界台本。分厚いそれを最後まで貫くことができず、レーザーそのものが霧散したのだ。

「『ですが、ファンタスティックシアターの特殊な能力を適用。ペンデュラム召喚された魔界劇団が私のフィールドに存在する限り、あなたの発動するモンスター効果は1ターンに1度だけ「相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を選んで破壊する」と書き換えられるのです。私のフィールドに伏せカードはわずか1枚、それがこの魔界台本でした。そしてこの瞬間、たった今相手によって破壊されたこの台本……我々にとっても最高にして至高の演目、魔界台本「魔界の宴咜女(エンタメ)」の効果を発動!』」

 ステージの両端から白いスモークがたかれ、色とりどりのライトがまぶしくフィールドを照らす。ニゲ馬車の上では女勇者がその剣を抜いてすらりと高く上に掲げると、その合図に応え大きいものから小さいものまでいくつもの影がスモークの中から飛び出した。

「『私のエクストラデッキに表側表示の魔界劇団ペンデュラムモンスターが存在し、フィールドにセットされた魔界台本が相手の効果で破壊されたその瞬間。その1冊につづられたもうひとつの筋書に従い、タイトルこそ同じなれどそれ以外は全くの別物、ここでは魔界の宴咜女を開演いたします!その内容はすなわち、私のデッキより魔界劇団を任意の数だけ選択しフィールドへと一斉に特殊召喚する……まずは怪力無双の剛腕の持ち主、魔界劇団-デビル・ヒール!』」

 魔界劇団-デビル・ヒール 攻3000

「『続いては舞台駆けまわる若きショーマン、魔界劇団-サッシー・ルーキー!』」

 魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻1700

「『そしてまばゆく煌めく期待の原石、魔界劇団-ティンクル・リトルスター!さあ皆様、万雷の拍手をもって彼らをお迎えください!』」

 魔界劇団-ティンクル・リトルスター 攻1000

 割れんばかりの拍手を浴びながら、3体のモンスターがフィールドに並ぶ。力こぶを作ってアピールするデビル・ヒールや特に意味のないジャンプからの空中回転を決めてみせるサッシー・ルーキーに対しティンクル・リトルスターのみはおずおずとニゲ馬車から恥ずかしげに小さく手を振るのみと、その反応は三者三様。そして一通りのアピールを終えたところで、デビル・ヒールがその大きな手をぐわっと開き衝撃波を放つ。

「『デビル・ヒールのモンスター効果発動、ヒールプレッシャー!このカードが場に出た際に相手モンスター1体を選択し、私の場の魔界劇団の数だけその攻撃力をターンの間だけダウンさせましょう。今の私のフィールドには魔界劇団が計5体、よってソーラー・ジェネクスの攻撃力は5000ポイントダウン!』」

 ソーラー・ジェネクス 攻1700→0

「『さて、どれほど楽しい時間でも、いつかは必ず終わりが訪れるもの。長いようで短い第二幕も気づけばすでにフィナーレの瞬間、その幕はやはり勇者の手によって下ろしていただきましょう。魔王の降臨、魔界の宴咜女が墓地に送られたことで、メロー・マドンナの攻撃力はさらに200ポイントアップいたします』」

 魔界劇団-メロー・マドンナ 攻2100→2300

 ニゲ馬車から飛び降りたメロー・マドンナが、剣を手にスクラップ寸前のソーラー・ジェネクスへと近づいていく。胸の炉心もすっかり勢いを弱め、辛うじてかすかな輝きを見せるのみ。先ほどの拍手とは打って変わって静まり返った会場の中心で、その切っ先がゆっくりと落日の太陽へ向けられた。

「『では、最後のバトルフェイズ。魔界劇団-メロー・マドンナで、ソーラー・ジェネクスに攻撃です』」

 言葉は、もはや必要ない。静寂の中で放たれる女勇者の剣のひと突きが、炉心の中央を正確に貫いた。

 魔界劇団-メロー・マドンナ 攻2300→ソーラー・ジェネクス 攻0
 青木 LP2000→0





「『ハア、ハア……それでは魔界劇場第二幕、これにて終演と相成ります。大いなる海、そして偉大なる空へとその名を刻んだ魔界劇場第三幕、開演をしばしお待ちください!』」

 特大ダメージでのワンショットキルを狙いに来ていた1戦目とは打って変わって、細かなダメージを積み重ねての勝利を狙われた今回の戦い。辛くも勝利したものの、この2つの戦いを経たその代償は決して軽くない。あちこちにできた軽度の火傷痕、そして打撲……どこもかしこも痛みを訴える体を強いて動かし、観客の前でゆっくりと一礼する。そのまま裏手に引っ込もうとしたところで、倒れたままの青木がわずかに呻く様子が彼の目に入った。

「う、うう……」
「ほれ、立てますか?」

 さすがに見捨てるわけにもいかず、いいから早く休ませろとストライキを起こす全身を無理に引っ張ってそちらへと向かわせる。ただでさえ頼りなく見えたそのスーツ姿の中年の姿は敗者となった今よりいっそう小さく、そして弱いものに見えた。
 差し出した手をどうにかといった様子で握り返され、そのまま上に引っ張って親子ほどに年の離れた男の体を起こす。

「ああ、ありがとう。このデュエル私の完敗だ、君に敬意を表そう」

 そう言ってデュエルディスクに乗ったままのカードを1枚ずつ取り外しては、自らのデッキに戻していく青木。最後に残った1枚、傷だらけのソーラー・ジェネクスを大切そうにそっと眺め、愛おしげに指で撫でるその姿を前に、鳥居は知らず知らずのうちに一礼していた。それと同時に、なぜあの口が悪い女上司がこの男に対してはいつもの毒舌も控えめだった理由も理解する。
 彼女は鳥居に言わせれば、彼のタイプでこそないものの客観的にはまあ見てくれだけはそれなりの三十路で、口も性格もお世辞にもいいものではない。しかし、彼女の人を見る目に関しては彼も一目置いていた。

「……?」
「俺の方こそ、あなたに敬意を表させてください。あなたのカードを愛する心は、確かに本物です」
「そうか。ありがとう。決勝戦、影ながら応援しているよ」

 今度は青木の側から差し出された手を、力を込めて握り返す。この裏デュエルコロシアムも、ついにあと1戦を残すのみ。 
 

 
後書き
3戦目にして早くも感覚が麻痺し、このエンタメデュエル方式がちゃんとエンタメできているのか、ただ単に描写が寒いだけなのかが自分で書いていてよく分からなくなってきた。まあこれがやりたくてシリーズ始めた節もあるので、直接の苦情があるまではこのまま続けます。来たらその時考えます。

さて、ここまではそれなりのペース(本人比)で投稿してきましたが、4月からは生活が一変するため今後どうなるかは私自身もさっぱり読めません。もしかしたら投稿頻度もがた落ちするかもしれませんが、できる限り頑張りますのでご容赦ください。 
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