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ロボスの娘で行ってみよう!

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第35話 カウンターパンチ


此方の更新です。

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第35話 カウンターパンチ

宇宙暦792年7月5日午後1時30分

■自由惑星同盟首都星ハイネセン 宇宙艦隊司令本部

シトレ統合作戦本部長と本部長の副官に化けたバクダッシュ大尉が宇宙艦隊司令本部に到着したのは1時過ぎであった。早速、シトレ、ロボス、グリーンヒル、ワイドボーン、ヤン、リーファ、バクダッシュで相談を始めた。その頃には情報部より順次、フォークの動きが伝えられ始めてきた。

ロボスが、皆に今日の事を説明し始める。
「今朝フォーク中尉が第6次イゼルローン要塞攻略作戦案を持って訪ねて来た。
無論越権行為を諫めて強制退去させた」

「その後は小官が」バクダッシュが監視員がコピーした資料を手に持ちながら話を続ける。
「監視員からですが、フォーク中尉は、第5次イゼルローン要塞攻略戦の焼き直しを考えていたようです。今ならイゼルローン要塞の損害が大きい為に容易に落とせると思った様です。想像するだけなら本人の勝手ですが、それを宇宙艦隊司令長官の元へ持ってきたわけです。更に先ほど入った情報ですが、奴は最高評議会ビルへ行ったようです。今現在、ロイヤル・サンフォード副議長に面会しています」

バクダッシュの報告にシトレが呟く。
「なるほどな、更に上から命令を出させるつもりか」
「それは不味いですね。最高評議会命令では突っ返せません」
ワイドボーンが渋い顔で話す。

それを見ながら、ヤンも頷く。
リーファがバクダッシュから受け取ったコピーを斜め読みしてから喋り始める。
「宜しいでしょうか?」

「うむ」
「この作戦書を読む限り、作戦成功率は0.1%あるかないかですね。よほどの僥倖が無い限り失敗まっしぐらです。こんな作戦ネットゲームで出したら馬鹿にされること請け合いですよ」
その言葉に参加者の顔に笑いが出てきた。

シトレが話し始めた。
「副議長は軍事に関しては素人だからな、その場ののりで採用しかねんな」
「そうですね、フォークに煽てられ、この勝利で劇的に支持率が上がれば、次の選挙で貴方が最高評議会議長の椅子に座ることになります。とか言ってそうですよ」

「問題はどれだけフォークが根回しするかだな」
ワイドボーンの言葉にバクダッシュが応える。
「その点におきましては、情報部が責任を持って調査中であります」
「頼むぞ」

リーファが難しい顔をしながら、話し始める。
「今回我々が勝ちすぎたせいで、フェザーンは今相当帝国に怨まれているようです。その為に暫くは同盟の情報をせっせと帝国へ送り、帝国の情報を同盟側へは遮断気味にするかもしれません。

そうなったら、今回の作戦案もばれまくりで、帝国軍は増援を繰り返してイゼルローン回廊が艦艇で埋まるでしょう。そうなれば、元々数において絶対数が少ない我が軍がジリ貧になるのは必定です。此処は何としても作戦を廃案にしなければ成りません」

リーファの言葉に皆が頷き、シトレが対案はあるのかと聞いてくる。
「中佐、何か対案はあるかね?」
「はい、有ります」

その言葉に期待で目を輝かせる参加者。
「シトレ閣下の幼なじみはレベロ財政委員長でしたね?」
「よく知っているな」

「蛇の道は蛇ですよ」
「でレベロがどうしたのだ?」
「レベロ氏の盟友に人的資源委員長のホアン・ルイ氏が居ます。このお二人に協力して頂こうかと思います」

「レベロの性格では簡単に協力してくれるとは思えんが」
「いえ協力しなければ成らなくなるのですよ」
「どう言う事だね?」

「まさか、脅迫でもするのかね?」
「違いますよ。エル・ファシルの戦いを利用するんですよ」
「エル・ファシルを???」

「第5次イゼルローン要塞攻略戦でイゼルローン要塞は大被害を受けたようです。その為に帝国軍は艦隊をオーディンから増派しているようです。それだけイゼルローンを攻められるのが嫌なわけです。その為に、我々に攻められない手を尽くそうとするでしょう」

「確かにそうだね」
ヤンが久々に発言した。だから非常勤参謀と言われるのも判る気がする。

「では、具体的にどうすれば良いかですが、エル・ファシルで帝国貴族を多数捕虜にしています。彼等を含む帝国の捕虜と帝国に囚われている捕虜と連れ攫われて農奴にされている同盟市民を交換するのですよ。普通であれば帝国は捕虜交換や農奴返還をしないでしょう。

しかし現在の情勢では少しでも同盟の興味をイゼルローンから離したいはずです。更に貴族の捕虜を返還すると成れば、親族が圧力をかけて捕虜交換を実現させようとするでしょう。捕虜交換で捕虜と拉致被害者が帰国すれば、戦争するよりも遙かに多い支持をたたき出せますよ。更に帰還兵を復員させれば、産業全体に人材を送ることが出来て、国力増進も可能となります」

「なるほど、一石何鳥にもなるわけだな」
「そうです、捕虜を帰還させる事で、捕虜に対する予算が浮きますし、帰還兵が税金を納めてくれますので財務委員長も納得するはずです。更に人材が社会全体へ回るわけですから、人的資源委員長も納得でしょう。そして他の最高評議会の委員長も数百万の支持率UPを一人の犠牲者も出さずに行えると判ったら果たして、出兵案に賛成するでしょうか?」

その言葉を聞いて、皆が驚く。
「確かに、賛成はしないだろうな」
「そうです、特に自分の地位を狙う、副議長の提案を議長があえて可決するかどうかですが、多数決で決まる可能性を考えたら、捕虜交換を指摘した方が良いでしょう」

「フォーク中尉はどうするのかね?」
シトレの質問に、薄笑いのリーファが答えるが、その答えを聞き、顔を見たヤンやワイドボーンやバクダッシュは背筋が寒くなった。

「彼には、暫くピエロを演じて貰いましょう、彼の作戦計画書をお友達のバルサモ大佐からフェザーンへ流して貰いましょうか、そうすれば帝国に負い目のある、ルビンスキーは速攻で知らせるでしょう。そこで捕虜交換を伝えれば、帝国は乗ってくると思います。更にフェザーン情報に対する帝国の信頼度も減るでしょうからね」

「うむ。それで、レベロの説得を私にしてくれと言う訳かな?」
「本部長しかおりませんから、宜しくお願いします」
「判った、レベロに逢ってこよう、出来れば中佐にも来て欲しいが」

「本部長、隠し球は隠してこそ価値が有る物ですよ、此処はエル・ファシルの英雄達が人道で活躍したとした方がより市民受けが良いのですよ。ですから、ヤン先輩頑張って下さい」
いきなりの指名にヤンが驚く。

「えっ。私?」
「そうか、ヤン中佐それでは宜しく頼むぞ」
「ヤン、諦めるんだな」

「ヤン中佐、頑張ってくれたまえ」
ヤンは、シトレやワイドボーンやロボスの言葉で覚悟を決めた。
「判りました。小官も微力を尽くします」

「ヤン中佐には、資料を渡しますから、居眠りしないで確り読んで下さいね」
その言葉にみんなが笑い出した。
「酷いな」


宇宙暦792年7月6日午後5時30分

■自由惑星同盟首都星ハイネセン レストラン コランブラン

ハイネセン市街に有るレストランの貴賓室で2人の男性が今日逢う2名を待っていた。
統合作戦本部長シドニー・シトレ大将と参謀ヤン・ウェンリー中佐であった。
暫くすると、待ち人がやって来たが開口一番凄いことを言ってきた。

「よう。戦争屋元気か?」
「レベロ、相変わらずだな」
「おいおい、レベロ、口が悪いぞ」

「良いんだよ、此奴とは家が近所だっただけだからな」
「全く」
完全にヤンだけが蚊帳の外である。

「まあ、取りあえず、座ってくれ」
「シトレ、我々を呼び出して一体全体何の用だ?」
「まあ、先に自己紹介だな」

「私は統合作戦本部長シドニー・シトレ大将です」
「私は統合作戦本部参謀ヤン・ウェンリー中佐です」
「ほう、エル・ファシルの英雄か」

「私は財政委員長ジョアン・レベロだ」
「私は人的資源委員長ホアン・ルイです」
ワインが出されて、くつろぎの時間の様に見えるが、実際は腹の探り合いになっていた。

「しかし、いきなりなんだ?」
「レベロ、実はサンフォード副議長の元へスタンドプレーで第6次イゼルローン要塞攻略作戦案を持参した士官がいてな。その作戦が端から見たら完璧に見える厄介なモノでな。副議長が提案するかもしれないのだよ」

「何だって、軍令を無視して直接サンフォードへ持って行ったのか、
軍部の規律はどうなっているんだ!」
「お恥ずかしい限りだが、そのフォーク中尉は後方勤務本部所属でな」

「ん?可笑しいじゃないか、作戦は統合作戦本部がメインで作るはずだ」
「そうだよ、勝手に作って勝手に持って行ったわけだ」
「どうなって居るんだ、同盟軍は!」

「元々自意識過剰で似非天才を自称していたからな、作戦課に配属されないことに強い憤りを感じていたようだ」
「それで私案をサンフォードへ持って行ったか、ある意味正しい判断だな。奴は焦っているからな」

「本部長、それで今イゼルローンを攻めて勝てるのかね?」
今まで黙っていたホアンが質問してきた。
「理論的には勝てるが、事実上で負ける」

「どう言う事ですかな?」
「その辺りはヤン中佐に説明させよう」

「ヤン中佐です。イゼルローン要塞は現在修理中です、その為に防御が著しい弱体化をもたらされています。そこを狙えば占領は可能ですが。敵も馬鹿ではありません。要塞修理完了まで数万隻の艦隊を回廊に遊弋させている状態です。その為同盟の予定参加戦力六万隻ではどうやっても勝てません」

「それなら艦隊数を増やせばいいのでは?」
「我々が増やすと敵も増やします。その結果十二個艦隊対十八個艦隊になりかねません」
「うむ、単なる消耗戦になるわけだ」

「そうなります」
「しかし、それだけでは反対票を集めるのは難しいぞ」
「流石レベロだな、そこまで判ったか」

「ふん、腐れ縁のお前だから、判るようなもんだ」
「支持率のUPを囁かれたら、攻撃賛成に回る議員も増えるとおもいますが」
「そこでです。策があります」

「策とは?」
「帝国は現在イゼルローン要塞修理を行って居ます。
その間には同盟に攻めて欲しくない、その心理を使います」

「具体的には?」
「捕虜交換です」
「捕虜交換か」
「しかし、帝国は捕虜は犯罪者同然だ、交換に応じるとは思えんが」

「いえ、エル・ファシルで捕虜にした貴族の釈放も行うのです。
そうすれば親族からの圧力で応じざるを得なくなります」
「確かにそうなる可能性は高いな」

「イゼルローン要塞へ来て欲しくないなら捕虜交換で同盟の関心を散らそうと考える者が出てくるはずです」
「なるほどな、捕虜が帰ってくれば、戦争するより支持率は遙かに上がる訳か」

「そうです。財政的にも人的にも政治的にもプラスになるわけです」
「なるほど。エル・ファシルの英雄が言えば市民も納得するという考えだな」
「つまり。我々が仲間を増やして、サンフォードを孤立させれば良いわけだね」

「おいおい、ホアン、未だ決めた訳じゃないぞ」
「レベロ、此は千載一遇のチャンスだ、産業も一息付けるんだ、やるべきだよ」
「お願いしたい。軍部としても無駄な死者を出したくないのだ」

「シトレ、そこまで言うのか」
「頼む」
「ふ。それじゃ俺が悪者みたいじゃないか判ったよ。俺達が纏めてみせるよ」

「任して頂きますよ」
「宜しくお願いします」
「さあ忙しくなるぞ」

こうして、シトレ、レベロ、ホアン、ヤンの4名による盟約が結ばれたのである。
 
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