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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第172話「予兆と決意」

 
前書き
最終章までの繋ぎの章です。
 

 











「……これは、不味いですね……」

 光が溢れる空間で、サファイアを彷彿とさせる雰囲気の女性がそう呟く。
 彼女の目の前には、光溢れる空間でなお闇を生み続ける球体があった。

「……封印が、解けかけています」

 球体の中には結晶があり、その結晶が罅割れていた。

「このままでは……っ!!」

 女性の言葉を遮るように、罅が増える。
 そして、結晶が割れていき……

「くっ!」

 咄嗟に、女性が封印を上乗せする。
 しかし、それは焼石に水程度の効果しかなかった。

「く……っ……!」

「サフィアちゃん!」

 そこへ、別の女性が助太刀する形で現れる。
 サフィアと呼ばれた女性と対称的に、彼女はルビーを彷彿とさせる女性だった。

「ここは私に任せて、皆に知らせに行ってください!」

「しかし、姉さん!」

 その女性はサフィアにとって姉のようで、サフィアに対し自分に任せるように言う。
 だが、サフィアは姉一人を残していく事を躊躇ってしまう。

「二人残った所で無意味です。それなら、一人が誰かに伝えた方が、よっぽどマシですよ」

「っ……」

「大丈夫です。私はサフィアちゃんのお姉ちゃんですから。そう簡単に消えたりしませんよ」

「……わかり、ました……!」

 苦渋の決断をして、サフィアはその空間から消えるように離脱した。

「……目覚めますか。かつて神界を襲った災厄の化身が」

 出来る限り時間を稼ぐため、封印を上乗せしながら、残った女性は呟く。

「“無限の可能性”……私たち神々全員が、それを示せればよかったんですがね」

 女性は、自身が上乗せした封印が解かれるのを止める事が出来ないまま、どこか諦めたようにそう呟くしかなかった。















   ―――“闇”が、目覚める……



























       =優輝side=







「………」

 守護者を倒した翌日。
 僕はトレーニングルームを借りて体の調子を確かめていた。

     ヒュヒュン!

「ふっ……!」

 矢を射る。レイピアを振るう。
 創造して建てておいた的に矢は命中し、一気に的に肉薄。
 レイピアで的をかち上げ、細かく切り刻む。

「……不調自体はない。……いや、なさすぎる、か」

 あまりにも体の調子が良すぎた。
 それこそ、体は全快していないのに、全快した時と同等以上に。

「戦闘による経験を積んだとしても、これは良すぎる」

 経験は強さの糧になりやすい。
 それを踏まえても調子が良すぎた。
 確かに体にガタが来ている。それなのにしっかり動くのだ。
 ……正しくは、ガタが来た分鈍くなったのを補う程、早く動かせるのだ。

「……やはり、椿と葵か」

 そう。考えられるとしたら二人の力の上乗せだ。
 “憑依”による力の増加が、未だに残っているのだ。
 厳密には、体に定着したと考えるべきか。

「弓矢とレイピアの生成が創造魔法を使わなくても可能……おまけに、二つの扱いも以前より向上しているか」

 淡く翡翠色に輝く、螺旋状に束ねた蔦の弓。実体を持たない同じ色の矢。
 そして、いつも葵が使っていたレイピア。
 これらが創造魔法を使わなくても作れるようになっていた。
 ついでに言えば、創造魔法と併用すれば負担も消費も激減する。

「……それと……」

 確認するように、“膨らみかけの胸”に手をやる。
 ……そう。僕は神降しの代償で既に性別が変わっている。

「……今までは、体に精神が影響されていたけど……」

 しかし、口調や一人称はそのままだ。
 おそらく、感情を失ったため、影響を跳ね除けているのだろう。

「演技の必要がないのは楽でいいな。後は霊術による認識阻害だけか」

 誰かに見られない内に術式を発動させておく。
 ……いや、待てよ?

「髪を切って整えて、サラシで誤魔化すか」

 今アースラには別の陰陽師もいる。
 霊術に感づかれるだろうから、簡単な変装で誤魔化す方が無難だろう。
 声色は自力で変えられるから無問題だ。

「……いるんだろう?司、奏」

「……やっぱり、バレた?」

「さすが優輝さん」

 入口へと声を掛けると、物陰から二人が出てきた。
 どうやら、隠れて僕を見ていたらしい。

「神降しの代償、やっぱり出たんだね」

「でも、口調とかはそのまま……」

「まぁ、な。今の僕は感情を失っている。多分、肉体の影響も受け付けない状態なんだろう。だから、口調とかはそのままだ」

 そう言いつつ、僕は髪を切り、サラシを創造する。

「……ねぇ、さっきの弓矢とレイピアって……」

「……僕らが鍛えただけあって、気づいてしまうか」

 更衣室へ向かいながら、司が尋ねてくる。
 口には出していないが、奏も気づいていたみたいだ。

「……消えたよ。深夜の時に、確かにあったはずの存在感が、消えてしまった」

「ッ……つまり……」

「……死んだ」

 目を見開き、信じられないと言った風に口元を手で押さえる司。
 奏も信じられないと開いた口が塞がらないようだ。

「考えてみれば、ここまで持ったのが凄いぐらいなんだ。僕に憑依する前、二人は既に回復もままならない程の傷を負っていた。……本来なら、戦いの最中に死んでもおかしくなかったんだ。それでも、ここまで生きててくれた」

 歩みを止めた二人に合わせ、僕も止める。

「……でも、悲しいものは、悲しいよな……?」

「優輝、君……」

 振り向いてそう言った僕の頬を涙が伝う。
 その上で、作り笑いを浮かべた。

「感情を失って、家族をまた失って……」

「優輝君……!」

「優輝さん……!」

 二人が悲痛な声を上げる。
 おそらく、涙を流す僕を見ていられなかったのだろう。

「(頑張っても、足掻いても、報われない時がある。あぁ、本当に―――)」

 それだけじゃない、どこか、視界が白く……



   ―――人は、難儀なもの、だなぁ……



















   ―――だからこそ、“()”は人の可能性に惹かれたんだ



















       =司side=





「優輝君!?」

「優輝さん……!」

 涙を流す優輝君は、そのまま崩れ落ちるように気絶してしまった。

「一体、何が……」

 すぐさま奏ちゃんと共に優輝君の容態をチェックする。
 軽く見た限り、体には気絶するほどの異常はない。
 だったら、これは……。

〈これは……精神の疲労ですね〉

「シュライン……やっぱり、そうなの?」

〈私も同意見です。感情を失ったとは言っていましたが、それでも負荷はかかります。……あのお二人がいなくなった事が原因でしょう〉

「そう……」

 シュラインと奏ちゃんのエンジェルハートが魔法による解析結果からそういう。

「とりあえず、安静にした方がいいよね……?」

〈はい〉

「司さん、部屋まで運ぶわよ」

「うん。あ、でも……」

 優輝君を私が背負おうとして、ふと気づく。
 今の優輝君は髪は切ったとはいえ、体は女性だと分かってしまう状態に。

「……私が認識阻害を掛けておこう」

 普段の優輝君を想像しながら魔法を使えば、まずばれない認識阻害が出来るだろう。
 すぐにそれを実行して、改めて背負う。

「奏ちゃん、シャマルさんと……後、優輝君の両親を呼んできて。それと、クロノ君とリンディさんにも一応伝えておいた方がいいかな」

「わかったわ」

 身体強化魔法を使って速く、それでいて静かに優輝君の部屋へと向かう。

「(優輝君……)」

 ……思えば、私達はよく優輝君を頼っていた。
 力としての強さだけでなく、精神的な強さとしても。
 でも、頼られる側の優輝君が頼る存在は少ない。
 両親と、椿ちゃんと葵ちゃんぐらいしかいないのだろう。
 クロノ君やリンディさん、他の大人の人も頼れると言えば頼れるだろうけど……。

「(精神的支柱の二人がいなくなって、負担が大きくなった……)」

 こんな状態の優輝君を癒すのは、多分私には無理だ。
 奏ちゃんやアリシアちゃん、シャマルさんにも無理かもしれない。
 出来るとしたら、両親か……緋雪ちゃんぐらいだろう。

「(ごめんなさい、優輝君。こんなになるまで気づけなくて……)」

 きっと、転生してからじゃない。
 前世から、優輝君が拠り所を求める事は少なかったんだろう。
 ……そのツケが、今来たのかもしれない。

「(……だからこそ、今度は私が……私たちが何とかしないと……!)」

 優輝君はいつも自分を追い詰めている。
 まるで限界はそこではないと言わんばかりに。
 その限界を、まだ超えられると言うかのように。
 ……まだ“可能性”が残っていると、そう示すかのように。

「……着いた」

 考え事をしている内に、アースラで優輝君が使っている部屋に着いていた。
 扉を開け、その中にあるベッドに優輝君を寝かせる。

「……椿ちゃん、葵ちゃん……」

 優輝君と同じように、私も二人がいなくなったのは悲しい。
 同時に、信じられないという想いもある。

「(お願い……二人とも、帰ってきて……!)」

 それは、天巫女の祈りとしてではなく、純粋な“願い”。
 “そうであって欲しい”と言う、ただの“祈り”。
 ……故に、私の力が最も働く“祈り”となる。

「………!」

 優輝君に寄り添いながら、私は懇願するように祈り続ける。
 全回復していないジュエルシードの魔力も使って私は“祈り”の魔法を使う。
 きっと、“戻ってくる”のだと、信じて。

「「優輝!!」」

「っ……!」

 そこへ、優輝君の両親がやってきた。
 その勢いは凄まじいもので、つい肩が揺れる程驚いてしまった。

「は、速すぎ……!」

「ふ、二人とも待ってくださーい……!」

 遅れて、奏ちゃんとシャマルさんもやってくる。
 というか、奏ちゃんが速いって言うほどなんて、どれだけ素早かったんだろう……。

「司ちゃん!優輝は大丈夫なの!?」

「は、はい。今の所苦しんだ様子は……」

「シャマルさん、二人を安心させるために早く診察を」

「わ、わかったわ!」

 優香さんが私に詰め寄ってきたのを見て、奏ちゃんがシャマルさんを急かす。
 すぐにクラールヴィントを用いて診察をしてくれる。

「……奏ちゃんが報告してくれた通り、精神的負荷による気絶です。命に別状はありませんが……」

「……負荷を何とかしないといけない、ですね?」

「……はい。昨日診た時点で、優輝君は感情を失っています。その上で精神的負荷がかかって気絶……これは、余程のショックでないと倒れる程にはならないと思います」

 シャマルさんから告げられる診断結果は、考えてみれば深刻なものだった。
 そう。優輝君は感情を失っているんだ。
 精神的負荷は、感情があるからこそ強く掛かるもの。
 感情を失っている上で精神的負荷で気絶するなんて……。

「優輝、君……!」

 ……自分が情けなかった。
 優輝君がこれほどの状態になっても何も出来ない事が悔しかった。

「………」

 それは、奏ちゃんも同じらしくて、悔しそうに拳が握られていた。

「それと……倒れたのとは別件だと思うんですけど……」

「ど、どうしたんですか?」

「……なぜか、肉体が女性のものになってます」

「あっ」

 ……しまった。失念していたけど、診察したらそりゃバレるよね……。

「……司ちゃん、説明してくれるかしら?誤魔化すための認識阻害に使われてる魔力素が、司ちゃんのものだったから、知ってるはずよね?」

「えーっと……」

 あまり広めたくはないけど、誤魔化す事は出来ないだろう。
 ……簡単でいいから、説明しよう。

「簡潔に言えば、神降しの代償……かな?椿ちゃん……つまり、草祖草野姫は女性の神様だから、女性の因子が神降しをした優輝君にも流れ込んで、それで女性になってしまうって言う……」

「……そんな事が」

 深刻ではないけど知らなかったからか、シャマルさん達は開いた口が塞がらなかった。
 まぁ、優輝君はいつも隠し通してたからね……。

「えっと、どうすれば元に戻るんだ?」

「あ、それなら時間が経てば時期に戻りますよ。……でも、今回は長時間激闘を続けてたから、しばらくは戻らないかもしれません。だから認識阻害で誤魔化してたんですけど」

「そうか……」

 光輝さんは私の言葉を聞いて、ホッとする。
 まぁ、ただでさえ倒れたのにさらに何かあると思ってしまうからね……。

「そういう訳なのでシャマルさん、認識阻害はそのままでお願いします」

「え、でも、事情を説明すればいいだけじゃ……」

「これ以上、いらない混乱は避けたいので。それに、女の子になった優輝君は緋雪ちゃんに似ているので、それでも混乱を招きそうなので」

「確かに……緋雪に似てるわね……」

「やっぱり兄妹だからなのか?」

 優輝君の顔を覗き込みながら、優香さんと光輝さんは言う。
 起きている時なら雰囲気でわかるけど、寝ているとさすがに見分けが付きにくい。

「……とにかく、彼が精神的に辛いという事には変わりないので……」

「優香さん、光輝さん。傍にいててください。……私たちよりも、親のお二人の方が適任だと思います」

「……私も、同意見です」

 シャマルさんが誰か側にいるべきとばかりに何か言おうとしたので、それを私と奏ちゃんが遮るように上乗せする。

「そう?いつも仲がいい二人もいた方が……」

「そのいつもいた私たちの前で、優輝君は倒れたんです。……私たちじゃ、優輝君の支えにはなれないんです……!」

 適任に見えるだろうけど、そうじゃない。
 私たちでは支えになれない。……それがとても悔しかった。

「そういうことなので、お願いします……!」

「私からも、お願いします……!」

「……そこまで言うなら、わかったわ」

「ああ。俺たちに任せてくれ」

 出来る事ならば、私たちも支えたい。でも、それが出来ない。
 そんな想いが伝わったのか、二人は了承してくれた。

「じゃあ、シャマルさん」

「はい。何か異常があればまた」

 診察も終わり、シャマルさんと共に私たちも部屋を出る。
 ……後は、両親である二人に任せよう。

「二人も、まだ完全に回復しきっていないのだから、無理しないでね?」

「はい」

「わかってます」

 すぐにシャマルさんとも別れ、私と奏ちゃんの二人きりになる。

「……ねぇ、奏ちゃん」

「……何かしら?司さん」

 どこへともなく、二人並んで歩く。
 胸中に渦巻く感情の前に、向かう先なんて関係なかった。

「同じ“前世の優輝君を知る”転生者として、話があるの」

「……奇遇ね、司さん。私も、そう思っていたわ」

 どうやら、奏ちゃんも同じ考えらしい。
 すぐさま近くの談話室に入る。

「私の前世の話は……知ってるよね?」

「……ええ。優輝さんから聞いているわ」

 手始めに、前世での優輝君との関係を確認する。
 私の場合、幼馴染。奏ちゃんは……。

「恩人……だったっけ?」

「……ええ。病院にお見舞いに来てくれて、そして心臓のドナーになったのが優輝さん。……そのおかげで、私は病院以外の世界を知る事が出来たわ」

「そっか……」

 私の場合は転生してから、奏ちゃんの場合は前世の時点で。
 私たちは、優輝君に救われている。

「……私たち、ずっと頼りっぱなしだったよね?」

「……そう、ね」

 絞り出すように切り出したその言葉に、奏ちゃんも俯いて同意する。
 ……そう。私たちはずっと優輝君に頼りっぱなしだ。

「このままじゃ、いけないよね……」

「そう、ね」

「……っ……!」

 言葉にするだけで、自分が情けなく思えて涙が出てくる。
 何より、優輝君がここまでなるのに気づけなかった自分自身が、不甲斐ない。

「本当、頼ってばっかりだ。私……!」

 強くなったつもりだった。
 ううん。実際、以前より強くはなっている。
 ……それなのに、私は優輝君に頼っていた。

「………」

 考えれば、考える程、悔しさと不甲斐なさが浮き彫りになってくる。
 頼られるようになったつもりで、まだ私は頼っていたのだから。

「……支えに、なりたい」

「………」

「優輝さんが恩人だって知ってから、私はずっとそう思ってきたわ。……でも、結局倒れるまで支えになりきれてなかった事に、気づけなかった」

「……私と、同じ、だね……」

 奏ちゃんも、私と同じ気持ちだった。

「……だから、私は……今度こそ、強くなってみせる。それこそ、優輝さんよりも」

「……そう、だね。……うん。私も、強くなってみせる。天巫女の、ジュエルシードの力を借りずとも、優輝君に頼りにされるぐらいに、強くなる……!」

 優輝君はどんなに小さな可能性でも信じている。
 そして、その小さな可能性を掴んできたから、“今”がある。
 だったら、私たちも同じように信じていけばいい。
 優輝君を無理させる事のない。“本当に支え合える”、そんな関係に至れるであろうその可能性を、私たちも信じて、掴み取るんだ。

「(問題はまだ山積みなんだ。ここでいじけていたら、それこそまた優輝君を頼る事になってしまう。そんなのはごめんだ。……今度こそ、優輝君に頼らずとも、乗り越えて見せる!)」

 何から手を付けていいかはわからない。
 何をすれば頼らずに済むかもわからない。
 でも、それでも、手探りだったとしても、私たちは依存しちゃいけない。

「……手始めに、これからの方針について考えよう。もちろん、私たちだけじゃさすがに無理があるから、皆も呼んで」

「アリシア達ね。わかったわ」

 今の私は事後処理が追いついていないため、まだジュエルシードが使える。
 その魔力と祈りの力があれば、残った人達の魅了を解く事もできるだろう。
 でも、それはただでさえ混乱気味の情報量にさらに負荷をかける事になる。
 そのことも含めて、一度皆で集まるべきだ。
 ……皆って言っても、いつも私たちで集まっているメンバーだけでだけどね。





「それで、私たちを呼んだんだね」

「うん。魅了について知っている皆だからこそ、ね」

『それで僕にも声を掛けていたのか』

「ごめんねクロノ君。忙しい時に」

『誰かが聞かないといけないからしょうがないさ』

 しばらくして、呼びかけた皆に集まってもらった。
 集まったのは、アリシアちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、なのはちゃん。
 そして、私たちと帝君、リニス、ユーノ君だ。
 クロノ君だけは、通信越し且つ事後処理の傍らって感じだけど、仕方がない。

「僕も魅了に関しては知ってるけど、どうして……」

「一応、男性の意見も聞いておきたくて……」

 他にもプレシアさんを呼びたかったけど、あの人もあの人で忙しそうだった。
 まぁ、リニスが代わりに伝えてくれるからいいんだけど。

『奏から優輝が倒れた事は聞いている。それ関連か?』

「優輝が倒れた!?それって本当なの!?」

「本当だよ。今はご両親についてもらってるから大丈夫。それとクロノ君、一応関係はあるけど、関連付ける程気にする必要もないよ」

 言外に“今はそれを言及してる場合じゃない”と示しながら、私は言う。

「今、私の手元には全てのジュエルシードがある。一晩回復した全魔力をつぎ込んで、私が天巫女の魔法を使えば、残った皆の魅了も解く事が出来る」

「でも、その場合さらに混乱を招く事になるわ。……一応、どうするべきか、どうしたいか意見を聞いておきたいわ」

 ジュエルシードを見せながら私が言うと、皆が驚く。
 今まで少しずつしか解けなかった、または以前まで自分が掛かっていたものを、一気に解くって言うのだから、当然だ。

「前までは、祈りの力が足りなくて出来なかった。でも、今は違う。もう、私は覚悟を決めたから、確実に魅了を解いて見せる。……行けるよね、シュライン」

〈……はい。今のマスターなら、必ず〉

 力強い私の宣言に、シュラインも同意する。

『しかし、なんでいきなり……』

「この行動のきっかけが、優輝君が倒れた事だから。……優輝君が倒れたのは、椿ちゃんと葵ちゃんがいなくなった事で、精神的負荷が限界を超えたからなんだ」

 その言葉に、誰もが少なからず驚く。
 その中でも、一番驚いたのは意外な事に帝君だった。

「あ、あいつが!?い、いや、でもあの二人がいなくなった事が、それだけ大きな事だったのか……?……まじかよ……」

『……帝の反応も尤もだな。優輝は今まで見てたら誰でもわかるが、精神的な分野で非常に強い。手が届くならば決して諦めない精神性の奴が、その精神において限界を超えるとはな……』

「皆驚くのも無理はないよ。……それだけ、優輝君は“頼れる存在”だった」

 様々な分野で、優輝君は“強かった”。
 それが実力的なものかどうかは関係なく。

『……ともすれば、逆に頼られる側である優輝が頼る存在は限られる。……だからこその、精神の限界という訳か』

「そういうことだよクロノ君。……だから、私と奏ちゃんは決意したの。今度こそ、頼るだけじゃなく、頼られる程になろうって」

「その手始めに、魅了を解くかどうかを決めたいわ」

 すぐに理解してくれたクロノ君のおかげで、説明する手間が省けた。
 そのまま本題に入る。

「どの道、このまま皆の魅了をそのままにしたらダメだとは思う。いい加減、皆も自由になって欲しいからね」

「元々魅了を解く手段があるのは優輝と司だったよね。椿が手段を用意してたみたいだけど、今となっちゃわからないし……」

「でも、どうして魅了を解く話に?」

 ユーノ君が聞いてくる。
 確かに、優輝君の話から魅了を解く話になるには動機が弱い。

「……言い方が悪くなるけど、手札を増やすため、かな。魅了は神夜君を盲信するように働きかけてくる。アリシアちゃん達ならよくわかるよね?」

「……嫌って程にね……」

「その効果のせいで、神夜君が変な行動……それこそ、また優輝君に苦労を掛けるような事をしたら、皆も便乗しちゃう。それを阻止したいんだ」

『……だから、今魅了を解こうとする訳か』

 強くなりたいと思っても、一朝一夕で成し遂げられるはずがない。
 だったら、私が強くなくても優輝君が楽できるよう、“支える手”を増やせばいい。
 そのために、魅了を解きたいという訳だ。
 また、これは優輝君に頼らずに行動するという“第一歩”でもある。

「もちろん、混乱とかもあると思う。……それを含めて、私は皆の意見を聞きたいの。この機会を逃せば、これまで通り一人ずつしか魅了を解けないと思う」

「……なるほど……」

 こう言っては何だけど、多分皆は魅了を解くこと自体には全面的に同意するだろう。
 問題なのは、このタイミングにするかどうか、という事だからね。

「さっきも言った通り、優輝君の事はきっかけに過ぎないよ。ただ単に、ジュエルシードが手元にある今の内に、後顧の憂いを断っておきたいだけ」

「これ以上の混乱を招かないために後回しにするか、そうでないかの話よ」

 私、奏ちゃんと補足するように言う。
 これは、ただの“第一歩”でしかない。
 もし、今がダメなら別の方法、別の機会を探せばいいだけ。
 ただ、それらの判断を、私自身が決めていかないいけない。

「(それぐらい、やってのけないとね)」

 そのための提案。そのための覚悟だ。
 私は、私たちは、今度こそ優輝君に頼られる程に、強くなる……!















 
 

 
後書き
主人公Love勢な転生者二人、決意するの回。
そして、ようやく魅了の全面解決に……。

ちなみに、シャマルさん以外にも治療班などがいるはずなのにシャマルさんばかり出張っているのは、他の人達が別の人を見るのに手がいっぱいで、人員を割けるのがシャマルさんだけだからという事です。シャマルさんも戦闘での負傷があるので、緊急時のみ人員として働くようになっています。 
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