戦国異伝供書
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第十九話 急ぎ足その三
「そしてじゃ」
「徳川殿のところに」
「行って来る、必ずな」
「ご武運を」
「竹千代は粘ってくれる、それに応えてな」
「竹千代殿をお助けしますな」
「何があろうともな、わしはあ奴を絶対に見捨てぬ」
強い決意と共の言葉だった。
「そうしてじゃ」
「お助けして」
「共に生きていく」
「これからも」
「そうする、だからな」
「何としてもですな」
「あ奴のところに行く、ではな」
信長は馬から降りはしない、その歩みも止めはしない。そうしつつそのうえで信行に対して言うのだ。
「また会おう」
「それでは」
「うむ、またな」
こう言ってだった、信長は信行に暫しの別れを告げてそうして都からさらに東に向かう。その時にだった。
小西は唸ってだ、加藤喜明に言った。
「銭は使ってもな」
「それでもか」
「無駄ではない」
「佐吉の手配がよいというのじゃな」
「うむ」
その通りと言うのだった。
「銭のこともな」
「餅でかなり使ったと言っておったが」
「それがな」
全くというのだ。
「どうもな」
「実はそうでもない」
「銭のことまでじゃ」
「しかと考えてか」
「手配しておる」
そうだというのだ。
「佐吉はな」
「凄いのう」
「こうした時はまことに頼りになる」
「そうじゃな、しかしな」
「あ奴は口が過ぎるわ」
「そこが問題じゃ」
細川忠興と黒田長政が言ってきた。
「全く、いつも言うからのう」
「厳しいことをズケズケとな」
「わしもこの前随分言われたぞ」
池田輝政も言うのだった。
「かなり怒ったわ」
「相手が怒っても言うしのう」
蜂須賀家政も言うことだった。
「それでも平然と」
「全く、何度言い返したか」
「それで大喧嘩になったか」
加藤清正と福島正則もだった。
「あいつの口は過ぎる」
「ずけずけとしておるわ」
「そうであるが心根は奇麗であろう」
小西は七人に石田のこのことも話した。
「そうであろう」
「まあのう」
最初に加藤清正が答え他の者達も続いた。
「そう言われるとな」
「それはその通りじゃ」
「悪気は常にない」
「そして人を陥れることもせぬ」
「守るべきものは絶対に守る者じゃ」
「人の道は絶対に外れぬ」
加藤清正達もそのことはその通りだと答えた、石田が悪い者ではなく決して悪意や邪な企みで動いたり言ったりする者ではないということをだ。
「生真面目な者じゃ」
「殿にも言うべきことは退かず言う」
「政も国と民を第一に考えておる」
「政に己のことを出すこともせぬ」
「暮らしも極めて質素じゃ」
「そして弱い者への仁を忘れぬ」
「友情にも篤いわ」
石田のそうした長所は確かなことだというのだ。
「そうしたことはよい」
「口は確かにずけずけと言うが」
「融通がとにかく利かぬが」
「他の者は蹴落とさぬしな」
「それどころかこれはといった者は引き立てる」
「己が正しいと思ったことのみをする」
「己が言われることには一切言わぬしな」
そうした石田のことを言っていく、そうしてここでまた小西は言った。
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