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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第268話 統一トーナメント

 
前書き
~一言~

ちょっとでも早めに投稿できてよかったです……!!
んでも、この1話で京都旅行も行こう! って思って書いてたのに…… 思った以上に話が長くなっちゃってもう1話延長になっちゃいました。どうか またお付き合いしてくれれば幸いでございますっ!

ユウキ可愛い! レイナも勿論可愛い! ……んでもって、絵とか無いですが、リュウキも可愛いww


最後にこの小説を読んで下さってありがとうございますっ! これからも、ガンバリマス!!


                                   じーくw
 

 


「………」
「もー リュウキ君? 機嫌直してよー。ほんとごめんってば」
「別に。オレは普通だ」
「普通に見えないってば。ね? この通り!(あ、でも なんだか懐かしい気がするセリフかも……)」

 これはとても珍しい絵かもしれない。
 リュウキがむくれていて、アスナが機嫌取りをしている構図。いつもなら、リュウキをからかったりするリズやアルゴ辺りがやや多く、シノンは勿論の事、更に言えばリーファやシリカも経験がある。そして、その他に言えば男で言えばクラインが筆頭で、その他は大体が似たり寄ったり。

 明らかにランク外なのがアスナ。

 キリト関係は例外だが、それ以外は基本的にいつもニコニコ、時折 お説教したり諫めたり、である。

 そして、リュウキもアスナがわざとじゃない、と言う事くらい勿論判っているし、自分自身の脇の甘さが招いたことだという事も十全に理解している。つい最近、自分自身に言い聞かせていたばかりだったのだから。

「アスナ。……誰にも、その………」

 だからこそ、口にした。
 言わないでくれ、と最後までは言えてないが、大体は判るというものだ。アスナも勿論。にこっ、と笑みを向けていたから。

「任せといて。こう見えて私口は堅い方だし。それに、リュウキ君に本気で怒られて嫌われちゃうのはもっと嫌だからね?」
「い、いや、こんなことで 嫌ったりなんかしない。だけど、これは……、これだけは……。口外しない、と約束してくれるなら、アスナの願い。聞ける範囲で応える」
「やー、大袈裟だよー。願い? …………。ん、んっん~♪ ちょっと待って、それってほんとっ?」
「ッ………、あ、ああ」

 アスナの笑みには覚えがある。
 そう、レイナもそうだった。何処となく悪戯心が顔に出るから。流石は姉妹。本当によく似ていて、リュウキは正直後悔しかけたが、最早後の祭り。言った言葉を早々に覆すような真似はみっともないから。

「じゃあさ。リュウキ君。えっとね~」

 アスナはリュウキの顔を覗き込んだ。

 レイナとアスナは 所々は当然違う。毎日のように顔を合わし、愛している人だから リュウキ、勿論キリト、そして近しい者たちにも当然見分けはつくのだが、それでも双子と見間違うほど似ている、と何度か聞くけれど 間違いじゃないとわかる。
 
 だからだろうか、なんだかその笑顔は苦手な気がしてしまっていた。レイナの様に 色々と聞いてしまいそうだから。

 そしてアスナの口から出てきた言葉も、なかなかハードルが高いものだった。

「じゃあさー。私の事 『おねえちゃん』ってよんでくれないかな?」
「………え?」

 一瞬何を言ったのかリュウキは判っていなかった様だが、直ぐに理解する。別に違う国の言葉を発した訳じゃないから当然だ。……が、なかなかこれも恥ずかしいものがあった。

「ほらほら~ 間違いじゃないでしょ? 私はリュウキ君にとって義姉(おねえ)ちゃんなんだからさ~」
「ま、間違いじゃない事はオレも解ってるよ。……でも、なんで今更って思っただけで。そ、それにレイナからも……」
「そりゃあね。レイからは生まれた時から~っていうのは言い過ぎかもだけど、物心ついた頃から呼び方は変わってないかな? でも、私はリュウキ君に呼んでもらいたいな~ って思ってね。今から一度だけ、言うからね。これ以上蒸し返す事はないから一度だけ。……さっきのリュウキ君。すごく可愛かったから。誉め言葉にならない、っていうのは判るけど、凄くしっかりしてて、頼りになって、いつも助けてくれる。そんな完璧超人! な義弟くんがさ。……年相応の笑顔と言い方をしてて、何だか私も嬉しくなって―――ね?」
「ぅ………」

 リュウキは口ごもる。
 その姿も非常に可愛らしいものがある。そして何より アスナの妹――レイナに似ている所がある。恥ずかしそうにする所なんか特に。こちら側は似た者夫婦だという事だ。

「それでどうかな? もー これ以上は何も言わないし、何も要求しないって誓うよ。今日の事は私の胸の中だけに留めておくから」
「っっ~~~」

 リュウキは顔を赤く染めつつ、……そして意を決した。 そこまで!? って思うかもしれないが、頑張っているのだ。すぅ~と息を吸い込み、吐いて、を二度三度と繰り返して。


「あ、あすな………」


 息切れがなぜかしてしまう。まるで現実世界で全力疾走をしているかの様だった。しかもゴールが中々見えない届かない。

 リュウキは、ひーひー、と思いながらも、何とか言葉を繋げた。




「あ、あすな……お、おねえ、ちゃん……?」



 この瞬間、電撃のようなものをアスナは感じた。

「………はぅっ ///(こ、これは 想像以上に………っ)」

 感じたのと同時に、言葉が出ない。どうやら、感動しすぎて声にならない様子だった。

 それも そこまで思うか!? って思うかもしれないが、思うのである。超ド級のレア度だから。ほんのついさっきの事。今後要求しない、と宣言した事。それを あっと言う間に後悔するなんてこれまた初めてだった。

「う、うん! おねえちゃんだよ! おねえちゃんも、何でも言う事聞いてあげるからね~~///」
「わぷっ、あ、あすっ や、やりす………ッッ!!」


 感慨極まって、感動に胸を躍らせて、アスナは思わずリュウキに抱きついた。

 そして、その後の出来事。……これはもうお約束かもしれない。
 
 本日、今この瞬間に来訪者があった。新たな来訪者が。 

 リュウキの目の前に飛び込んできたのは、アスナでもなければ 綺堂でもなく……。


「ママ……? お兄さんと何をしているんですか?」


 小さい妖精と、そしてその隣にいて身体を震わせている妖精。


「あああああーーーーー!!!」


 凡そ1秒後。(体感時間はその10倍以上程はありそうだが)
 リュウキが弁解する余地もなく、妖精の大絶叫が室内に響き渡った。
































~ 竜崎家 ~


 そして 就寝前の深夜11時。

 怒涛の大嵐。大型台風が3~4個一日で上空を通過したかの様な大嵐だったが、災害警報は家にまでは発令していない為、先ほどの事が嘘のような静けさだ。この静けさの中で何度も思う。『……もう、隙は決して見せない』と。

「ほっほ。それは大変でしたなぁ、坊ちゃん」
「大変、の一言じゃ表せれないよ……。ほんとに……」

 げっそりとしているのは隼人。
 やはりまだ忘れるのには、回復(リカバリィ)をするには まだまだ時間が必要だった様だ。現実世界ででも自動回復(バトル・ヒーリング)スキルが欲しいと今程思ったことはない、と言うのは隼人の心情である。

「まさか、あのタイミングでレイナが来るなんて思わないよ……。ユイもそうだけどさ。……まさかとは思うけど、爺や? 謀ったの??」
「ほほ。その様な手腕は残念ながら持ち合わせておりませんな」
「残念ってなにさ!? 大変だったんだから!」

 そう、もうお気づきかもしれないが、あの場に来たのはアスナの妹レイナ。レイナとリュウキが家主だから、家の中に当然入れる。アスナが中々戻ってこないから、再びログインしたのが今回最大の事件? の真相である。
 丁度 最適化プログラムを終えた事。ユイはレイナと最後に共に行動をしていたことも合わさって、丁度レイナがログインをした時にユイ自身も実体化した。そして……、そのあとの成り行きは想像の通り、である。

「でも、誤解は解けたのでしょう? まさか明日奈お嬢様と秘め事を……などとは玲奈お嬢様も心からは思ってはおりますまい?」
「……うぅ、そうなんだけどさ。レイナにも、その…… 成り行き上だけど、知られちゃって……」
「ほほほ。愛する者同士、夫婦同士であったとしても、秘め事の1つや2つあった所で不思議ではございません。……ですが、玲奈お嬢様は知ってらした、と以前より、お聞きしておりましたが。時折綻ぶ坊ちゃんの事を見逃さず、聞き逃さなかったのでしょう」
「うー……」

 当初は『隙を見せない』と決意していた隼人だったが、やはりと言うか当然と言うか、綺堂の前では霧散。素の自分がやはり出てくるというものだ。
 それは我が家だから 安全な圏内。それも圏内な上に、絶対無敵の防壁に守られた場所だから安心感Maxなのだ。

 でも不意に玲奈の言葉が頭の中をよぎる。

 丁度一騒動終えて、玲奈も大分落ち着いてきて、明日奈がログアウトし、自分も戻る直前の時だ。


『……私はリュウキ君の違った一面も勿論に好き。……大好き。それに、私は知ってたよ。だって、全部見せてくれたから。リュウキ君は。……それに私の事も、見てくれた。ずっと、傍にいてくれた』


 そう、かつて心が折れそうだったあの時に、確かに素の自分を見せた事があった。弱い所も全部、玲奈には曝け出すことが出来たんだ。……流石にその時だけに限る、ではあるが。

 後、きっと玲奈は 妬いちゃった自分自身がちょっとばかり恥ずかしくて、それを紛らわせようと、本音をフルオープンした様だ。隼人と二人きりだからできた事である。
 勿論、隼人も今回はユイもアスナも爺やさんであるジンもいないから、直ぐに行動に移せた。玲奈をそっと抱き寄せて、自分自身の身体も玲奈に預けた。
 玲奈の丁度 頭の部分に、自身の額を乗せる。言葉で伝えるより気持ちを全面に出そうとさせながら。





「ほほほ。里香お嬢様、アルゴお嬢様でなかった事が何より、でございましょう? 明日奈お嬢様や玲奈お嬢様のお2人はきっと胸の内に留めておく、と推察されます。……坊ちゃんの事を独り占めしたい、と言う気持ちはお2人にもあるのでしょう。……明日奈お嬢様は、和人様の手前、公にするとも考えにくいかと思われます」
「……うん。正直な所 あの2人だけでよかった、って思ってるよ。 他のメンバーがいたらって思うと……ほんと、頭が痛くなりそうで……」
「坊ちゃん? それは俗にいう『フラグがたつ』と言うものだと思われますが、……ご安心を。私めは対処法も心得ておりますので。ご注意を」
「え、あ、あー うん。そう、だね。……気を付けないと」

 ある意味綺堂氏も人外も良い所だ。


 ~しなくてよかった。~に見つからなくてよかった。~にバレなくてよかった
 

 これらは、口にするだけで、綺堂が言う様に 所謂『イベントが起きる為の条件が全て整った』と言う様なもので、不可避となってしまうのが宇宙の意思。
 

 でも、それをも超える存在なのが隼人の爺や……綺堂氏なのだっ! 



―――と、大袈裟に言ってみたが、綺堂の言葉には絶対の信頼、そして安心があるから 隼人もリラックスが出来て、これ以上ボロが出ないようにする、と言うのが真相である。(……多分) 














~ ALO 新生アインクラッド 第22層 リュウキとレイナの家 ~





 数日後。
 因みに、正直まだまだ何処となくぎこちなかった2人だったが、最早慣れっこと言う事もあり 直ぐにいつもの調子を取り戻していた。


 そして何より今日から始まる一大イベントがあるからだ。ALOだけに留まらず、全VRMMOに配信される最大級のイベント。


「今日は統一トーナメントだねー リュウキ君」
「ああ。いよいよ、と言った感じだ」
「ふふ。すっごく落ち着けてる感じだよっ。やっぱり当日ともなったら、雑念捨てて~ って感じなのかな?」
「そりゃあそうだろう? ここまで来て、ウジウジと言うのは 性に合わないし。……全力を出さないと相手にも失礼だ」
「……わぁ、ほんとに気合十分って感じだね」

 相手がちょっとばかり可哀想な気もするレイナだった。勿論、腕に覚えのある全プレイヤーが集う大会。名を馳せる者たちと剣を交える。ワクワクしない、と言えばウソになってしまうだろう。

 これが、全世界に配信っ! とならなければパーフェクトなのだが。
 
「レイナたちは出場しないのか?」
「ん? うん。今回は全力で観戦しよーって事になってね。自然とお姉ちゃんも同じくっ! 後はリーファちゃんに、シノンさん。リズさんにシリカちゃんも、かな? 皆で応援してるからねー」
「それはありがたい反面、やはり緊張するかな……」
「大丈夫だよー。リュウキ君ならさ」

 えへへ、と笑ってリュウキの右頬に指でつんっ、と突くレイナ。
 リュウキは突かれた頬を二度三度と人差し指で掻いた後に。


「とりあえず、ユウキとの約束は果たさないとな」


 まだ、組み合わせが決まったわけではない。
 だが、ほぼ確実に勝ち登ってくるであろうユウキ。
 その戦いを想い馳せれば、こちらとしても楽しみで仕方ない。

「う~ん。ユウキさんとリュウキ君、かぁ……」
「ふふ。レイナは今回はユウキを応援したい、かな?」
「やっ! そーじゃないよーー! すっごく複雑なのっ! やっぱり、ほら トーナメント、って事は勝ち負けが付く訳だからさー。……その、複雑じゃん」

 仲間内での戦い。単純なスポーツを意識すれば良いのだけれど、生憎簡単に割り切れるものじゃないのだ。大切な恋人、大切な仲間で、もう友達。
 やっぱり複雑な想いをしてしまう。

「そんな気を張らなくて良い、さ。皆とのこう言った勝負の後って、……大体笑ってるだろう?」
「んんーー。……そう、だね? そうだったねっ」

 勝敗が必ず付く戦いは得てして残酷と言えるかもしれない。
 でも、それでも 皆の笑顔が絶えなかった事は思い出す限りでは無かった。悔しそうに顰める事はあっても、最後は笑顔で握手だったから。

 そんな時、リュウキとレイナ、両方のウインドウが立ち上がった。

「ん。ああ、キリトからメッセージか」
「あっ、こっちはお姉ちゃんからだよ。もう、皆集まってるーって。あははは~ 気が早いよね。まだ時間たっぷりあるのにさ」
「多分、エギルやクライン達が早めにログインできたから、だろうな。時間調整をしていたのは、ギリギリの時間で来れる組に合わせていたし」

 メッセージにはそう言った内容は書かれていない、が。クライン辺りがキリトにメッセージを飛ばし、流行る気が止まらず~ と言うのは想像しやすい。自分自身に来てもおかしくなかったけれど、今回は偶々だろう。……その手のメッセージは何度もクラインから受け取っているから。キリトも同様に。

「じゃあ、行こうか。レイナ」
「うんっ。……あ」

 リュウキが背を向けて、家の扉に手をかけた時。レイナはふと思いついた。
 戦いに出るリュウキの。……旦那様の背を見て―――。

「……リュウキくん!」
「ん? どうした?」

 手をかけた所で、リュウキに声をかけ、そしてリュウキは立ち止まって振り返る。
 振り返ったと殆ど同時に―――、自身の目と鼻の先にはもうすでにレイナがいた。一寸先……じゃなく、もう1つに交わっていた。柔らかな感触が自分の唇に触れるのを直ぐに。



 一瞬時間が止まったかの様に想えた。そして、名残惜しいがその感触が離れていく。目が合う。レイナは赤みの帯びた顔でいっぱいの笑顔を見せた。



「ん……。リュウキ君の勝ちを願って~のおまじないっ」
「…………」

 流石のリュウキもやっぱり固まってしまって、レイナに倣って顔を紅潮させる。

「ありがと……。頑張るから。でも、不意打ち、だよ。……おかげでどんな奇襲も不意打ちも、大丈夫になった」
「えへへ……。もともとリュウキ君にそんなの通じた事なかったと思うけど?」
「より強くって事で」
「うわー。私ちょっと皆に悪い事しちゃったかな?」

 悪戯っ子の様な顔を見せて笑うレイナをそっと抱きしめる。
 レイナも同じく。


 そして、今日の続きはまた後日――――と言う事で、もう時間が迫っているから、宙を飛び、約束した地へと向かうのだった。













 どんっ! どんっっ!!  と盛大にALOの大空に打ち上る開幕を告げる花火。



 統一トーナメントが始まった瞬間である。

 



「キリトとリュウキは相変わらず優勝オッズ、トップ争いかよー。やっぱ2人だよなぁ」
「まいったな……。そう簡単に勝てそうもない連中ばかりなのに」
「右に同じ。誰が勝ち登っても不思議じゃない。そう言う場だろう? ここは」
「かーーおめえら2人して謙遜し過ぎだよなぁ! つええヤツは爪を隠すってか?」

 戦いが始まる小一時間前。
 其々の仲間たちが集まり、互いにリラックスできるような空間が自然と形成されていた。

「オレとキリの字が西、リュウの字が東ブロックかぁー。よっしゃぁ、まずはキリの字をふんじばった後で、リュウの字だな! いつまでも負けるばっかのオレじゃねーって事を見せてやるぜ!」
「お、おう……」
「健闘を祈るよ、クライン」

 何処か悲観しているキリトに、ただ淡々と返すリュウキ。
 クラインには悪いのだが、正直勝機は限りなく低いと思っているからだ。

 何故なら発表された組み合わせ――。クラインの一回戦で戦う相手は、ユウキだったから。









 結果は勿論。

『WINNER! ユウキ~~~~ッ!!』


「わーいっ! やったよーー!」

 可愛らしく両手を上げて喜ぶユウキと、赤い炎に代わってしまったクライン。
 統一トーナメントだからか、デスペナは免除される上に、しっかりと蘇生もしてくれるから ある意味では有難い計らいかもしれない。……敗者にあまり鞭を打たないようにしてくれている、ともいえる。

「いやぁ、オレだってよぉ…… ユウキ嬢ちゃんに勝てるとは思ってなかったけどよぉ~。だってだって、ユージーンのヤツはおろか、キリの字にだって勝ってるそうだしよぉ~~。どーやって勝ったんだよぉ……、リュウの字~~」
「抱きつくな。オレはランと戦った事があるだけで、ユウキとはしてない」
「つめてぇ事言うなって……。んでも、ランのお嬢ちゃんの方がつええって話じゃねぇか」
「それはユウキが言ってるだけだろ。普通に仲が良い姉妹。アスナとレイナにも負けないくらい仲が良いって、皆から聞くし、オレも思っているが……、ユウキはランに頭が上がらない所があるらしいから」
「あー。それは判るかも」

 クラインも何処か思う所があったのか、納得したようにうなずいた。

「それは兎も角。……みんな、どっちに賭けた?」

 場に集っているのは、長く苦難の戦いを共にした仲間たち。
 全員が付き合いの長いクラインを――――と言う訳はない。

「「「「ユウキ」」」」
「ユウキさん!」

「わかってたよぉ! ちくしょうめ~~!!」

 号泣ものである。でも、これもいつも通りな光景だ。

「そろそろキリトの試合も始まるだろ。早く見に行こう」
「そうですよー。パパの試合が始まってしまいますっ」

 大盛り上がりしてるメンバーを余所に、リュウキはユイを肩にのせて移動しようとしていた。

「オレの事はこれ以上きょーみ無しかよ! どちくしょーめ!」
「はぁ……。なんだかんだ言ってても、クライン自身も、だろ? エギルに頼んでたの見てたぞ」
「おう。代理でな。でもオッズは1.1倍。配当ショぼ過ぎだ」
「おーサンキュー、エギル」

 エギルから配当金をもらうクライン。

 これも当然。


『お前もじゃねーかーー!!』


 とあまり口調が宜しくない女性陣から大クレームが飛んだ。





 そして続くハイレベルの戦い。場内が何度も何度も盛り上がり、歓喜し、歓声が沸き上がり――更に視聴者数も最多更新を続けていた。

 最も注目されたのが当然 決勝戦。



 絶剣 ユウキ   vs   剣士 リュウキ



 因みにこの大会はプレイヤー名だけでなく 二つ名の様なものまで、登録できるから 皆挙ってつけたりしている。キリトで言えば《ブラッキー》と。《黒の剣士》じゃないの? と何度か周りに茶化されていたが、最後は ブラッキーと言う事になった。

 リュウキはと言うと、皆がその名を考えるのに盛り上がっていた(勿論リュウキ以外のメンバー)。

 白銀 超勇者 フェンリル 天災剣士 超剣 …………etc

 等など、本人そっちのけで沸き上がって沸き上がって、盛り上がって……それで、最後にはリュウキが拗ねてしまった。元々昔から好んでなかったのだから。

 そして最終的にはリュウキ自身がエントリーして、登録しないといけないので、総投票数で競っていたのは《超勇者》と《白銀》だったのだが、あっさりとデフォルト設定でもある《剣士》を選んで皆の肩透かしを狙ったリュウキだった。ちょっとした仕返しにもなった気分だったのだが……。


『ぜっけん! ぜっけん! ぜっけん!!』
『はっくぎんっ! はっくぎんっ!』
『ゆうきがんばれよ~~!』
『きゃーー、ゆうしゃさま~~!』

『絶剣のユウキは、超勇者(マスターブレイブ)に届きうるのか……、紛れもなく好勝負となるでしょう! いやぁ、私も目が離せれません! 実況そっちのけになりそうです!』



 例え、二つ名設定を普通にした所で、響き渡ったものまでは変えるコトは出来ません。
 なので、観客は勿論の事、なぜか実況役の人らまで 名で呼ばず二つ名。

「………はぁ」
「あっはは! 楽しんじゃおう? リュウキ! ボクも楽しむっ!」

 観客席で仲間たちがにやにやと笑っているのが見える。……視える。あの設定をしようとしていた時、簡単に諦めていった訳はここにあったか、とリュウキはややげんなり。


『そんなの普通わかるでしょーがー!』
『リューは 超有名人さんダ。とーぜんの結果。オネーサンも太鼓判ダ』


 と言うのも聞こえた。……気がする。

「リュウキー! 真面目にやってよ? ボク、姉ちゃんからもちょっぴり期待されたんだから」
「期待?」
「うん。負けないでねーって。あはは。まさか姉ちゃんからそんな事聞けるなんてねー」
「そりゃ 同じギルドメンバーな上に姉妹なんだろう? 当然じゃないか?」
「わかってないよねー、やっぱりリュウキってば。……んん? よーし! もう時間無いよ! おしゃべり止め止め!」

 
 試合開始を告げるカウントダウン。
 決勝戦だからなのか、演出が凝りに凝っていて戦い開始までが異様に長かった。……でも、それももう数秒だ。

 ユウキは、黒曜石の様な鮮やかなで、やや紫の色を含んだ剣をそっと引き抜いて構えた。
 リュウキも同様に構える。形状はユウキの剣よりやや長く、銀の刀身に鮮やかな花柄の彫刻(エングレーブ)

 今回はリズベット武具店で仕立ててもらった古代武器(エンシェント・ウェポン)伝説武器(レーヴァテイン)は、純粋にスキルを競いたいから、と言う訳で性能的に封印した。ユウキはそんなの意に返さないとは思うが、リュウキの気の持ちようだけだ。……それに、達人は武器を選ばず。例えどんな武器を使っても 極限に近い力量を持つ者であれば大した差はない。単純な話……壊れない武器であればどれでも構わないという程だから。


 そして、激闘が始まった。


 緊迫した空気の中、互いの剣を弾く音だけが、音響係でもいるのか けたたましく闘技場に響き渡る。色を象徴とした衝撃波も周囲に四散。それ程までに派手なバトルだというのに、それに反比例するかの様に会場は静まり返っていた。歓声1つ上げるのを止めて。

 あまりにも高いレベルの対決。準々決勝、準決勝でも同じ現象が起きたが、やはり見入ってしまう。魅入られてしまうのだ。最高クラスの戦いは こうも人々を魅了させる。

 後の先、先の先、あらゆる読み合いも始まり、リュウキがソードスキルを放つ仕草をすれば、見切りの天才でもあるユウキはすかさず迎撃態勢を取る。ソードスキルに対するカウンターが彼女が最も得意とするものだから。

 現に、準決勝でキリトを破った時。キリトの片手剣スキル メテオブレイク の7連撃の全てを見切ってパリングするや否や、硬直状態を狙って自身のOSSを叩き込み、最後の最後でタイムアップ。残りHPの差で勝利をものにしたのだから。

「わぁッ! (やばっ 誘われたっ!?)」

 それを視たリュウキ。正直ずるいかも、と思ったりしたが それも戦略。だと自身を納得させた。ソードスキルは、発動するか否かは最後の一手に尽きる。最後の最後まで使用するスキルを脳内で決め、そして放つ。放った後では 止める事は出来ないが、放つ前なら話は別だ。
 現実ででもフェイント技と言うのはどの競技にも存在する。裂帛の気合。極限の殺気。それらを込めた技だからこそ、相手は構え、つられてしまう。

 リュウキは、それと同じ様に、最後の最後、技を放つ刹那の瞬間まで、偽物(フェイント)ではなく本物(リアル)を演じた。故にユウキもつられてしまった様だ。


 勿論ユウキだって負けてはいない。

「ッ!(……早い。反応速度は間違いなくキリトを超えてる。……オレも)」

 引っかかったのにも関わらず、持ち直すユウキの機転と柔軟さ、何より次の攻撃に追いつくだけの速度は脱帽ものだ。ランは観察眼。極めて優れた目を持っていた為 どんなものでも見逃さなかった。ユウキはそれは無いが補って余りある速度でカバー。

―――あの辻デュエルで 2人が組んで戦った相手には同情をしてしまうな。

 リュウキはそんな想いだったが、リュウキとキリトのコンビを味わった者からすると、『おまえらもだ!』と盛大なブーイングが沸き上がる事間違いなしである。
 

 いつまでも続いて欲しいと願う程の戦いに釘付けになる観客。
 だが、いつまでも続くことはない。時が止まらない限り。このままでは判定にまでもつれ込み、HP残の差の決着になるか? と思われた刹那。


「行くぞ。決着だ」

 不意にリュウキがユウキに声をかけた。その剣の持ち方は逆手持ち。

「っ! おっけーー! (姉ちゃんの時のヤツだね?? よーし)受けちゃうよ!」

 弾こうとしても、強い剣圧で飛ばされるのは 姉の時の戦いでユウキも見ている。だから、ここは正々堂々の正面から、と構えた。縦横無尽に来る剣撃。それについてけるか? と不安もややあったが、それ以上に楽しみで仕方なかった。

 姉を破ったOSSをその身で体験できるのが。


 時間にして……0.5秒を恐らく切るだろう。

 速攻のリュウキの逆手からの切り上げに、ユウキも反応。そして宙へと浮くのも予習済み。 空中を何度も何度も蹴っては接近し剣撃を続けるリュウキの剣を最後の最後、集中力が途切れそうになるが、それでも何とか受け切った。

「あ……、ぅ、へ、へー……どう? 受け切った……ッ!!」

 姉は最後の斬り下ろし、最後の一撃で止められた。
 だから、それが最後(・・)と勘違いしてしまったのも無理はなく……。

「バシっ、………っと」
「あぅっ!」

 最後の斬り下ろし、地に降りた所でリュウキの最後? の一撃の炸裂。所謂 掌底突きで ユウキのおでこ辺りに当たるツッパリ。 ひりひり~ と痛みを感じたような気がした瞬間、タイムアップの宣言が響いた。

 HPの残は殆ど互角で残り1割をきっていた。軍配が上がったのはリュウキだ。僅か一ミリ程度。肉眼で目視するのが難しいレベルの僅かな差。間違いなく、最後の掌底突きの一撃だろう。

 ぺたっ、と座り込むユウキに手を伸ばすリュウキ。

「油断大敵だ。最後、って思ってなかったらきっと受け切れた一撃だぞ?」
「ぶーーー、りゅーきこそ、ボクが油断してるー、って判ったから、絶対最後手を抜いたでしょー?? あんなの受けて、ビックリしたー、お尻うっちゃったー。なーんて程度な訳ないもんっ」

 最後に手を抜かれた気もしてしまったユウキは頬をぷくっ、と膨らませていたが、リュウキはただただ苦笑い。

「こんなにしんどいのは、困りものだ。ここらで勘弁してくれよ」
「むー。また、リベンジするんだからねーー!」

 こんな感じで、2人のやり取りが 会場に響き――暫くした所で、怒号の様な大歓声が響いた。2人を知る仲間たちは全員、闘技場へとなだれ込み、2人を祝福。


 リュウキ凄い! ユウキ凄い! 2人とも凄かった! と口々に。感動し過ぎて涙するものまで。



 そして、それらの圧に押される形で、リュウキ WINNER の文字が空高くに掲げられ、今大会は終わりを告げるのだった。

 
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