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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第15話 調理場こそ我が戦場

 
前書き
 4千文字以下と、ちょっと短いです。 

 
 燕は転校生の初日のイベント、質問攻めを対応しきってから昼休み。
 弓子や百代と一緒に昼食を食べる事になった。

 「朝に宣伝していただけあって、見事に納豆料理だらけだな。燕の弁当は」
 「しかしちゃんと周囲への配慮から、納豆独特の香りを消している所は流石で候」
 「まぁね?それにしても・・・・・・」

 燕が百代と弓子の弁当を見る。

 「2人の弁当の内容も結構グレード高く見えるね?」
 「いや、私のは昨夜の残り物で候」
 「そう?けど中々凝ってる様に見えるけど――――それにしてもモモちゃんは意外だね?手作りするって言うイメージ湧かないんだけどな~」

 実際のところはイメージでは無く調査の結果だ。川神百代は料理はしない。
 これは確かだった筈なのにと、燕が訝しむ。

 「オイオイ、美少女に対して失礼だろ?私だってこれ位」
 「変な見栄は止すで候。百代のは衛宮が作ったで候」
 「ちょっ!?何で知ってるんだ、ユーミン!」
 「それと同じ弁当箱を衛宮が持ってる見た事があるからで候。何より蓋の隅に衛宮と書いてあるで候」
 「なん・・・だと!?」

 百代と弓子が士郎の弁当で話し合っている時、燕は嘗てない衝撃を受けていた。

 (士郎の弁当・・・?この泥棒猫の弁当が士郎の手作り・・・!?)

 どちらからにせよ、手作り弁当を貰うなど、まるで恋人同士の関係の様では無いか。
 この疑惑にショックを隠し切れない燕。

 「如何した燕?」


 自分が元凶だとも知らずに此方の顔を覗き込んでくることに些か以上に腹を立てる燕だが、それを抑えて、憎悪も抑えて敢えて聞く事にする。

 「い、異性からの弁当なんて、モモちゃん彼と恋人だったりするの?」
 (絶対に許さないけどね、してたら消滅させるッ・・・!!)

 だが一応杞憂だったらしく、

 「違う違う!私はシロウとなんか(・・・)付きあったりしてない!」

 だがその言い方と呼び捨てが気に入らない燕だが――――それも抑える。

 「でもだったらどうして?実は幼馴染とか?」
 (そのデフォルトは確認済みだけど、新事実だったとしたらそれも許せない・・・!)

 しかし理由はどうしよもなく情けないモノだった。

 「私の金銭面関係の事で、士郎が手を打ってくれたんだ」

 詳細を聞いて行く内に、管理されている百代に心の中で侮蔑の嘲りを送りつつも、妬んでしまう燕。

 (士郎に管理されるなんて、どんだけ分不相応な女狐なの、この駄武神!?)

 この感情もなんとか察知させないように抑える燕。
 そこで思わぬ事を百代から言われる。

 「興味があるならおかず一つ食べるか?」
 「え、いいの?それじゃあ、遠慮なく」

 嘗て、士郎の料理を食べた事がある燕は、恐る恐る貰ったおかずを口に運ぶ。
 当時の士郎の腕は、既に神域(大げさ)なのではないかと疑いたくなるほどのモノだッた。
 それほどの領域ならば今はどれだけのモノなのか、燕は勇気を出して口に入れてから噛み砕く。
 その瞬間、

 (これは!繊細な素材の味を生かしきった濃厚な香りと旨さが口の中を蹂躙する!士郎、貴方はまさか此処までのモノを作り上げられるほど腕を上げていたなんて・・・!?)

 燕は今日まで、士郎を目標に料理の腕を磨いて来た。
 だがしかし、これは、この腕は。この技巧は!この旨さはッ!!

 (追いつくどころか、むしろ突き放された・・・・・・)

 今日味わってきたどのイベントよりもショックを受ける燕。

 「如何した燕?」
 「何かあったで候?」
 「――――ごめん。今は話しかけないで・・・」

 今までの自分の料理の常識を否定された様な味に、深くショックを受けた燕だった。


 -Interlude-


 そんな燕にショックを与えた張本人たる士郎は、学園長である鉄心に特別な許可を取り、昼休みの間に家に戻っていた。
 理由は勿論、明日の為のケーキ作りについてだ。
 だが、正直言って無茶である。
 マンモス校と言われている川神学園の全校生徒に教職員全員分が食べられるケーキを作ると言うのだから。しかも納期が明日の夕方だというのだから、無茶を通り越して無謀と言わざる負えないだろう。
 しかしそれを可能とする料理人が士郎である。

 一切無駄なく洗練された動きに人外の如き手早さ、そして繊細さも忘れない。
 これなら確かに間に合わせることが出来るかもしれない。
 そう期待させてくれる士郎は言う。

 「俺に膝を折れさせたければ納期を今の三分の一に変えるか、量を三倍にしてもってこいッ!!」

 ただし誰も居らず、完全な独り言である。
 ただそれを居間から覗き見ていたスカサハが、

 「アイツはたまにナルシストになる時があるな」

 用意されていた昼食を口にしながら、そう呟くのだった。


 -Interlude-


 ショックから立ち直った燕は現在、水泳場にて大和と会話を弾ませていた。

 「そっかー、大和君はモモちゃんの舎弟なんだ~」
 「はい。もう5年以上はそんな関係です」

 燕が大和と会話を弾ませているのは勿論興味心や好奇心では無い。
 打倒川神百代に向けての情報収集の過程にて、周囲の人間関係をざっと洗った結果、結構親しい人物として調べがついているからである。
 そして大和はいざという時の保険とも考えている。
 武神を倒す時用の秘策の保険である。
 その為だけに、内心を悟られぬ様に親しくなる切っ掛け作りとして、近づいている。

 「そっかそっか――――と、転校生である私の初日は忙しいんだった。またね、大和君」

 とは言え、最初からしつこ過ぎるのも問題と考えて、今後の為に直に去った。
 それを見送った大和は燕を可愛い先輩と感じた。

 「松永燕先輩か・・・」

 最近はあまり百代と接する機会が減っていた大和は、自分の中で何かが埋まるような感覚を感じていた。百代と士郎が仲良く会話する時の切ない胸の痛みが薄れていくほどのモノだ。
 だが取りあえず今する事は決まっている。

 「もうすぐ予鈴が鳴るな」

 この場を後にして教室に戻る事最優先事項だった。


 -Interlude-


 放課後。
 今日ばかりはどの部活や義経への挑戦者も少ない。
 理由は勿論義経達の歓迎会の会場となる設営準備だ。
 その様子を向かいの屋上から見ている存在がいる。
 マスターである那須与一と別行動をとっているジャンヌだ。

 「――――誰もが隔てなく学べるとは良い時代になったモノです。それに此処の子供たちはとても活気に満ちている。そう思いませんか?」

 振り返るとそこにはシーマがいた。

 「ああ、良き所だ。素直に同意できる」

 嘘偽りなく答えるシーマ。

 「それで、余に何の様だ?マスターも連れずに」
 「マスターを連れていないのは貴方も同じでしょう?セイバー」

 ジャンヌの指摘にシーマは溜息をつく。

 「余とて不本意なのだ。しかしマスターが強情で、レオ達の護衛をしながら帰って来いと言う始末だ。まったく、少しは自覚してほしい所なのだがな・・・」
 「お互いマスターには苦労すると言う所でしょうか」
 「まったくだ。お主のマスターも難儀な性格をしてると士郎から聞いている。根は悪くない様だが」
 「ええ、もう少し視野を持ってくれると助かるのですが。貴方のマスターは逆に視野が広すぎて、自分の身を蔑ろにすると言った所ですか?」
 「指摘通りだ」

 そうしてお互い同時に苦笑する。

 「さて、マスターたちへの愚痴もこの辺でよかろう。それで用件は?」

 ジャンヌは改めてシーマに背を向けて、地平線を見ながら言う。

 「単に確認作業です。私のマスターは兎も角、九鬼財閥としては貴方方と同盟を組むと言うね」
 「む?それならすれちがい様などで済んだはずでは?」
 「それだけでは無く、一度貴方とちゃんと話してみたかったのです。真名を忘れた剣の英霊よ」
 「なっ!?」

 シーマはジャンヌの指摘に思わず目を剥く。

 「何故その事を!?」
 「矢張りでしたか」
 「・・・・・・引っ掛けおったのか?これから同盟を組む相手に対して、いい趣味とは言えぬぞ聖処女よ」
 「すみません。ですがこれも必要な事なのです。これからの事を考えれば」

 本当にすまなさそうに答える。

 「お返しと言う訳ではありませんが、私もルーラーとしての権限で言えば弱体化しています」
 「・・・・・・良いのか?そんな事を余に言って」
 「今後、戦術を組むにあたって必要な事でしょうから」
 「成程な。お互い前途多難だな」

 今度は苦笑から苦笑いに代わる2人。

 「話はまだあります。これはまだ推測と探った感覚の段階ですが、この世界の何処かに私以外のルーラーが最低もう一人います」
 「・・・・・・それはつまり、お主の弱体化に関係していると言う事か?」
 「分かりません。分かりませんが無関係とも言えない――――と、考えています」
 「そうか。それで大聖杯は?」
 「それも解らないのです。申し訳ないのですが」
 「いや、余こそ不躾な問ですまない」

 既にルーラーとして弱体化していると聞いていた筈なのに、気が回らずにと言う意味で。

 「兎に角、これからは足並みをそろえて行きましょう。明確な敵がいる事はミス・マープル経由で私も聞いていますから」

 ガイアの使徒に謎のテロ組織、死神に似た謎のサーヴァントに義経達を襲撃した組織、極めつけはこの世界の裏社会で有名な最強の殺し屋。

 「うむ。後手に回りすぎない様、これからも気を引き締めて事に掛かろうぞ」
 「ええ、マスターたちも守ろうとしている、この平穏の為にも」

 それは2人のサーヴァントの紛れもない本心だった。 
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