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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第四話 紅

蒼天堀の中では隠れ家として、そのバーは佇んでいる。
小さな場所だが、連日マニアの人がこぞってここに集まるという。
井上は檜山に連れられ、この場所に来ていた。
静かなバーの中、絵の様に映える赤いドレスの女がカウンターに座っている。

檜山はその女に近付き、肩を2回叩いた。
女は振り返る事なく、グラスに入った氷を弄ぶ。


「檜山ね、久しぶり」

「元気そうだな、(べに)


グラスを置き、紅と呼ばれた女は振り返る。
夜の闇に紛れられそうな程の長い黒髪に対して、赤い口紅にドレスと妖艶な格好。
明らかに歳上だがそれでも肌艶は良く夜の仕事をしているのか、少し派手な印象を受けた。
だが鋭い目つきは、誰も近付けない圧を放つ。
一瞬向けられた視線に、思わず井上はドキリとした。


「何故記者を連れてきたの?」

「はっ……?」


間抜けな声が漏れたと同時に、紅は檜山に抗議を始める。


「アタシは記者が嫌いとあれほど言ったのに、よりにもよって新聞記者を連れてきたのかしら?」

「落ち着けよ、紅。奴は“そっちの人間”じゃない」


まじまじと井上を見つめてから、また素っ気なくテーブルに向き直る。
檜山はあれが彼女の挨拶だと笑うが、明らかに敵意むき出しの眼差しが頭から離れなかった。
紅の隣に檜山は座り、少し怯えながらも檜山の隣に腰掛ける。
グラスを手にした紅は、目に見えて不機嫌そうに氷を回した。
氷がグラスに当たる度に鳴る軽い音が、やけにハッキリと聞こえる。
騒がしくない店内でこうも沈黙が続くと、空気が重く感じて仕方がない。
沈黙を破ろうと井上は、俯きがちだった顔を上げた。


「紅……だっけ?訊きたいこと、あるんやけど」

「檜山が連れてきた奴は、みんなそう言うわ。だけど、アタシから情報を貰えた人は誰もいない。何故だかわかる?」


おもむろに立ち上がった紅は固まって動かない井上に近付き、肩から滑らせた手は井上の首を絡め取る。
近付いてきた口から漏れる熱い吐息が、耳元を(くすぐ)り通り抜けて行った。


「アタシの情報料は、高くつくからよ」


不意に頬にキスをされ、普段は冷静に構える井上も少し動揺する。
その様子を完全に楽しむ檜山が視界に入ると途端に気分が悪くなり、咳払いしてマスターに酒を頼んだ。


「フフフ、でも今回は檜山が久しぶりに来てくれたからサービスしちゃう」

「からかうのもよしてください。俺は真面目に訊きたくて……」

「知ってる。東城会に恨みがあるんでしょ?」


氷の鳴る音が、また耳に届いた。
頼んだお酒が目の前に差し出されると同時に、酒を一口流し込む。


「あの人を使えば、東城会に揺さぶりをかける事だって可能よ。今、偶然にも大阪にいるわ」

「あの人?」

「堂島の龍って言えば解るかしら?」


知らないはずが無い名前だった。
東城会の元4代目でありながら世間を騒がせた、あの男の名を。


「桐生……一馬か……!!」


少し溶けた氷が、また音を鳴らした。 
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