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嗤うせぇるすガキども

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ある作者未満読者以上の場合(前編)

 
前書き
 
※ このSSには、作者の実体験が多分に混じっておりますのでご注意ください。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 もう、何年になるだろう。この仕事に就いてから。

 仕事で忙しい両親に代わって留守になるはずの家をしっかりガードする大事なお仕事。
 それが「自宅警備員」
 今日も朝から忙しい。
 両親が出ていってから、部屋のドアの前に置かれた朝食を食べる。
 そこから今日の日課が始まる。
 まず、前夜に撮り溜めている深夜美少女アニメの鑑、もとい精査という業務をこなす。
 これであっという間に午前中が終わる。
 昼は、人がいないかおそるおそる階下に降りて、冷蔵庫の中にあるものを適当にいただく。

「ぴんぽーん」

 玄関のチャイムが鳴る。
 しかし、自宅警備員たるもの、おいそれと応対するわけにはいかない。
 悪質商法業者や宗教の勧誘かもしれない。
 決してドアを開けてはならない。

「宅配便でーす」

 そんなことはうかつに信じてはいけない。
 代引きと称して、金だけ取って、中身は石ころだったという詐欺が頻発しているではないか。
 絶対にドアを開けたくない。
 早く帰れ!

「ピンポーン。宅配でーす。どなたもいないんですかあ?」

 いや、このしつこさは絶対詐欺だ。
 何があっても出るもんか。



 10分ぐらいたったろうか。
 ようやくしつこい詐欺師野郎は帰って行った。
 すると今度は、居間の電話が鳴る。
 決して出てはいけない。
 悪質商法の勧誘にちがいない。
 よくある「あなたは○○に当選しました」というあれに決まっている。
 出たら最後美人のお姉ちゃんに個室に連れて行かれる。
 怖い男がいっぱいいる汚部屋に。
 冗談じゃない。誰が出るもんか。

 しつこい勧誘電話は、30回も呼び鈴鳴らしてやっと切れた。
 もういいかげんにしてくれ。俺は忙しいのに。自宅警備で。

 午後はいつも冷蔵庫に入っているコーラの2リットル瓶片手に、ライトノベルで教養を高めるという大事なお仕事をこなす。
「インフィニット・ストラトフォートレス・バストは52」が俺の愛読書だ。
「奇術科学園の優等生はハーレム持ち」なんて心が躍る。
「とある似非科学の焚書台帳」など感動すら覚える。
「やっぱり俺が不条理ハーレムの主なんてとても似合っている」などはもうたまらない。
 諸君、私はこの地上で出版されるありとあらゆるラノベが大好きだ!



 夜
 おかーちゃんが、今日のお務めご苦労様とばかり、部屋のドアの外に晩飯を置いていく。
 さあ、ネット立ち上げて第三の日課、二次小説サイトあさりに二次イラあさりだ。
 現実の女なんか絵に描くと「不気味の谷」が浮かび上がるから大嫌いだ。
 女は二次元にかぎる。(※注:作者も本気でそう思っています)

「では『ブレーメン』でも開くか」

 画面に二次小説専門サイトのウインドウがひらく。
 最近、ミリタリーと美少女というものに覚醒したらしいなあ。
 前は「ガールズ&パンツァー」なんか見向きもしなかったんだけど、劇場版が配信されたのを見てはまった。
 でも、戦車のドンパチなんかどうでもいい。
 前はこのカテゴリーでも評価が高いのはミリ系ばかりで、あとは能面パイロットのクロスとか、なぜか男どもが暴れる作品ばかりだったので敬遠だった。
 でも、劇場版以降、ちゃんとしたラブコメを書く作者さんがどっと増えたのがうれしい。
 それにつれてレベルも上がっている。

「一応会員登録はしてるんだがなあ」

 ユーザーページを開く。「HNプラウダ風紀いいんかい?のページ」とでている。
 二次小説に刺激されて、俺主人公のガルパンハーレムものとか、X指定小説とか書いているが、さすがにアップは躊躇される。
 絶対死ぬほど恥ずかしい。たとえ本名と何の脈絡もないコテハンであろうが。
 自意識過剰な自分がいやだ。
 まして、批判感想の山になったら、絶対退会すると思う。
 いや、自分が相手ユーザーに粘着して、粘着の罪で退会させられる。
 ここぐらいしか良いの読める場所ないから、追いだされたくない。
 まして、「痛い奴」の烙印付きで追放なんて、パニック症候群ものだ。

 でも、二次元少女のハーレム……。
 これぞ男の夢だ、異論は許さん!
 エディターに書かれている自分の作品を見るだけで、陶然となってしまう。

『空想だけじゃなく、自分の作品世界をリアルに体験してみないか?』

 ――!
 自分しかいないはずの汚部屋で、他人様、それも女の声がする。
 誰だ俺の部屋に勝手に入ってきた奴は! 死刑死刑死刑死刑!

『んんーっ? 願いを叶えてやろうというのだぞ』

 そいつは、床の上をふわふわ浮いていた。羽をぱたぱたさせながら。
 どうも疲れたらしいな。幻覚が見える。
 テレビに新品の円盤突っ込んで、アニメの録画予約して寝なきゃ。

『無視しないで話を聞け』
「14歳未満のロリは好みだが、あくまで二次元の話だ。
 リアルなのには何の興味もないから、さっさと帰れ」
『だから、その二次元世界を体験させてやろうというのだ。
 お前のプロットでな』

 なんかこのガキンチョメス、頭に光る輪っか、白い羽に白い長衣。
 これって「天使様」って奴かい? もしかしたら。

「あなた様は、天使様ですか?」

 俺の問いにこくんとうなずくメスガキ……、もとい天使様。



「では、どのようにすれば、私は自分の作品世界をたんのーできるのでせうか?」

 なんか積年の願いが叶いそうなので、ひたすら低姿勢だ。

『まず、そのサイトの取扱説明書を見て、その作品を投稿するのだ』
「えー。他人に見られたら恥ずかしいです」
『大丈夫だ。そのサイトでも最近は第1話から予約投稿が出来るようになっている。
 現実に還ってきてから作品ごと削除すれば問題はない』
「あのー。向こうに行ったきりで還ってこられないという良くあるパターンには?」
『心配はいらない。
 もっとも向こうが居心地が良すぎて還ってくる気にならないかもしれないが、それはそれでよかろう?』

 いわれてみれば、自宅警備員より二次元美少女たちと楽しい毎日の方がいいかもしれない。
 では、さっそく投稿だ。



「えーと、これでよろしいでしょうか」
『うむ。作品はきちんとアップされたな。
 しかし、チラシの裏の上に投稿日時がきっかり三日後とは、ずいぶん小心だな。
 朝には一応還ってくるつもりなのだろう?』
「いやー。なにがあるかわかりませんからね」
『……それもそうだな』

 投稿画面を確認した「天使」は指先でなにやら床に光の紋様を描く。
 そのまんなかに座ればいいようなのでど真ん中にあぐらをかく。
 準備オッケー。

「用意はできました。いつでもどうぞ」

 天使はうなずくと、呪文を詠唱する。

『アノクタラサンミャクサンボダイ、アノクタラサンミャクサンボダイ、
 アノクタラサンミャクサンボダイ……ダッシュセブン!』

 うおおおお。
 なんかまばゆい光が足元からー。






 ホワイトアウトが消える。
 うん? 学校の備品の机だなこれは。

 ここは教室。男女の高校生がたむろっている。
 成功だ。俺の二次作品の「大洗学園」の中にいま俺はいる。胸が熱いぜ。
 女子が古色蒼然としたセーラーなのだから、男は当然詰襟だ。
 襟についているのは、夢にまで見た大洗の校章。
 机の備品ラベルは「普通Ⅰ科」。
 教室の札は「2年A組」。
 やったー! あんこうの5人のうち4人と「ねこにゃー」がいる2のAだ!
 そして俺は、オリ主の「大久保大和」。イケメンスポーツ万能の万年次席だぜ。

「おい、デブサイク」

 誰だよ、気安く変な呼び名でなれなれしい。野郎に用はねえんだよ。

「うっせーぞボケ。この大久保大和様に何の用だ」

 目のまえにいるのは、佐○大輔みたいなほおに傷あとのある暑苦しい野郎だ。
 さっさと失せやがれ。

「お前、春の陽気でおかしくなったか?
 大久保はあっちだろうが」

 へ?
 俺、オリ主じゃねえの?
 そして向こうには……

 ……高身長イケメン優男っぽいのが、女の子と楽しくだべってやがる。
 その女の子って……、転校してきたばかりのみほちゃんじゃないかー!!
 俺のみほちゃんとるなー!!

 と叫ぼうとした俺の首根っこがつかまれ、顔面が机と激突する。

「うぎゃー」
「おい、デブサイク。購買に行ってカレーパンと午前のダージリン買ってこい。
 3分で戻ってこねえとぶっ殺す」
「い・や・だ」
「ふん、いきなりいい度胸になったもんだなあ。ちょっとこいや」



 そして校舎の裏で「佐藤○輔」に半殺しにされるという貴重な体験をさせてもらった。
 中村軍曹より弱い俺は、サンドバッグよりみじめだった……。
 
 
 
 
 
 
 

 
後書き
 
※ 用語解説
戦車道:ガルパン世界の地球だけに存在する、ざっくり言えば第二次大戦終結時までの戦車を武器と防具として戦う武道。
作中で明言はされていないが、女流しか存在しない。
公式設定では「男は装甲に守られながら戦ってはいけない」という国際法があるらしく、男はすべての装甲戦闘車両に乗車することも許されていない模様。
それとは別に、第一次大戦終結後から民間の女性たちが新発明である戦車をつかってレースや模擬戦をすることが流行し、日本では「戦車道」として「乙女のたしなみ」という怪しいキャッチコピーとともに広まった。
現在ではフルコンタクトよろしく実弾を撃ちあって、集団戦で勝敗を決める。
ただし、実弾と言っても戦闘用の徹甲弾ではないような描写が原作内でも見られる。


 
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