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蒼穹のカンヘル

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七枚目

俺から二メートルほど離れた場所に体育座りの幼女がいる。

彼女はさっきからチラチラと此方を窺っているが此方から見ると目を反らす。

彼女の髪は長い銀髪、陽光を反射してキラキラと輝いている。

その瞳はトパーズのような美しい黄色だが、怯えと恐怖、不安を湛え濁っている。

そして彼女の名前はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーという。

うん、どうしてこうなった?

状況を整理しよう。

朝の十時ごろ、父さんに雷光の出し方を教わっていた時(俺はまだ雷しか出せない)。

「よう!バラキエル、篝!元気にしてたか?」

アザゼルがやって来た…幼女を連れて…

「アザゼル…見損なったぞ…」

「へ、変態だー!」

「ま、待てお前ら!ご、誤解だ!話を聞いてくれ!」

しらばっくれるか…

「知らん!」

父さんも戦闘体制だ…

「そのセリフが証拠だ!
犯人は何時もそう言う!
『証拠は何処に有るんだ』『たいした推理だ君は小説家にでもなった方がいいんじゃないか』『殺人鬼と同じ部屋になんか居られるか』とな!」

俺はそう叫びカンヘルを召喚する準備を始める…

「本当にちがう!しかも最後のは次に殺られる奴の死亡フラグじゃねぇか!」

そうだっけ?だが…

「問答無用!幼女を誘かわした罪は重いぞアザゼルゥゥゥゥ!」

俺はカンヘルを召喚してアザゼルに攻撃した。

「あっぶね!うわっ!ちょっ!なんでっ!そんなこなれてんっだ!」

父さんに杖術習ったからなぁ!

ピシャァァン!と父さんの『雷』が落ちる

「あぶねぇ!バラキエル!何しやがる!」

援護サンキュー父さん!

「死ねやこのロリコン!」

俺はカンヘルに今出せる最大の雷を纏わせアザゼルをぶっ叩こうとした…

「うを!?」

おかしな声を上げてアザゼルが大きく飛び退いた。

「ハァハァハァ…腐っても堕天使総督か…」

俺はそろそろ限界だ。

今ありったけの力で雷を纏わせたからスタミナがもう無い。

「おいこらバラキエル!テメェ分かっててやってんだろ!さっさと篝を何とかしろ!」

なに?

「ふむ、アザゼルにはバレるか…篝、アザゼルはその少女を拐って来たわけでは無いだろう」

え?

「じゃぁ何でさっき攻撃したの?
さっきの雷って俺の援護だったよね?」

あのタイミングではそうとしかあり得ない

「全てはアザゼルが話すだろう…では聞かせて貰うぞアザゼル」

父さんは一度其処で区切り、プレッシャーを放って続けた。

「悪魔の少女を連れている理由をな」

悪魔?悪魔!?この幼女が?ってことは……敵?

シャラララララン…シャン!

俺はアザゼルではなくその隣の幼女にカンヘルを向けた…が…

「よせ!篝!この子は敵じゃない!」

とアザゼルが言って悪魔の幼女の前に出て庇う素振りを見せたので構えを解いた。

「敵じゃないってどういう事?
悪魔は俺達堕天使の敵でしょ?」

原作が始まってない今、三大勢力の自軍以外は敵のはず…

「それも含めて話す、バラキエル、さっさとプレッシャーを引っ込めろ。
コイツは間違いなく篝と同い年だ、そう警戒するな」

悪魔の幼女はアザゼルの服の裾を掴んで怯えている。

若干涙目だ、否、父さんのプレッシャーで泣かないとは相当肝が座ってるな…

「わかった…」

父さんは短く返し家へ向かった

「篝、バラキエルと話してる間、ヴァーリを頼むぞ」

「はいはい、わか…は?」

今、アザゼルは何と言った?

「ね、ねぇアザゼル、今何て言った?」

「バラキエルと話してくるからその間ヴァーリを頼むぞ」

「ヴァーリってその子の名前?」

「そうだが?」

「その子、女の子だよね?」

「コイツが男に見えるなら病院に行った方がいいな」

なん…だと…?

「あ、ああ、うん、わかった、ヴァーリちゃん?行こうか?」

あ、結局俺は何も知らされないのね…









俺は彼女を自分の部屋に連れて行った…

おい!そこぉ!変態とか言うな!

開いてるのが此所しかねぇんだよ!

今本殿じゃぁ姉さんが祓魔を習ってんの!

俺は部屋の突き当たりに座る。

陽当たりがいい特等席だ。

「俺の名前は篝だ。
まぁ、何処でもいいから座りなよ」

と言うと彼女は入り口近くの壁際に体育座りをした。






そして冒頭へ…

な、何を話せばいい?

「あ~ちょっとまっててね…」

「ひっ!」

俺がお菓子とジュースを持ってこようと立った瞬間彼女は怯えた。

「え~と…」

そうじゃん、ヴァーリって確か白龍皇故に虐待されてたんだっけ…

どうしよう…此方が危害を加えないと示す?駄目だ時間がかかりすぎる…

俺も龍系神器の所有者だと示す…これだ!

「ねぇ」

びくぅっ!と彼女は反応した。

「君は龍を宿してるんだろう?」

「あ、あ、あ、い、いやぁ!来ないで!」

ヤベェ、失策だったか?ええい!このままいっちまえ!

「怯えなくてもいいよ。
だって俺も龍を宿して居るんだから…」

「え?」

彼女は『あり得ない』『そんなはずはない』という疑念と共に僅かな『期待』を目にうかべた。

「見せてあげよう」

俺は翼を出そうと思い…考えた。

両翼を龍の翼に出来ないだろうか、と。

やってみよう、きっと出来る筈だから…

俺は白銀の龍の双翼を広げる自分を思いながら、肩甲骨に意識を集めた。

何時もより温かくなる範囲が広い気がした。

でも、構わず翼を広げた。

バサッ!

「ほらね、俺の翼は白いけど天使の翼じゃない。
ツメが有るだろう?これが俺に宿る龍の翼さ」

彼女はとても驚いた顔をしていた。

「触ってみるかい?」

と言ったら彼女は恐る恐る近付いてきた。

「ほら」

と彼女に翼を差し出すと、ちょんっとつついたりした。

「もっと触っていいよ」

と言うと今度は撫で始めた、拙いけど優しかった。

「うう、ぐすっ…」

あれ、なんかまずった?

「ふぇぇぇ…」

「え、ちょ、な!」

ええ!なんでぇ!こっちが泣きたいわ!

「うぅ~」

「え、え~と…」

取り敢えず、ヴァーリを膝の上に抱き寄せてその上から自分ごと翼で包み込む。

「大丈夫?」

「うん…ぐすっ…」

落ち着いたみたいだ。

ヴァーリは人とのふれあいに飢えていたのだろうか?

俺はヴァーリの頭を撫でてあげた。

ヴァーリの髪はふわふわしてた。

「すぅ…すぅ…」

あれ?寝ちゃった?泣きつかれたのかな?

「ふぁ~あ」

俺も眠くなってきたな…さっきありったけの光力使ったからかな…

ああ、ねむ…ぃ………

side out








side AZAZEL

「つーわけだ。あの子は一度悪魔から引き離した方がいい」

あの子…二日前雪の日に出会った幼い少女龍を宿したが故に愛を奪われた子供。

「それは理解している。
あの娘、貴様が育てる気か?」

っかー、そこなんだよなぁ…

「バラキエル、お前の言いたいことはよく分かる…どうしよう……」

ぶっちゃけノープラン。

それを聞きにコイツの所まで来たのもある。

「貴様何も考えていなかったのか?」

篝に会わせに来たんだっつーの。

「怒るなよ…兎に角警戒してたから同い年の篝がいる此所に来たってのが本当の所だ」

「そうか…というかいきなり篝と二人きりだが大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「そのヴァーリという娘の事だ。
篝はまぁ、光力がある。
年が同じならば悪魔に負けることは無いだろう…多分大丈夫だろうが…」

本当は篝の方が心配なくせによ…

「心配なら見に行くか?」

「いやしかし此処で我々大人が介入するのも…」

コイツは何時もこういう所で真面目だからな…多少強引だが…

「篝が心配なんだろ?なら見に行くぞ。
おら、立てバラキエル」

「うむ…」




確か此所が篝の部屋だったよな…

「アザゼル、どうした?」

「しっ!」

小指を立て静かにとジェスチャーを送る。

………聞こえて来るのは…………寝息?

「おい、バラキエル。そーっと開けるぞ。
いいな、物音立てるなよ…」

小声でそう伝えたら、コクりと首を縦に振った。

俺はそっとドアを開けた……

「「すぅ…すぅ…すぅ…」」

マジかよ…篝の奴どんな手を使ったんだ?

あんなに警戒してたヴァーリと抱き合って寝てるたぁよ…

ほう…その上面白い事になってんな

「な!こ、これ…ムグ!」

とっさにバラキエルの口を塞ぐ。

「起きたらどーすんだ!
そっとしといてやれ!」

小声でまくし立てながらドアをそっと閉めた…

「す、すまない、アザゼル…し、しかし!」

あーもーうるさいな…

「分かってるよ、篝の翼だろう?
大丈夫だ。多分隠れて見えなかっただけで堕天使の翼もちゃんとあるだろう」

しかし、だとすれば四枚の翼を展開していたって事だ…

「そ、そうか…」

「ああ、だから安心しろ。
アイツ等が起きたら、二人と朱璃さん、朱乃も交えて話し合おう」

「わかった」

ヴァーリ・ルシファー。アイツはきっと人に飢えていたのかもしれん。

やはり篝に会わせて正解だったな。

ヴァーリの事、頼むぜ篝。
 
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