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碧い銀河

作者:fw187
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夢想 その1
  最高の評価

 ローエングラム侯爵は唐突な告白に驚き、一回り年上の訪問者を凝視。
 蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳が瞬き、名状し難い感情に彩られた。
 僕と敬愛する直属の上司、キルヒアイス提督の眼前で。
 ヤン提督に劣らず、真摯に応えた。

「率直に言って、俺には理解し難い。
 今の感想を聞くまで、卿は俺の野望を阻む最大の障壁と考えていた。
 いや、正直に言おう。
 俺よりも《上》だ、と痛感させられたよ。

 多少の言葉を交わしたに過ぎぬが、卿の人為(ひととなり)は理解出来たと思う。
 上手く言えぬが、卿は俺より一段上の階梯から物事を俯瞰している気がする。
 或いは俺と同じ種族に属し、更なる高処に上る機会を得た者ではあるまいか?
 心理学に通暁し歴史の造詣も深く、俺を凌ぐ叡智と感じ畏敬の念を覚えた。

 優れた戦略家の印象と最前の言葉は懸け離れ過ぎ、心理戦の罠と勘繰りたくもなるがね。
 敵の巣窟に単身乗り込んだ卿が虚偽を弄し、奸計を仕掛けるとは思わないな。
 姉を奪われた俺は暗愚な皇帝と取り巻きの門閥貴族、ゴールデンバウム王朝を倒すと誓った。
 自由惑星同盟の現状、最高評議会の腐敗を熟知する卿に賛同を求める気は無い。

 卿と俺は案外、同じ(カード)の裏表なのかもしれない。
 俺は《闇》を見つめ続け、卿は《光》を見つめ続けた。
 《光》とは人間に対する希望であり、《闇》とは人間に対する絶望だ。
 未来への希望を喪わぬ卿の剛さ、心理学的な魔術(マジック)に魅せられたと言う処かな?

 先刻の告白は韜晦や偽り、心理的術策の類とも思えない。
 心に染み入る、とは言わぬが妙に感情を揺さぶられた。
 賛同する訳ではないが、否定する気も無い。
 民衆を搾取して肥え太る門閥貴族共と比べれば、嫌いな考え方でもないからな。

 自由惑星同盟は銀河系統一の障害、門閥貴族共の後に討滅と考えているがね。
 帝国の掃除を邪魔せず、卿と改めて会談の場を設ける条件で武装中立を認める。
 有意義な会談だったが、最後に、聞いて置きたい。
 卿が同盟から受け取る総額の数倍、帝国紙幣の年金を受け取る気は無いか?」


 ローエングラム侯爵は有能な人材を集め、元帥府の強化を図っている。
 ヤン提督にも破格の待遇を囁き、相談相手として留まる事を熱心に薦めた。
 天文学的な金額の受領も可能、と署名入りの誓約書を見た賓客は髪を掻き毟ったけど。
 高く評価して貰った事に感謝の詞を述べ、丁重に辞退して風の様に去った。

 ユリアン君から、後で、聞いたんだけど。
 不敗の魔術師は要塞に戻った後で、ぼやき捲くったんだって。
 ああ、なんて、馬鹿な事をしたんだろう!
 誘惑に負けておけば、夢の様な年金生活が待っていたのに!、ってね。 
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