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英雄伝説~西風の絶剣~

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第58話 目覚めた後で

side:リィン


 俺は気が付くと真っ黒い空間の中にいた、先ほどまでロランス少尉と戦っていたのは覚えているが途中で記憶が途切れて気が付いたらここに立っていたんだ。


「フィー?ラウラ?オリビエさん?」


 近くにいたはずの仲間たちの姿も見えず、仕方なく俺は何もない空間を歩く事にした。しばらく歩いていると誰かが倒れているのを見つけた……ってあれはまさか!?


「シェラザードさん!?」


 倒れていたのはシェラザードさんだった。俺は直に彼女を抱き上げて息をしているか確認する、だが無情にも彼女は既に息をしていなかった。


「シェラザードさん……」


 彼女の上半身には切傷があり何かで斬られて殺されたようだ。ふと周りを見てみると、何もなかった空間にいつの間にか多くの人間が倒れていた。


「オリビエさん、アガットさん、クローゼさん、ジンさん、ティータ……」


 それは俺がこの国で知り合った人たちの死体だった。他にもアイラさんやメイベルさん、姉弟子や他の遊撃士の方々に孤児院の子供達も死体になって横たわっていた。


「エステルさん……!ヨシュアさん……!」


 二人の死体を見つけてしまい俺は思わず口を押えてしまった。嘘だ、エステルさんとヨシュアさんまで死ぬなんて……フィーは?ラウラは無事なのか?


 俺はいてもたってもいられなくなり、走り出した。辺りをキョロキョロと見渡しながらフィーやラウラを探したが何処にもいない。


「あ、あれは……そんな……」


 俺は見つけたくなかったものを見つけてしまった……ラウラだ。彼女に近づいて抱き上げるとラウラは胸に刺し傷のようなものがあり絶望の表情で死んでいるのが分かった。


「……ラウラ……」


 俺の大切な親友までもが死んでしまった事にとうとう頭が狂いそうになってしまう。俺は手でラウラの目を閉じるとふと違和感を感じた。


(この刺し傷、太刀によるものだ。そういえばここに在る死体の傷は全部太刀で斬られたものに見えた……しかもこの太刀筋は俺のものじゃないか……!?)


 俺は首をふってその考えを頭の中からかき消した。そんな訳があるか、俺が皆を殺した?あり得ない、あってたまるか!


 そう思い顔を上げるとそこに誰かが立っていた。暗闇のせいで顔が見えにくいがその手には太刀をもっていた。


「あいつが皆を……!」


 それを理解した瞬間、俺の体から殺気が放たれる。俺はラウラをゆっくりと横たわせてその人物の元に向かった。


「……」
「おい、お前がやったのか?この死体の山は……」
「……」
「答えろ!お前がやったのか!?」


 俺はいつの間にか持っていた太刀をそいつに突きつけた。目が慣れてきたのか顔の部分が徐々に見えてきたがそれをハッキリと見てしまった俺は思わず太刀を手放してしまう位の衝撃を受けた。


「お、俺……?」


 そう、俺の目の前に立っていたのは紛れもなく俺自身だった。まるで鏡を見ているようにも思えたがそいつの目を見て俺はそれが鏡じゃないと理解した。


「金の瞳孔……」


 その姿は俺があの悍ましい力を発揮したときと似ていたが目が違った。漆黒の中に光る瞳孔、まるで獣のような鋭い眼光だった。


「あ、あれはッ!?」


 俺は奴の足元に眠る様にして横たわっているフィーを見つけた。もう一人の俺は太刀を構えるとフィーの胸に突き立てようと太刀を構えた。


「止めろ!」


 俺はそれを止めようとするが、奴の周りはまるで見えない壁があるかのように近づくことが出来なかった。


「くそッ!業炎撃!」


 壁に向かって攻撃するがその途端に太刀は折れてしまった。


「破甲拳!!」


 武器を無くした俺は素手で壁を破壊しようとする。だが壁は一向に無くならない、俺の腕の皮膚が避けて血が出るだけだった。
 奴は俺に構うことなく太刀を一気にフィーの胸に――――――――



「止めろ、止めてくれ―――――――――――ッ!!!」


 




 







「……ハッ!?」


 目を開けるとそこは俺の知らない天井だった。さっきまでの出来事は全部夢だったのか……?


「ほ、本当に良かった……」


 俺は安堵のあまり胸に右腕を添えてホッと息を吐く。まったく、あんな最悪な夢を見るなんてツイていないな。


「しかし、ここは何処だ?」


 俺がいた場所はかなり広い部屋だった、至る所に高級品が並べられておりそこいらの高級ホテルなど太刀打ちできないほどの豪華さだった。


「そう言えば皆は何処に……?」


 俺以外誰もいないことに少し怖くなってしまった俺は、ベットから降りようとして右手を使って体を起こそうとベットに置いた。


 もにゅん。


(……なんかここの部分だけベットじゃない柔らかさを感じる?)


 違和感を感じた俺はかけられていた毛布をはがす、そこにはスヤスヤと眠るフィーがいて俺の手は彼女の胸に置かれていた。


「なっ……!?」


 驚いた俺は思わず後ずさりをしてしまう、しかし勢いが良すぎたのか俺の体はそのままベットから落ちてしまい床にお尻から着地してしまった。


「痛っ!」


 思わず声を出してしまい、その声でフィーが目を覚ます。


「ん……ふわぁぁぁ……」


 ごしごしと目を擦りながら眠たそうに辺りをキョロキョロするフィー。
 こら、目を擦ったら駄目だろう?といつもなら言うが今はお尻の痛みで悶絶しているので何も言えなかった。


「……何してるの、リィン?」


 そしてベットの下で腰を丸めている俺を見つけて小首を傾げていた。




―――――――――

――――――

―――


「あいたたた……いやぁ、助かったよ、フィー」
「もう、やっと起きたと思ったら何をやっているんだか」


 暫くしてお尻の痛みも引いてきた、俺は腰を摩りながら呆れた目で俺を見てくるフィーにお礼を言った。


「リィンも寝相が悪かったんだね、まさかベットから落ちてるとは思わなかった」
「あはは……面目ない」


 まさかフィーの胸を触った事に驚いて落ちたなんて言えるはずもなく、俺は愛想笑いで誤魔化した。


「所でフィー。もしかしてここは……」
「ん。リィンが想像している通りグランセル城の客室だよ。クローゼが用意してくれたの、しかも態々わたし達が泊まっていたホテルから荷物も運んでくれた」


 そうか、クローゼさんがこの部屋を用意してくれたのか。後でお礼を言っておかないといけないな。


「そう言えば、あの戦いからどうなったんだ?」
「……覚えてないの?」
「ああ、記憶が途切れていてな。ロランス少尉と戦っていたのは覚えているんだが……」
「そう……」


 俺としては軽い気持ちでそう聞いたんだが、フィーが少し表情を曇らせてしまった。どうかしたのだろうか?


「……ねえ、リィン?」
「どうしたんだ?」
「あのね、一つだけ聞きたいことがあるの……あの姿が変わる力、アレは一体何なの?」


 俺はその質問に言葉を失ってしまった。ど、どうしてそれを今聞くんだ?


「ア、アレって昔D∴G教団に襲われた時に見せたアレの事か?アレに関してはもう解決したからフィーが心配する事なんて……」
「……」
「ま、まさか俺は……」


 誤魔化そうとした俺はフィーの有無を言わさないという強い眼差しを見て、気を失った後に自身が何をしたのか察してしまった。


「……使ったんだな。ロランス少尉との戦いの最中に」
「……ん」


 フィーの頷きに俺は等々フィーの前であの力を使ってしまった事を酷く後悔した。


(抑えられなかったのか……くそっ、またフィーに要らない心配をさせてしまう!)


 俺が昔D∴G教団に攫われ、色々あって西風の旅団に復帰した後の事だ。ある日フィーが俺の姿が変わったあの現象について聞いてきたことがあったんだ。
 俺はよく分からないふりをして誤魔化した、フィーは納得していない表情だったが諦めたのかそれ以上は何も聞いてこなくなった。
 だが1年ほど前からあの力を抑えきれなくなってきた俺は、前に団長と約束した自分の体に異常が起きたら猟兵を辞めるという事を恐れて誰にも相談しないで今日までやってきた。
 もし今俺が猟兵を辞めたらレンを追う手掛かりがつかめなくなってしまうと思ったからだ。でもとうとうバレてしまったようだ。


「リィン、アレをまた見た以上もう誤魔化しは通用しない。ちゃんと正直に話して」
「いや、あれは……その……」
「どうして何も教えてくれないの?リィンにとってわたしは役立たずでしかないの?」
「そんなことは無い!ただこれは俺の問題だから……」
「だからだよッ!!」


 フィーは普段は絶対に出さないような大きな声を出して俺を睨みつけた。フィーがこんな表情を浮かべるなんて初めて見たぞ……


「お、おいフィー、落ち着いてくれよ……」
「……」
「あっ……」


 フィーは泣いていた。その瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれベットのシーツを濡らしていく。


「今日のあなたを見てわたしは自分がどれだけ楽観的だったのか思い知らされた。リィンがずっと苦しんでいたのに、勝手に大丈夫だと思い込んでわたしは気が付いてあげられなかった」
「それはフィーのせいじゃない、俺が何も言わなかったから……」
「それでも気が付きたかった、わたしはリィンの力になりたかった……」


 悲痛な表情を浮かべながら泣き続けるフィー、そんな彼女を見て俺はどうすればいいか分からずにオロオロとしている。
 実に情けないな……


「大体リィンもリィンだよ。いつも一人で抱え込んで何も相談してくれない……」
「うっ……」


 痛い所を突かれた俺はぐうの音もでなくなってしまう。


「その、ごめんな。俺はフィーに心配をかけたくなくて黙っていたんだが、かえって心配させてしまっていたんだな」
「うぐっ、ひぐっ……」
「本当にごめんな……」


 俺は謝りながら彼女の小さな体を抱きしめた。団長ならもっと上手に事を運ぶんだろうが俺にはこれくらいの事しかできない。
 暫くフィーを抱きしめながら彼女の頭を撫で続ける、するとフィーは少し落ち着いたのか顔を上げて俺を上目遣いで見つめてきた。


「リィン……」
「なんだ?」
「リィンはいなくなったりしないよね?何処かに行ったりしないよね……?」


 俺はその言葉を聞いてフィーが何を心配しているのか理解した。


(フィーは恐れているのか、俺が皆の前から黙って姿を消してしまわないかと……)


 フィーは俺の性格をよく理解している。
 思いつめた俺が黙って消えてしまわないか心配なのだろう。


「フィー、確かに俺は何回か皆の前から姿を消した方がいいんじゃないかって思ったこともある。でも前にユン老師に言われたことがあるんだ。自分のを想ってくれる人がいるという事を、その人たちを悲しませるような事は絶対にしてはいけないと」
「……」
「だからフィーの目の前から黙って消えたりはしない、そんなのはただの独りよがりだから。黙っていたくせに何を言ってるんだと思うかも知れないがこれは絶対に破らない」
「……本当に?」
「信用ないな……約束しただろう、死ぬときは一緒だって」


 俺は昔フィーと再会したときにかわした約束を伝えた。しかし昔の事とはいえ我ながら何とも重い約束をしたなとちょっと苦笑する。
 でもフィーはその約束を何よりも大切にしているからか、クスッと微笑むと俺から離れる。


「ん、あの約束を出されたのなら信じるよ。リィンは嘘つきだけど約束は守る人だから」
「矛盾しているな……」
「自業自得。これを機に少しはそういう所を直すべき」
「了解」


 俺は苦笑を浮かべながらフィーの頭を撫でる。
 そしてある決意を決めた。


(これ以上フィーを心配させるわけにはいかない。もしさっきの夢が正夢になったりしたら……それだけは何としても避けなくてはならない)


 このままでは近い将来、先ほど見た夢が現実になってしまうかも知れない。
 最早なりふりなど構ってはいられない、俺は自身に眠るこの力と本格的に向き合わなくてはならないと強く思った。


「フィー、俺もこの力については正直分からない。でも俺が知っていることを全て話すよ」
「分かった。リィンの事、ちゃんと教えてほしい」


 俺はこの力が初めて目覚めた時の事をフィーに話した。


「前に聞いたエレナって人を助けようとした時に、あの力に目覚めたんだ」
「ああ、それ以来強い怒りなどを感じると無意識に発動することは度々あったんだ。でも1年位前から自分の意志と関係なく力が漏れ出す事が起き始めた」
「団長はこのことを知っているの?」
「力については団長には話していない。フィーぐらいかな、この事を話したのは」


 俺がそう言うと、フィーはジト目で俺を見つめため息をついた。


「リィン……」
「す、すまない……昔、団長と約束したんだ、俺の体に何か異変が起きたら直に言えって。でもそうしたら猟兵を辞めさせられると思ったから……」
「言い訳無用……と言いたいけど気持ちは分かるかな。わたしも団長に無理を言って猟兵になったんだし」


 そうか、フィーは俺を探すために猟兵になったんだ。
 原因となった俺としては結構複雑な思いだが、フィーは仕方ないという表情で俺を見つめてきた。


「流石にこれ以上隠すのは良くないと思う。でもリィンがまだ猟兵として活動していきたいのなら、わたしも団長を説得するよ」
「いいのか?」
「ん、そうでもしないとリィンは納得しないだろうしね」
「すまないな、いつも迷惑をかけてしまって」
「もう慣れたよ」


 フィーはそう言うとスクッと立ち上がる。


「取りあえずまずは団長の所に行こう、リィンが目を覚ましたことを報告しないと」
「団長?なんでここで団長の話が出るんだ?」
「あ、そういえば言ってなかったっけ。今団長はこの城にいるよ」
「ええッ!?」


 フィーの言葉に俺はマジかよ……と内心思ってしまう。
 いやだって『猟兵王』として有名な団長がどうしてリベール王国にいるんだよ!?


「カシウスと一緒に付いてきたみたい。迎えに来たぞ、だって」
「態々迎えに来てくれたのか……」


 フィーからあの後に何が起きたのかを簡単に説明してもらった。
 あの後ロランス少尉は何故か撤退したらしく、リシャール大佐はエステルさん達が止めたようだ。
 その後に更にヤバい奴と戦ったそうだがその時のカシウスさんと団長が皆をサポートしてくれたらしい。
 今はクーデター事件から一週間が過ぎたらしく今日は生誕祭が行われていると聞いた。


「そうか、俺は一週間も眠り続けていたのか」
「ん、すっごく心配した」
「そうか、心配をかけてしまったな。悪かったよ」


 フィーにお礼を言うとお腹が鳴った。そう言えば一週間も何も食っていないんだもんな。


「ずっと眠っていたなら俺ってどうやって食事をとっていたんだ?」
「点滴投与っていうのをしてたよ、クロスベルの病院からカシウスが取り寄せたんだって」
「ああ、聖ウルスラ医科大学の……」


 よく見ると俺の腕に針が刺さっていて何かの液体が入った袋に繋がっていた。
 しかし聖ウルスラ医科大学か……俺が昔クロスベルで世話になっていた時にも何回か検査を受けに行ったんだよな。懐かしいものだ。


「あと(しも)のお世話はわたしがやった」
「ああ、そうなのか。ありがとう……ってええっ!?どういう事だ!?」
「オムツをはかせたんだよ。それをわたしが変えた」


 あっ、本当だ。いつの間にかオムツをはいているじゃないか。


「そっか、何かメチャクチャ恥ずかしいな」
「今更じゃん。昔は一緒にお風呂にも入ってたんだし」
「昔と今を一緒にするなよな……」


 妹にしたのお世話をされていたと知って、兄として情けなくなった。


「そ、そういえば団長がリベールに入国する時警戒されなかったのか?」
「当然された。でも団長曰く猟兵としてではなく一般人としてきたからセーフ、だって」
「いやそれでもキツいだろう。あの人自分がどれだけ有名なのか分かっているのか?」


 俺は団長の行動力に言葉が出なくなった。
 昔から破天荒なところはあるが、猟兵を強く警戒するリベール王国にまで来るかな?


「しょうがないよ、団長だし」
「……それもそうだな」


 昔からあの人の傍で暮らしてきた俺達には、そう言われてしまうと納得するしかない。
 それに警戒はされてもこっちが何もしなければ向こうも下手な事はしてこないだろう。理由も無しに最強の猟兵団と争う気などないはずだからね。


「じゃあ行こっか」
「おう。あっ、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「暴走した俺を止めてくれたのは団長なのか?」


 俺がこうやって生きている以上、俺の暴走を止めてくれた人がいるはずだ。
 それはもしかすると団長、もしくはカシウスさんかもしれない。


(どうしよう、団長だったらどうして今まで隠していたんだと怒られてしまうかもしれないぞ……!?)


 俺は内心怯えていた。
 団長は約束を守ることを重んじる人だから、俺がそれを破っていたと知れば相当怒るだろう。
 昔喰らった拳骨の痛さを思い出してゾッとする、あれならシャーリィのブラッディストームを喰らった方がまだマシだ。


「リィンを止めたのはわたしだよ、団長達はその後に来た」
「えっ、フィーが?」


 俺はそれを聞いてホッとするが、今度は小さな疑問が生まれた。


(フィーが俺を止めたのか?たった一人で?)


 いくらフィーが強くなったとはいえ、暴走した俺を一人で止めれるのか?いやもしかするとフィーには何かとっておきの手があったのかもしれない。


「なあフィー、フィーはどうやって俺を止めたんだ?できれば教えてほしいんだが」
「……知りたいの?」
「ああ、もしかすればこの力を制御するためのヒントになるかもしれないからな」


 俺はそういうつもりで聞いたのだが、フィーは顔を赤くするとプイッと目線を俺から逸らしてしまう。


「どうしたんだ?もしかして言いにくい事なのか……?」
「そういう……訳じゃ……」
「ハッ!?まさか暴走した俺がフィーに何かしたんじゃ……!?」
「ち、違う、リィンはしていない。どっちかっていうとしたのはわたしからだし……」


 ボソボソと何かを呟くフィーに、俺は怪訝な表情を浮かべる。
 本当に何もしていないのかな?まあ本人がしていないって言うのなら大丈夫だろう、フィーは嘘を付くような子じゃないし。


「ある意味チャンスだよね、これを機にリィンと……」


 顔を赤くしながら何かを試行錯誤するフィーだったが、何か決意をこめた表情を浮かべて俺に寄ってきた。


「リィン、わたし覚悟を決めたよ。リィンをどうやって止めたのか教えてあげる」
「そうか……(なんか落ち着きが無さそうだが大丈夫なのか?)」
「その前にリィン、悪いんだけど膝立ちになってくれない」
「えっ、どうして?」
「必要な事だから」


 膝立ちが必要な事?俺は疑問に思ったが、言われたとおりにフィーの前で膝立ちになる。そうすると俺とフィーの目線が同じくらいになった。


「これでいいか?」
「OKだよ。次は目をつぶって」
「ん、了解」


 目をつぶる?精神でも集中させるのかな?俺は言われたとおりに目をつぶった。


「つぶったぞ、フィー」
「ん、じゃあ今から教えてあげるね」


 さて一体どんな方法だろう……うん?唇に何か当たったような?この感触、昔何処かで味わったような……っ!!?


「んっ……」


 チラッと目を開けてみると、俺の眼前にはフィーの顔が大きく映っていた……ってえええぇぇぇぇ!?


(キスしてる!?俺とフィーが!!?)


 なんとフィーは俺の唇に自分の唇を押し当てていた。
 触れ合うだけの軽いキスだが俺の思考をぶっ壊すのには充分すぎる破壊力だ。
 俺は思考を放棄してされるがままになる、そして10秒くらいが過ぎるとフィーは顔を真っ赤にしながら俺から離れた。


「なっ、ななな……!?」
「こうやって止めたんだよ。どう?何か参考になりそう?」
「いや、参考も何も……」


 何事も無くそう言うフィーだが、どう見ても平常心ではない。


「そ、そのフィー……」
「なぁに?」
「フィーはその……俺の事を兄じゃなくて男として好意を持ってくれているのか?」


 流石の俺もこんな真っ赤な顔をしながらキスをしてくれた女の子の気持ちを察せない程馬鹿じゃない。
 俺がそう聞くと、フィーは黙ってコクンと頷いた。


「……何時ぐらいから?」
「リィンがD∴G教団に攫われて帰ってきた時かな。あの時わたしはリィンに嫌われたと思っていたの、わたしが原因でリィンは逃げられなかったから……」
「あれは俺が望んでしたことだ。フィーを恨むわけないよ」
「そうだね、リィンならそう言ってくれるよね。でも当時のわたしは罪悪感でいっぱいだったの。でもリィンはわたしを許してくれた。あの時からリィンの為なら何でもするって誓った」


 フィーは両手で俺の手を包み込むように握る。


「でもね、その時からリィンと一緒にいるとドキドキするようになったの。頭を撫でられたりハグされるとポカポカした感じの中にドキドキとする熱が生まれてきた。マリアナに相談したら彼女はこう言ったの、貴方は恋をしたんだって……」
「……そっか、そうだったんだな」


 俺は今まで妹のスキンシップだと思っていたが、フィーからすれば精一杯のアピールだったのか。
 キスされるまで気が付けないとは何とも間抜けな話だ。


「リィンはわたしの事をどう思っているの?ただの妹?」
「……正直に言えば告白されてすごく嬉しい、でも今まで俺はフィーの事を女としてみないようにしていた。エレナやレンの事があったから……」


 フィーの気持ちは凄く嬉しい。俺にとってもフィーは守りたい大切な存在だからだ。でもエレナやレンを守れなかったような俺が、本当にフィーを守れるのだろうか?
 ただでさえ謎の力に怯えている俺が、そんな浮ついた気持ちであの力と向き合えるのか?そう思うと俺も好きだと言えなくなってしまう。


(俺はエレナたちを理由にしてフィーの気持ちから逃げてしまっている。こんなのフィーに対してもエレナたちに対しても失礼だって事は分かっている。それなのに……)
「……リィン、告白の返事は今は保留でいいよ」
「えっ?」


 思い悩む俺に、フィーは何と告白の返事は保留でいいと話した。


「リィンは今自分の事で精いっぱいだし、まずは自分の事を解決してからちゃんと考えて答えを決めてから教えてほしい」
「……ごめんな、直ぐに返事をしてやれなくて」
「ん。リィンがヘタレなのは分かっていたしね」


 フィーにヘタレと言われてしまい俺は何も言い返せなかった。
 まあ確かにこんな風にウジウジと考えていればヘタレ扱いされても仕方ないよな。


「……フィーの気持ちは分かった、俺もちゃんと答えを決めてから君に話すよ。だからもう少しだけ待っていてくれ」
「……ん、期待して待ってる」


 フィーははにかみながらニコッと微笑んだ。
 俺はそれを見て今まで可愛いなとしか感じなかったフィーの笑みに、女性としての魅力を感じ取って顔を赤らめてしまう。


「じゃあ改めて団長の元に行こっか」
「ああ、そうだな」


 俺は照れたことを隠しながらフィーに手を引かれて部屋を後にした。

 
 
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