| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

蒼穹のカンヘル

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

四十三枚目

「わたしだって彼氏いるもんっ! かっこいい王子様だもん! お前なんか篝にけちょんけちょんにされちゃえー!」

ヴァーリの放った魔力弾に吹っ飛ばされ、鋼生は壁に突き刺さって気絶した。

ヴァーリがシュン! と転移して消えた。

「彼氏呼ぶまでもなく鮫島がけちょんけちょんなんだけど…」

壁に刺さった鋼生を見て鳶尾が呟く。

「ヴァーリちゃんを怒らせたらダメなのです。あの年でその気になれば暴走したトビーを一方的に蹂躙できるほどなのですよ」

「えーっと…それってどれくらいなの?」

夏梅がラヴィニアに尋ねる。

「うーんと……。世界を滅ぼしてもお釣りがくるのですよー」

鳶尾の顔がサァッと青ざめる。

「お、おおおおお俺ころされるんじゃ!?」

「それは無いと思うな。だってあの子優しいから。本気で鳶尾達を害しはしないと思う」

紗枝がポツリと言った。

「はい。ヴァーリちゃんは彼氏君と居られればそれでいいのですよ。
ウツセミ機関を追っていたのも、多少の因縁があったからなのです」

「ぅ…………」

「さ、鮫島? 無事か?」

「…………………心配するくらいなら引き抜いてくれ。動けねぇんだ」

相当面白い格好にも関わらず、四人は一切笑う事なく鮫島を救出した。

「うぉー……いててて…ったくルシドラ先生め…」

鮫島は女子三人に介抱される事をキッパリ断り、自分で薬を塗り始めた。

「さっきのはシャークが悪いのです」

へへ、ルシドラ先生も恋に恋する乙女ってか? ま、その様子じゃ彼氏なんざ居ねぇだろうがな。

鮫島の一言に対して、ヴァーリはぷるぷると震えたあと、子供のように泣き顔で言ったのだった。











side in

「篝! ちょっと! 起きてよ篝!」

屋敷のベッド惰眠を堪能していたらヴァーリに揺り起こされた。

いや起きてはいたんだよ?

「なに…? 今日はオフでしょ…?」

今日はグリゴリの仕事(主に研究)も悪魔の仕事(主に討伐)もない。

子供達を迎えて一週間。彼等ももう慣れたらしくこちらのサポートも減った。

というか俺に遠慮してる。

件の研究所もカンヘルの神器空間に収納し、地下にあった子供の遺体も埋葬して弔った。

まぁ、そんな訳で、本当に久々のオフだ。

「んぅー……なんか用…?」

「私に彼氏なんていないだろってコーキが言ったの! ムカついたの! だから篝来て!」

んぁー……スラッシュドッグの所の猫使い……だっけ…。

資料はこの前読んだけど、あんまり覚えてない。

ケイニスリュカオンの所有者が姫島の縁者だったので、彼の事を調べた。

結果は白。それ以来彼等の資料はファイルに閉じてなおした。

「もー! 起きてよぉー!」

「んー…起きるからぁ…ちょっと待てよ…」

体を起こす。眠い。

流石に四徹は気分的に堪える。

「もー! 勝手に連れていくからねっ!」

ヴァーリに抱き抱えられた。

「転移!」

side out








ヴァーリは彼氏を腕に抱いてとんぼ返りで戻ってきた。

「えーと…ルシドラ先生。それが先生の彼氏?」

「うん!」

「子供……よね…?」

「子供…ね」

夏梅と紗枝が顔を見合わせる。

「ヴァーリさん、流石に男の子を誘拐してくるのは…」

「ちがうもん! 同い年だもん! 篝も起きてよぉ!」

「んー…おきてるー…おきてるよー…。四徹から三時間で起こされたよー…」

篝はのろのろとヴァーリの手のなかからでる。

「はじめましてー。おれはひめじまかがり。いちおうとびおくんのはとこですよろしくー………ふぁぁぁ」

最後に欠伸を噛まして、空いていた椅子に座った。

普段アザゼルが座っていた席だ。

「ひめ…じま…?」

「うんー。でも本家とは敵対してるよー。宗主含め実働部隊殺しまくったしねー」

ぽやぽやと眠たげな口調で残虐なセリフを垂れ流す。

「んー…………あー……眼ぇさめてきた…。嫌なこと思いだしちまったなぁ…」

「き、君は人を殺した…のかい?」

「ふーん……」

篝が鳶尾の瞳をじっと見つめる。

「中途半端な眼だね。鳶尾兄さん」

「中途半端…?」

「眼の奥にギラギラしたリビドーがあるのに理性がそれを全力で押さえてる。
だけどロンギヌスを宿した貴方は、必ず人を殺める。自分の意志でだ。どうしても殺さないといけない奴が出てくる。
殺す覚悟はしといたがいい」

声変わりをしていない、少年とも少女とも取れる声は、何故だか大人の言葉のようだった。

「…君もロンギヌスを?」

「勿論」

篝は錫杖を呼び出し、押さえていた物を解放する。

そのルックスに五人が目をむいた。

「この錫杖はカンヘル。始まりのロンギヌスにして、恐らくはトゥルーロンギヌスを越える物。
この姿は色々あってね。人間はやめたんだ」

三対六枚の龍天使の翼に加え、三対六枚の悪魔と堕天使の翼が顕れた。

「見ろよこの翼。カオス過ぎて笑えてこないか?」

「す、すごいのです…聖書に記された天使悪魔堕天使龍全てのオーラを感じるのです…」

「お? そこの魔女っ娘はわかるんだね。感心感心」

篝が六対十二枚の翼を折り畳む。

畳んでもかなりのボリュームだ。

「で? 中学生にもなってない女の子を泣かした大人げない魚類は君?」

篝がにっこにこしながら鋼生に顔を向ける。

「んだよ…」

「んー……まだまだかなぁ…。さっさとバランスブレイカー使えるようになってね。
ヴァーリにあーだこーだ言うのはその後で」

「へぇ…? いうじゃねぇのガキんちょが」

鋼生がポキポキと指を鳴らす。

「お? やる? やっちゃう? 年下相手に?? 大人げなくて抱腹絶倒だよ」

「はーい。質問。篝君達って幾つなの?」

紗枝が面白がるように尋ねた。

「俺もヴァーリも12だよ」

「「「「小学生!?」」」」

鳶尾と鋼生がヴァーリの胸元に目を向ける。

「おうコラ俺の女に色目使ってんじゃねぇぞガキども」

ごっ!ごっ! と二人の頭に錫杖が振り下ろされた。

「「いっでぇぁー!?」」

「い、いまの一撃で下級悪魔なら消滅なのですよ……」

「え!? 十二!? ヴァーリちゃん十二なの!? ヴァーリちゃんが早熟だったの!? 篝君が幼形成熟とかじゃなくて!?」

「うるさいぞ皆川」

「私よりおっぱい大きいのに!?」

「東城……そこなのかよ…。ん?レーニは知っていたのか?」

「アザゼル総督から聞いてはいたのですよー」

「ふーん…。まぁお互い様か。俺も一通りの資料は読ませて貰っているよ」

「例えばテメェはどんな事を知ってるってんだ?」

「んー…皆川と東城とレーニのスリーサイズとか?」

「「!?」」

篝が紗枝を指差す。

「東城は上からぁ…」

鳶尾がごくりと唾を飲む。

「何眼ぇ輝かせてるのよ幾瀬君!」

「鳶尾のえっち…」

「え!? 俺だけ!? なんで俺だけなの!?」

「お前が分かりやすいからだよラノベ主人公」

「ら、ラノベ主人公!?」

「世界を滅ぼす能力(笑)持ってて? 女の子三人と同居で? もうすぐ能力者の学校行きだろ?
これをラノベ主人公とよばずしてどうしようか、いやどうしようもない」

「はははは! お前にぴったりだな幾瀬!」

「騒ぐな主人公パーティーその一」

「知らねぇのか? そういうポジションが一番役得なんだぜ」

「ふむ、一理ある」

篝は頷くと、勝手に冷蔵庫を開け始めた。

「マッ缶無いの?」

「「「「マッ缶?」」」」

「ヴァーリちゃんが時々飲んでるコーヒーなのですよ」

篝は舌打ちすると、手の中にアポートで二つマッ缶を出した。

片方をヴァーリに放り投げる。

「ラヴィーも飲む?」

ヴァーリがマッ缶をラヴィニアに差し出す。

「ラヴィー級の魔法使いなら糖分は大事だよ?」

「それは前に聞いたのです。でも一本でご飯一杯分はハイカロリーなのです。私もお年頃なのです」

「おーおー。さすがは花の…ふむぐっ!?」

何かを言いかけた篝をラヴィニアが押さえ込む。

「カガリそれはいけないのですよ」

「むー!むー!」

「ちょっとラヴィー! 篝をぱふぱふしていいのは私だけなの!」

「ぱふ…?」

こてんと首を傾げるラヴィニアの腕のなかで、豊満なバストに押さえつけられている篝がもがく。

『【ロスト】』

刹那、ラヴィニアの腕のなかに闇が現れ、篝の姿が掻き消えた。

「あれぇー? カガリが消えちゃったのです」

ヴォン…。

ヴァーリの隣に同一の球体が現れ、闇の中から篝が顕れた。

「はぁ、まさかこんなくだらん事でロストを使おうとは…」

「せ、セイクリッドギア…?」

「の能力のひとつだ。まぁ、全部見せはせんがな」

刹那、篝に純白の一閃が放たれた。

しかし篝は一瞬で闇に潜り、鋼生の背後を取った。

背丈に似合わない大きな手が鋼生の頭を掴む。

「俺の実力知りたいのはわかったけど、タイミングとか考えろバトルジャンキー」

篝は鋼生の頭を持ったまま、自分の手もろとも思い切り壁に叩きつけた。

再び壁に突き刺さる鋼生。

篝は鋼生の頭から手を離し壁から抜き、スマホを取り出した。

「タイトル。犬神家の一族かっこ猫かっこ閉じる」

と言いながらパシャパシャと写真を撮る。

「ツイートツイート………」

憐れ、鋼生の面白画像はネットの海に流されてしまった。

「カガリ、壁に二つも穴が空いたのです」

「怒るなよレーニ。っていうかそっちの穴は俺じゃない」

「そっちはヴァーリちゃんなのです。ちゃんと保護者が責任を取るべきなのです」

「えー……じゃぁアザゼル辺りに言えよ…」

「総督は忙しいのです」

「一昨日アザゼルの部屋覗いたらAV見てたぞ。強姦系のやつ。流石は堕天使総督、いい趣味だった」

篝がそう言うと、ヴァーリから黒いオーラが吹き出る。

「篝?」

「いや、俺は見てないよ。なんならミッテルト達に聞いてみ? 俺この4日くらい働き詰めだったから」

そう言いながら篝は指を鳴らした。

するとどちらの穴も綺麗に塞がった。

…………片方に鋼生がささったまま。

「一件落着」

その後は壁に刺さったままの鋼生を部屋の反対側に回った篝が煽りに煽り、鬼ごっこが始まった。

篝は鬼ごっこの最中も鋼生をおちょくりまくった。

最終的にぶっ倒れた鋼生の上で高笑いし、さんざん場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、篝は帰って行った。










「あんのガキ次会ったらぶっ殺してやらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「まず私に勝ってから言おうか。シャーク」 
 

 
後書き
ヴァーリと篝は基本的に領地の屋敷か姫島神社で生活してます。
ヴァーリは毎回例のアパートへは転移魔法です。住んではいません(というか篝が認めない)。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧