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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第三十一話  ハーピーの卵の卵焼き

 
前書き
ドラゴンキメラ戦後の休息。

ファリンとシュローの和解? 

 
 シュローは、マイヅルに言った。
「帰還の術の準備を…。」
「よろしいので? アセビが行方不明ですが。」
「足抜けだろ、捨て置け。」
 いつの間にかアセビがいなくなっていたが、放っておくことになった。
「我々の力が及ばず、申し訳ありません。」
「いや…、最大限頑張ってくれたよ。ありがとう。付き合わせてすまなかった。」
 頭を下げてくるメンバーに、シュローが言った。
 マイヅルが、ダーッと涙を流した。
「俺は…、国に帰る。二度とこの島には戻らない。今回のことは、島主に警告する。」
「そう…。」
 シュローは、ファリンにそう言った。
「…ライオスと一緒に帰りたかった。」
「……もし助け出したら、ちゃんと好きって言うつもりだった?」
「…助けることばかり考えてて、そこまで考えてなかったな。」
「…私が、伝えようか?」
「……それは悪い。」
「ううん。私も知ってて黙ってたもの。兄さんを取られるのが怖かったから。」
「あいつが、はっきりと言っても俺を意識してくれるかどうか分からないな。」
「私も…そう思う。」
 シュローと、ファリンは、お互いを見て笑った。
 そんな二人の姿を見て、チルチャック達は、ちょっとホッとした。
「それと、カブルー…。」
「あ…。」
 ファリンは、準備をしているカブルーに話しかけた。
 カブルーは、少し汗をかいた。
 なにせ、ファリンを盾にしてライオス・ドラゴンキメラを攻撃したのだ。
 何かされるかもと僅かに身構えたカブルーだったが…。
「……私は、あなたを責めたりはしないわ。安心して。」
「…そうですか。」
「あなたが攻撃しなかったら、兄さんは全員殺してたと思うから。」
「でも、彼は、あなたにだけは、まったく攻撃の意思がなかった。」
 そう、そこがおかしいのだ。
 ライオス・ドラゴンキメラに従っていたハーピー達も、まるでファリンにだけは、攻撃するなと指示されていたように動いていた。
「それは、兄さんの魂が、アレに混ざっている証拠なんだと思う。つまり、兄さんの魂と分離させることが出来れば…、救えるかもしれないということ。」
「そんなことが本当に出来ると?」
「信じてる。必ずやる。もし出来なくても、兄さんを迷宮から解放するわ。」
「つまり、殺す覚悟もあるということですか?」
「……ええ。」
 ファリンは、そう返事をした。
「そうだわ。」
「はい?」
「お腹すいてない? みんな大変だったでしょ? あれだけ血を流したらお腹がすくから、ちょっと待ててね。」
「はあ…。」
 ポカンッとするカブルーを残して、ファリンは、センシのところへ行った。





***





 そして、ファリンが笑顔で用意したモノ…。
「なんですか、コレ?」
「ハーピーの卵で作った卵焼き。」
 ファリンは、にっこりと素敵な笑顔を浮かべてカブルーに卵焼きが乗った皿を差し出した。

 えっ? これ、もしかして怒ってる?

 カブルーの脳内に、まずハーピーの姿形が過ぎり、その次に、彼の生い立ちが走馬灯のように過ぎる。
 カブルーは、幼い頃、地底から湧き上がってきた魔物に襲われ、家族失った過去があるのだ。それがカブルーが迷宮を攻略しようとする動機であり、ダンジョンを食い扶持にしている人間を嫌って殺す動機だった。

 絶対に食べたくない!!!!

 っと思い、大汗をかく。
 だがファリンは、ニコニコしている。
 その笑顔は、まるで邪気がない。だが見ようによっては背後に黒いオーラが見えなくも…ない気がする。
 やっぱり、ライオス・ドラゴンキメラの盾にしたことを怒っているのでは!?っと考えるが、ついさっき責める気はないと言われたので、それはないかもという考えもあり、カブルーは、一秒間の間にグルグル色々と考えた。
 そして。
「い、いただきます!」
「美味しい?」
「……。」
「よかったぁ。」
 もぐもぐとハーピーの卵焼きを食べたカブルーがコクリッと頷いたので、ファリンは嬉しそうに笑った。
 それを見ていたカブルーの仲間達は、『さすが、人の懐に入るためならなんでもする男…』っと、青い顔をして思ったのだった。なお、この後他のメンバーにも卵焼きを勧めたファリン。他のメンバーは、全力で拒否した。カブルーは、飲み込まず、ずっと噛んでいた。
 その後、各自食事となり、それから、帰還の準備を整えることとなった。
 マイヅルが書いた絵が地上に繋がり、シュロー一行と、カブルー一行が帰還する。
「正直…、俺は、君が狂乱の魔術師にたどり着く前に死ぬと思っているが……。万が一生き延びることができて、しかし黒魔術のせいで地上にも戻れなかった時…。」
「これは?」
 シュローは、ファリンに、鈴を渡した。
「これを鳴らせ。遠く離れた、対の鈴と共鳴する。使いをやって東方へ逃亡できるよう手配する。」
「……。」
「死ぬなよ。」
「…言われなくても。」
 そしてシュローが絵の中に入った。
「ファリンさん。」
 そこへカブルーがやってきた。
「なに?」
「話せて良かった。」
 カブルーは、ギュッとファリンの手を握った。
「今回一番の収穫でした。」
「…こちらこそ。」
「あの…、僕の名前、覚えてくれたんですよね?」
「カブルー君でしょう?」
「よかった。次は忘れないでくださいね。それじゃ、また。」
「?」
 そう言い残してカブルーは、絵の中を通っていった。
 残されたファリンは、絵が消えるのを見た後、キョトンッとした。
「行くぞ、ファリン。もう後には引けない。」
 チルチャックに呼ばれてファリンは、そちらへ向かった。
「くそ、ほれ見ろ! 結局こうなる予感がしたんだ。俺には、くそっ。」
「下品だぞ、チルチャック。」
「ごめん……。」
 謝るマルシル。
 そんな彼女にファリン達は顔を見合わせた。
「…なんとかなるよ。」
 そう言うしかなかった。 
 

 
後書き
さらに深層へ……。 
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