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提督はBarにいる。

作者:ごません
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蓮根で見通しの良い年に・1

「はふぅ……」 

 ウィスキーの注がれたロックグラスを前に、愁いを含んだ女が一人。どうにも今夜のお客は、新年早々に深い悩みを抱えているらしい。

「どうしたどうした?新年早々に深~い溜め息吐いて」

「最近、お肌の調子が悪くて……これじゃあ司令官を誘惑出来ないわ」

 と言って頬に手を当てて悲しげに呟いた。

「何でお前は本人を目の前にしてそういう事をズケズケ言うかねぇ!?」

 俺が苦笑いを浮かべてそう返すと、

「あら?私に誘惑されたら不都合でもあるのかしら?司令官」

「幾ら色気があるっつっても、見た目がなぁ……50手前のオッサンと、ギリギリ中学生に見える駆逐艦じゃあ援交通り越して犯罪だぞ?如月」

「そうねぇ、司令官が逮捕されるのはご遠慮願いたいわ♪」

 そう言って目の前の小悪魔こと如月は、おかしそうにクスクスと笑った。




 そもそも、艦娘は限り無く不老に近い存在であるという話は以前にもしたと思う。しかしそうなると、車の運転をはじめとして色々と不都合が出てきてしまう。主に見た目の方面で。なので日本では艦娘……正確にはクローンである第二世代型艦娘の登場からだが、いち早く法の議論が為されて、『艦娘の見た目の年齢+稼働年数=年齢』という特殊な年齢の決め方で、免許の交付等の諸々の手続きを強引に可能にしたという過去がある。……まぁ、艦種がデカくなればなるほど見た目も精神年齢も成熟して生まれて来たのだから何ら不都合は無いんだが。

 そこで、ウチの鎮守府の話に戻る。ウチは歴史の長い鎮守府だ……稼働を始めて20数年の古参と言える。当然ながらそれだけ初期から活躍している艦娘も歳を重ねており、今目の前にいる如月だって見た目は12~3歳くらいだが中身は30過ぎのオバチャ……成熟した女性だ。今、合法ロリとか危ない単語が頭をよぎった奴は後でケンペイ=サンの所に出頭するように。

 話が逸れた。つまりは年齢的にはケッコンしたりそういう関係になっても何ら問題は無いんだが、流石に俺にも体面という物がある。同業者同士なら事情も解っているしアレなんだが、そういう事情を知らない人からすると見た目の危険性というのは重要な部分だ。この間のクリスマス前にもケッコンしたばかりだからと夕立と時雨に気を遣って、他の嫁艦達が街中デートをセッティングしてくれたのだが、その最中ずっと両サイドの駆逐艦2人に挟まれていた俺は周りの人達にヒソヒソされていた。挙げ句の果てには『プライベート用の指輪が欲しい』とジュエリーショップに立ち寄ったら、事情を知らない女の店員さんに危うく通報されかけた。その時はちゃんと説明して事なきを得たが、駆逐艦の中でも大人っぽく見える白露型の2人でさえコレだ。更に幼く見える睦月型では……結果は推して知るべしだろう。




「まぁ、ケッコンやら誘惑云々は置いとくとしてだ。肌荒れに関しては相談に乗れるかも知れんぞ?」

「本当?司令官」

「あぁ。丁度昨日山雲の奴が試作品の作物を収穫してきてな」

 そう言って段ボール箱から取り出し、如月に見せてやる。

「これ……レンコン?」

「そう、蓮根だ。ついに山雲の奴が水田にまで手を出し始めたらしくてな」

 その収穫第一号、という事らしい。蓮根は詠んで字の如く蓮の花の地下茎……泥の下に埋まって水や養分、空気なんかを運ぶパイプのような役目を果たしている部分の事だ。旬の時期は11月~2月……お節に入るから、年末の出荷が最盛期らしい。

「蓮根って、縁起物なの?」

「蓮の花ってのは仏教的には重要な花でな。ほら、大仏なんかは蓮の花の上に座ってるだろ?それに、穴が空いてるから見通しの良い1年になるようにって入れるそうだ」

「ふ~ん……中々洒落てるのね。でもそれがお肌と何の関係があるの?」

「肌荒れにはビタミンCがいい、って言うだろ?ビタミンCは熱に弱いが、蓮根はそのビタミンCが熱で分解されにくくなる性質を持ってる」

 それにビタミンCは抗酸化作用や風邪予防なんかにも一役買ってくれるし、晩秋から冬にかけて旬のやさいだから今の時期にはうってつけだ。

「良いわねぇ……じゃあ、レンコンのお料理お願いできるかしら?」

「あいよ。メニューはお任せでいいか?」

「えぇ、提督の腕は信頼してるもの」

 そこまで言われちゃあ、ご期待に応えない訳にはいかんな。



《揚げずにヘルシー!レンコンチップス》※分量2人前

・レンコン:10cm位

・オリーブオイル:適量

※味付けはお好みで!

 さぁて、蓮根を使ったツマミの定番・レンコンチップスを作るぞ。薄くスライスしてパリッとなるまで揚げたレンコンチップスは、歯応えもよくて酒の肴にはうってつけだ。まぁ今回はカロリーの事も考えて揚げずに作るレンコンチップスだがな。

 レンコンはタワシ等を使ってしっかりと表面の泥を落とし、皮を剥かずに1~2mm位の厚さの半月切りになるようにスライス。酢水を作ってスライスしたレンコンを浸し、アクを抜き、沸騰したお湯でサッと茹でる。

 オーブントースターの天板にアルミホイルを敷き、よく水気を切ったレンコンを重ならないように並べ、上からオリーブオイルをかける。後は余熱しておいたトースターでパリッとするまで焼き、味付けをすれば完成だ。トースターの性能の差で焼ける時間は変わるのでそこは注意してくれ。味付けはシンプルに塩コショウや顆粒コンソメをまぶしたり、カレー粉や粉チーズなんかも中々美味い。自分なりの味付けを研究してみてくれ。今回は青のりとハーブソルトで少しお洒落なのり塩味に仕上げてみた。

「はいよ、まずは軽く摘まめる『レンコンチップス』だ」

「あら、パリッとしてておやつにも良さそうね」

「だな。サラダの彩りなんかにも使える」

ポテトチップスとはまた違った、パリパリとした軽い食感と青のりの風味、ハーブの香りと塩気が口に広がる。そこに酒をクイッと流し込む。するとまたレンコンチップスの歯応えと塩気が欲しくなる。手が止まらなくなる奴だ。如月がレンコンチップスを堪能している間に、もう一品といこう。




《エスニック風味!レンコンのナンプラーきんぴら》※分量2人前

・レンコン:150g

・ニンジン:20g

・干し桜エビ:大さじ2

・ごま油:大さじ1

・みりん:小さじ1

・ナンプラー:小さじ1

 レンコンのきんぴらは、まぁ和食の定番料理だわな。それをちょいとアレンジして香ばしいエスニック風味に。レンコンは皮を剥き、5mm幅の銀杏切りに。ニンジンは皮付きのまま薄い銀杏切りに。

 フライパンでごま油を熱し、干し桜エビを入れて焦がさないように中火で炒める。香ばしい香りが立ってきた所でレンコンとニンジンを加えて更に炒める。全体に油が回ったら、蓋をして蒸し焼きにする。

 レンコンが透き通ってきたら、ナンプラーとみりんを加えて味付けをして、軽くアルコールを飛ばす。この時、少しピリ辛がいいなら鷹の爪を少々いれるといいだろう。調味料が全体に馴染んだら、器に盛り付けて完成。

「お次は『レンコンきんぴら』だ」

「あら?でもきんぴらにしては色が薄いような……それに、匂いもお醤油っぽいけど違うわね」

 醤油を使うと、きんぴらはどうしても茶色っぽくなるからな。

「あぁ、そりゃそうさ。醤油を使わずにナンプラーで味付けをしてあるからな」

「ナンプラーって、タイ料理に使うアレ?」

「そう、魚醤だから色は醤油に比べて薄いし味も独特だがな。加熱するとそのクセの強さがいいアクセントに化けるんだ」

 騙されたと思って食べてみな、と進めると、恐る恐る一口。すると驚いたように目を見開き一口、また一口と箸が進む。

「な?美味いだろ」

「えぇ、これでビタミンCも取れるなんてとっても得した気分♪」 
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