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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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前哨戦、そして決戦へ……

「向かうべき場所も、ぶっ叩く敵も判ってる。判らねぇのは俺達が『奴』を叩ききれるかだけ……よくよく考えりゃあいつもの事なんだよ、なぁ?」

「提督」

「あんだよ?」

「艦内は、禁煙ですよ?」

「ざ~んねん、明石に頼んで換気機能を強化してもらってるから問題無ぇんだなぁコレが。そもそも、ここは室外だ」

 小言を言ってきた大淀に対して、どや顔で紫煙をフーッと吐き出してみせる。グダグダ悩むのはもうヤメだヤメ。考えてみりゃあいつもの大規模作戦の先陣切るのと大差無かったって事に気付いて、だったらいつも通りにカチコミじゃい!となって今は海の上。指揮艦の甲板上で煙草をふかしている。

「のう大淀よ」

「なんです?」

「提督の奴、何やら様子が可笑しくはないか?」

 眉間に皺を寄せた利根が失礼な事を宣っているが、別におかしな事はない。

「あれは寝不足から来る『深夜テンション』って奴です。別に変なお薬をキメた訳でも、怒りの余りにプッツンした訳でも無いです」

「失礼だなぁ腹黒眼鏡」

「その口の悪さ……やっといつもの調子が戻ってきましたね。このまま調子が悪いままだったらどうしようかと、ヒヤヒヤしてましたよ」

「俺も海の男だった、って事か。潮風に撒かれたら頭がスッキリしてきたぜ」

「スッキリした所で、ご指示を。存分に」

「鎮守府に連絡、陸攻隊を発進させろ。その後第二艦隊の艦載機も発艦、第一・第二・陸攻隊を同時に『リバースド・ナイン』にぶつける」

「理屈は解るが、それは下策ではないのか?提督。鎮守府はあ奴1人にやられたんじゃぞ?」

 あのクソッタレな空母棲姫が連合艦隊を組んで攻めてきたんじゃないかと錯覚する程の大空襲を、たった1隻でやってのけたという『リバースド・ナイン』。その圧倒的ともいえる物量に、軽空母を含む空母4隻と基地航空隊のみで対処できるのか?利根は訝しんだ。

「あぁ、アレの謎はもう解けた。ありゃただの波状攻撃だ」

「波状攻撃、じゃと?」

「あぁ。大淀、アレ見せてやれ」

「了解です」

 大淀は抱えていたタブレットを操作し、とあるグラフを利根に見せた。

「何じゃこれは?」

「この間の空襲の際、一時的に空爆が強まったタイミングを時間の経過と共にグラフにした物です」

「お、お主らあの状況下でそんな事しとったのか!?」

「未知の相手の情報収集は基本だろJK(常識的に考えて)」

「戦術の初歩の初歩ですよ?」

 何を言ってるんだコイツは、という視線を真顔で向けてくる提督と大淀。鎮守府が壊滅するか否か、という状況下で敵の情報収集をするなど、普通ならば狂っているとしか言い様が無い。無いのだが……『やられたらやり返す、それも最低10倍返し』が身体の芯から染み付いている提督とその部下としては最古参の艦娘は、いい具合に戦闘狂な方向に狂っていた。誉め言葉である。

「そのグラフを見れば解るとおり、あの空襲は一定の間隔で激しさを増していた……これがどういう事か。解るか?利根」

「……波状攻撃、だったのか?アレが」

「その通りです、非常に間隔が短いですが一定のリズムで発艦された艦載機の群れが襲ってきていたのです」

「それだけの物量を抱えてるってだけでも驚異的だがな。それも何かしらタネがありそうな気はするが……大事なのは『奴の一度に発艦させられる艦載機』の数だ」

 一度に発艦させられる数を上回る数の艦載機を此方が一度に突撃させ、飽和攻撃で敵を制圧する。一見力任せに見えるが、一度相手に主導権を握らせてしまえば敵の方が制圧力の高さは上だ。ならば短期決戦で航空機の飽和攻撃の上、金剛をはじめとする戦艦による制圧射撃、トドメの雷撃をかました上にそれでもダメなら神通と夕立という『妖怪首置いてけコンビ』による格闘攻撃で確実に殺す、という算段だ。

「航空機の発艦タイミングのタイムスケジュールは此方で組んでおきました。ご確認を」

「……用意がいいな?」

「提督が必要とするであろう物を常に用意し、後はそれを何処に仕舞い込んだかを思い出すのが戦場での私の務めです。後は提督がご指示を頂くだけですが?」

「有能すぎて逆に怖ぇわ」

 流石は腹黒眼鏡、としか言い様の無い手際の良さだ。あとそのどや顔やめーや。





『偵察機から入電!目標を発見、座標を記録!』

『陸攻隊と第二艦隊にも座標を送れ!遅刻した奴は提督に擂り潰されてつみれにされっぞ!』

『こちら第二艦隊所属航空隊!座標データを受信、第一航空隊との合流ポイントへ向かう!』

『こちら基地航空隊、ゼロポイントを通過。現在時刻ヒトヨンサンフタ、【作戦名:メテオール】開始!第一段階、陽動開始!』

 忙しなく無線をやり取りしているのは艦載機に乗る妖精さんと通信担当の妖精さんだ。今は見た目はちっこい少女だが、中身は当時戦っていたオッサンばかり(らしい)ので、何とも男臭い上に物騒な会話だらけだ。しかし、その会話で作戦の火蓋が切って落とされた事が作戦参加者全員に伝わる。ここから先は失敗は許されない一発勝負。

「OK!第一フェイズ、航空攻撃……GO!」

「第一次攻撃隊、攻撃配置!艦爆隊は全機高度5000まで上昇して!」

「艦攻隊は高度300に降下した後、その高度を維持。戦闘機隊はそれぞれの攻撃隊にエンゲージ」

 これは赤城と加賀が組んだ際の役割分担だ。赤城が2隻分の艦爆隊を、加賀が艦攻隊を指揮し、艦戦はその護衛に張り付かせる。それと同時に無線越しに掛け声が飛ぶ。

『そっちばかりに任せてられないわ!こっちも発艦、行くわよ?』

『応さ、いつでもいいよぉ!行っけええぇぇぇーーーーーっ!』

 第二艦隊の艦載機もそれぞれ、第一艦隊の航空隊に合流。

『基地航空隊、高高度爆撃初弾投下、着弾までカウントダウン開始!』

 基地航空隊の高高度爆撃の着弾から、流れるような航空攻撃のオーケストラが始まる。高高度爆撃の奇襲で水柱を巻き上げ、敵を動けなくする。そこにタイミングを合わせたように低空に侵入した陸攻による機銃掃射の露払い、からの雷撃。攻撃を終えた陸攻隊は戦果を確認する事なく、速やかに海域を離れて帰還の途に就く。撃沈を確信しているからではない、『後続に巻き込まれて鱶(フカ)の餌になりたくないから』である。相手に反撃の隙は与えん、とばかりに今度は艦載機隊の戦闘機らが機銃を乱射。すかさず爆心地を避け、そこに流星や熟練の九七艦攻が雷撃をかます。そしてトドメとばかりに艦爆隊が上空からの逆落としで抱えた爆弾を叩き込む。頑丈さがウリの戦艦水鬼ですら、これだけの炸薬をぶつければ轟沈しても可笑しくは無い。寧ろオーバーキルの可能性すらある。しかし、敵はそんな姫や鬼と一線を隔す『ネームレベル』なのだ。





『っ!爆心地にて動く物体を確認!敵艦未だ健在!』

 水煙が晴れた先で偵察機が見たのは、大した破損が見られない『リバースド・ナイン』の姿。その身体の前には黒い靄が立ち込める。そして異形の魔女が左手に携えた弓に矢をつがえ、その靄に矢を射ち込んだ。すると、その矢は艦戦に姿を変え、主を傷付けた不届き者を捉えんと空へと加速していく。その数、26。

『敵航空機発艦!数、フタジュウロク!』

「Shit!まだ出して来るか……しつっこい女ネー」

 苛立ちを隠そうともしない金剛。

「発艦された航空機は所詮迎撃用の艦戦です、敵の反撃は無いわよ?金剛さん」

「そうです、未だ手数も火力も此方が上。戦艦の砲撃と私達の残してある第二次攻撃隊とで圧殺出来ます」

 意見具申する赤城と加賀が言う事は尤もだ。この場の判断は旗艦たる金剛に委ねられた。往くべきか退くべきか……迷う金剛。

『金剛』

「っ!darling!?」

 不意に飛び込んで来たのは最愛の夫の声。

『どうせウジウジ迷ってんだろ?お前は誰よりも優しいし、責任感が強いからな』

 あぁ、何故この人はこんなにも私の心を見透かして来るのだろう……そんな思いが金剛の中を駆け巡り、嬉しさと気恥ずかしさと、そしてちょっぴりの怒りが金剛を支配する。

『現場に最善は無い。その場の判断で選んだ選択が、後の反省で最善か否かを判断されるだけだ。……安心しな、失敗したって俺がフォローしてやる』

 “それとも、俺はそんなに頼り無い男か?”そんな言葉は発していないのだが、金剛の耳にはハッキリと、提督の言葉が聞こえた気がした。

「OK、失敗したら骨は拾ってネ?darling」

『バ~カ、死んだら地獄の底まで追っかけてって、ぶん殴ってでも連れ戻すさ』

 金剛の中に、迷いは既に無かった。

「全艦、砲・雷撃戦準備!奴をこのまま押し潰しマース!」

 艦隊は速やかに単縦陣に移行、『リバースド・ナイン』に向けて航行を開始した。
 
 

 
後書き
な~んでこの主人公と影の薄いヒロインは戦場でイチャついてんすかねぇ?(-'д-)y-~ 
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