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ランス ~another story~ IF

作者:じーくw
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第15話 英雄は空へ


「ちょっと長田君うるさいよ?」
「ええええ!! 逆になんでそんな反応ないんっ!? なんか冷めてないっ!? メチャ凄い事なのにっ!?」

 エールは何処か冷めた様な眼で長田君を見ていた。
 向けられた言葉を噛みしめながらも、長田君には冷静で少々辛辣なコメントを出せる所を見ると、落ち込んでいた気持ちもどうやら大丈夫そうだ。

「賑やかだな。アームズ」
「ああ、本当にな……。あの時を思い出す様だ」

 アームズは、長田君やエール、そして 傍で控えているロッキーを見て 嘗ての記憶を引き起こそうと目を瞑った。



 そう――あの時も大変だったが、それでも活気があり、騒がしいと言うより賑やかだったから。



「超英雄のゾロさんからあんなありがたーーい言葉貰ったんだぜ! 今度は逃げたり死ねぇぞ!! エール! 腰据えて魔王退治に取り組むとしようぜ! 強くなって、魔王の子を仲間にして! 5つのオーブもゲットだ!」

 長田君がはしゃぐ所で、アームズが一言。

「どうせなら魔王の子だけでなく、神の子(・・・)も仲間にすべきだろう」
「そーだそーだ! 仲間が多い事に越した事は……って、え? かみの子?? なんスか? それ」

 長田君は意味が判ってない様だ。なので改めてアームズが補足する。

「ああ、そうだったな。神の子と言うのは、ユーリ・ローランドの子供達の事だ。魔王ランスの子が 魔王の子なら、もう1人の英雄 ユーリ・ローランドの子は神の子と呼ばれ、一部では崇拝、崇められている。………が、それも昔の話だ。今はここにいるゾロを崇める会の方が圧倒的に規模が大きいから」
「………まぁ、否定はせん。正直迷惑とも言えるのだが」

 ゾロは頭を掻く。
 その妙な宗教の規模は 衰退したAL教、新たに立ち上がった宗教団体と比べたら頭一つ二つは余裕で抜きんでている。 狂信とも言えるその集まりはゾロも知っている様で苦虫をかみつぶした様な表情をしていた。

「私は人類側の味方……だが、神ではない。啓示を受けたのは事実だが、それでも 私は人間だ」
「そんな強さを持った人間が何処にいると言うのだ。……と、一応ツッコンでおこう。兎も角だ。ユーリの子達ならば、頼めば無下にはしないと思う。寧ろ手伝ってくれるだろう。……あの子達も父親に似ているからな」

 ふっ、と笑みを浮かべるアームズ。そして それと同様にゾロの顔をちらりと見た。
 子供達の話題を出せば少しは……と思ったのだが、ゾロの表情は変わらない。崇奉会の話を訊いた時の表情と変わらなかった。 それを確認したアームズはそれ以上見る事なかった。

「ひょえーーー! すげーじゃん! 幸先良いじゃん!! お? って事はエールも神の子って事かぁ! 魔王より凄そう!?」
「……その魔王を前にしたのに ほんとに言える? そんなの」
「う゛……… ま、まぁ 気を取り直してだ! 強くなって仲間を集めて、オーブも全部! 頑張ろうぜ!」
「うん。そうだね。頑張ろう!」

 色々とツッコミを入れていたエールだったが、この時ばかりは力強く頷く。
 あまりにも長田君がボケ?な部分が多いからツッコミ側に行ってしまいそうなエール。でも、こんなに飄々としながらも芯は強い。……法王と英雄の子であるから当然だ。

「う、うう……ご立派だす……。エール様、長田君……。おら、ずっとついていきますだぁ……」

 そんな2人を見て号泣しつつ、改めて新たな主人としてついていくことを決めたロッキー。
 
 一同は翔竜山の下山を再開した。

 険しい山道も終わりをつげ、もう直ぐ街道に差し掛かった所で アームズが指を指す。

「さて、ここを曲がれば街道に出る。……私は行くが、キミたちはどうする?」
「あ、オラ達は予定を元に戻して、シャングリラを目指すだすから、こっちを左だすな」
「そうか、ならここでお別れだ。……ゾロはどうする? この後予定でもあるのか?」
「ん」

 ゾロは、最後尾を歩いていた。皆を見守る様に。
 今は一同が足を止めた為、自然と横に並んでいる。

「私もここまでだ。少々あるのでな」
「ほう、やはり人助けか?」
「ふむ。……魔の王が 色々な場所に出現する為か、その手の問題は山積み……と言えるが、私とて万能ではない。範囲も活動時間も限られているのでな。今は違う」
「なら塒。拠点へと戻るか? 出来るなら、そこを私は確認したいのだが……。お前はこちら側からコンタクトをとれる手段が限られ過ぎているから」

 アームズは ちらりとゾロの方を見る、が……、ゾロから良い解答が得られない、と悟った様に笑った。それに応える様にゾロが言う。

「それは困る。騒々しい毎日になる可能性が極めて高い。故に私は 誰にも明かしてないのだ。……各国も私を探そうと躍起になっているのも知っているから、な。悪いが教えられない」
「はははっ、だろうな。言ってみただけだ気にしないでくれ。見つけられるとも、連れて行って貰えるとも思っていないさ」

 アームズが 笑みを見せた傍で、彼女の腰にさされた聖刀日光はぼそりと言う。

「伴侶がいる身で 別の男性にとは……。貴女も他人の事言えないのではないですか?」

 まさにブーメラン返しだと言える。アームズは一瞬震えたが、直ぐに立て直した。

「はっはっは。バカを言うな。ゾロの存在、情報がどれだけ貴重なのか 知らん訳ないだろう? 日光。意趣返しのつもりならそれ以上は止めておけ。私は清十郎を愛している。それだけは変わらぬ真実なのだ」
「……はい。判りました。なら、貴女も私の事は言わない方がよろしいかと」
「うむ。それで手を打とう」

 何処か凶悪な雰囲気を感じ取った長田君は変な汗を額に感じながらも、エールに言う。

「なぁ、エール。アームズさんをもう一度仲間になってくれないか誘ってみようぜ。そんでもって勿論、ゾロさんもそうだ。頼りになる所じゃねーって感じだし、今後強くなる為にもぜってーいてくれた方が良いって」
「………。うん。そうだね、アームズさん、ゾロさん。ほんとうに仲間になってほしいですが」

 多分エールは判っていたんだろう。少なくとも()は、有り得ないと言う事を。

「悪いな。私はソロの方が性に合っているんだ。それと子守はまだまだ不得手でね。子作りにも励んでいないのが現状だ。次に会って君たちがもっと成長しているのを楽しみにさせてもらうとするよ。それと――」

 アームズはゾロを見る。

「ゾロも同じ、だろう? と言うか、簡単に仲間になってやる、と言うセリフは聞きたくないと言うのが本音だ。私達の熱烈な歓迎を幾度となく躱してきた男なのだからな」
「釘をさす様に言わんでも良い。……私は、人類を陰ながら守っているのは事実だ。だから エールたちだけを、と言う訳にはいかなくてな。だが、案ずるな」

 エールの頭をゾロはもう一度だけ撫でた。

「お前達が挑むのは魔の王だ。……故に私と交わる事も多いだろう。これで終わりと言う短い関係ではないとだけ言っておこう。……後はアームズと同じく、お前達の成長を楽しみにしている」

 そう言うと、ふわりと身体が宙に浮いた。

「うぉ!?」

 飛び上がったゾロを見て、長田君がびっくりして―――コケた。

「もう一度言おう。……未来を語れエール・ローランド・モフス。お前の、お前達の行き着く先々に―――私は きっといるだろう。また、会おう」

 そう言うと 瞬く間に姿を消した。
 残された者達は呆気にとられるしかない。

「……ひょえぇ……、これが伝説クラスの。アレだろ? あの人って魔法技能もLv3とかって言ってたよな?」
「あー、うん。そうだね。後は剣戦闘とかもLv3だ、とかお母さんが言ってたかな?」
「…………Lv3の重ね掛けって。いや マジ伝説中の伝説なんだな~。はぁ、かっけーなーー! エールもあれ位強くなれるかもだぜ!? 見込まれてるんだからよー!」
「…………。うん。そうだね」

 エールは頭にあった感触を確かめる様に、自分の手を頭に当てた。
 その手の上に、もう1つ感触があった。

「ふふ。頑張れよ。じゃあな」

 それはアームズのものだった。
 彼女も謙遜はしているが、十分過ぎる程の英雄の1人だ。心から力が沸いてくる。そんな感じがしていた。

「よっしゃー、エール! オレ達も負けらんねぇぜ! もっともっと強くなって、驚かせてやろう!」


 その日――エ―るは生まれ始めての挫折を経験し、そしてそこから立ち直る事も経験した。伝説の英雄を前に湧き上がってくる不思議な力も体験した。

 今日の自分は昨日の自分よりもきっと強くなっている、そう感じながら、次の目的地シャングリラへと足を進めるのだった。














 翔竜山上空。



 エール達と別れたゾロは また透明化の魔法を己に掛け空を泳いでいた。

「………当初言っていた彼らと一緒に行く、と言うのは聊か無理があったのではないか? 主よ」
『あ、あぁ……。あの時はああいったものの、確かにゾロが常に一緒、と言うのは頂けなかったかもしれないな。よく考えてみたら、いや考えなくても判る。無用な混乱や争いを生みかねない』
「ふむ。我らもここ数年で奇怪な存在になったものだ」
『仕様がないだろ。あれだけやってれば。比喩でもなく人類の光と呼ばれてるんだ。魔王を止める、魔人を追い払う、そんな真似すれば』

 今までの自身の行動。

 思い返せば、あの日(・・・)から、全てが変わった。


 英雄の1人ユーリ・ローランドの不在。
 人類の勝利を祝う席での悲劇。
 先代魔王リトルプリンセス、来水美樹の魔王化。
 人類の英雄の1人ランスが魔王化。

 
 あれらの全てが切っ掛けに過ぎなかったのかもしれない。
 否、全て読まれていた可能性だって否定できない。魔王化の限界点。抗い続けていても、何れは力に呑まれる事を判っていない訳が無いからだ。
 希望から一気に絶望へと突き落とされる。それを遠くで眺め続ける。
 そんな悪趣味極まりない光景が目に浮かぶ。

『………止めれた、かもしれないか』
「いや、あれ(・・)が最善だ。ああしていなければ、ならなかった。あの時の行動が今の世界を生んだ。……そして、判っているだろう? その物語の結末を」
『………ああ』
「確かに傷を負っただろう。あの日は等しく全ての者達が。深い深い傷を。………だが、その全てはあるべき姿へと変えてゆく。今は、そのあるべき到達点へと向かうだけだ。……我々は その日の為に行動をしている。そうだったであろう?」
『そうだったな。……悪い。お前にはいつもいつも世話になりっぱなしだ。オレもいい加減大人にならないといけないと言うのに』
「……我は、主の父親にも頼まれているのだ。その時まで、主の傍にい続けると。そして、我は……、私はお前の一部となった。自分自身に何を遠慮する必要がある?」
『判っていてもそう思い、言ってしまうのが人間なんだって』
「ふふ。良いもの、だな。人と言うのは……」


 そして 丁度アメージング城が見えてくる所まで飛翔した時の事だった。



『ケ――ンク様。――が、お見え――に』




 声が聞こえてきたのは。

 透明化をしている以上、自分達の存在はバレない……と思っていたのだが、つい先ほどホーネットに見破られた事を思い出し、ゾロはその声の方へと反応した。

 自身の魔法を看破できるのは、同等の力を使うか、攻撃するか、攻撃されるか。

 そして――――。


『久しいな。―――会いたかったぞ』


 それを打ち破る程強い想いがあるかだ。
 
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