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人徳?いいえモフ徳です。

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二十七匹目

僕がシュリッセル家に戻って少し経った。

「お義母様、少し宜しいでしょうか?」

朝食を終えると、お父様がお婆様に話を切り出した。

「なんじゃ?」

「件の宴なのですが…」

「おお、もうそのような時期か。良かろう、許可する」

何の話だ…? 宴?

「お婆様、何のお話ですか?」

「ん? ああ、お主は知らぬのか。あのときはお主が生まれたばかりで遠慮してもろうたからな」

生まれたばかり? 五年前って事?

「ブライの役職を知っておるか?」

「王都防衛師団群の第三師団長ですよね?」

「うむ。王都防衛師団群は第五まである。その師団長が毎年持ち回りで宴を開くのじゃ」

「なるほど。五年に一回って訳ですね?」

「うむ。それが今年という訳じゃ」

なるほどー。

「ブライよ、日時は決めておるのか?」

「一月以内にとは思うのですが無理は言いません。お義母様のご都合の良い時で…」

「構わぬ儂がお主に会わせよう。宴を開くのははお主の役目。それこそ儂に伺いなど立てずともよい」

「ですが…」

「ブライ、貴方は婿養子とはいえしょうしょう遠慮が過ぎますよ」

「そうは言ってもシェルム、お義母様にもご予定があるだろう」

はぁ…、とお婆様がため息をつく。

「では…そうじゃな、二週間後のバラクの日でどうじゃ?」

バラクの日、というのは近代日本の土曜日に当たる曜日だ。

「わかりました。伝えておきます」












あれから二週間がたった。

今日はパーティーだ。

「お坊っちゃま、楽しみですか?」

「そりゃぁ楽しみだよ。初めてのパーティーだもん」

僕の後ろで椅子に腰かけるアリシアに答える。

そう、今日の監視役はいつぞやのマゾウサギだ。

「ところでお坊っちゃま、今は何をお作りになっているのですか?」

「ん? 媚薬」

左手で持ったフラスコを左手に灯した火で熱する。

「びっ媚薬ですか?」

「うん。ボーデンからの宿題」

ここ数週間、僕はボーデンからポーションの作り方を教わっている。

今作っているのは媚薬だ。

「それって誰かに使ったりとかは…」

「無い無い。ボーデンに提出するやつだし」

「私に使ってもいいんですよお坊っちゃま?」

「使ってもいいけどその時は縛り上げてから飲ませる事にするよ」

「あはぁ……タマモ様よりお坊っちゃまに仕えたいですぅ」

「俺じゃなくてお婆様に言う事だな」

それはそれとして…

「お前はパーティーの準備しなくていいのか?」

「私はお坊っちゃまの監視役ですから。今はタマモ様もシェルム様もノリノリで料理つくってますからね」

それって主としていいのかなぁ…?

「二人とも作ってるのは激辛ルーレットですけどね」

「おいおい…今日のパーティーって軍のお偉方まで来るのにそんな事していいのか…?」

「タマモ様が一番偉いから大丈夫じゃないんですか?」

ああ…なるほどそういう…

「因みに激辛に当たった幸運な人には景品があるそうですよ」

「余興込みって訳ね……」

フラスコからポンっと煙がたち中身の色がピンクに変化した。

「円環よ、我に見透す事を許したまえ。
<アナライズ>」

ボーデンに教わった魔法を使うと、しっかり媚薬だと鑑定結果が出た。

「よし、できた」

コルクを嵌めて、棚に置く。

「お坊っちゃま~、その媚薬ちょっともらっていいですか?」

「却下」

絶対ろくな事にならねぇ。

「えー……」

「つーかこのくらいの媚薬ならそこらの怪しい店で金貨二枚出せば買えるっつーの」

「私の月給の半分じゃないですか!?」

ってことはこのマゾの月給って日本円で40万? 住み込みメイドで衣食住は提供されるから……すげぇ高給取だな。

「そりゃぁお前、これの材料はそこら辺の薬草とハーブだけども色々と魔法を使う工程が入ってくるし魔力量も居るんだもん。
高くてあたりまえじゃん」

「えぇ…そんな高いの誰が買うんですか?」

「バカだなぁアリシアは。手が掛かるから高いんじゃないんだよ。
手間が掛かるけど高く売れるから作るんだよ」

地球では古今東西媚薬は不死の薬と同じくらい求められてきたものだ。

いや、不死の薬は権力者しか欲しがらないのを思えば媚薬の方が求められていたかもしれない。

媚薬、といえば『エッチ』だとか『キメセク』みたいなワードを浮かべる人もいるだろうが、媚薬を<惚れ薬>と言い換えたらどうだろうか?

男も女も、一度は欲しがるはずだ。

かの妖精王オベイロンも妖精姫タイタニアをてに入れようと媚薬を用いた。

あ、オベイロンつってもペロリストの方じゃないよ。

そんな事をアリシアに説いていると、部屋のドアがノックされた。

「失礼しますお坊っちゃま」

「あ、エリザ。どうしたの?」

「そろそろお着替えの時間です」

日を見ると、まだ高い…二時くらいだろうか。

パーティーが始まるのは夕方のはずだけど…

「もうじき早い方は来られますので」

ああ、なるほど。

パーティー開始前から飲みたい人も居るんだね。

「わかったよ、直ぐに着替える」













「御初にお目にかかります。私はシラヌイともうします」

シラヌイは礼服に身を包み、父の隣でお辞儀をしていた。

パーティーが本格的に始まって、まだそう時間が経っていないというのに、シラヌイには疲れが見える。

「初めましてシラヌイ君」

シラヌイが今挨拶した人物は、ヒトの手足と背中に羽を持つ翼人の男だった。

「私はファルコ・アーグロ。君のお父さんとの同僚のような者だ」

ファルコがシラヌイの頭を撫でる。

「うむ。いい毛並みだ。だが私の娘には及ばぬな」

「シラヌイ。この鳥頭が王都守備空戦隊である第五師団の師団長だ」

「誰が鳥頭だ耳長野郎」

「お前だよ。お前の娘より俺の息子の方がもふもふなんだよこの野郎」

もふもふの子供を持つ者同士、メンチを切り合う。

シラヌイはその間であたふたしていた。

「はいはい、そこまでですよブライ」

「バカやってんじゃないぞファルコ」

と、そこへそれぞれの妻がやって来た。

「シラヌイ。この人たちは会うたびこうだから焦らなくていいですよ」

「そうなのですか?」

「そうよ。まったく…うちの鳥頭がすまなかったなシラヌイ君。
私はホルル。このバカの妻だ」

ファルコの妻は、キリッとした容姿の背の高いハーピーだ。

その後ろに、少女が一人隠れている。

その少女は、ホルルの後ろからじっとシラヌイを覗き込んでいる。

「シャクティ、挨拶するんだ」

ホルルの後ろからでてきた少女は、シラヌイより頭二つ分ほど背が高い翼人だった。

所々白い毛並みの入った茶髪で、ホルル似の、目付きのキツイ女だ。

「シャクティ・アーグロという。よろしく」

シャクティの手を、シラヌイが握り返す。

「僕はシラヌイ。よろしくね、シャクティお姉さん」

そこでファルコが笑った。

「くく…シャクティはまだ君と同じ五歳だよ」

「五歳!? このタッパで!?」

「アタシは鷹で夫が隼だからね…成長も早いのさ」

「猛禽界のサラブレッド……」

シラヌイがポツリと呟く。

「さら……なんだ?」

シャクティがこてんと首をかしげる。

「いや、なんでもないよ。シャクティ」

「?」

首を傾げたまま、ジーっとシラヌイを見つめるシャクティ。

「だいいちしだんちょーどの」

ブライに一切目を向けず、シャクティはブライを呼んだ。

「む、なんだいシャクティちゃん?」

「あなたのむすこさんのしっぽさわってもいいだろうか」

ファルコがシャクティを咎めるより先に、ブライが動いた。

「いいよ。客室で好きなだけもふもふしてくるといい」

速攻でメイドを呼び出したブライは、メイドにシラヌイを抱えさせ、シャクティを客室に案内させた。

「ふははははは! ファルコよ!貴様も我が息子のもふもふの虜にしてくれ…ひでぶっ!?」

シェルムがブライを思い切りどついた。

「ふぅ…。家の主人がすいません」

「宮廷魔導師筆頭殿、アタシらは気にしてないから大丈夫だ」

「あらそう?」

「いつもの事ですし」

事実、ブライとファルコは酒が入ると狐毛と羽毛どちらがよいかを周りそっちのけで始めるのだ。

師団長主宰の宴ではすでに見慣れた光景となっていた。

なお五年前までは娘息子のではなく互いの妻の毛並みを熱く語っていた。

なぜソレをシェルムが知らないかと言えば、シェルムは基本的にこの宴には参加しないからだ。

「ぐふ…くふふ…勝ったぞ…ふぁる…こ」

かふ…、と遺言のような事を言って気絶したブライ。

が、直ぐにシェルムの雷魔法で叩き起こされるのだった。
 
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