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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第3話 本当はギャグなんです!!(今更)

 ―――初めから、真面目な話が続いた……なに、それは気の狂いだって? うん、そうかもしれないわ。


「てめぇ等、一日に何回脱獄すれば気が済むんだクソ!!」


 一応、この刑務所の日常を物語の様にしたら、恐らく"ギャグ"と分類される物だろう。"シリアス"にはならないのだ。

「あははは~!! また琴葉ちゃんに捕まっちゃったぁ♡」
「『捕まっちゃったぁ♡』じゃないわボケ!! 九〇四番は取り敢えず、鼻凍って死ね!!」
「待って言ってることがサッパリ理解できない」

 朝、レンを医務室の奥の部屋へ運ぶ前、私が叫んでいた理由は―――

「にしても、琴葉ちゃん、毎回単純な鍵を用意して、まるで『脱獄してください』って言ってるようなものだよ?」
「看守、少し僕達をナメすぎじゃないか?」
「そーだよー! オレ達が悪い訳じゃないしーだ!」

 此奴等が、"魔法犯罪が始まり魔法刑務所が建てられてから、一度も脱獄に成功した者がいない"がウリの此の第一魔法刑務所で、小さな脱獄を繰り返すからだった。

 でも、此ればかりは私も諦めているのだ。


「だって、魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん」


 小声でボソッと呟く。
 が、三人の囚人達は、一斉に此方を見て、パァという効果音が付きそうな程、表情を明るくさせ、叫び始める。

「ねぇねぇねぇ今さ、琴葉ちゃん負けを認めたよっ!? 流石オレ達、皆で力を合わせれば琴葉ちゃんにも勝っちゃうんだねぇ!!」
「琴葉ちゃんに勝った~! 賭け事ではイカサマしてるグレース君に、イカサマも何も使わずに全部勝っちゃうし、ゲームだってチート使ってるグレース君に、チートを使わずに勝っちゃうし、じゃんけんでも運が上がる魔法とか未来を読む魔法を使ってるグレース君に、何も使わずに勝っちゃうし、他にも―――」
「ねぇやめて!? マジでやめて!?!?」
「ふっ、看守がこの僕に叶う訳がないだろう! たかが女一人に、僕が負ける訳がな―――」
「シン、ちがーう!! "オレ達"か"僕達"!!」
「「グレース(君)は入ってないけど?」」
「何にそれッッッ!?!?」

 八九番も、四番も、言うときはしっかりと言うヤツで良かった。
 だが、"私に勝った"と言うのは気に入らない。

 だって、しょうがないじゃないか。

 第一魔法刑務所に入ってくるのは、魔法犯罪を起こしまくり、第九魔法刑務所でも、第八魔法刑務所でも、第七でも、第六でも、第五でも、第四でも、第三でも、第二でも手に負えなくなった様な、可笑しなヤツ等しかいないのだ。
 魔法の知識では負けなくても、魔法の応用で負けるのもしょうがないじゃないか。
 一対一の勝負では勝っても、人数が集まって襲ってこられたら、負けるのもしょうがないじゃないか。
 鍵だって、刑務所で統一されてるんだよ。バレない程度に毎回形を変えるけど、それ以上変えるとバレるんだけど。バレたら私、クビになるかもしれないし。減給とかもうやだもん。
 明らかに看守が不利な状況で、魔法も使えるんだから、しょうがないじゃん。

「おーい、琴葉ちゃーん?」

 ……"魔法も使えるんだから"?
 魔法が使えなかったらどうなる?

「琴葉ちゃー―――」
「それだッッッ!!!!」
「ぐはっ」

 ずっと下を向いて考えていたため、顔を上げた際に、九〇四番の顎に、私の頭突きがクリーンヒットした様だ。

「貴様等、もう魔法を使うなっ!!」
「「「嫌だ」」」
「ふふふ……言うと思ったぞ! だから、此れをくれてやるっ!! 《魔法無効化》!!」

 此の房の周りを囲う様に、魔法を無効化するバリアを、魔法を使って張る。このバリア内だったら、魔法を使う事は出来ない。

 魔法には様々な使い方があり、此れは"魔法を無効化する"と言う"結果"を生み出すモノを、バリアの様な形にして、部屋を囲うと言う使い方だ。

 魔法は、あくまで"結果"として世界に現れるモノだ。一度現れた結果を曲げることは難しい。

「あ、ずるい!!」
「こっちだって!」

 それは無理である。
 なぜなら、私の方が強いからである。

「ふっ……此処でやりあっても、唯の時間の無駄だ。精々、足掻くといいさ。生憎と、私は中学男子の様なくだらない喧嘩に、興味は……」
「へー、逃げるんだぁ」

 踵を返してすぐに、九〇四番のへらへらとした声。如何もイラつきが収まらず、私はもう一度九〇四番に向き直り、房の鉄格子を思い切り掴んだ。

「あ"? 誰に口聞いてんだ手前殴るぞあ"あ?」
「ハッ! 殴れるモンなら殴ってみればぁ? このイケメン担当の俺の顔を傷付…………ぶぇふ!!」

 思い切り鉄格子の間から腕を伸ばし、九〇四番の顔面に拳を入れる。後ろで八九番と四番が俯きながら肩を震わせ、耳まで赤くなっていることから、大爆笑するのを堪えているのだろう。

 ついでに、九〇四番はイケメン担当では無い。
 何故ならこの房には、女囚人共が寄って集る、"ミステリアスイケメン(レン)"と、"俺(僕)様系イケメン(四番)"が居るのだから。因みに、九〇四番は"残念イケメン"らしい。一番興味は無いが。
 なので、この房にイケメン担当を付けるとしたら、レンか四番のどちらかになる。

「看守。この房のイケメン担当は僕かレンだと思わないか? あと、ハクは癒し担当で、グレースは変態担当」
「え? ボク癒し担当?」
「変態担当って何!? シンってば酷くない!?」
「鼻血出してる中学生男子並みの喧嘩をするヤツがイケメン担当とか有り得無くないか?」
「クッソ」

 ―――まぁ、これがこの房日常である。


 三度の飯より脱獄、それ以外の時間は馬鹿騒ぎ。


 これが極悪脱獄囚でいいのか…………? かなり今更だけど。

 
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