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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【寄る辺ない気持ち】

 
前書き
【かつての面影】の続きのようなものですが、読まれていなくてもさほど問題ないと思います。ネジ生存ルートでナルトがサスケやボルト、影達によって奪還された後の、ヒマワリの心情を中心にした話。
モモシキ戦前後のアニボルについても内容的に触れています。あくまで私的見解ですのでご了承下さい。 

 
「──⋯あ、ハナビ、今大丈夫かしら」

 まだ暑い日が続く夏場の午後、ヒナタは自宅から実家に電話を掛けていた。

『えぇ大丈夫よ、どうしたの姉様』

「ヒマワリがネジおじさんの家に一人で行きたいって言ってるんだけど、一人だと道中心配で……。私も一緒に行くわって言っても、ママは一緒じゃなくていいのって言うし……。ネジ兄さんの家に行かせるのにネジ兄さん自身を呼ぶのもどうかと思って、ハナビにヒマワリをお願いしたいんだけど──」

『……判ったわ、少ししたら迎えに行くから待ってて』


 ハナビは日向家からうずまき家に向かう前に、離れの従兄の自宅に寄る。

「ネジ兄様、ちょっといいかしら」

 ハナビが玄関から呼びかけると、藍色の着物姿のネジが奥から出て来る。

「どうした、ハナビ」

「ヒマワリがネジおじさんの家に一人で行きたいって言ってるらしくて、さっきヒナタ姉様から連絡がきたの。だけど一人で行かせるのは道中心配らしくて、今私が迎えに行く所なんだけど……都合が悪かったら私から断っておくけど、兄様どうする?」

「都合は悪くないから構わないが……、ハナビが行かなくとも俺が迎えに行くか、ヒナタがヒマワリと一緒にこちらに来ればいいと思うんだが」

「ヒマワリが、ママと一緒じゃなくていいって言ってるらしくて。ヒナタ姉様からしたら、兄様の家に行かせるのにネジ兄様自身を呼ぶのもどうかと思って私の方に連絡寄こしてきたみたい」

「そうなのか……。それなら悪いがハナビ、ヒマワリを迎えに行ってくれないか。俺は和菓子でも用意しておくよ」

「えぇ、任せて」




「──ネジおじさーん、おじゃましまーす!」

 玄関から従姪の明るい声がした。

「いらっしゃい、ヒマワリ。元気にしてたか?」

 ナルトが奪還された後、しばらく会っていなかったので顔が見れて嬉しく、ネジはヒマワリの頭を優しく撫でる。

「……うん、元気にしてたよ」

 その言葉と裏腹に、ヒマワリは俯いたままネジにぎゅっと抱きつく。


「じゃあ、私は自分の家に戻るわね」

 ハナビがネジの自宅から離れようとした時、ヒマワリが呼び止めた。

「ハナビお姉ちゃんにも、いてほしいの」

「え、いいの? ネジおじさんだけに話したい事があるんじゃないのヒマワリ」

「…………」

 ヒマワリは寂しそうな表情で、黙ってしまった。

「ヒマワリがハナビにも居てほしいと言ってるんだ。……その通りにしてあげてくれないか」

「えぇ、いいわよ。ネジ兄様と一緒にお姉ちゃんもヒマワリの傍に居るからね」

「うん、ありがとうおじさん、お姉ちゃん」



「──⋯あのね、ママのこと……なんだけどね」

 ヒマワリはネジが出してくれた和菓子を少しつまんだあと、ぽつりと呟くように話し出す。

「ママは……、わたしのこと、きらいなのかな」


「何言ってるのヒマワリ、そんなわけ──」

 ネジはハナビに視線を送って言葉を遮り、ヒマワリに静かに話しかける。

「……どうして、そう思うんだ?」

「だって……、わたしのこと置いてったり、ママ怪我しちゃって病院にいた時、ずっとパパのことばっかり心配してた。お兄ちゃんがパパのこと助けに行ったあとだって──。わたしのこと……どうでもいいのかな」

 泣き出したりはしないものの、俯いて消え入りそうな声で話すヒマワリは、見ていて痛々しいものがあった。


「あの時私は別の場所に居て、避難誘導していたけど……ヒマワリの傍には、ネジ兄様がいたのよね」

「あぁ……、ヒマワリは俺に預け、ヒナタは単身ナルトを助けに向かって行ってしまったからな」

 母親として、決して褒められた行動ではないとネジもハナビも感じていた。

……ヒマワリはそんな二人の会話を気にするでもなく話し続ける。

「パパとお兄ちゃんが帰ってきた時、ママはすぐパパに抱きついたの。次はお兄ちゃんに抱きついてたけど……ケガしてるお兄ちゃんのこと、心配してあげたらよかったのに。わたしのことも、抱きしめてほしかったのに──」

 独白ともとれるヒマワリの言葉に、ネジとハナビは余計な事は言わず静かに耳を傾ける。

「……昨日ね、パパが、かげぶんしんじゃないので帰ってきてくれてね、ケーキ買ってきてくれたんだよ。お兄ちゃんとわたしの誕生日すぎちゃったけど、またお誕生会してくれたの」

 そこでヒマワリはようやく笑顔になったが、すぐまた寂しげな表情になる。

「お兄ちゃんとパパが楽しそうにしてたから、わたしも一緒に遊びたかったんだけど、ママが急に怒って『いい加減にしなさい、ケーキ片付けちゃうわよ!』って言ってきた時にね……ケーキぐしゃあって落ちちゃった時のこと、思い出しちゃったの。わたしの誕生日にケーキ、食べれずに片付けられちゃったこと。
──昨日のママは怒ったあとすぐ笑い出して、ケーキ片付けちゃうって言ったのは冗談のつもりだったのかもしれないけど、わたしは……嫌だったな。パパがまた買ってきてくれたケーキはちゃんと食べれて、おいしかったけど……」

 ナルトが疲労困憊の影分身でやらかしてしまった事はネジもハナビもヒナタから聞いていたが、子供二人の誕生日会仕切り直しの場で流石にケーキ片付けちゃう発言のヒナタは軽率だと感じた。

「ママがパパのこと大好きなのはわたしにもわかるよ、わたしだってパパのこと大好きだし……。でもママのほうがずーっと大好きなんだよね、パパのこと。ママってきっと……そういう人なんだよね」

 ヒマワリはどこか悟ったような、それでいて諦めたように話した後、それ以上何も言わずに黙ってしまった為ハナビはいたたまれなくなってヒマワリをぎゅっと抱きしめる。

「怖かったわね……寂しかったわねヒマワリ、ごめんね……」

「ううん、いいの。もう大丈夫だから……。ネジおじさんとハナビお姉ちゃんに話したら、ちょっとすっきりしたから」


 ヒマワリはその後、ネジとハナビの提案で一緒に美味しいクッキーを作る事にし、ネジの家で食べる分と自分の家に持って帰る分とを作り、焼いて冷まし出来たてのを三人で一緒に頬張っていると自然と笑顔がこぼれた。

……帰りはネジがヒマワリを自宅に送って行った。

出迎えたのはヒナタと、下忍の任務から帰っていたボルトだった。

ネジはヒナタにヒマワリの事で話したい事があったとはいえ、これからうずまき家は夕食時なのでまたの機会にしておく事にした。

夕食を共にする誘いを受けたが、今回は断っておいた。ヒマワリのあの話を聴いたばかりでは、どうにも落ち着いて話が出来そうにはなく、ネジは小さく溜め息をつき自宅へと戻った。





「──⋯よう、ネジ。今ちょっといいか?」

 夜も更けてきた頃、ナルトがネジの家にひょっこり顔を出した。

「どうしたナルト。影分身…の方なんだろう?」

 均等なチャクラの流れで形成された影分身を白眼では本体を見分ける事は出来ないが大体、本体は火影室に缶詰め状態なので影分身なのだろうと察する。

「あぁ、そうなんだけどよ……少し話してぇ事があってな。そういや色々あり過ぎて言いそびれちまってたけど、大筒木の奴らが襲撃して来た時にヒマワリの事、ヒナタの代わりに守ってくれてありがとうな、ネジ。途中までは、ヒナタの事も守ってくれてたんだろ?」

「まぁ、そうなんだが……ナルトの元へ駆け戻って行くヒナタを制止出来なかった俺にも非はある」

「んな事ねぇって。……あの場は敢えて連れて行かれる事にしたから意識はあったんだけどよ、ヒナタが単身戻って来た時は流石に驚いたっつってもヒマワリの事はどうしたんだって思ってる内に、一撃で敵に吹っ飛ばされちまって……。サスケはサラダとボルトを守ってくれてたし、その場にいきなり来たヒナタまで守る余裕なんてねぇからな。──ペイン戦の事一瞬思い出しちまったが、あの時とは違って俺はもう火影だ。感情に流されて暴走するなんて事はしねぇし、ヒナタも火影の妻としての自覚くらい持っててほしかったんだけどな……それに優先して守るべきなのは俺じゃなくて子供だろ。ヒナタのああいう所は昔っから変わってねぇのには正直呆れちまった」

「そう…だろうな。……ナルト、ヒマワリの事なんだが──」

 ネジは、ヒマワリがちょうど今日家に来て話していった事をナルトに聴かせた。



「ヒマワリが……そんな事言ってたのか……。ネジとハナビだから、話せたんだろうな……」

 ナルトは苦しげな表情になる。

「ヒナタの自分本位なとこ……、ほんとに昔っから変わってねぇんだよな。俺の事も結局信じてくれてねぇっつーか……。信じてくれてたら、あの場は俺に任せてヒマワリの事守ってるはずなんだ。流石に子供の事はちゃんと考えてほしいんだけどよ……まぁ俺だって人の事言えねぇ部分はあっけど」

「こんな事を言ってしまうのは酷かもしれないが……、ヒナタは母親にはなりきれないのだと思う。ナルトの前では、未だに一人の女としてしかいられないんだろう」

「あぁ、それな……。今一度ちゃんと話し合っとかねぇとな」

「何なら、俺から言って聴かせるか?」

「……いや、今度二人でじっくり話せる時に俺から直に言って聴かせる。影分身じゃ説得力ねぇしな……。すまねぇなネジ、いっつも心配かけて」

「それくらい構わない。……心配くらいはさせてくれ」

「おう、ありがとな義兄(にい)ちゃん。……そんじゃ、本体に戻って仕事に専念するってばよ!」

 ボンッといつもの音を立て、ネジの家からナルトの影分身は消えた。



《終》


 
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