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十六夜咲夜は猫を拾う。

作者:ねこた
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第1話

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とある、雨の降りしきる日の幻想郷。

紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は雨の中
買い物に出ていた。

いつもならたくさんの量を買ってきてしまうが
傘のせいで片手が塞がり、今日は少ない量しか
買ってこれなかった。

能力で時間の進みを遅くしているが、全くと言っていいほど意味が無い。
お嬢様は『太陽が出なくていいわね』と
仰っていたが、太陽なら夜になれば闇に包まれ消えてしまうのに。日中まで太陽が出てこないと気分が滅入ってしまう。
かといって時を止めたらいいという訳でも、進みを早くすればいいという訳でも無い。
時を止めてしまうと水が固形物のように動かなくなり、行く手を阻む形となってしまうのだ。
進みを早くすれば、雨の降る速度が早まる。自分の首を自ら締めているようなものだ。

…まあ、雨や曇の日は、お嬢様がすこしばかり
嬉しそうにするので、悪くは無いが。


買ったものを濡らさないように細心の注意を払いながら帰路へつく。

いつもなら寄り道をしているところだが、こんな雨の中寄り道するところなんてないだろう。


「…あら?」


傘をさしているため、視線が自然と下に行く。

その視線の先には、雨に濡れぐったりと横たわる
真っ白な毛が特徴的な、仔猫があった。

その目は閉じていて、なにか不思議なものを感じ取れる。
とりあえず、タオルでそっと触れ、抱き上げてみる。

とても冷たいが脈はあり、呼吸も……

「…ちょっとだけ、荒いわね」

呼吸をしてはいるが、苦しそうにはぁ、はぁと
浅い呼吸を繰り返しているだけだった。

多分、誰かの飼い猫だろう。
幻想郷に猫がいるなんてことは滅多にない上、
目撃した事がある人も少ないのではないだろうか。
兎や狐ならまだわかるにしろ、これは正真正銘の猫だ。さしずめ迷い猫といったところだろう。


ただ、ここに放置しているのは余りにも
危険なため、1度紅魔館で洗って綺麗に
してあげてから、また戻してあげる事にした。


お嬢様がどんな反応をするかが問題でもあるが、
お嬢様ならきっと大丈夫だろう。

また『咲夜の事だから、寄り道の途中で見つけてきた』と思うに違いない。


大丈夫、洗って乾かして、雨がやんだら
またここへ戻すだけだ。


自分の腕の中ではぁ、はぁと魘されているようにも見える
白い仔猫は雨水でぐっしょりと濡れ、毛から水が滴り落ちていた。
それをタオルで優しく拭う。


帰ったら暖かいお風呂に入れて、洗って、乾かして…
後、ミルクやご飯も与えよう。

それにしても、なぜこんなところに猫がいたのだろう。



疑問に思考を這わせながら、足早に紅魔館へと向かった。
 
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