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戦国異伝供書

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第十七話 大返しの苦労その六

「それを見ますと」
「あの御仁はか」
「謀反の心がない」
「その心を我等に見せる為にか」
「殿にしきりに言っておるか」
「そうなのでしょう、だとすれば」
 それならばとだ、明智は言うのだった。
「宇喜多殿は別にです」
「気をつけずともよいか」
「これまで多くの悪を為してきたが」
「それでもか」
「今は」
「そうかと。家臣や領民には何もされませぬし」
 むしろ彼に忠義を誓っている、宇喜多直家は確かに悪名高い人物だが家臣はその宇喜多にあくまでつき従っている。
 それでだ、明智も言うのだった。
「さすれば」
「敵をあくまで除いただけ」
「謀によって」
「それは戦で勝つのと同じこと」
「それならばか」
「別によいかと。宇喜多殿は警戒せずに」
 若し何かあれば、と身構えることはないというのだ。
「お話していってもよいかと。むしろです」
「よく話してか」
「そのうえでか」
「あの者の心を知るべきか」
「そうかと。しかし」
 ここでだ、明智は警戒する顔になってだ。今この場にいないもう一人のことを話した。
「弾正めはです」
「ふん、今も何を企んでおるか」
 金森が顔を顰めさせて言ってきた。
「わかったものではないわ」
「今も陣におるが」
 前野も言ってきた。
「おかしな素振りを何時見せるか」
「見せればその時が最後じゃ」
 堀も本気で言う。
「それを機に滅ぼしてくれるわ」
「その役わしがしよう」
 坂井もこう言うのだった。
「必ずな」
「待て、それはわしがと言った筈じゃ」
 森はその坂井に真っ向から反論した。
「その為にわしの陣はあ奴の傍にあるのじゃぞ」
「父上、その時の先陣はそれがしが」
 可成がここで名乗りを挙げた。
「そうさせて下さい」
「うむ、頼んだぞ」
 父もこう息子に返す。
「是非な」
「お任せあれ」
「全くいけしゃあしゃあと」
 忌々し気に言ったのは池田勝正だった。
「今も当家におるとは」
「腹の底で何を企んでおるか」
 こう言ったのは島田だった。
「わかったものではないわ」
「よいか、若しあ奴が何かすれば」
 柴田も筆頭家老として言う。
「必ずじゃ」
「織田家の為にも」
「必ずですな」
「奴を討ち取りましょうぞ」
「うむ、織田家の獅子身中の虫じゃ」
 松永、彼はというのだ。
「だからこそな」
「はい、何としても」
「あ奴から目を離さずに」
「そうしていきましょうぞ」
「宇喜多殿の比ではないしのう」
 松永の危うさはというのだ。 
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