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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -

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始まりのジュレット9

 チョウキ達を見送った後、バルジェンはツナサンドにコーヒーで朝食をとりながら冒険者の酒場にいつ行こうかすぐ行こうかと思い悩んでいた。
 何しろ勝手がわからないので、どう行動を起こすべきか明確でないのだ。
 窓から外を見てみると、高くなりつつある日差しの中を、蝶が舞っているのが見えた。
 空になった皿に目を落とし、コーヒーカップを手に取り香りを楽しむ。
 一口だけ口に含んでゆっくりと飲み込んで鼻で深呼吸すると、芳しい香りの刺激が広がり一瞬頭の中がクリアになる。

「よし」

 ひとつ気合を入れると、彼は着替える為に自室に戻った。
 タンスを開けて麻を編んで仕立てられた服を取り出すと、タンクトップとズボンを脱いで着替えていく。
 タンスの下の引き出しを開けて革製のポーチを取り出し、左肩からたすき掛けにしてポーチを背負うと、タンスに立てかけて置いた棍を右手に取り、再び部屋を後にした。
 ロビー兼食堂に出ると、カウンターでのんびり仕事をしていたウェディの女将さんが声をかけてくる。

「お客さん、お出かけですか?」

「あ、はい。依頼こなさないと、今日食う物にも困っちまいそうなんで」

 苦笑して頭をかいて見せるバルジェン。
 女将さんはちょいちょいっと手招きして言った。

「もしかして、ジュレットの道わからないでしょう」

「え、あー、はい」

「昨日の帰り、ずいぶん遅かったですものね」

 そう言いながら、女将さんは背後の棚の下の引戸を開け、小さな新品の巻物を取り出してカウンターに広げた。

「ジュレットの町の地図よ。持ってお行きなさいな」

「う、んー。多分買う金がないです・・・」

「ここに滞在中はうちの宿をひいきにして下さいな。これはただで差し上げます」

「タダより高い物は無いなー・・・」

 呟くバルジェンに女将さんはニッコリ。

「そうですね。これは高い買い物です」

「わかりました。ここに滞在中は、女将さんの宿を使わせてもらいますよ」

 バルジェンはそう言うと地図を受け取り、ポーチにしまって宿を後にした。
 下層のビーチに面した巨壁にぽつんと存在する冒険者の酒場を目指して、いくつもの階段を上り下りする。
 道すがら見える水平線に陽光が煌めき、海岸に建てられた停車場に時折到着する機関車の煙がノスタルジックな印象をバルジェンに感じさせた。
 カモメの群れが海面上に旋回して時折海面すれすれを飛行する。飛び跳ねる魚を取っているのかと思いきや、浜辺からおじいさんのようなウェディが餌付けをしているようにも見えた。

「どこも一緒だなぁ。御老体の楽しみは」

 どこと比較するわけでもなく自然と独言る。
 やがて、下層に到着すると、すでに他の冒険者達が活気よく活動していた。
 ある者は友人同士集まって語らい、ある者はパーティの募集を行い、ある者はクエストの依頼を斡旋する。
 他の冒険者が斡旋する依頼などは、正直勝手もわからないので遠巻きに眺めるにとどめ、彼は酒場へと迷うことなく進んで行った。
 酒場の扉を開ける。
 外とは打って変わり、まだ早い時間だからか客の数は少ない。
 相変わらず帳簿とにらめっこしている受付嬢の所に歩を進めると、バルジェンに気付いて顔を上げて言った。

「あら、ジアーデ達は一緒じゃ無いんですね」

「他の娘達とパーティ組んで討伐行ってますよ」

「なるほど置いていかれたわけですね?」

「まぁ、そうとも言えるか・・・」

「それで、何をお求めですか? パーティメンバーの募集ですか?」

「ああ、いや」右手をヒラヒラと振って左手で頭をかく「手頃な依頼がないかと思って」

「御依頼の紹介ですね。あちらに」酒場の角を指差して「ボードがあるのはわかりますか?」

「貼り紙してあるボードですか?」

「そうです。あちらに貼り出されているのがここ数日の依頼です。手頃な物ですと、素材の収拾から魔物の討伐など、色々貼りだされてますから、ご覧になってみて下さい」

「なるほど、あそこから選ぶのか・・・。どうもどうもありがとうございます」

「いえいえ」

 受付嬢が示したボードに歩み寄り、掲載されている依頼に目を通す。
 一番手軽そうで、それなりに報酬額のいい物を探すがほとんどがモンスター退治で、自分の能力も計れていないうちは手を出せそうもない。
 いくつか目を通して下の方に移っていくと、次のような依頼が目に入ってきた。

『丈夫な枝が欲しいです。素材に必要です。20本以上集めて来てください。報酬は50g(ゴールド)です』

(50gか。宿が朝夕食事付きで10gだろ・・・。うーんよくわからんが、割りに合わない気がする・・・)

 とは言え、仕事をしないわけにも行かない。
 バルジェンは依頼の張り紙を取ると、受付嬢の所へと持っていく。

「あら、決まりました?」張り紙を受け取る「あらあら、こちらのような依頼は普通別の依頼と抱合せに受ける類のものですけど」

「よく分からないし、取り敢えず稼がないとならないんで・・・」

「それもそうですねぇ。では、こちらで受理しておくので、お願いします。規定の大きさにあった物を集めて来てくださいね」カウンターの下からカタログ的なチラシを取り出してバルジェンに手渡す「これより小さい物は引き取れませんので」

「わーかー、りました」

「ミューズ海岸ではほとんど取れないので、ジュレー島上層に出るといいですよ」

 上層と言えば、チョウキ達が向かった地域だ。
 だからどうだ、という事もないのだが。
 彼はチラシに描かれた図と大きさを記す数字に目を通しつつ、酒場を後にした。 
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