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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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ダン梨・E

 
前書き
色々考えてみたんですが、続き特に思いつかないからこのストーリーは打ち切ります。
もしかしたら続きを望む人もいたかもしれないけど、没ストーリー倉庫ゆえ許してね。 

 
 
 一応ながら、最低限の用意はしていた。

怪物進呈(パスパレード)だッ!!」

 しかしまぁ、このイベントは因果がやたら強かったのか。

「行こう、18階層へ」

 用意のうち半分は無駄になってしまい。

「ゴライアス……このタイミングで……!?」

 因果の手繰る一本の糸に呆気なく絡め取られた俺たちは。

「本日二発目のボン・ボ・ヤ~~~~~~~~~~~ジッ!!」
「ぎゃああああああああ!!飛んでる!大砲の反動で飛んでる!握ってるヴェルフの肩外れちゃう!というか着地で絶対死ぬううううううううッ!!」

 全員が這う這うの体でなんとか18階層に辿り着いたのであった。


「バーカバーカドバカキチーダ!!何がボン・ボヤージだよ携行大砲とかどっから持ってきたの!?捨ててきなさい!元の場所に今すぐ!!というかフー・ダルティフィスの二尺玉を携行大砲の薬室にブチ込む時点で信じられないのに攻撃じゃなくて反動で加速して巨人の股くぐるとかホンットこのキチーダは!!」
「いやーハハッ。めんごめんご」
「末代まで許さないよ!?出るとこ出るよ!?」
「なぁリリスケ、何であの二人あんなに元気なんだ。レベル2ってみんなこうなのか?」
「知りません。というかバミューダ様が一方的に絡まれてる形なので厳密には元気なのはベル様だけです」

 盛大に胸倉を捕まれ真っ赤な顔で怒り狂ったベルにグランガランと揺さぶられる俺は、軽めに謝りながらへらへら笑っていた。いや、ボン・ボ・ヤージ活用アイデアの一つを実践に移せて大変に満足しているのである。これが俺流加速装置よ。

 現在俺たちは原作通りルートに乗せられてロキ・ファミリアの好意で貸してもらったテントで休んでいる。
 いやぁ、笑っちゃうぐらい上の階に戻れなかったな。俺も頑張ったけど途中で魔力より先に体力を使い果たしてしまい、最後はベル頼みをしつつボンボヤージで乗り切った。原作だとベルが二人抱えて頑張ったんだが、常識的に考えて三人抱えてアレ突破は無理だろと思った俺の機転でボンボヤージだ。うん、ボンボヤージって言いたいだけだ。

 ここから、何があったっけ。紐神到来、リューさんの過去、ヘルメス暗躍、モルド頑張れ、黒光ゴライアス。一本道だ。かつ、俺がいる理由がない。なのでだいたいのダンまち二次創作がこの辺で失踪する魔の宙域でもある。

 いや、実をいうと一つやっておこうと思っていることはある。でも今じゃない。

 順当にテントでたっぷり英気を養い、紐神(ヘスティア)がやってきて俺らを抱きしめて涙を流したのを励ましたり、リューさんの自分語りを真面目に聞いたり、ヘルメスの覗き作戦を「いえ、私は遠慮しておきます」と断りつつもちょっとだけ別の場所から覗いてみたりした。

 ま、楽しかったんじゃなかろうか。
 死ぬ思いはしたが、強制イベント第一弾を乗り切った俺は、そう結論付けて自作ドライフルーツ梨をつまんだ。うーむ、保存食としてはいけるがちょっと微妙な味だ。



 ◇ ◆



 黒ゴライアス討伐後、ベルの活躍に興奮するヘルメスの後ろから快活な声がかかった。

「いやぁ、いい見世物でしたね、神ヘルメス。というわけで、見物料徴収のお時間ですよ」
「……へ?」

 ヘルメスが振り返った先にいたのは、あのどんちゃん騒ぎの中心にどうしてかいなかったヘスティア・ファミリアの「知らない子」。ベルと生活を共にしていたと聞いていたが、ヘルメスは彼が「ゼウスの孫」ではないことは知っていたため、後回しにしていた子だった。

「あ、あれ?もしかして聞いてた?バッチシ?」
「ええ、バッチシ聞いてましたとも。今回の馬鹿騒ぎを裏で取り仕切っていたヘルメス様?」
「な、何を根拠に――?」
「そもそもですねぇ、モルドみたいな安月給が『ハデス・ヘッド』なんて持ってる訳がないんですわ。伝もないし、そもそもモルドって男は小物でして。『後押し』なしに神を人質に取るなんて大それたことを思いつくほどネジの飛んだ輩じゃないんですわ」

 件のハデス・ヘッドを指でくるくる回しながら喋るバミューダに、ヘルメスは自分の背中から汗が噴き出すのを自覚した。
 思えばこの少年がモルドとのあれこれの邪魔になる事が予想できていたので誘導する口実は作っていたのに、彼はそれに乗る必要もなく事件現場と反対方向へ進んでいたからヘルメスはそれを放置した。ベルを成長させるためのちょっとした余興(イベント)、そのお膳立てのつもりで。
 だが、それが偶然ではなかったとしたら?彼はあの後大騒ぎで一度ベルと合流したもの、なにやら話をしてすぐ別れた。あの時は避難誘導にでも出たのだと思っていたが、本当にそうだったのか?

「というかですねぇ、そもそもうちのロリ神様はともかくアンタはダンジョンに潜る必要皆無なんですわ。手勢を送れば事足りる。なのに善意を見せびらかして下に降りてきたってことはねぇ、降りないと出来ない何事かがあった訳ですよ。ビジネス?そのセンは薄い。善意なんてハナから除外だ、あんたそういうタイプじゃない。打算抜きの行動を嫌ってるぐらいだろ。だったらなんだ?アンタが視線を向け、俺や他のメンツをほったらかしに真っ先に知ろうとしたのは、なーんだ?」

 この子供は、ゼウスに気まぐれで拾われた子供は、余りにもあらゆるものを見過ぎていた。
 いや、というか――なんて馬鹿をしたんだとヘルメスは自分のヘマを呪った。
 ゼウスが態々拾って面倒見たんだ。それが『ただの人間』で終わるような人であることが、ありえるか?

「答えはベル・クラネル。そう、あの雷霆のナントカいうじじいが手塩にかけて育てたベル・クラネル。あんたにとってはそれが重要なんじゃないか?世界最速兎、未完の少年、猛牛殺し、そいつは重要じゃない。誰の孫かが重要だった」
「……君は知ってるのか。ベルくんは知らないのに?」
「じじいが何考えてたかなんてどうでもいい話です。俺はその船に相乗りさせてもらっただけですから。じじいからあなた宛てに伝言を賜ったりもしてないし、別段深入りする気はなかった。今回の件もね、別に犯人探してふんじばろうって思ってる訳じゃないんですよ。ただね、ただ――」

 両手にスリケン・チャクラムを握ったバミューダは、とびっきり邪悪な笑みを浮かべる。

「俺は、俺らは、『ヘスティア・ファミリア』なんですわ。他所のファミリアに団長をいいように踊らされ、主神に刃を突きつけられれば、(おや)にナメた真似してくれた馬鹿にヤキ入れるか、出すもん出してもらわなきゃ――ねぇ?」
「――アスフィ」

 自らの最高の眷属、彼を上回る手札が剣に手をかける。
 彼は知り過ぎだ。かつ、都合が悪い。だが先手は打たれていた。

「無駄だ。犯人が誰かはもううちの神に伝え、俺が戻らなかったときのことも計画してある。今ここに俺が現れた時点で隠匿は不可能だ。それだけならまだいいけど――果たして俺が戻らなかったとあって、『あの人たち』が黙って見ているのかどうか、俺も分からないな」

 たち――あの人、ではなくあの人たち。ヘルメスの把握していない伝を匂わせ、そこに嘘がない。

「そして、それに至ったベルの矛先が王道から逸れたら、それはあんたの望む所じゃないんじゃないか?」
「……何が望みだい?」
「情報提供、アイテム提供。必要なときでいいけどね。とりあえず前金として『ハデス・ヘッド』は頂く。それとベルが疲れて帰りが長引いちまったんで、その間に稼げた推定ヴァリス総額の賠償。分かるだろう?今じゃなくて『これから』が大切だ。ま、カタくならずに……末長~~~~く、仲良くしましょうよ」

 なんてことだ、とヘルメスは『歓喜した』。
 スゴイじゃないか、ゼウス。どこでこんなのを拾ってきたんだ。
 貴方が見定めた子供はこのヘルメスを出し抜いた。

 ヘルメスは改めて、バミューダの事を後回しにしたことを悔いた。
 こんな子が自分の眷属になってくれれば、どんなに楽しい催し事が出来たことか、と。



「……ま、多少は身を切っていいって判断だったのか、すぐに話は纏まりました。表に公開するのはちょっともったいない情報なので、同盟の話があったこと自体にしらばっくれといてください神様」
「またこの子はもう、神を脅迫して同盟にこぎつけるとか……危ない橋を見たら渡らずにはいられないの?いやボクもヘルメスの裏切りはショックだから強く言えた義理じゃないけどさ」

 こうして、バミューダとヘルメスの誰得同盟がここに為る。
 これがヘスティア・ファミリア諜報部隊「竈の煤」の始まりとなることを、誰も知らない。



 その後もベルとバミューダの快進撃は止まらなかった。

 アポロン・ファミリア相手に他のファミリアを強引に巻き込んで水面下で熾烈な争いを繰り広げた挙句、ヘスティア・ファミリア有利の条件での戦争遊戯にこぎつけて勝利。これによって周囲からもバミューダがファミリアの頭脳であることが認識され、「運命の車輪」の二つ名が相応しかったことを証明する。

「はははははっ!ダイダロスを味方につけた俺に、情報戦で!!勝てるわきゃねーだろぉぉぉぉぉッ!!」
「うわぁ、やりたい放題やってテンションMAXハイパーキチーダだ。この状態になると徹夜テンション並に面倒くさいんだよねー」
「バミューダ様って意外と安定よりやりがいの人ですよね」

 また、ヘルメスとの交流から闇派閥との戦いにも身を投じ、イシュタル・ファミリアとの動乱ではそれを利用して戦いを三つ巴の状況まで持ち込みつつ完全勝利を手に入れ、ランクアップを果たす。同時に危険人物扱いされるが。

「ま、後は尻尾を踏まれた女神とでも『仲良く』やってくれや、イシュタルさん?」
「誰の事?ねぇ誰の事!?なんで当事者で僕だけそれ知らない話出てくるの!?」
「はははベル。知らない方がいいこともあるぞははは」
「絶対件のヤンデレメンヘラ豚狂いクソビッチ神のことだ!?」

 その後も巻き込まれ主人公のフォローをするためにガンガン周囲を巻き込みながら梨を値切り、梨の生産を行うファミリアに目を付けられて梨大臣(ゼネラルレクラーク)の異名を得たり、ネタ方面でも遺憾なくその頭の可笑しさを発揮しまくった。


 一方でコルヌーが主神テュケーのアドバイスで急に女の子らしいおしとやかさを見せ始めたことで人間関係が急激に変化し、結局コルヌーペースで押されてしまってなし崩し的に関係をもったりもした。梨だけに。

 こうして彼は、ベルと共にオラリオの台風の目へと成長していったのであった。
 終生彼の来歴については謎のままであったが、そのベルと全く方向性の違う波乱の人生は後世に面白おかしく語り継がれていったという。

 バミューダ・トライアングル。

 正式に得た二つ名と親しまれた二つ名……

 『運命の車輪(ルー・デ・フォルトゥン)
 『万禍招来火薬庫(アンタッチャブル・パンドラズチェスト)
 『梨値切魔人(ラ・フランス)
 『梨大臣(ゼネラル・クレラーク)

 のちに彼の出版した自伝のラストは、この言葉で占められている。



 ――ダンジョンに梨を持っていくならヘスティア・ファミリア監修ヴィーナス・ファミリア産ヘルメス・ファミリア加工のドライ梨がおすすめである。
 
  
 

 
後書き
E=エンディングだぞ、泣けよ。のE。

ヴィーナス・ファミリア登場までこぎつけられなかったのは少々無念。

ヴィーナスは美の女神であり美しくなりたいと思う人の味方、という設定でキャラメイクしていました。なので健康食品や健康器具、美容や化粧の本の出版や服のデザインなど生産系ファミリアになってます。なんで梨作ってんのかというと、ヴィーナスが洋ナシ大好きだから。
ちなみに現実には洋ナシのくびれがヴィーナスみたいな美の女神を連想させるという事で、よく一緒に描かれていたとかなんとか。

「余裕のある女は美を纏うだけでなく、美の啓蒙をしなくっちゃ。そういう点ではフレイヤなんてまだまだおこちゃまね♪」 
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