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人徳?いいえモフ徳です。

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十九匹め

「ゅー…」

シラヌイは食堂のメニューを見ながらうなっていた。

「まだ決まらねぇのか?」

「ゅ。どんな料理かわからない」

「じゃぁもうパスタにしとけ」

「うん…」

シラヌイはパスタのページを開いてクスリと笑った。

「ボーデン、決めたよ」

「おう。何にするんだ?」

「ナポリタンっていうのを食べてみたいかな」

「ナポリタンな。すいませーん。注文いいですかー」

店員が注文を取りに来た。

「ナポリタンとカルボナーラをたのむ」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

店員が注文をメモした紙を持って厨房へ。

「でよ、シラヌイ」

「なに?」

「おまえいつ帰るんだ?」

「はて何時になるやら」

「六歳になるまでには帰れよ」

「学校?」

「おう」

フライハイトは比較的教育が充実している。

中流階級の子供なら学校にやれる程だ。

シュリッセル家ほどの財力があれば王立学院に通う事もできる。

「学校ねぇ…。行かなくても支障はないかなぁ…」

「卒業資格さえ貰えれば、って顔だな」

「だって前世の記憶あるし。前世じゃこの世界よりすすんでたからねー…」

「例えば?」

「星の世界に飛び立つ船。世界の果て同士でも話せる道具。数億冊の本を封じ込めた手のひらサイズの箱」

順にロケット、携帯電話、電子辞書である。

「ほぅ?」

「あ、でも魔法のない世界だったからなぁ。
薬学や医術は進んでてもエリクシールみたいな薬はなかったね」

「へぇ…。もっと聞かせてくれよ」

「ん。いーよ」

シラヌイはボーデンに前世の…現代日本の技術や文化をざっくりと話す。

そうしている間に料理が運ばれてきた。

「わ、本当にナポリタンだ」

「どんなのを想像してたんだおまえは…」

「まぁまぁ」

シラヌイはフォークをとるとクルクルとナポリタンを巻き付けた。

「はぐはぐ……んきゅ…おいし」

「そか。そりゃよかった」

はぐはぐ……もくもきゅもきゅ…ごくん。

「ボーデン。たべないの?」

「食べるさ」

互いに無言になり、パスタを頬張っていた。

だがそこに介入する者がいた。

ソイツはとんとん、とシラヌイの肩を叩いた。

「うゅ?」

振り向いたシラヌイの頬に人差し指がささる。

そのままソイツはシラヌイの頬をぷにぷにとつつく。

「あらあら。またひっかかりましたね、シラヌイさん」

「やほー。ぬいちゃん」

シラヌイの視線の先には二人のデミヒューマン。

身長差があり、顔はそっくり…母娘であった。

小さい方は腰まで伸びる純白の髪。

その髪はウェーブがかかり、実際よりもボリュームがあるように見える。

首もとや腕や脚…顔と手以外の服から露出している部分は全て白い毛に覆われている。

そして無表情でぽやぽや…というかぽやー…っとした雰囲気を醸し出している。

大きい方は小さい方をそのまま大人にしたような感じだ。

バストは豊満で腰は括れている。

そして、二人とも頭に角があり、裸足…否足先が蹄である。

サテュロスと呼ばれる羊のデミヒューマンだ。

そして…

「お、お久しぶりですねセンマリカさん、メリーちゃん」

シラヌイの知り合いであった。







side in

『杞憂』というのは要するに『天が落ちてくる訳ねーだろバーカ』という古代中国の故事からできている言葉だ。

宇宙世紀の人なら『いや、天(コロニー)は落ちる』と言うだろうがここは異世界。

コロニーどころか人工衛星すらない。

だが、まぁ、その、なんだ…

天って落ちてくるんだな…。

「ねぇシラヌイさん。今日はお母様はどうしたの?」

「えーと…その…」

家出中ですっ! とは言えないよな…

「えーとですね…その…お母様は今日忙しいらしいので、お母様の知り合いに預けられてるんですよ、はい」

センマリカがボーデンに視線をやる。

「あら、ボーデンちゃん。元気だったかしら?」

「………………」

ボーデンはなんか、嫌な奴に会ったって顔だ。

「何の用だセンマリカ」

「あらやだ怖いわ~。同じベッドで寝た仲じゃないの~」

マジかよボーデン…。レズだったのか…

「ああ!同じベッドで寝たなぁ!学院の二段ベッドで!」

「あら~。ネタばらしが早いわよ~」

「そのネタはガキには通じんだろうが」

僕は通じるけどね。

「ところでシラヌイさん」

「なんですかセンマリカさん?」

「貴方。そんなに話せましたっけ?」

………………ヤバい。

「先ほどから受け答えが流暢ですね。
まるで、そう。まるで他者が乗り移ったか、もしくは」

センマリカさんは何故か僕の耳に口を近づけた。

「前世でも思い出したかのようですね」

「!?」

思わず椅子から降りて構えてしまった。

無意識に氷のナイフを握っていた。

「あらあら、そう怯えなくてもいいですわ。
貴方のお母様から聞いておりますもの」

なに?

「息子が前世の記憶を思い出して家出したから様子を見てきてくれ、とシェルム先生に頼まれましたの」

バラしたのか、お母様は。

俺の秘密をっ…!?

「安心していいですよ。前世の記憶があっても貴方は貴方なのでしょう?」

「…………………ええ、まぁ」

「半信半疑でしたけど、実際に話して理解しましたわ。
それに面白そうじゃないですか」

そっすか。

「ではシラヌイさんの無事も確認したことですし、シェルム先生に報告してきますわ」

「おう帰れ帰れ」

なんか、ボーデンとセンマリカさんって物凄く仲よさそう。

「あぁ、そうだシラヌイさん」

「なんですか…?」

「すこし娘を預かっていただけませんか?」

「は?」

「中身は成人なのでしょう?ならば安心できます。頼みましたよ」

そう言ってセンマリカさんは本当にどっか行った。

メリーちゃんを残して。

「えと、メリーちゃん?」

「ぬいちゃん。しっぽもふもふさせて」

メリーちゃんが抑揚の少ない声で言った。

「うん。それはいいけど何かセンマリカさんから聞いてない?」

「ぬいちゃんは本当は年上だからおもいっきり甘えていいっていってたよ」

「やべぇあの人が某最弱無敗の学園長に見えてきた」

商会のボスだし。巨乳だし。マイペースだし。

メリーちゃんが無表情キャラだから特にそう見えてしまう。

「メリーちゃん。とりあえず座ったら?」

座っていた椅子の隣の椅子を引いてから、元の椅子に座る。

「そうする」

隣の席にメリーちゃんが座った。

「ナポリタン。少し食べる?」

「たべる」

フォークにナポリタンを巻き付け、メリーちゃんに差し出す。

「かんせつきす」

「あ、ごめん。嫌だよね。新しいフォーク持ってくるから…」

「ぁむ……………おいひぃ」

「え?」

「んく…私はきにしない。むしろしてほしい。
きせいじじつ」

待て、何の既成事実だ。

「既成事実って誰に教わった?」

「おかーさん」

五歳の娘に何を教えてるんだあの人は。

「あー」

と口をあけるメリーちゃんにナポリタンをまいたフォークを差し出す。

「ぁむ……むぐむぐ………んく」

あ、これ楽しい。

それを何度か繰り返し、自分の腹もみたしつつメリーちゃんを餌付け(?)した。

「ぬいちゃん。しっぽ」

「はい」

メリーちゃんに尻尾を差し出すとぎゅっと抱き締められた。

「もふもふ…ぬいちゃんの尻尾もふもふ…」

メリーちゃんは僕が前世の記憶を思い出す前にも度々家に来ていた。

尻尾をさわられるのは初めてではない。

それで、メリーちゃんのどこが可愛いかっていうと…

「もふもふ…もふもふ…」

僕の尻尾をもふってる時にうっすらと浮かべる笑みだ。

普段無表情…というか眠そうなメリーちゃんがこの時だけは笑うのだ。

もうね!かわいくてしょうがないですはい!

「ぬいちゃんも、わたしをもふもふしていいよ」

「え?いいの?」

「………? いつもしてたじゃん」

いや、いつも互いにもふりあってたけど…

「いいんじゃねぇの? センマリカも何も言わねぇって事はいつも通りでさ。
お前のこと信用してる証拠じゃねぇか」

「ボーデン…」

「ま、もふりあうのはいいが、ここじゃ他の客の邪魔になる。出るぞ」

「ん。わかったよボーデン」

「もふもふ…いい…」

side out
 
 

 
後書き
もふもふがもふもふをもふもふしてもふもふされる光景ってもふもふじゃない?(錯乱) 
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