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ねここい

作者:あちゃ
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第11話

 
前書き
歌は世につれ 世は歌につれ、
歌い継がれる美しさがある。
今宵お届けするのは奇跡の美声。

では歌って戴きます。
蔵原竜太!
歌は…… 

 
黄昏が白い砂浜を赤く染める……
そんな格好いい台詞を思わす言いそうになる夕暮れ。
流石に海水浴(俺は泳ぎの練習)を終え、別荘と言う名のお屋敷へと帰宅する。

てっきり白鳥さん家の召使い等が、食事の支度をしてくれる物だと思っていたら、実は送迎に協力してくれただけで、島での身の回りのことは俺等でしなきゃならないと言うこと。
そう言えばクルーザーを降りてから先生以外の大人を見かけなかったな。

料理なんかした事の無い俺は、思わず先生に縋る様な目を向けた。
「ちょ、ちょっと……そんな目で私を見ないで。か、簡単な料理しか作ったことないのよ!」
いやいや、俺なんか簡単な料理も作ったこと無いんだから、遙かにマシでしょう。

「わ、渡辺さんは自己紹介の時に『趣味はお菓子作り』って言ってたし、任せても大丈夫よね!?」
「お、お菓子で良ければ作りますけど……良いですか?」
「ゆ、夕飯にお菓子はなぁ……」

「じゃぁ愛香音ちゃんは料理出来るんですか?」
「うっ……で、出来ません……」
「せ、先生は……お、お菓子でも良いかなぁ……」

「良いわけありませんわ! この島に居る間、ずっとお菓子なんて太ってしまいますわ!」
「じゃぁエレナは料理出来るのかよ?」
「そ、そうよ……エレナちゃんの家なんだし、食事の支度は任せたいわ!」

「おほほほほ。自宅でも料理は専用のシェフに任せてるのに、この別荘が我が家の物だからって料理が急に出来るわけありませんわ!」
「威張って言う事か!」

「私やりましょうか?」
女性4人が炊事の押し付け合いをしてる中、自ら買って出る者が現れた。
そう、見た目が絶世の美少女な真田さん!

「さ、真田さん……りょ、料理出来るの?」
「ステキな花嫁になる為に、バッチリ修行済みです」
は、花嫁って……まぁ深くはツッコまないけど。

別に“料理は女の仕事”とか旧時代の馬鹿が言いそうなことは考えないけど、元男の真田さんが一番乙女チックなのは如何な物なのか?
何でも出来そうな蔵原も、今回の件では何も言わないから料理は出来ないのだろう。







真田さんが作ってくれた食事のお陰で腹も膨れ一心地付く。
昼間、海で遊んだ(俺は水泳教室)ので流石に疲れているから、これから勉強なんてしたくない……けど今回の旅行には先生が一緒に来ているので、強制されるかも。
そんな考えを巡らせてると、何かを発見した蔵原が突然声を出した。

「あ! 最新式の通信カラオケがあるじゃん!」
この別荘はリビングとダイニングの仕切りが無い所謂リビングダイニングになっており、寛ぐ為のスペースたるリビングに高価そうなカラオケ機が設置されているのが見える。

「お父様がカラオケを好んでまして、年に1回行くか如何かなのに全ての別荘に設置されておりますの。しかも最新機種が発売される度に買い換えるので、一度も使わずに払い下げることも暫しですわ。そのカラオケ機も先月入れ替えたばかりですから、まだ誰も使用してないのですよ」

「じゃぁ持ち主より先に使っちゃ拙いか?」
「いいえ。先程も申しましたが、使わずじまいなんて事もあるので、気にせず利用して構いませんわ」
カラオケが好きなのか、美女を見るときのように瞳を輝かせてる。

「蔵原君……カラオケ好きなの?」
皆の思いを汲み取ってか、小林先生が代表して聞いてくれた。
「歌なら誰にも負けない」
凄い自信だな……

「リュー君は超歌が上手いのよ♡」
ピアノもギターも弾けると以前真田さんが言ってたから、相当歌も上手いのだろうとは思うが、本人がそう思っているだけって事もあるし、油断は出来ない。

かく言う俺の姉も自分では歌が上手いと思っているジャイアン体質だ。
歌が好きで勝手に歌うのは問題無いが、下手な歌を聴かされるのは勘弁して欲しい。
我が家は父も母も、そして俺も音痴な家系だ。
姉以外は音痴である事を理解しているが、アイツだけは解ってない。

蔵原のことが好きな真田さんだから歌が上手いと勘違いしてるのかもしれないけど、下手の横好きという言葉もあるから、油断はしてはいけない。
そんな身構えた状態で蔵原の動きを目で追う俺。

使用許可が下りた途端、スイスイ準備していく蔵原……手慣れた物だ。
「あれ? ギターも置いてあるけど……何で?」
カラオケ準備中に、機会の横に高価そうなギターが置いてあることに気付く蔵原。

「それはお兄様の趣味ですわ。演奏出来るのでしたら、そちらも使って宜しいですわよ」
「ラッキー☆」
白鳥さんからギターの使用許可も貰い、満面の笑みで準備を進める蔵原。

マイクスタンドにマイクを差し込み、軽くギターの弦を全て指で鳴らすと「よし、チューニングは合ってる」と一言。
聞いただけで解るんですか?

手元に置いておいた操作パッドで選曲すると……
激しくギターを弾き、演奏を始めた。
モニターを見ると“DOES”の"ジャック・ナイフ”と表示されてる。

あまり歌に詳しくないが、この曲はかなり激しい曲目な様で、マイクの前の蔵原からは爆音が轟いてくる。だが驚くのは、この爆音に負けない声量で歌う蔵原だ!
しかも言うだけあって凄く上手い。

そんなに耳が肥えてない俺にでも上手いと思える歌声。
カラオケの使用を許可した白鳥さんも驚きの表情で眺めている。
いや、白鳥さんだけじゃ無い。佐藤さんも渡辺さんも……小林先生さえも驚き聴き浸っている。

う~ん……唯でさえ歌が苦手なのに、激うまな蔵原の後に歌うのは抵抗ある。
って言うか、人前で音痴をさらけ出すことに拒絶反応。
逃げ出したい。

チラッと室内を見る。
このリビングダイニングは庭(外)と直結している造りだ。
ちょっと引き戸を開ければ、そこには満天の星空が広がるテラスへと出られる。

俺は皆が蔵原に集中してる隙にソッとテラスへと逃げ出した。
本当は女性の前で歌声を披露して好感度を上げるのがベストなんだろうけど、俺の歌声では逆効果である事は火を見るより明らかだから、今回は蔵原の独壇場にして大人しくしていよう。

しかし……俺のこれまでの人生で、これ程女子と親しくした時間が在っただろうか?
いや無いな。まさに今は青春真っ盛りって感じだ。
ただ……見た目が猫じゃ無ければもっと楽しいんだろうけどなぁ……

「おい大神は歌わないのか?」
美しい星空を眺め黄昏れてると、俺の逃亡に気付いた佐藤さんが、テラスに出てきて話し掛けてきた。
きっと蔵原なら、『美しい星空に誘われて……』的な気障な台詞を言うんだろうけど……

「俺……音痴だからさぁ。歌わなきゃならない状態になったら嫌で……」
うん。俺らしい台詞だ。
好感度云々より正直に言わねばならないだろう……この場合はね。

「正しい判断ですわ。私も音痴とまでは言いませんが、蔵原さんの後で歌うのは気が引けますもの」
「ちっ……」
俺の格好悪い暴露に答えてくれたのは白鳥さんだ。ただ佐藤さんの舌打ちが気になる。

ただ、よく見ると白鳥さんだけではなく、渡辺さんと小林先生も一緒に来ていた。
「あそこまで上手いと……ちょっとねぇ」
「愛美は歌が上手そうだが?」

「いやだから、蔵原君の後では歌いづらいわ」
「ホント。あれは反則級に上手いものね、彼。先刻(さっき)の歌、99.877点だったわよ!」
点? あのカラオケ機は点数採点もしてくれるのか。歌の途中で逃げたから、小林先生の一言が無きゃ知ることなかっただろう。

「むしろ何が悪くて100点じゃなかったのかが気になりますわ」
「でも大丈夫そうじゃねーか。あの調子だと、一度持ったマイクは離さないタイプだぞ、蔵原」
室内から漏れてくる音で、既に次の曲目に移行してる事が解る。因みに歌い手は蔵原だ。

「その方が助かりますわね。佐藤さんもそうでしょ? 貴女……中学校の頃の合唱コンクールで音程外しまくってましたものね(笑)」
「う、うるせーな!」
あぁ……仲間がここにも居た。

気が付けばテラスに設置してある円形のテーブルに飲み物を置き、星空の下で男子が俺だけの座談会が開始されていた。
何だこの夢の様な状況は?

一年前の俺が見たら羨ましくて仕様がない状況なんだろうけど、俺から見たら猫4匹だからなぁ……
一年前の視界で今の状況を味わいたい!
蔵原曰く『みんな美少女』だから、さぞ絶景なんだろうなぁ……



 
 

 
後書き
歌に国境は無いけど、
時と場合を加味して歌った方が良い。

古畑任三郎の様に、
結婚式でサン・トワ・マミーなんてダメだゾ。 
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