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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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23話:動き出すRC社

宇宙歴761年 帝国歴452年 2月初頭
首都星オーディン 飲み屋街VIPルーム
クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー

ザイトリッツ様にお仕えしようと決めたあの日から7年以上の時が流れた。帰還兵を守れれば十分と考えていたあの時の私にまさかこんな未来があると思わなかった。初めて人生に絶望する前に志していた地方行政の経験が活き、こんなにやりがいのある職につき、しかも再婚しているなど、想像出来ただろうか。
そして初めの結婚では得る事が出来なかった子供も2人授かっている。ザイトリッツ様はお仕えするにあたって自分の幸せも考えることを条件に出された。あれが無ければ今の人生は無かったかもしれない。できる限り御恩をお返しせねばなるまい。

ふと、自分の人生の変遷に思いを寄せていると、隣に座っている男性が声をかけてきた。

「ザイトリッツ様から至急の呼び出しを受けましたが、何か辺境星域で良からぬことが起こったのでしょうか?」

心配げにこちらを見ているのはロイエンタール卿だ。下級貴族出身だがかなりの商才がある男だ。特に収益化の見込みを立てる事に長けた男で、RC社の中でも頭角を表しつつある。

「私と卿が揃って呼ばれたという事は、辺境星域で大きな投資案件が持ち上がったのではないかな?辺境でなにか起こったなら、私だけで良かろうし、投資案件なら卿だけで済む話だろう。まあ、あの方はたまに無茶なことを言い出すから心配するのもわかるが。」

ロイエンタール卿もRC社に入社する前に自分で投資案件を数件成功させていたが案件進行のスピードの速さに、入社直後は驚いていた記憶がある。私と同年代だが、ある程度ビジネスで成功したら身を固めるつもりらしい。良い縁があればいいが。そんなやりとりをしているとドアがノックされ、私たちの雇い主がVIPルームに入ってきた。

「急な呼び出しをしてしまいお手数をかけました。大きな案件のご相談を受けましたが急いて回答しなければならない状況でした。取り急ぎお二人に相談したかったのです。」

「投資案件には様々な事情もついて回ります。この程度の事、お気遣い頂くには及びません。男爵とも話していたのですが、もしや辺境星域で何かあったのかと不安に思っておりましたが安心いたしました。」

私も同意するようにうなずきはしたが、ロイエンタール卿はザイトリッツ様の無茶をまだ経験していない。私たちが揃って呼ばれるのは初めてだ。しかも至急、よほどの案件だと思うが・・・。

「要旨はこちらにまとめました。内密の話なのでこちらをご確認いただきながら私の方でざっくりした説明をします。受けるかどうか早急に判断したいのでご協力をお願いします。」

そう言って、メモ用紙を一枚、私たちに差し出してきた。

「では説明します。ある筋からのご依頼で、5か年計画でとある施設を作ることをお考えです。事業規模は約45兆帝国マルク。年間あたり標準戦艦約84000隻分の資材をRC社で取りまとめできるかというご依頼です。私の概算ですが、設備投資を行えばなんとか調達できるでしょうが、設備投資を5年で回収するのはギリギリでしょう。なのでこの案件をきっちりやり遂げた暁には増産分の納品先を数年は手配していただける旨もお約束頂けている状況です。」

メモ用紙には超硬度鋼やスーパーセラミックと言った文言も書かれている。重要な文言であるはずだが、話が大きすぎて頭がついてこない。おもわず手元にあった水の入ったグラスを呷った。横をみるとロイエンタール卿も45兆・・・。84000隻・・・。などと呟きながらなんとか落ち着こうとしている。おそらくこの案件はザイトリッツ様の本気の無茶なのだろう。

「ザイトリッツ様。話が大きすぎて冷静に考える必要がございます。少し落ち着く時間を頂いてもよろしいでしょうか?」私がそういうと

「それもそうですね。私も少し浮付いていたかもしれません。さすがにアルコールはふさわしくないでしょうから、何か飲み物とつまむものを頼んできましょう。」

そう言って席を立つと、ドアを開けて階下に向かっていった。開いたドアから従士のフランツ殿が控えているのが見える。一瞬目が合ったが、フランツ殿はこちらを気遣うように会釈し、主の後に続いて行った。落ち着く意味でもここは私から声をかけたほうがいいだろう。

「ロイエンタール卿、私も色々と無茶な話を振られたが、これは特大級だ。少し冷静になって考えねばなるまい。ただ、ザイトリッツ様はおそらく受ける方向でお考えのはずだ。極秘の案件なのだろうが要旨は明確だ。ご自分の予測に大きな抜け漏れがないかを確認する意味で我らをお呼びになったのだろう。」

「すこし落ち着きました。事業規模45兆帝国マルクなどという案件が現実世界にあるとは思いませず、情けない所をお見せしました。お忘れください。」

少しは落ち着けたようだ。

「お戻りになるまでは、お互い考えることに集中しよう。またなにか無茶を言われるであろうし。」

そう私が言うと、ロイエンタール卿は絶望するかのような表情を浮かべた。私はその表情を見なかったことにして、自分なりの見解を考える。結論としては余程の抜け漏れか大規模な事故でも起きない限り、利益は出せるだろうし、利益が出なくても投資分を考えればRC社としては利益確保できるだろう。と見込んだタイミングで、主が部屋に戻ってきた。

「適当にお任せで摘まめるものを頼んできました。お二人は特に嫌いなものはありませんでしたよね?話が終わってからになりますが、マスターが是非にと勧めるウイスキーがあるようです。私は晩餐がありますので、後程お二人で楽しんでください。」

この店の料理は確かに旨いし、酒もこだわったものを出しているが、こんな話を聞かされてはオチオチ楽しみにも出来ないだろう。

「それでどうです?私の見込みでは余程の大事故でもないかぎり、多少の利益はだせると思いますし、RC社全体で考えればかなり利益が出る案件だと思っているのですが。」

「少し細かい部分のご意見を伺いたいのですが宜しいでしょうか?」

意を決したようにロイエンタール卿が声を上げた。特に超硬度鋼やスーパーセラミックは民間での用途が無い為、軍用で引き取り手がないと生産設備を立ち上げるのはかなりのリスクだ。だがその辺りも我らが主は認識済みだったようだ。

「危惧される部分はごもっともですね。お二人にお声がけしてよかった。とはいえ超硬度鋼やスーパーセラミックの件はそこまで心配していません。5年から6年後までに根回しする予定の話なのですが、物資の集積拠点をそのまま艦隊の駐留・メンテナンス拠点にする形で有効利用する方向にもって行くつもりです。その時にならないと分かりませんが、駐留基地化する際に、艦船開発部門も誘致しようと考えています。超硬度鋼やスーパーセラミックは現段階では高額な素材ですが、これだけの規模で量産すれば戦闘艦に常用できる程度まで価格も下がるでしょうし、辺境の方が防諜もしやすいでしょうから。叛乱軍の捕獲艦なども合わせて分析できれば、かなりの戦力強化も見込めるでしょう。軍からも無尽蔵にとは言いませんが、予算を割いて頂けるでしょうし。」

まあ、予想通りだな。大きな抜け漏れが無いか、確認するために我らを呼ばれたのだ。そして抜け漏れはなく、むしろ我らに見えていないものまで見えている。

「お二人と意見交換ができて安心できました。このお話は受ける方向で進めます。明日からでよいですが、体制を整えるために動いてください。元手はいくらあってもいいでしょうから、私の個人資産の方も、RC社の口座の方に入れておきます。必要だと思うことは全て手配りしてください。」

ああ、明日から激務が確定した。ご信頼頂いているし高給で雇われている。そしてなにより歴史に残る事業になるだろう。

「では、私はこれで。今日の払いは私が持ちますから、御二人はしっかり鋭気を養ってください。では!」

そういうと、我らの主は部屋を出て行った。ロイエンタール卿はまだこちらの世界に戻ってきていない。すべきことを頭の中で列挙しているのだろう。しばらくすると、この店のマスターが嬉しそうに料理と酒を運んできた。まさに嵐が去った後のような心境だ。

マスターが部屋を出ていくと、残った二人で静かにグラスを交わした。こんな大きな案件が控えているとなれば、どんな美酒であれ酔えるはずがない。ロイエンタール卿も同じ気持ちだったのだろう。美酒なはずの酒を口にしながらお互いに苦笑した。 
 

 
後書き
イゼルローン要塞の建設資材を計算したのですが、体積換算だととんでもない数字が出ました。なので自己解釈して計算しなおし、作中の数字にしました。
流体金属で覆うアニメ版の方にするか迷いましたが原作の方で進めたいと思います。 
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