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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第265話 詩乃とチョコレート

 
前書き
~一言~

うぅ、メチャ遅れました……。ちょっと先月と今月は いつもとは違った大変さで 殆どくたばってて……。

はい、言い訳です……。おまけに字数が少なくなっちゃってます。一話一万を頑張ろう、と思ってたのですが、更に時間が掛かっちゃいそうだったので、とりあえずこの辺りで投稿をしようかな、と。

この話は違いますが、もう少し。次くらい? 次の次?? 正確には判りませんが もうそろそろ映画版に行こうかなぁ、と考えてます! 映画版では どうなるか……… さぁ 大変w 頭に浮かんだ展開や文章、セリフがそのまま反映されればどれだけ楽になるか……………。 妄想爆発して膨大な字数になりそうなので、それはそれで大変かもですがw


最後に、この小説を読んでくださってありがとうございます! これからも、ガンバリマス!!


                                じーくw



――追記――

凡ミスしちゃってました!! タイトル空欄という………。狙ったりひねったりしたわけじゃなく、ただただ タイトルを考えるの後回しにしちゃったせいです…… 苦笑
なので、修正しました! 

 
~其々のバレンタイン 詩乃ver~




 それは聖バレンタインデーの夜。
 朝田詩乃は、宿題を手早く済ませた後に、夕食を作り、簡素ではあるが栄養バランスの整った食事を済ませていた。
 さぁ、これからお風呂に入り、明日の準備を整えて就寝に着くなり、ALOやGGOに赴くなりするいつもの時間帯。

 だけど、今日はいつもとは違う。まだ台所に名残が残っているのを感じていた。仄かに漂う甘い香りも。夕食の匂いに紛れ、掻き消されてもおかしくないのに まだしっかりと感じる事が出来る。肌でも感じる事が出来る。
 そして 想い馳せていた。
 
「……良かった。ちゃんと渡せて。色々と合ったけど、ほんと良かった」

 詩乃はそっと自身の胸に手を当てた。
 とくんっ、とくんっ…… と徐々に静まる鼓動。
 夕食を作っている間も、食べている間もずっとずっと高鳴っていた鼓動。それを漸く収め切る事が出来た。


 そして、詩乃は自分自身を褒める事が出来た。今までそんな事無かったけど 今回はしっかりと渡せたから。ハプニングがあり、そして 少しばかり恥ずかしい事だってあったけれど、しっかりと渡せて、感謝の言葉も伝えられたから。





 学校の帰りの事。




 今日は2月14日のバレンタインデー。全国の女の子達が頑張る日だ。
 それは、詩乃だって例外ではない。

 彼女は今日装備をしっかりと整えているのだから。


 その懐には一段と強力なアイテムを忍ばせている。どうやってクエストを成功させるか。ミスをせずに完遂出来るか、ひたすらそれだけを詩乃は考えながら下校をしていた。


 そして、そんな上の空な状態での歩行は思いの外危ない。


 ぼーっとしていて、上の空も同然な状態だから。
 流石に、信号無視まではしないが それでも無視しなくとも、危険な事だってある。そう、例え片方が注意をしていても、事故とは起こりえるものだから。そう、危険運転をするドライバー。


 詩乃は 信号が青なのをちらりと確認した後に横断歩道を渡ろうとした。

 そこに迫るのは一台の原付。

 備え付けた端末に目を向けていた為、信号に気付いていない様だった。
 後一歩、踏み込めば――いわば攻撃範囲内に入ってしまうも同然。ここが仮想世界(VRMMO)であるのなら、範囲は一直線上で読み易く、容易く避ける事が出来るだろう。だが生憎ここは現実世界だ。その上、詩乃は上の空。

 その危険地帯に足を踏み入れようとしたその時だった。


「詩乃っ!!」
「っっ!?」


 声が聞こえてきたかと思えば、ぎゅっ と強く身体を抱き、そして引き寄せられた。
 華奢な詩乃の身体は、容易に足が宙を離れて、そして もつれる様に一緒に倒れた。その瞬間、風を裂く様な音と共に、原付が通り過ぎた。信号無視での交差点への侵入。運転手も慌てていた様で、バランスを崩しかけた様だが、何とか立て直し 幸いにも事故を起こす事なく、そのまま去っていった。

「……ッ。ちゃんと前を見て運転しろ。……あんな奴にバイクに乗る資格なんかあるか」

 ひき逃げも同然の感じで逃げていくドライバーを見て、同じバイク乗りとしても腹立たしく、忌々しそうに睨みつけながら口にしている。

 それを聞いて、漸く詩乃は自分の置かれた状況を理解する事が出来た。あまりにも散漫だったと言う事実も。

「詩乃。大丈夫か? あれは向こうが悪い、が。詩乃も何だかぼーっとしてた気がするぞ」
 
 そして、誰が助けてくれたのかも理解出来た。
 
「ご、ごめんなさい……」
「いや、怪我無くて良かったよ」
「うん。……ありがと。リュウ……、隼人」

 身体を抱き、そして助けてくれたのは隼人だった。

 基本的には隼人の身体はごく一般。普通の学生と大差ない平均値だが、人並み以上に身体を鍛えている。だからこそ、詩乃を簡単に抱き寄せる事が出来たのだ。……慌てていた事もあったから、倒れてしまったが、大怪我をさせずに済んだ事に隼人は安堵していた。

「ふぅ……。ほら」

 ぽんぽんっ、とズボンの砂埃を払い、そして立ち上がると詩乃の方に手を差し出した。
 それをそっと受け取る詩乃。……何だか、映画やアニメのワンシーンの様で美しくさえ思える。夕暮時の太陽の光が紅く周囲を照らして、隼人の顔も夕焼け色に染まっていて、何処か後光も見た気がした。

「ありが………と………?」

 そして、ここでもう1つ気付く事が出来た。
 今の時間帯は普通に学校の下校の時間帯。別に夜遅い訳でも無いし、通行人が少ない時間帯でもない。それも学校の傍も傍。つまり―――。





「わー! わー! 朝田さん、良いなぁ! すっごく格好良く助けてくれてー」
「前に来てた格好、可愛い人じゃんっ! 何でもない~ とか、ただの友達~ って言い訳みたいにしてたけど、やっぱ妖しいなぁー?」
「凄いね、あの一瞬でさー。私なんて、気付けたんだけど、全然動けなかった……」
「ああ言うシチュ。リアルでやる様な男っているんだ……。マジでリスペクトするぜ……」
「良いバイク乗ってるのは良い男ってか。……ケチな原付のって信号無視すんのって最低だよなぁ? オレ、あの車種、免許とっても乗らねー」






 野次馬が沢山いる、と言う事だ。
 それも詩乃にとっては最悪の部類……、つまり同学校の、それも同級生たちが多い。以前の隼人校門前事件? ででも 色々と頭の痛い思いをしたと言うのに、これは更に厄介極まりない事になってしまいかねない。

「んん………っ」

 隼人もその空気を感じ取ったのだろう。ばつが悪そうに表情を今更隠そうとしていた。……無駄な努力である。

 詩乃は、腰が抜けてもおかしくない状況だが、一瞬で身体を回復させた。エクス・ポーションやアスナの全体回復魔法(プリ・キャスト)も真っ青な自動回復(バトル・ヒーリング)だ。

 状態異常(フリーズ)もしっかりと回復し、手足も問題なく動くのを確認した詩乃は直ぐ行動。

「りゅ、リュウキっ!」
「………ああ」

 延ばされた手を掴むと 即座に走り出した。一先ず目と鼻の先にある横断歩道目指して。
 幸いにも、信号はまだ赤になっていない。……が、もう直ぐ赤に変わろうと点滅している。赤に変わりきる前に、駆け抜ける勢いでダッシュした。


 隼人もその意図を察して、連携を上手くとり……と言うより、自分自身もこの場よりさっさと脱出(エスケープ)したいと言う気持ちが非常に強かった為、詩乃に合せる事が出来た様だ。




 この光景が、2人で手を繋ぎ、走り去っていく光景が、またまた色々と誤解を生む結果になるのはまた別の話。勿論――詩乃にとって、それ(誤解された事)は、正直少しばかり嬉しい事だったりするかもしれない。






 横断歩道を走り抜けて、路地裏を超えて―――到着したのは中央公園。

「詩乃。そろそろ大丈夫だ。落ち着け」 
「はぁ、はぁ……」

 ぐいぐいと引っ張る手を隼人が引っ張り返し、落ち着かせた。

 隼人自身も正直慌てふためいていたのは事実だが、詩乃がそれ以上だったから 比較的落ち着く事が出来た様だ。この手のハプニングは嫌と言う程体験しているから、と言う理由が最大かもしれない。特にSAO時代、それはそれは酷かったから。攻略以外で頭を悩ませた内容No1に分類される事例だ。

 そして、頭を悩ますのは今の詩乃も同じだったりする。

「……そう。……はぁぁ。明日から、どーすれば良いって言うのよ……」

 そう詩乃にとってはこれから。隼人の様に過去ではなく、これからの未来。確実に起こる未来に頭を悩ませていたのだ。
 そんな詩乃を見て首を傾げるのは隼人。

「ん……。普通に説明をすれば良いんじゃないか? 危なかったのは事実だし、状況を鑑みると理解してもらえると思うんだが」
「……そりゃそうなんだけど、……女子の噂好きと、周囲への情報拡散能力を正直リュウキ、舐めてない? ある意味アルゴが可愛く見える程なのよ?」
「??」
「はぁ……」

 年頃の女の子。女子学生と言うものは、色恋沙汰の話は大好物。そんな生き物だ。
 あんな場面を一度ならず二度までも見せて、黙っている訳が無い。色々と追及されると言うのも目に見えて頭が痛くなると言うものだ。

 なのに、それを判っていない様で、首を傾げている隼人を、正直いつも飄々としてるとさえ思える隼人に 少しばかり怒りっぽいのを想ってしまっても仕方ないし、きっと彼を知ってる人達全員が許してくれるだろう。

 だから、詩乃は少しだけ考えてみた。どうすれば、この鈍感朴念仁を少しでも慌てさせる事が出来るか。

 そして――思いつく。普段の自分ならあまり考えもしないし、きっとするとすら思えてないだろう。

「あのね、隼人……」
「ん? どうした」
「さっき、助けてくれたのは、本当にありがと。私、ちょっと気が緩んでたみたいだったから」
「そうみたい、だな。詩乃にしては珍しいって思うぞ。……うん。でも、詩乃が怪我無く無事で良かった」

 ほっ、と一息ついて 安心する様に頬が緩む隼人。
 その表情を見た詩乃は、少し顔を紅潮させた。これから言う事を考えると……さらに火で炙られる様な想いだが、此処で退いては駄目だと言い聞かせた。





 そう、それに これ(・・)は ちょっとした、本当にちょっとした――――スキンシップ。

 それに、事実(・・)だから。虚言ではないから。

             



「うん。怪我は無かったんだけど……、隼人 気付いてないの?」
「……? 何がだ?」
「その、私を助ける時―――、その、私の……」

 言葉を詰まらせつつ、何度も、何度も息を吸っては吐きを繰り返し、そして言葉を口にした。隼人にはきっと耐性が無いモノを。……この場所限定。対隼人限定。女にしか無い武器を生まれて初めて切る。


「わたしの、む、むね、おもいっきり、触った……こと」
「……へ? え、え……、む、……む、ね?」


 きょとん、としていた隼人だったが、持ち前の優秀な頭脳は急速回転して、脳内に保管している知識の扉を全てこじ開けた。……いや、或いはこじ開けられた方が正しいかもしれない。 がらがら、と乱暴に開けに開けて、無数の辞書が頭の中に散らばり、そして項目が表示された。



 胸――人体において首と胸部に挟まれていて、脊椎よりは前方部分に存在するもの。


 いや、きっとそれは今の詩乃の発言の意図する所ではない。きっと違う。だから、高速でその項目が露と消え、次の場面を描き出した。



 胸――一部では永遠の男のロマン(……らしい)母性溢れる包容力の象徴とも言われているもの。


 男なら皆おっ●いが大好きだ、と某火妖精族(サラマンダー)の男が言っていた。


 男性と女性のそれとはまったく違う。女性が男性に自分が成熟した女性だとアピールする為に膨らむとも言われている。





 と、色々と余計な情報が頭の中に流れ続ける。
 かつての隼人であれば、必要最低限の情報しか納めていなかった事だろう。保健体育レベルの情報のみで。だが、近年では年頃の友達も増え、学校へ通う事になってその手の話は嫌と言う程聞こえてくる。………そして、何より 玲奈と言う大切な人が出来ている今、知らない筈はない。……もう、そこまで無知ではなく、純情でもない。年頃の男の子だから。

「え、え、え……っ、え??」
「……りゅう、き。わたしの思いっきり、触った。……両手で、掴んだ。つよかった」
「っっ!!」

 隼人は詩乃の追い打ち攻撃を受けた。 
 耐性ほぼゼロの隼人は更に大ダメージ。


「助けてくれたのは、ほんとに感謝してるわ。無茶な事だとは思ってる、けど…… もう少し優しくしてくれても……良かったのに」
「っ~~。ご、ごめっっっ、ごめんっ」


 隼人は、ぱっ と手を上げて謝罪。
 これでもかと顔を赤くさせながら土下座する勢いだった。それを見た詩乃は、パチっ、とウインクをした。


「……ふふ。慌てた? 凄く慌てた??」
「っっ~~」
「少しは私の気持ち、わかってくれた? 今の私はそんな感じ。そんな気分なの」
「っ! は、図った?」
「いえ。触られたのはほんと。……気付いてなかったのかもしれないけどね」
「……ぅぅ」
 

 詩乃は暫く、慌てふためく隼人を見て 笑うのだった。……やはり、詩乃はS属性なのだろう。


 因みに詩乃は、少なからず 自分の身体にはコンプレックスを持っている。

 平均的である~ と誰かから訊いた事はあるが、やはり仲間達のそれ(・・)を見ていれば、どうしても思ってしまう。
 特に、和人の妹――直葉に関しては特にだ。



『暑そうな胸をお持ちだこと。自分の涼しい胸と交換しないか?』



 と何度思った事か。……とあるクエストであのリーファの豊満な胸に押し潰されそうになった事がある。凶器だと思いつつも、やはり同じ女として羨ましいんだ。
 玲奈だってそう。明日奈と殆ど同じプロポーション。直葉程は無いかもしれないが、それに迫ってると思う。

「どうせ、気付いてなかったんでしょ? ……私、大きくないから」
「……え? い、いや そんな事は……」
「良いのよ。……ほんっと。服着てるし。着痩せするタイプって訳じゃ無いし。……玲奈と比べたら、大分貧相だし。当然よね。……どーせ、隼人だって大きい方が……」

 ぷいっ とそっぽ向く詩乃。
 此処から先は 弄ったりしている訳じゃない。どちらかと言えば、ちょっとした憂さ晴らしかもしれない。

「お、オレはそんな風に見てないっ!!」
「え……?」

 そんな時だ。
 隼人は、詩乃に顔を思いっきり近づけて、両腕を取って 訴えた。顔は赤くなっているが、それでも真剣そのものだ。先程の慌てていた隼人とは違った。


「た、確かに、そう言うのが好きって言う人もいる。……オレだって、それ位は知ってる。クラインの馬鹿もそんなの言って、皆に盛大に叩かれてた時があっただろ? だから……。でも、その――む、むねのおおきさ、とか関係ない。大事なのは、その人そのものだ。中身だ。……だから、オレは詩乃の事嫌ってたりしてない。オレは今までの、……皆の事……ッ。救ってくれた人皆が……ッ」
「ちょっ! え、えっと、ご、ゴメン隼人! 落ち着いて! 冗談、冗談だから!」

 

 色々と口走りそうになった隼人をどうにか止める事に必死になる詩乃。
 隼人の人間性についてはよく知っているつもりだ。そんな風に考えてない事だって知ってる。ちょっと他人とは違った思春期な男の子だと言う事もよく知ってるから。


 そして、暫くしての事だ。どうにか隼人を説得出来た詩乃。ただし、からかわれていた、と強く認識した隼人は少しばかりむくれていた。


「……ぅぅ。何だか酷いぞ。詩乃」
「あ、あはは……。ごめんごめん。だって。隼人だって判ってくれてなかったでしょ? ……明日から、私だって大変なんだから。皆に囲まれちゃって弁明するのが大変」
「それでも、なぁ……」
「あーら? 隼人が触ったのは事実なんだけど? それが 例え不可抗力だったとしても」
「ぅぅ……。ご、ごめんな」
「ふふ。だから お・あ・い・こ。……ね?」

 また、パチっ、と詩乃はウインクした。
 きっと、猫妖精族(シノン)の状態であれば、あの時。エクスキャリバーのクエストの様に猫妖精族(ケットシ―)のある意味象徴とも言える尻尾を小刻みに震えさせてる事だろう。

「(……何だか、あの時の女神の様な口調になってるかも、ね。視られてる訳ないけど、ここをもし見られてたら、何を言われる事やら)」

 ALOの世界で出会った厄介な女神の事を思い返しつつ、詩乃は懐に手を入れた。
 隼人に会うまで、まるで危険物の様に取り扱っていたのに、自分でもびっくりするくらい簡単に取り出せる。
 すっ、と取り出したのは、桃色の包装紙包み、赤のリボンで纏めた手のひらサイズの箱。

「リュウキ。その―――仲直り、って事で これ。受け取ってくれないかしら?」
「う~……。ん? それは……」

 何処となく頬を膨らませる隼人に玲奈の面影を見た気がしたが、今はその感想は封印する詩乃。
 そっと両手で差し出した。

「今日はその……バレンタインでしょ? いつもリュウキには世話になってるし。……それに、綺堂さんの分もあるから。一緒に渡してくれると嬉しい。綺堂さんにも直接渡したいけれど、少し忙しいって聞いてたから」

 詩乃の言葉を訊いて、膨れてた隼人の頬は萎んでいく。
 そして、柔らかいいつもの優しい隼人の顔に戻った。

「ありがとう。嬉しいよ」

 その一言だけでも、作った甲斐があると言うものだった。
 真の想いは、届かないかもしれない。独り占めをしたいって気持ちだってまだまだ心の何処かには確かに存在している。

 それでも、今のこの関係も本当に好き。大切な友達がたくさん出来て、こうやって馬鹿やって笑いあう事だって、かつての自分なら考えられなかったから。

「……こちらこそ、毎日をありがとう」
「んん。何だか大袈裟だぞ、それ」
「ふふ。これが 嘘偽りない気持ちってヤツよ。色々なハプニングがあって 大変だったかもだけど、今日もきっと良い思い出になるって思ってる」
「………轢かれそうになったり、その……、オレに、さわ、触られた、事が、か? 出来れば、忘れてくれた方が嬉しい……んだが」
「ふふふ」

 詩乃は意味深に笑った。
 ただ、思うのは 以前での事。そう、あの厄介な女神が現れ、そして とあるクエストを受けた時の事。
 
 決して、口には出さない。誰にも話さない。それは 一時の淡い夢の様なもの。だけど、確かに自分と触れ合った。


――隼人は知らないんだよね。私は 今日の隼人よりも、もっと凄い事を……貴方としたのよ? 



「詩乃。頼むよ……」
「ふふ。了解。もしもの時の切り札が増えたかしら?」
「……あまり苛めないでくれ」





















 そして、場面は元に戻り 詩乃のアパート。



 思い出しただけで、隼人でなくても恥ずかしい。あの時はよく実行出来たものだと、自分のことながら信じられなかったかもしれない。あの女神のクエストの時の勇気に似たなにかがまた自分の中で芽生えて……、色んな意味で強くなれたのかもしれない。


 触られたのが隼人で良かった―――とも何処か考えてしまう自分がいた。


「……リュウキは、私のでも良い……って考えても良いのかな」


 詩乃は、自身の胸部を見下ろしつつ、ベッドに寝転がる。
 もう、これ以上考えると頭がどうかしてしまいそうだから、思い切り左右にぶんぶんと頭を振って考えを、邪念を退散させる。


 今日は、確かALO内ででもバレンタインにちなんだイベントが確か開催される筈だと思いだし、半ば慌ててアミュスフィアを手に取って ALOの世界へ。




―――朝田詩乃から、シノンへ。 
  





 
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