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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第42話 目覚める悪魔!イッセーVSグルメ細胞

 
前書き
 遅くなってしまい申し訳ございません。今回はイッセーがコカビエルに敗れた後、彼が何をしていたのかが明かされます。 

 
side:??


「お前ヤクザなんだろう?反撃してみろよ!」
「や、やめてよ……」
「あはは、ヤクザの癖に泣いてやがるぞ。とんだヘナチョコヤクザだな!」



 駒王町にある小さな公園、そこで複数の子供が黒髪の子供を蹴ったり殴ったりして虐めていた。黒髪の子供には額に3本の傷が生まれながらあり、それが原因で虐められているようだ。


「コラーッ!イッセーを虐めるなー!!」


 そこに栗色の髪の子供が走ってきて、イッセーと呼ばれた子供を虐めていた子供の一人に飛び蹴りを喰らわせた。飛び蹴りを喰らった子供は顔から地面にぶつかり、鼻から血を出した。


「痛いよ~!鼻血出ちゃったよ~!」
「うわ、紫藤だ!逃げろー!」


 栗色の髪の子供を見たいじめっ子達は、一目散に逃げていった。


「ふん、弱虫共が情けないな。おいイッセー、大丈夫か?」
「イリナ……」
「ほら、男がいつまでも泣いているなよな」


 イリナと呼ばれた子供は、泣いているイッセーの顔をハンカチで拭いた。そして軽い力でイッセーの頭をポカリと叩いた。


「あいたっ!?」
「全く、お前はボクがいないと直に虐められちゃうのか?男の子ならやり返してみろよ」
「む、無理だよ……僕じゃイリナみたいに戦えないよ」


 イリナの叱責にグスグスと涙を流すイッセー、それを見たイリナはため息をついてやれやれと首を横に振った。


「情けないな、そんな気弱な性格だからいつも虐められるんだぞ」
「むっ、イリナだって前におかしな服装をしたおじさんにホイホイ付いていきそうになっていたじゃないか。僕がおばさんを呼ばなかったら危なかったよね?」
「そ、それは……生意気な事を言う口はこの口かーっ!!」
「や、やめてよー!!」


 イッセーにいたい所をつかれたイリナは、イッセーの頬を引っ張って黙らせた。いひゃいいひゃいと言うイッセーを無視して頬を引っ張っていたイリナだったが、流石にやり過ぎたかと思ったのかイッセーの頬を離して頭を撫でた。


「ごめん、少しやり過ぎたよ。痛かったかい、イッセー?」
「ううん、イリナはちゃんと手加減してくれるから痛くないよ」
「……そっか、じゃあそろそろ帰ろうぜ。イッセーのおばさんが晩御飯を作って待ってくれているよ、今日はハンバーグだって」
「えっ、本当に!?イリナ、早く帰ろうよ!!」
「おっとっと……そんなに慌てなくても大丈夫だってば」


 イッセーとイリナの両親は仲が良く、よく一緒に晩御飯を共にする事も多かった。イッセーは自分の好物があると聞いてイリナの手を引っ張って自分の家に走っていった。


「……なあ、イッセー」
「なぁに、イリナ?」
「ボクさ、イッセーをずっと守ってやるからさ……ずっと傍にいろよ、お嫁さんとして」
「えっ?僕男の子だよ?」
「いいじゃんか、イッセーは女みたいに弱っちいしボクがお嫁に貰ってやるよ」
「う~ん……(男の子同士で結婚ってできるのかな?)」


 イリナは男の子のような姿や喋り方をしているが、実は女の子である。だがイッセーはそれを知らずにイリナを男の事と思っている、この年頃の子に男女の違いなど曖昧でしかないだろう。


「……嫌なのか?」
「嫌じゃないよ、僕もイリナの事好きだもん(友達として)」
「!?ッじゃ、じゃあ約束しろよ。イッセーは将来ボクのお嫁さんになるんだからな!」
「うん、約束だね!」


 イリナは異性としてイッセーを意識しているが、残念ながらイッセーはそこまでの感情は持っていない。女の子は3歳から結婚に憧れるという話もあるがイッセーはまだまだ子供だった。


「じゃあ指切りな、約束破ったら針千本飲ますからな!」
「分かったよ、イリナ」


 彼らは幸せだった、こんな日常が毎日続けばいいと心から願っていた。だが現実という物はそう上手くいくものではなかった。


「嫌だ嫌だ!イッセーと離れるなんて嫌だ!!」
「イリナ……」


 イリナの家の前にはイッセーに抱き着いて泣きつくイリナと困惑するイッセー、そして悲しげな表情を浮かべるイッセーとイリナの両親が立っていた。
 イリナの父親の仕事の都合で外国に引っ越す事になったイリナ、だがそれを知ったイリナはずっと泣いてイッセーを離そうとしなかった。


「イリナ、我儘を言わないでくれ。これは仕方のない事なんだ」
「そうよイリナ、別に永遠の別れになる訳じゃないんだしまた帰ってこれるから」
「嫌だ!それまでイッセーと会えないなんて嫌だ!」


 それでもイヤイヤと首を横に振るイリナ、そんなイリナに遂にイリナの母親が怒り声を荒げた。


「イリナ!いい加減に……」
「まぁまぁ紫藤さん、ウチの息子にそこまで入り込んでくれるなんて嬉しい限りですよ。もし良かったらイリナちゃんだけでもウチで預かりましょうか?ねぇ貴方?」
「そうだな、イリナちゃん一人くらいなら面倒を見れますよ。そちらが宜しければ私達が責任をもってイリナちゃんを預かりますがどうでしょうか?」


 イリナに怒鳴ろうとしたイリナの母親をイッセーの母親が宥めた。そしてイリナを自分たちの家で預かっていいとイッセーの母親が提案すると、イッセーの父親もイリナを預かっていいとイリナの両親に話した。


「しかしそれでは神崎さん達にご迷惑をおかけしてしまいます」
「気にしないでください。紫藤さん方にはお世話になった事もありますし、もしそちらが宜しければ是非力にならせてください」
「う~ん、神崎さん方なら安心してイリナを預けられますが……どうしようか」
「イリナ、貴方はどうしたいの?」
「ふえっ?」


 母親から急に話を振られたイリナは思わず思考を停止してしまった。このまま泣いていればこの町に残れると思っていた、だがもしイッセーといる事を選べば両親とは離れ離れになってしまう。
 イリナとてまだ幼い子供だ、両親と離れるのには抵抗があるだろう。どちらか一方を選べばどちらかとは会えなくなるという選択肢にイリナは選べないでいた。


「えっと、ボクは……その……」
「……」


 そんなイリナを見ていたイッセーは、イリナから離れて自分の家に戻り机からペンダントを取り出した。それはイリナと二人で撮った写真を入れた彼の宝物だった。


「イリナ、これを上げる」
「これは……イッセーの宝物じゃないか」
「うん、前に二人で撮った写真を入れたペンダント。これがあればイリナも寂しくないと思ったんだ」
「イッセー……それってボクにここからいなくなってほしいって言ってるの?」
「違うよ、僕だってイリナと離れたくないもん。でもイリナもお父さんとお母さんと離れ離れになるのは嫌でしょ?だから約束しよう、これをいつか僕に返しに来て。そしたら僕、イリナのお嫁さんになってあげるよ」
「イッセー……」


 イッセーからペンダントを受け取ったイリナは、それを胸の前で両手で包み込むように握る。先ほどまで涙で濡れていた顔に、今は満面の笑みが浮かんでいた。


「あら……」
「ほう、イッセーがイリナちゃんのお嫁さんになるのか。それはいいかもしれないな」
「微笑ましいわね」
「ははは、イッセー君だったらイリナを任せられるな」


 それを見ていた二人の両親は、微笑ましい物を見る暖かい眼差しを二人に送っていた。


「……イッセー、大好きっ!!」
「んぐっ!?」


 イリナは感極まったのか、イッセーに抱き着くと自身の小さな唇をイッセーの唇と重ねた。一瞬しか触れ合わなかったが、二人からすれば途方もない程の時間が過ぎたように感じた。


「イッセー、絶対にボクは帰ってくるよ。だから他の人を好きになっちゃ駄目なんだからね!」
「う、うん。僕はイリナ以外の人を好きになったりしないよ(はわわ、男の子同士でチューしちゃった!でもイリナならいいかな……)」


 イリナとしては好きな男の子とチューできたと内心喜んでいるが、イッセーはズレた考えをしていた。


「またね、イッセー!」
「うん、またね。イリナ」


 こうしてイッセーとイリナは再び会う約束をして離れ離れになった。だが1年もしないうちにイリナはイッセーが行方不明になるという残酷な現実を知らされることになるとは、この時誰も知らなかった。



―――――――――

――――――

―――

 
side:イッセー


「……うーん、何か懐かしい光景を思い出したような」


 ズキズキと痛む頭を抱えながら、俺は目を開けて立ち上がった。さっき見たのは過去の光景か?そういえばイリナとあんな約束をしていたんだっけな……


「何で忘れちまっていたんだ、俺は……」


 いくら子供の頃にした口約束と言っても、イリナはきっとこの約束を覚えているに違いない。なのに俺はそれをすっかり忘れてしまい、挙句には3人も彼女をはべらせる最低の男になっていた。


「謝っても許されねえよな、最悪首が飛ぶ覚悟をしておくか。それにしても……」


 俺は辺りを見渡すがここは何処なんだ?視線の先は真っ暗な闇しか広がっておらず、どうやら俺一人しかいないみたいだ。


「俺はコカビエルと戦って負けちまったんだっけ。じゃあここは死後の世界なのか?なんてこった……」


 無様に負けて死んでしまうとは情けないにも程があるだろう、これじゃ死んでも死にきれねえよ……


『全くだな、あまりにも無様すぎて呆れを通り越して感心してしまったぞ』
「そう言わないでくれよ、ドライグ……ん?ドライグ……?」


 おかしいな、今の声はドライグなのか?いつもならグラサンかけたオッサンやどこぞの海軍大将のような声だが今の声はそういう声じゃなかった。


「誰が俺に声をかけてきたんだ?」
『俺だ』


 背後から声が聞こえたので俺は振り返る、するとそこには真っ赤な身体の鬼のような生物が仁王立ちをしていた。


「お前は……!?」


 俺はその鬼を知っていた。前にヴァーリが操るGTロボとの戦いで、俺が瀕死の状態になった時に俺を食っていた鬼だ。


『久しぶりだな、小僧』
「お前はあの時の……まさかまたオートファジーが発動したのか?」
『この世界にグルメ細胞を進化させられるような食材など存在しない、ここはあの赤蜥蜴の魂が宿る神器とやらの中だ』


 なに?じゃあ俺は神器の中の精神世界に迷い込んだって事か?にしてはドライグの姿が見えないが……


『お前の探している赤蜥蜴はそこにいるぞ』
「えっ……?ッドライグ!?」


 鬼が指した方角を見ると、そこにはズタボロになったドライグの姿が目に映った。


『グハッ……逃げろ、相棒……こいつはいきなりここに現れて俺を瞬く間にこんな状態に……』
「な、なんだって!?」


 いくらドライグが魂だけの状態になっているとはいえ、この世界であいつに勝てる奴なんて親父くらいしか知らないぞ!?


『そこそこ歯ごたえはあったが俺の敵ではなかった、所詮神に封印された赤蜥蜴などこの程度か』
「貴様、ドライグをよくも……!!」
『フン……』


 俺は鬼に向けて拳を構えた。長年一緒に戦ってきたドライグにこんなことをしやがった奴を許す事はできなかった俺は強い殺気を鬼に飛ばす、だが鬼は俺の殺気など興味無さそうに涼しい顔で受けてため息をついた。


『弱い、弱すぎるな……こんな奴が俺の宿主だと思うと反吐が出そうだ』
「俺が弱い……だと?」
『そうだ、お前は弱い。自分の体の潜在能力を半分も使いこなせていないからな』
「何を言っている、俺はジュエルミートを始めとした多くのグルメ食材を食ってきたんだ。体だって進化しているんだぞ」
『それを使いこなせていないと言っているんだ。その証拠を見せてやろう』


 鬼はそう言うと俺の体に凄まじい衝撃が走り、その場から大きく吹き飛ばされてしまった。


「な、何が……」


 胸の辺りを見てみると拳のような跡が付いており、俺は自分が今殴られたことを理解した。


「全然見えなかったぞ、一体奴はどれだけの速さで……!?」


 殺気を感じた俺は咄嗟にその場から飛びのいた、するとそこに鬼の足が振り下ろされて地面にヒビを入れた。


『遅い』
「がはっ!?」


 鬼は立ち上がろうとした俺の顎を蹴り上げた、そして体勢の崩れた俺の脇腹に鋭い三日月蹴りを放ってきた。
 俺は咄嗟にそれを腕でガードするが腕が赤黒く晴れ上がり激痛が走る。


「くっ、来い!『赤龍帝の鎧』!」


 俺は禁手を行い体に赤い鎧を纏った。ここは所謂精神世界のようなモノだから発動できるか不安だったが問題は無い様だ。


(こいつはマジで強い、不殺とか何だと考えていれば間違いなく殺される。だったら最初から全力で行くぞ!)


 俺は腕に力を込めて鬼に目掛けて突撃していく、それに対し鬼は防御する様子も見せずに仁王立ちをしていた。


「喰らえ、10釘パンチ!!」


 鬼の腹に俺の全力を込めた釘パンチを放つ。鬼はそれを受けて少しも体制を崩す事もなく衝撃を全て受け切った。


「馬鹿な……!?」


 自身が放てる最高の技を、こうも涼しい表情で受け切られた現実に俺は驚愕してしまった。


 呆ける俺の顔面に鬼の鋭い一撃が入った、鎧の顔の部分が破壊されて顔が露わになる。そこに膝蹴りを顎に喰らって俺の体が宙に舞い上がりそこに鬼の回し蹴りが追撃で放たれた。
 宙を吹き飛ぶ俺に鬼は容易に追いつき、まるで遊ぶように俺に体に打撃を放ってくる。一撃一撃がコカビエルよりも重く次第に鎧が破壊されていき、等々俺の体が全て見えるくらいまで破壊されてしまった。
 そして俺の足をつかんだ鬼は、トドメといわんばかりに勢いをつけて俺を地面に叩きつけた。


「があぁっ!?」


 痙攣する俺の頭を鬼は自らの足で踏みつけて蔑んだ眼差しで俺を見ていた。


『こんなものか?お前の本気とやらは?』
(し、信じられねえ。コカビエルなんかよりはるかに強いじゃねえか……!)


 俺は鬼との余りにもかけ離れた戦闘力の差に心が折れかけていた。


『信じられないと言った表情を浮かべているな。だが本来ならお前はこの程度で倒れ伏すような軟な体ではない、お前が倒れている原因はお前が自らの潜在能力を100%引き出せていないからだ』
「俺の、潜在能力……?」
『そうだ、お前はあの赤蜥蜴の力に頼るあまり自らの力を引き出せていない。でなければあんな鴉に後れを取ることなどなかった。お前もそれは薄々感じていたんじゃないのか?』
「それは……」


 ……悔しいがこの鬼の言う通り俺はドライグの、『赤龍帝の籠手』の力に依存していた傾向があった。禁手に至ってからはそれが更に進み、正直ドライグの力が使えなくなったらどうするんだと危惧はしていた。


(そのツケがこの結果という訳か……)


 身体を鍛えていたのは、どちらかといえば禁手の維持する時間を伸ばすためでもあった。無論それだけが目的ではなかったが自分の力のみで戦った事は初めて神器を出してから無かったかもしれない。


『ぐ、うォォォ!!』


 すると倒れていたドライグが起き上がり、鬼に目掛けて自分の腕を振るった。鬼はそれを難なくかわすと俺達から距離を取った。


『イッセー、大丈夫か?不覚を取ったがようやく傷も癒えてきた、ここからは俺も戦うぞ!』
「……悪い、ドライグ。今回は俺一人で戦うよ」


 俺は一人前に出ると赤龍帝の籠手を消して生身の状態で鬼と対峙する。


『イッセー、無茶だ!今のお前は魂が神器の中に入りこんだ精神体のようなものだ、その精神が死ぬようなダメージを受けたりすればお前がどうなるか分からない!最悪廃人になってしまうかも知れんのだぞ!?意地を張るな、ここは俺と協力してあいつと戦うんだ!』


 ドライグは必至の形相で俺に一人で戦うなと叫んだ。俺はそれを見て初めてドライグが目覚めた事を思い出していた。


「なあ、ドライグ。お前が最初に目覚めた時の事を覚えているか?」
『突然何を言い出すんだ?イッセー、今はそれどころでは……』
「お前と初めて出会ったのは俺が親父に拾われて美食屋になるための修行をしていた時だったな。あの時はグルメ細胞の力も使えこなせずに何度も死にそうになった、猛獣に殺されかけた時に死にたくないと思ったら赤龍帝の籠手が目覚めたんだよな」


 あの時はびっくりしたよな、いきなり腕に出現した籠手から声が聞こえてくるんだからさ。


「お前の第一声は『お前が今の宿主か?俺は……ってなんだこの世界は!?なんだあの生き物は!?』だったよな。あれは今思い出しても傑作だったぜ」
『そ、それは忘れろと言ったはずだろう!?』
「そんで猛獣を倒した俺が戸惑っていると、近くで様子を見ていた親父が声をかけてきたんだっけ。んでお前が親父にからかわれて怒ったお前は俺の体を乗っ取って親父に攻撃した。でも俺の体で親父に勝てるはずもなくデコピン一つで弾き飛ばされたんだったよな、痛いのは俺だったんだぜ?」
『あの時は混乱していたんだ。しまいにあの男は籠手の宝玉に触れると精神世界の中に入ってきやがった、更には魂だけになったとはいえ二天龍と謳われた俺をボコボコにしやがった。プライドがへし折れるかと思ったぞ……』


 そうそう、そんなこともあったな。最初はオラついていたドライグもあっという間に大人しくなっちまったもんな。


「それからお前と一緒に色んな猛獣と戦ったり、いろんな場所に冒険したりもしたよな。そう、俺の傍にはいつもお前がいて俺を支えてくれた。お前がいなかったらきっと俺は小猫ちゃん達と出会う前に何処かで野垂れ死んでいたかもしれない」
『お前は危なっかしい奴だったからな、白と決着を付ける前に死なれてはこちらが困る……はずだったのだがいつの間にかそんなことはどうでもよくなっていた』
「ああ、俺も同じだ」


 最初の頃のドライグは白との決着を優先して俺に元の世界に戻れとか言ったり、もっと力を使いこなすために無茶な要求もしてきた。俺も最初は正直鬱陶しい奴だなって思っていたが何年も共に過ごすうちに掛け替えのない相棒になっていた。


「俺はお前に感謝している、お前は俺にとって掛け替えの無い友人だ。でもだからこそ今は一人で立ち向かわなくてはならないときなんだと思う。いつまでもお前に頼ってばかりじゃこの先には決していけないと思うんだ」
『イッセー……』
「俺は死なないよ、ドライグ。お前やオカルト研究部の皆ともっと知らない世界を旅したいからな。だからここは俺に行かせてくれ、お前の宿主を信じてくれないか?」


 俺はドライグの顔を見つめながらそう頼んだ。ドライグは自身の大きな瞳で俺をジッと見ていたが、最後にため息をついて自分の腕を俺の前に差し出した。


『お前が頑固なのはもう知っている、そこまで言うのなら止められはしないんだろう。ならば一つだけ約束しろ、決して死ぬな』
「了解だ、相棒」


 ドライグの拳に俺の拳をコツンとぶつける、そして俺は今もなお腕を組み立ち尽くす鬼の前にまで歩いていく。


「よう、待ってくれてありがとうな」
『くだらない茶番だったな、だがさっきよりはほんの少しマシな面構えになったようだ』


 鬼は腕組を止めて拳を構える、それに対し俺もいつものように構えを取って鬼と対峙する。


「……」
『……』


 声もなく音もなく睨みあう俺達、だが先に均衡を破ったのは俺の一撃だった。空気を斬る音と共に鬼の顔目掛けて放たれた右ストレート、その一撃を鬼は涼しげな顔で喰らった。


『ふん』


 鬼の腕がブレたと思えば俺の体に鋭い痛みが走った。最早感で防いだその一撃はたったそれだけで、体中の気力と体力を根こそぎ持っていかれたような気がするほど重く響く一撃だった。


(ぐっ、意識を逸らすな……!)


 飛びそうになった意識を気合で持ちこたえさせ、迫り来る殴打の嵐に向かっていった。一発でもマトモに受ければ即死の一撃を俺は紙一重で凌いでいた。


(恐怖に飲み込まれるな、死を乗り越えろ!)


 身体は傷ついていき血が辺りに飛び散っていき、攻撃を防御する腕や足は赤黒く腫れあがっていく。それでも俺は後退はしなかった、歯を食いしばり必死で鬼の攻撃に耐えていく。


(勝機を捨てるな!喰らいつけ!)


 俺の攻撃は鬼には蚊ほども通じない、体から痛いという感覚すら感じなくなってきていた。追い込まれているのは俺のはずだが微塵も諦めるつもりはなかった。


『これで最後だ』


 満身創痍の俺に鬼は、トドメの一撃と言わんばかりの凄まじい速度の拳を放ってきた。間違いなくあれを喰らえば死んでしまうと確信する程の迫力がそれに込められていた。


(俺は負けねえ!ドライグや小猫ちゃん、オカルト研究部の皆と生きていくためにも!イリナに謝るためにも!……そして必ずGODを手に入れるためにも!!)


 悲鳴を上げる体の危険信号を無視した俺は、腕が千切れても構わないという勢いで拳を繰り出した。


「うおおおォォォォッ!!」


 技術もへったくれもない唯の突き、必死の思いで繰り出した俺の拳と鬼の拳が激突した。


『これは……』
「……」
『……』


 力と力がぶつかり合った、その結果はどちらも吹き飛んだりせずにその場で立ち尽くしていた。
 それを見たドライグが驚きの声を上げていた、何故なら鬼の一撃を受けても俺は死なずにそれを相殺したからだ。


『……どうやら多少は掴めたようだな』


 鬼はそう言うと拳を収めて戦闘態勢を解除した。


「今のは……」
『まだ100%を引き出せている訳ではないが、まあ及第点はくれてやろう。その感覚と力の出し方を忘れるなよ』


 鬼はそう言うと踵を返して何処かに去ろうとする、俺は咄嗟に鬼に声をかけた。


「待ってくれ、どうしてお前は俺を助けてくれたんだ?」
『助けたつもりはない、俺の宿主が余りにも不甲斐なかったから少し喝を入れてやっただけだ』
「そうか、でもお前のお陰でまた一歩強くなれたよ。ありがとうな」


 俺は鬼に感謝の気持ちを込めて頭を下げる、そういえば俺は彼の名前を知らなかったな。


「なあ、アンタの名前は何ていうんだ?良かったら教えてほしいんだが」
『……もう少しマシな強さを得れたら教えてやる、もう無様な真似はするなよ?じゃなければ俺がお前を殺してやる』


 鬼は俺の方を振り替えずにそう言って闇の中に消えていった。


「行っちまったな」
『しかし何だったんだ、今まであんな奴の気配など感じた事もなかったが奴はどこから現れたんだ?』
「さあな、唯一つ言えるのは俺の体の中にはドライグ以外にも何かが潜んでいるみたいだ。次に会えたら名前を教えてくれるといいな」


 俺は鬼の消えていった方を見ながら、また会えたらいいなと思った。あれだけボコボコにされたのに不思議と怒りはしなかった、でもドライグをボコボコにしたのは許せないな。何だか変な感情だぜ。


「さて、怖い鬼に喝を入れてもらったしそろそろ現実に戻るとしようぜ」
『勝てるのか、イッセー?』
「当然だ、俺はもう無様な姿を見せたりはしねえ」
『ふっ、なら今度こそあの調子に乗った鴉を地に引きずりおろしてやれ』
「ゼブラ兄の真似か?似てないぞ」
『うるさい』


 ハハッと笑った俺は両方の拳をガツンとぶつけて気合を入れ直した。


「待っていろよ、小猫ちゃん、アーシア、朱乃、裕斗、リアスさん、テリー、ルフェイ、ゼノヴィア……イリナ。今行くからな!」
 

 
 

 
後書き
 コカビエルとの決着は次回に持ち越します。後2話くらいでエクスカリバー編は終えるつもりですので気長にお待ちください。 
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