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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第37話 教会の闇、祐斗の過去とイッセーの幼馴染

side:祐斗


 イッセー君とイリナさんと同じチームを組んだ僕は、現在駒王町の見回りをしている最中だ。僕たちは闇夜の中、怪しい場所や人気のない場所を捜索しているんだけど未だに成果はない状況だ。気が付けばもうすぐ朝日が昇る時間になっていた。


「コカビエルという奴はよほど用心深い奴なのかもしれないな」
「どうしてそう思ったんだい?」
「血の匂いでもするかと思ったが俺の嗅覚でも変わった匂いを感じることが出来ない、これは徹底されているな」


 イッセー君の嗅覚は警察犬をも凌ぐ精度を持っている、そのイッセー君でも匂いを嗅ぎ取れないという事は敵はかなり手ごわいという事なんだね。


(しかしいくら匂いを消したといっても、俺の嗅覚でも捕らえられなくすることなんてできるのか?グルメ界には匂いを消して俺でも嗅げないぐらい無臭にしてしまうフラグレンスなどもある。だがここはグルメ界じゃない、だからそういった道具を使ったとは思えないが……)


 イッセー君は右手を顎に添えて何かを考えこむようにしていた。どうしたのか気になって声をかけようとしたけどイッセー君は急に透明になるリングを付けて姿を消してしまった。


「イ、イッセー君?」
「静かに……誰か近づいてくる」
「えっ?」


 イッセー君がそう言った2分後に何者かが空から降りてきた。


「よう、木場」
「匙君!」


 空から降りてきたのはソーナ会長の眷属である匙元士郎君だった。


「姫島先輩から話を聞いたから会長の指示で町の見回りを交代しに来たんだ。そっちの姉ちゃんが教会の使いか?俺は匙元士郎っていうんだ、よろしくな」
「紫藤イリナよ、よろしくね」


 イリナさんに自己紹介した匙君は次に僕に話しかけてきた。


「交代するって言っていたけど詳しく教えてくれるかな」
「グレモリー先輩と会長が話し合って俺たち生徒会が朝から夕方までの見回りをすることになったんだ。俺は木場達に交代を伝えるために来たって訳さ、塔城さんたちの方には花戒が向かったぜ」


 なるほど、僕たちが夜間の見回りをして生徒会が昼間の見回りに当たるんだね。コカビエルがこの町に潜伏している以上一瞬も気は抜けないとはいえ休みもなしに見回りを続けるのは悪魔でも厳しいからね。


「それで何か発見は出来たのか?」
「いや、僕たちの方では何も発見できなかったよ」
「そうか、敵は見つかっていないのか。まあ今から俺たちが見回りをするから木場達は休んでくれ」
「そうだね、よろしくお願いするよ」


 ここからは匙君に任せて僕たちは休息を取ることにした、イッセー君は姿を消しているので匙君は気が付いていないが彼は僕たちの背後で静かにしていた。


「それにしてもよ、木場ってあんなに強かったんだな」
「えっ、急にどうしたの?」
「いやさ、俺前に会長たちと一緒にグレモリー眷属とライザー眷属のレーティングゲームを見たんだけどほとんど圧倒して勝ったようなものだったからスゲェなって思ってたんだ。一体どんな特訓をしたらあそこまで強くなれるんだ?」
「えっと、まあ企業秘密で……」


 一瞬何度も地面に叩きつけられたり吹き飛ばされたりするのを繰り返したり、10倍の重力の中格上の存在と死闘をしたりすれば自然と強くなれるよと言いそうになったけど止めた。


「でももしグレモリー先輩と会長がレーティングゲームをすることになったら、その時は俺たちが勝たせてもらうからな!」
「あ、うん、お手柔らかにね」


 どうやら匙君は僕をライバル視しているようだね、まあ同期では数少ない男性眷属だし親近感が湧くのかな?イッセー君は眷属じゃないからね。


「へー、木場君ってそんなに強いんだ。私もちょっと興味が湧いてきたかも」
「イリナさんは強くなりたいの?」
「勿論よ、強くなって主の為に戦うのが私たちエクソシストなんだから!……それに強くなくちゃ大切な人は守れないもん……」


 ……?最後の辺りから声が小さくなって聞こえなかったけどイリナさんが悲しそうな顔をしていたような気がした。


「大丈夫だぜ、紫藤さん!俺がいればコカビエルだろうとなんだろうとどんな敵が出ても怖くなんかないさ!俺は会長に期待しているって言われた男だからな!」
「あはは、じゃあ頼りにしているわね」


 匙君はどうも可愛い女の子に弱いようだ、イリナさんにカッコイイところをアピールしているし部長が匙君を褒めた時もデレデレしていたからね。まあ年頃の男の子だししょうがないとは思うけど慢心するのはいけないことだ。


「匙君、自分に自信を持つのはいい事だけど相手の強さを見誤ったら駄目だよ」
「何だよ、木場。お前随分と弱気なんだな」
「弱気の方がいいくらいさ、その方が危険を察知できるからね」


 匙君は悪魔になって自信が付いたようだけどちょっとその力に過信しすぎている傾向がある、僕もある目的の為に部長の眷属になったがその時悪魔の身体能力を実際に体験して己惚れていた部分があった。更に自分より弱い相手とばかり戦っていて天狗になっていたのかもしれないと今なら思う。


(でも僕の知らない所で自分より強い存在なんていくらでもいたんだ)


 イッセー君と出会ってから僕は自分よりも格上の存在を何回も目にしてきた、昔の僕は自分の実力を見誤った道化……まさに井の中の蛙大海を知らずということわざ通りの男だった。
 そんな僕だったけどイッセー君やココさん、サニーさんたちといった強者やグルメ界の過酷な環境を乗り越えたり屈強な猛獣たちと戦いを繰り広げることで成長できたと思う。もしイッセー君と出会っていなかったら聖剣使いのゼノヴィアさんやイリナさんを見た瞬間に怒りで視野が狭くなってしまっていただろう。
 匙君の気持ちはよくわかる、強い力を身につければ人は傲慢になりやすい。でも己惚れるのと自信があるとでは全く違う、出来れば彼には冷静な判断をしてもらいたいと思ったんだ。


「まあ安心しろよ、無茶する気はねえからよ。俺はある目的を果たすために会長の眷属になったんだからこんな所で死ぬわけにはいかねえんだ」
「匙君の目的?よく分からないけどそれだけの意気込みを見せるって事は相当強い思いが込められた目的なんだね」
「おうよ、俺の人生の目標だからな。それじゃ俺はそろそろ生徒会のメンバーたちと合流して町の見回りに入るな」
「うん、気を付けてね」
「頑張ってね、匙君」


 匙君と情報を交換して彼は去っていった、すると透明状態になっていたイッセー君が姿を現した。


「あいつがソーナ会長の新しい眷属か。少し調子に乗っているな、まるで昔の俺を見ているみたいだ」
「えっ、イッセー君も調子に乗っていた時期があったの?」


 戦いの時は冷静なイッセー君が匙君みたいに調子に乗っていた時期があった事を知って僕は驚いた。


「俺だってまだ17歳のガキさ、昔よりはマシになったが当時は酷かったぜ。自分の力を過信して猛獣に殺されそうになったことも何度もある」
「意外だね、君にもそういう時期があったんだ」
「ああ。だからあいつを見てると少々危なっかしく思っちまうんだ。何とかしてやりたいがあいつはソーナ会長の眷属だから接触できないしな……」
「……ふふっ」


 匙君に何かしてあげられないか考えるイッセー君を見ていて、僕は自然と笑みを浮かべてしまった。イッセー君は本当にお人よしなんだなって思うよ、何の接点もない匙君の事を心配しているんだからね。
 でもそういうイッセー君だから小猫ちゃんが好きになったんだと思う。昔の小猫ちゃんは人見知りが激しくて眷属以外の人とは話すのが苦手だった、でもイッセー君はそんな小猫ちゃんに手を差し伸べて勇気を与えてくれた。そして部長や朱乃さんもイッセー君を信頼していくようになった、勿論僕もね。


「あのー、もうそろそろいいかしら?」


 あ、しまった。ここにはイリナさんもいたんだった、もしかして僕たちの会話を聞かれちゃったかな?


「猛獣がどうとか言っていたけどどういうなの?」
「ああ、漫画の話さ。俺は漫画やアニメを好んで見ているからそう言う話をしていただけさ」
「へー、兵藤君は漫画とか好きなんだ。私も小さい頃はよく読んでいたなぁ」


 イッセー君が上手い事誤魔化してくれたので何とか話を逸らすことが出来た。その後はイッセー君の家に戻り小猫ちゃんたちと合流した。


「お帰りなさい、イッセー先輩!」


 既に小猫ちゃんたちは帰ってきていたようで、イッセー君の姿を見た小猫ちゃんが勢いよく彼の胸に飛び込んだ。


「ただいま、小猫ちゃん。そっちは何か収穫はあったか?」
「いや、残念ながらこちらでは何もつかめなかった」


 ソファーに座っていたゼノヴィアさんがイッセー君の質問に答えた。よくみると彼女の膝を枕にしたアーシアさんがソファーに横たわって眠っていた。


「アーシアは寝てしまっていたか、もう朝方だし無理もない。シャワーでも浴びて皆も眠った方がいいだろう」
「あ、なら私がお風呂を焚いておいたので入ってください。私とゼノヴィアさんとアーシアさんは先に入りましたので後は先輩方だけです」
「おお、それはありがたい。ありがとうな、小猫ちゃん」
「えへへ……」


 小猫ちゃんはイッセー君に頭を撫でられて嬉しそうに笑った。


「じゃあ先に紫藤から入ってくれ、俺と祐斗で最後に入るからよ」
「分かったわ、日本のお風呂なんて久しぶりね~」


 その後はゼノヴィアさんとアーシアさんが用意された部屋で就寝してイリナさんがお風呂から出てくるまで僕とイッセー君はゲームをして遊ぶ事にした。小猫ちゃんの姿が見えないけどもう寝ちゃったのかな?


「はあ~……良いお湯だったわ」


 お風呂から出てきたイリナさんがリビングに来た、肌はほんのりと赤くなってちょっと色っぽい。


「紫藤、湯加減はどうだった?」
「もう最高だったわ、やっぱり日本のお風呂は最高ね。ずっとシャワーばかりだったからなおさらだわ」
「随分と風呂に慣れているようだが紫藤は日本暮らしの経験でもあるのか?」
「うん、小さい頃はこの町に住んでいたの」
「!?ッ……そうか、なら久しぶりの風呂に入れてよかったな」


 おや、一瞬イッセー君の表情が歪んだような気がしたけど気のせいだったかな?


「よし、じゃあ俺たちも入ってさっさと寝るか」
「そうだね、それじゃイリナさん、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」


 僕たちはイリナさんと別れて浴室に向かった。


「うわ~、結構広いんだね」
「広い風呂が好きだからちょっと奮発してみたんだ。結構いい出来だろう?」


 イッセー君の家には地下室があり浴室は地下にあったんだけどちょっとした銭湯みたいだね。


「よし、じゃあ最初に体を洗うか。祐斗、俺が背中を洗ってやるからそこに座れよ」
「えっ、いいのかい?」
「偶には裸の付き合いをしてもいいだろう?遠慮すんなって」
「……じゃあお願いするね」


 イッセー君に背中を洗ってもらい、次に僕がイッセー君の背中を洗う事になった。イッセー君の背中は傷だらけでとても大きかった。


「イッセー君、レーティングゲーム前の合宿でも思ったけど身体中傷だらけなんだね」
「ああ、美食屋の修行はかなり厳しいものだったからな。IGOが所要するビオトープで生活したりコロシアムで戦ったりしたこともある」
「コロシアムってマンサム所長と出会った第1ビオトープにあったアレのこと?イッセー君は昔から凄い事をしてきたんだね。でもどうしてそこまでそこまで過酷な修行をこなせたんだい?辛くはなかったの?」


 僕はついそんな質問をしてしまった、僕が受けてきた修行もかなりハードなものだったけど、イッセー君が昔受けた修行はそれ以上に過酷なものだと彼の話から推測できた。でもそんな過酷な試練を幼かったイッセー君がどうやって乗り越えたんだろうとふと思ってしまったんだ。


「……そうだな、あの頃の俺は空っぽも同然だった、俺は親父に拾われて暫くは錯乱状態にあったらしいんだ、少し立って落ち着きはしたが何をするにも無気力で本当に唯生きているだけだった。自殺も考えたが結局できなかったよ、親父に止められたんだ」
「それは……」


 ……無理もないよ、両親を失ったという悲しみを背負ったイッセー君がいきなり今みたいな前向きな性格になれるはずがない。苦しくて悲しくてどうしようもなかった時にいきなり異世界に来てしまえば混乱するのも無理はない話だ。
 

「そんな俺を親父は見捨てなかった。兄貴たちに紹介してくれたり慣れない子育てを一生懸命してくれた。そんな親父を見ていて俺は次第に心を許すようになっていた、全てを失った俺にとって親父はまさに生きる希望だった」
「……」
「親父には夢があった、それはいつか世界中の人々から飢えが無くなり平等に食べ物が食べられる世界にしたいっていう途方もない大きな夢だった。実際にそれはグルメ界でも難しい事だ、あの世界でも貧困の差は存在している、並大抵の事では果たせない。でも俺からすれば親父の夢が凄く輝いて見えた、俺も親父の力になりたいと思って美食屋になったんだ。俺はいつか必ずGODを手に入れて親父の夢を叶えて見せる」
「……それがイッセー君の夢なんだね」


 ……話を聞いて良く分かった、僕たちはよく似ているんだ。空っぽだった自分に生きる目的をくれた人がいる事、誰かの為に叶えたい夢があるという事……でも僕の叶えたい夢、いや目的はイッセー君みたいな輝いたものじゃない、それとは真逆のどす黒い身勝手な欲望だから……


「……なあ祐斗、そういうお前は辛くないのか?」
「えっ、何が?」
「……復讐したい対象がすぐ側にいるのにそれを果たせないことがどれだけ辛いのか、俺には理解できないが相当苦しいものなんだろうな」


 ドクンッ……イッセー君の言葉を聞いて僕の心臓は強くなりだした。呼吸も荒くなり動揺してしまう。


「ど、どうして……」
「悪いな、お前の過去の一部はリアスさんから話を聞いたんだ。お前が昔、聖剣と何らかの因縁を持ったとな」
「……部長が僕の事を」
「リアスさんを責めないでやってくれ。あの人はお前の事を本当に案じているんだ、本当ならお前から話があるまでは聞かないでくれと頼まれていたがそれを破ったのは俺だ」
「……イッセー君、僕は君と似ていると思っていたんだ。大切なものを失った事、生きる希望を無くして絶望していた事、そして生きる目的をくれた人がいる事……だから僕は初めて君を見た時に気になっていたんだと思う、自分と同じ思いを持った人間がいるって無意識に感じ取ったんだと思う」


 初めてイッセー君と出会った時、僕は無意識にイッセー君と自分と同じものを感じたんだと思う。だから1年の時からイッセー君を目で追い続けていたのかもしれない。でも今分かった、僕は彼と違う、一緒にするのだっておこがましい、だって僕がしたい事は復讐だから……


「君には知られたくなかった……こんな汚い僕を、嫌われるのが怖かったんだ……」


 僕はポロポロと涙を流して泣き出してしまった。イッセー君は命を大切にしている、前にテリーの母親を遊びで殺したGTロボに凄まじい殺気を送っていた。あの時はGTロボにやられていたから意識が朦朧としていたけどそれだけはハッキリと伝わった。
 そんなイッセー君に僕の目的が復讐という命を奪う行為だと知られれば嫌われると思っていた、それだけはどうしても嫌だった。だってイッセー君は僕にとって初めて出来た親友だから……


「……祐斗」


 イッセー君に声をかけられて僕は心臓が止まりそうなくらい動揺した。何て言われるんだろう、失望したって言われるのかな?突き放されてしまうのかな?そんなマイナスな考えが頭の中に過っていたが、不意に頭に何かが当てられた感触があった。


「イッセー君……?」


 僕の頭に置かれていたのはイッセー君の右手だった。彼は優しく僕の頭を撫でながら悲しそうな表情を浮かべた。


「悪かった、俺がもっと早くお前の事を気にしてやれていたらそこまで思い悩むことは無かったのに何もしてやれなかった。これでダチだなんて言える訳ないよな」
「イッセー君……」
「でもよ、祐斗。俺はお前が復讐したいと思っているのなら俺は力を貸すぜ」


 僕はイッセー君の言葉に驚いてしまった、命を大切にするイッセー君が復讐に手を貸してもいいだなんて言うとは思ってもいなかったからだ。


「確かに俺は食う目的以外で命を奪う事はしないというルールを持っている。だがそれは俺のルールだ、お前がそれに付き合う必要はねえ。それにダチが困っているのなら手を貸すのは当たり前だろう?俺たちは仲間なんだから。だからもう泣くな、男は人前で涙をみせるもんじゃねえぜ。ダチには笑っていてほしいからな」
「イッセー君……」


 嬉しかった……復讐という狂った目的を果たそうとする僕を、イッセー君は受け入れてくれた、力になると言ってくれた。こんな素晴らしい仲間を持てた事に心から感謝した。


「イッセー君、僕、僕はね……」
「だ、駄目です―――――――っ!!」


 僕がイッセー君に自分の秘密を話そうとしたその時だった、湯船から勢いよく水柱が上がったかと思ったらそこに現れたのは湯着を着た小猫ちゃんだった。


「小猫ちゃん、何でここにいるんだ!?」
「先輩、いくら何でもそれは駄目です!BLなんて絶体駄目です!先輩には私がいるじゃないですか!もし先輩がそういう事をしたいのであれば私が受け止めますから!」
「何を言ってるんだ!?こ、こら、くっつくなって!」
「男同士なんて駄目です――――――っ!!」


 小猫ちゃんがイッセー君に詰め寄りイッセー君にしがみ付く、僕たちは湯着を着ていないのでイッセー君は下半身をタオルで押さえて隠してるんだけど興奮した小猫ちゃんがそれを引きはがそうとする。


「ほら、私がお相手をさせていただきますから素直に女の子が良いって言ってください!」
「とにかく落ち着いてくれって!ここには裕斗もいるんだぞ!ちょっ、おい、あ、マズい!あ……」


 イッセー君がタオルを落としてしまいイッセー君の下半身が露わになってしまった。や、やっぱり大きかったね。


「す、凄い……こんなの入るのかなぁ?」
「小猫ちゃん、今そんなことを言っている場合じゃないと思うけど……イッセー君、大丈夫かい?」
「……き」
「き?」
「きゃ――――――――ッ!小猫ちゃんのエッチ―――――――ッ!!」


 本来女の子が言うはずの台詞を言いながらイッセー君は倒れてしまった。












「うう……誰にも見せたことないのに……」
「ごめんなさい、イッセー先輩……」


 気絶したイッセー君の身体を拭いて着替えさせた後、イッセー君の部屋に彼を連れてきた僕と小猫ちゃんは氷の魔剣を使ってイッセー君の頭を冷やしていた、しばらくするとイッセー君が目を覚ましたんだけど意識を取り戻した途端、さっきの光景が頭の中によみがえったらしくて今は部屋の隅で体操座りをしている状態だ。


「小猫ちゃん、どうして湯船の中に潜んでいたの?」
「……その、祐斗先輩の様子がちょっとおかしかったので何かあったんじゃないかと思ったんです。きっとイッセー先輩と二人でなら話すと思ってこっそり先回りをして待っていたんですけど、二人が急に顔を近づけさせるものだからてっきりキスしようとしてたのかと思ってつい……」


 前半だけなら素直に感動できたんだけどどんな勘違いをしたらそう思うんだろうか……


「小猫ちゃん、僕はイッセー君に友情は感じているけどそういった感情は持っていないよ」
「ほ、本当ですか?目をトローンとさせて今にもキスしそうな雰囲気でしたけど……」
「ち、違うよ!僕はそんなことしようとしていないよ!」


 た、確かにちょっと顔が熱くなっていたけどあれはお風呂の熱だよ!そうに違いない!僕は親友によこしまな感情を持ったりはしないんだ!


「……まあ話は分かったよ。小猫ちゃんも僕の事を心配してくれていたんだね」
「はい、祐斗先輩は大事な仲間ですから」


 イッセー君だけでなく小猫ちゃんも僕を心配してくれていたんだね。部長も気にしてくれていたみたいだし朱乃さんやアーシアさんも話を聞けばきっと力になってくれるだろう、そんな素晴らしい仲間たちを持てて僕は本当に幸せだと思った。


「祐斗の為に動こうとしたのは分かったけど、もうあんなことはしないでくれよ?」
「はい、ごめんなさい、イッセー先輩……」


 自分の勘違いでイッセー君に恥ずかしい思いをさせてしまった事に、小猫ちゃんはシュンッと落ち込んだ様子を見せる。そんな小猫ちゃんの頭をイッセー君は優しく撫でた。


「祐斗、さっきは話を中断させちまって悪かったな。もし良かったらここでさっきの続きを聞かせてくれないか?」
「私からもお願いします、祐斗先輩の過去を知りたいんです」


 真剣な眼差しで僕を見る二人、いつか話そうと思っていたが等々話す日が来たようだ。でもこの二人なら安心して話せると今なら強く思う。


「今から話すのは僕の過去、仲間を無残に失って逃げ延びた一人の男の話さ……僕は生まれながらにして両親がおらず教会の施設に引き取られたんだ。そこには僕以外にも集められた子供たちがいて数年間は彼らと共に過ごした、そしていつしか家族とも言える位の絆で結ばれていた」
「祐斗もアーシアみたいに拾われて育ったのか」
「うん、でもそこは唯の施設じゃなかったんだ。イッセー君は『聖剣計画』って知ってるかい?」
「いや、知らないな」
「私も知らないです」


 流石にイッセー君でもあの忌まわしき計画については知らなかったみたいだね。


「じゃあますは聖剣について話そうか。イッセー君は聖剣といえばどんなものを思い浮かべる?」
「そうだな、聖剣といえばやっぱりエクスカリバーだろう。あとはデュランダルにアロンダイト、ガラティンにレーヴァテインってところか」
「日本で有名なのは天叢雲剣とかありますね」
「そんな所だね、でもそれらの聖剣は選ばれた者しか使えないんだ。適応する人間じゃなければ持つことすら許されない、聖剣計画というのはそれらの聖剣を誰でも扱えるようにするための研究の事さ」
「なるほど、お前はその計画に関わっていた実験体だったんだな」


 イッセー君の言葉に僕は頷いた。


「でも僕は聖剣に適応することが出来なかった、僕以外の仲間も全員が聖剣を持つことは出来ず教会からは失敗作と判断されて処分されることになった」
「それって……」
「殺されかけたのか……」
「うん、あの日の事は忘れもしない、あいつらは僕たちを毒ガスで皆殺しにしようとしたんだ。でも当時僕たちのリーダー格だった男の子が僕たちを毒ガス室に連れていこうとした教会の人物に襲い掛かったんだ、その子は僕たちに「逃げろ!」と言った、僕たちはその隙をついて施設から逃げようとした。でも仲間は次々に捕まっていき逃げきった時には僕一人だけが生き残っていた……」
「……」


 僕の話を聞いていたイッセー君と小猫ちゃんは言葉を失っていた、特にイッセー君は静かな表情を浮かべていたが彼の拳は血が出るほど強く握られていた。


「実験の影響で衰弱していた僕は瀕死の状態で森を彷徨っていたんだ、死ぬ寸前で僕は教会の連中に、聖剣に復讐したいと強く願った。すると魔法陣が浮かび上がりそこに現れたのはリアス部長だった」
「そうか、お前はそこでリアスさんの眷属になったという訳か」
「うん、始めは力を得るために悪魔になったんだ。でもリアスさんや朱乃さん、後から入ってきた小猫ちゃんという家族を得た僕は次第に聖剣の事を忘れかけていた……今回の事件が起きるまでは」
「コカビエルによる聖剣奪取か……」
「それを知った時、僕の中にあった復讐の意思がメラメラと炎のように燃え上がっていった。復讐したい、でも恩ある部長や仲間を裏切ることは出来ない、そんな葛藤が僕の中で繰り広げられていたんだ」
「そうだったのか……お前は必至で自分を抑えようとしていたんだな。リアスさんや仲間のために……」
「祐斗先輩……」


 イッセー君と小猫ちゃんは僕が仲間の事を想っていたことを知って少し嬉しそうな表情で微笑んだ。


「お前の過去は分かったぜ、でも一つ気になったのはその聖剣計画を企てたのは一体誰なんだ?」
「ごめん、それは僕にも分からないんだ。だからそいつが目的としていた聖剣に恨みを持っていたんだ」
「だったら明日ゼノヴィアたちにそいつの事を聞いた方がいいな、教会のエクソシストなら何か知っているはずだ」
「でも彼女たちが教えてくれるかな?」
「大丈夫さ、あいつらは良い奴らだ。きっと力になってくれる、もしあいつらを信じられないのなら俺を信じてくれ」
「……ふふ、不思議だなぁ。イッセー君にそう言われると信じてしまってもいいと思っちゃうよ」
「よし、コカビエルの奴をぶっ飛ばしたら次はその聖剣計画なんて馬鹿げた計画を作った奴をぶっ飛ばしに行くか!」
「はい、どんな事情があっても命をゴミのように使う奴を許してなんかおけません。私もそいつをぶっ飛ばしてやります!」


 やる気を見せる二人を見て僕は勇気が湧いてきた、今までは否定されると勝手に思い込んで悩んでいたけどそんなことは無かった。もしかしたら「復讐なんて止めろ」とか「誰もそんなことは望んでいない」なんて言ってくれる人の方が正しいのかもしれない。でも二人は僕の復讐を止めるどころか手伝ってくれると言ってくれた、味方が出来ることがこんなにも心に力を与えてくれるとは思わなかった。


「じゃあ次はイッセー先輩の番ですね」
「うん?俺の過去はもう話しただろう?」
「違いますよ、イリナさんとの関係の話です」
「えっ、それは……」
「やっぱり何かあるんですね。イッセー先輩がイリナさんに余所余所しいのとイリナさんが先輩に大して一瞬見せた信じられないものを見たような表情……これは何かあると思っていたんです」
「ぐう……どうやら誤魔化せたりは出来ないみたいだな」


 イッセー君は頭をポリポリと掻きながら観念したかのように話し出した。


「俺がこの町に住んでいたって事はもう知っているよな?」
「うん、前に聞いた話だね」
「その時、家の近所に仲の良かった子がいたんだ、その子の名前は紫藤イリナ。俺の幼馴染だった子だ」
「それって……もしかしてあのイリナさんが先輩の幼馴染だったんですか?」
「それが分からないんだ」
「分からない、ですか?」


 イッセー君の言葉に小猫ちゃんは首を傾げて?マークを出した。


「当時の俺が知っているイリナは服装も髪型も男っぽかったし一人称がボクだったから俺は男だと思っていたんだ」
「子供って幼いころは男女の違いが無いから判断できなかったのも無理はないかもしれないね」
「ああ、だからあのイリナが俺の知っているイリナかどうかは分からないんだ」
「……もし仮にあの人が先輩の幼馴染だったら、先輩は自分の事を話すんですか?」
「いや、話すつもりはない。グルメ界の事を迂闊に話せばいざという時彼女は必ず巻き込まれる。しかもエクソシストだとは知らなかった。それを知った今、猶更言う訳にはいかねえよ」


 今も唯でさえ魔王様に怪しまれているのに天使まで出てくるようになったら相当厄介な事になる、それは理解できるんだけど……


「本当にいいの?イッセー君?」
「……いいんだ。神崎一誠はあの日死んだ、今のイリナにはイリナのご両親やゼノヴィアといった仲間がいる。そこに問題ごとを抱えた俺が入り込む気はない」
「イッセー君……」


 イッセー君の言いたいことは分かるよ、でもそんな悲しそうな表情をしながら言っても説得力はないよ……


「ほら、そんなしみったれた顔してないで早く寝ようぜ。明日も動かなくちゃならないんだからな」
「……そうだね」
「分かりました、明日も頑張りましょうね」


 流石に小猫ちゃんも今日は一緒に寝たいとは言えず自分の部屋に戻っていった。イッセー君は本当はイリナさんに自分の事を話したいはずだ、でもそれをすればイリナさんに危険が迫る可能性がある。だからこそ彼は言えないんだ、自分の正体を……


(なんて悲しいすれ違いなんだろうか……)


 でもイッセー君が決めた事に異議を申し立てることは出来ない、僕たちにできることと言えば彼を少しでも支えてあげることだ。それはきっと小猫ちゃんも思った事だろう。


「……イッセー君」
「なんだ、祐斗?」
「僕は何があっても君の味方だよ、これだけは言っておきたかったんだ」
「……ありがとうよ」


 彼は僕の復讐を認めてくれた、なら僕も彼の考えを尊重して彼の力になろう。そう決意して僕は明日の為に休む事にした。

 
 

 
後書き
 小猫です。イッセー先輩に幼馴染がいた事は驚きましたが裕斗先輩の過去にも驚きを隠せませんでした。私は二人の為にしてあげられることを全力でこなしていこうと思います。まずは打倒コカビエルからですね。次回第38話『イッセーの苦難、裕斗の仇を見つけます!』でお会いしましょう、にゃんにゃん♪ 
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