戦国異伝供書
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第十九話 急ぎ足その二
「その暇はない、休む場所はもう決めてある」
「都を出て、ですな」
「そうして今宵の休む場所に入る」
「そうしますか」
「うむ、だから今は進むぞ。ただ」
信長は石田を見てそのうえで彼に問うた。
「手配はしておるな」
「はい、都に来たのは事実」
「ならばじゃな」
「特別に力のつくものを用意しておりまする」
「それは何じゃ」
「餅です」
石田は信長に率直な顔で答えた。
「それを用意しております」
「餅か」
「兵達全ての分も含めて」
「それだけ用意したのか」
「何十万と」
「それだけの餅を用意させたか」
「ここまで来たならば力が必要です」
そこまで考えてだとだ、石田は信長に答えた。
「そうも思いまして」
「それでか」
「兵達も皆食えるまでの数の餅をです」
「用意させたか」
「銭がかかりましたが」
「それはよいわ」
銭についてはだ、信長は笑ってよしとした。
「兵達に力が出るならばじゃ」
「餅位はですか」
「皆急がねばならん、ならばな」
「餅の為の銭はですか」
「それ位何でもないわ、銭はまた稼げるが」
しかしというのだ。
「戦に間に合わねばじゃ」
「どうにもならぬ」
「だからじゃ」
そうだからだというのだ。
「餅の分の銭はよい、だからな」
「餅のことは」
「むしろよいとする、ではな」
「それではですか」
「餅はすぐに焼いてな」
「そのうえで」
「兵達に食わせ、そしてな」
そのうえでというのだ。
「その餅を力にしてじゃ」
「徳川殿のところまで」
「全力で向かう、いいな」
「わかり申した」
「して殿」
蜂須賀が信長に言ってきた。
「どうも都の状況ですが」
「幕府がなくなってな」
「随分静かになりましたな」
「そうじゃな、残念なことであったが」
義昭と争いそうして追い出したことは信長も本意ではなかった、出来れば最後まで神輿としていたかったのだ。
だが、だ。それでもだというのだ。
「こうなるしかなかったか」
「公方様のご気質を考えますと」
「そうやもな、ではな」
「ああなるしかなかったのですな」
「そうじゃな、ではな」
「このままですな」
「攻めるか」
こう言ってだ、そのうえでだった。
信長も餅を食いそうして都を出た、信行は自ら信長を迎えたが彼も信長を止めることは一切しなかった。
兄にだ、こう言ったのだった。
「それではです」
「うむ、これからもな」
「東に向かわれますな」
「まずは岐阜に着きな」
「そのうえで」
「南に下り」
「それから」
「そうじゃ、尾張からな」
信長の膝元であるこの国からというのだ。
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