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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第五十四話 エル・ファシル真の英雄・後編


エル・ファシル最終話です

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第五十四話 エル・ファシル真の英雄・後編

宇宙暦788年帝国暦479年12月1日

■自由惑星同盟 ハイネセンポリス

 300万人の民間人を保護し後方星域に到着したヤンを、歓声が待っていた。
軍首脳部はヤンの沈着さと放胆さに流星雨のごとき賛辞をあびせた。
彼らはそうぜざるをえなかった。

敗北と逃亡、しかも民間人を保護すべき軍隊が民間人を見捨てて。
という不名誉きわまりなる汚名をすすぐには、軍人の英雄が必要だったのだ。
ヤン・ウェンリー中尉こそ、自由惑星同盟の武人の鏡である。

正義と人道の輝ける戦士である。全軍こぞって若き英雄をたたえよ!
12月1日午前10時25分、ヤンは大尉に昇進した。同日午後16時30分少佐の辞令をうけた。
生存者に二階級特進は許されないという軍規が、この奇妙な処置を上層部に取らせたのである。

ヤンはエル・ファシルの英雄として各種マスコミからひっきりなしに取材を受けるしか無かった。
首脳部が事件の糊塗を狙い若き英雄を徹底的に持ち上げたからである。

逆にリンチ少将は臆病者敵前逃亡者等の悪行を殊更過大に発表されたあげく。
囮として戦ったのだという話は無視され。
家には誹謗中傷のメールや電話が次々に送られ、
さらに投石や嫌がらせが行われ妻と娘は何処となく隠れる始末であった。

ヤンはハイネセンの街角アンケートでも結婚したい相手No1に選ばれ、
ファンレターやラブレターが山程送られて来たのである。



帝国暦479年12月7日

■オーディン  グリンメルスハウゼン子爵邸  テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

「ふーんエル・ファシルの英雄ね」
「どうなさいましかな?」
爺様が不思議そうに聞いて来る。

「いえね英雄って言っても結局は司令官を囮にして逃げたのでしょ、
しかも司令官が逃亡したとして司令官に罪きせて単なる醜聞隠しじゃないですか」
「そうですね、しかし300万人を見事に逃がしていますから、たいした手並みです」

「ケスラーそうだけどそのヤン中尉は職責を全うしてるから良いけど、
出汁にされたリンチ少将は敵ながら気の毒ね。スケープゴートでしょ完全に」

「確かにそうですね、シュタイエルマルク艦隊の戦闘報告書でも敵司令官が、
『自分の命はどうなっても良いから民間人の命を助けてくれ』と言っておりますから、
立派な武人かとおもいます」

「立派な考えじゃの」
「そうですよね。ふむーケスラーその敵司令官は今どこにいるの?」
「一寸待って下さい・・・・・アルタイル星系第7惑星の矯正区に入所したところですね。其れが何か?」

「その司令官以下捕虜をヴァルハラ星系の収容施設入所に変更できないかしら?」
「出来ると思いますがいったい何を?」
2人とも不思議がってますね、ヤンにちょと嫌がらせをしようかと思ってね。
エル・ファシルの英雄って厨二病みたいな渾名嫌ってたでしょ。

「いや武人として立派な行動をした方が謂われのない中傷で傷つくのは気の毒じゃないですか、
それに真実を叛徒共に知らせれば混乱が生じるのでは無いですか?

前回の報道規制に対処するために、
フェザーン系資本のTV局報道機関を買収してあるから伝手はあるのでしょう?
それにフェザーンでも流せば伝わるし、
イゼルローンから大出力で流せば傍受されるでしょうし、

エル・ファシルの施設を利用して流す手もあるわ、
それにネット回線の映像流通サイトで流せばあっというまに、
コピーされて政府でも手に負えなくなるとおもうの」


「なるほどいい手かも知れませんね」
「武人の鏡だとお父様から言って貰うわ」
「いい手ですのテレーゼ様」
「それじゃ準備はお願いしますね、お父様には明日にでも頼んできますから」


帝国暦478年12月8日

■オーディン  ノイエ・サンスーシ  小部屋  テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

 朝からお父様にお願いをしに来ました。
お父様はにこやかに迎えてくれます。
「お父様おはようござますご機嫌麗しく」

「テレーゼよよう参った、今日は何のようじゃな?」
「お父様先だってのエル・ファシルの戦いをご存じですか?」
「国務尚書から聞いておる、敵に一泡食らったそうじゃの」

「はいその時の脱出を指揮した者がエル・ファシルの英雄と呼ばれているのですが、
その為に司令官が悪者にされているんですよね」
「しかし敵前逃亡したのであろう」
なるほどリヒテン爺さん上辺だけしか教えてないか。

「いいえ事実は違うんです。シュタイエルマルク艦隊の戦闘報告書で、
『自分の命はどうなっても良いから民間人の命を助けてくれ』と言っているんですよ、
此こそ敵ながら天晴れじゃないですか?」

「確かにそうよの。でテレーゼは何をしたいのじゃ?」
「敵司令官の身柄をヴァルハラ星系へ向かわしています、
そこで事実を発表し敵司令官の騎士道精神を褒め称えるお言葉を出して欲しいのです」

「ふむ」
「敵の民に自分の軍隊がどれだけ嘘つきかを再度知らせる機会ですからね徹底的にやります」
「テレーゼよ逞しくなったの」
「お父様とお母様の子供ですから」

「ハハハそうじゃな演技をするかの」
「じゃあお父様日にちが来たら連絡します」
「うむわかった」


帝国暦479年12月11日

■アルタイル星系第7惑星の矯正区収容施設     アーサー・リンチ

 ヤン中尉が俺たちを囮にしてから4ヶ月か、300万人は無事逃げおせたようだな。
俺たちは捕虜だ、しかしアルタイル星系とはな、
アーレ・ハイネセンが育ち長征一万光年の出発点じゃないか、
小惑星帯にはイオン・ファゼカス号が眠っているはずだな。

ある意味俺には合っている場所かも知れん、
妻と娘はどうしているだろうか。
皆済まんな巻き込んでしまって、
此なら旗艦だけで逃げ回り捕まった方が皆を家族の元へ帰せたのに俺のミスだ。
ん誰か来たようだな、尋問か?

「リンチ少将、面会の方が来ています」
はぁ俺に面会ってだれだ?
「リンチ少将ですね小官はアルタイル星系警備艦隊司令ボルヒャルト少将です」

「で少将閣下が何の用だい」
「貴官達9853名をヴァルハラ星系へ移送します、
まず貴官以下士官327名を移送しその後輸送船で残留人員を移送します」

「なんだい見せ物として貴族にでも曝すのかい」
「詳しいことは小官には知らせられておりません、
只移送しろと言う命令が来ただけです」

「んで何時移送だい?」
「今からです」
「そりゃまた忙しいことだ」

まああれだなどうせ捨てた命だ鬼が出るか蛇が出るか判らんがいってみるかね。


帝国暦479年12月15日

■ヴァルハラ星系 帝国軍捕虜収容所

リンチ少将以下主立った士官327人がヴァルハラ星系にある収容所へと到着した。
高速戦艦を使い僅か5日で到着したのである、
タラップを降りて焦燥としているリンチ少将のもとに、
帝国軍将官が出迎えに来た。

「リンチ少将閣下ですな、将官はケッセリング中将と申します、
皇帝陛下の筆頭侍従武官をしております、
皇帝陛下が閣下の民も思う気持ちに感動なされ格別の思し召しを頂きました」

焦燥し絶望していた顔が少し顔色が良くなってきた。
「皇帝陛下は閣下の『自分の命はどうなっても良いから民間人の命を助けてくれ』との発言に大変感動し
『敵ながら騎士道精神天晴れである』と仰いました、
皇帝陛下は『勇者には勇者なりの待遇をせよと』仰せになりました」

暫し考えながら。
「そのようなことを・・・・」
「閣下貴官の古里ではヤン中尉という者がエル・ファシルの英雄と言われています」

「と言う事は民間人は無事に逃げられた訳か」
「我々にしては残念ですが、その通りです」
「そうか良かった」

「ただ残念ながら閣下のご家族は気の毒なことです」
「気の毒とは?家族は妻と娘はどうなった!」
「ご家族は家に誹謗中傷投石され何処となく姿を消しているそうです」

「確かに見た目、俺は敵前逃亡だ、
しかし家族にまで危害を加える必要は無いだろう!」
「同盟政府と軍は貴官が悪逆で敵前逃亡者として報道して居るとのことです、悔しくありませんか」
  ・ 
  ・
  ・ 
  ・
「俺に何をさせたいんだ」
「いえ大したことではありません。事実を話して頂ければ良いだけです」
暫く考えてから
「判った話そう」


宇宙暦788年帝国暦479年12月24日

■自由惑星同盟 ハイネセンポリス

エル・ファシルの英雄としてヤンがもみくちゃにされた日々が終わり。
幾分暇になり、キャゼルヌ先輩から託された、
ブルース・アッシュビーについての事を調べだし、
アルフレッド・ローザス提督の葬儀が終って3日経ったこの日。

同盟及びフェザーンに於いて、
クリスマスプレゼントとしては最悪である、驚愕の放送が各種メディアで流された。
所謂エル・ファシルの戦いの本当の姿と称する物であった。

リンチ司令官が300万人を守る為に自身を囮として30倍の帝国艦隊に立ち向かったこと、
その隙を突いてヤン中尉に民間人300万人脱出を命令していたこと、
降伏後『自分の命はどうなっても良いから民間人の命を助けてくれ』と言ったこと。
その行為を皇帝が騎士道精神として絶賛した事。

そしてエル・ファシルのヤン中尉の部屋からリンチ少将が密かに渡した自らが囮になるという脱出計画の命令書が破った状態で発見されその原文も映像で発表されたのである。

同盟政府はその放送を止めさせようと躍起に成ったが、
ネット上に流れた映像は次々にコピーされ繰り返しUPされ消し去ることが出来なかった。

同盟市民は最初は信じようとはしなかった。
しかし直ぐに驚愕した、その文書は確かにヤン中尉のサインがある文章だったのである。
サイン自体を偽物と疑う者もあったが、
エル・ファシルの英雄として渋々ヤンが書いたサインと瓜二つだったのである。

たちまちヤン中尉に対するバッシングが始まり
エル・ファシルの英雄はペテン師、エル・ファシルの簒奪者、同盟の恥さらしと騒がれはじめたのである。

自宅には投石がされ、誹謗中傷の手紙が舞い込み、
嫌がらせの電話が毎日にように掛かり、
捕虜となった他の兵士の家族からは罵倒されたのである。

ヤンにしてみれば好きで成ったのではないし、
あの文章は自分は知らないのだが言っても信じてくれないだろうと黙りを決め込んで、
嵐の去るのを待つことにしたのである。

TV電話が鳴る、今日も罵倒と嘲りだ無視していると、
「ヤン居るんだろう」キャゼルヌ先輩からの電話だった。
「ヤン大変だな、虚偽だと判らずに市民が動いてしまう。
市民感情は恐ろしもんだよ、
それで軍上層部が元英雄様にエコニアに行けとの命令だそうだ」

「エコニアですか、彼処は捕虜収容所ですよね」
「ああ開店休業中の収容所だ、なんと言っても捕虜を帰したからな」
「で今度は私を収監するんですか」

「いやな、彼処の所長が一身上の理由で早期退職して、副所長が昇進したんだが、
副所長の椅子が空いてな、残務整理の為の増員を求めてきたのさ、
それでありがたい事に上層部は、
ある程度暇で引き抜いても何ら影響を及ぼさない人物として、
お前さんを副所長にしてしまうわけだ」

「つまりだヤン、ほとぼりが冷めるまで隠れていろってことだ」

「上の連中もあの放送が宣伝だって判ってるのさ、
でも市民感情を無視できないと言う事らしい」

「半年我慢しろ呼び戻すから」

「出発は12月31日だ、準備をしておくんだぞ」

ヤンがバッシングを受ける中、
リンチ少将は悲劇の名将悲運の人として同盟の市民が、
彼こそ『真のエル・ファシルの英雄』と称えはじめたのである。

同盟政府としても、このまま行けば支持率が下がり選挙に負けると、
市民の圧力に負けてリンチ少将を大将に昇進させ欠席状態ながら、
同盟軍最高幕僚会議議員の肩書きと自由惑星同盟勲章が授与された。
またリンチ少将と共に捕虜になった全員に二階級昇進と自由戦士勲章が授与された。

リンチ少将を敵前逃亡者としてヤンを英雄にした、
同盟軍上層部としても市民圧力には耐えきれなくなり、
この件を受け、ヤンを持てあました結果明年1月を持って、

彼をエコニアの捕虜収容所副所長として送り出すことを決定した。
エコニア捕虜収容所は4月の捕虜交換でほぼ停止状態にあり、
完全な閉職として送られたのである。

ヤンは12月31日にハイネセンをヒッソリと旅立ち、
1月10日にタナトス星系エコニア星へ到着した。


帝国暦479年12月28日

■オーディン  グリンメルスハウゼン子爵邸  テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

同盟でヤン・ウェンリーが酷い目に遭っている報道が入ってきた。
爺様とケスラーがそこまでする相手ですかという感じで私を見ている。

「しかし敵は凄い状態だそうですな」
「閣下バッシングが凄く逆にリンチ少将は褒め称えられているそうです」
「市民感情って怖いのね、昨日の英雄が今日はペテン師ね」
「まったくですな」

「しかしネットを利用し叛徒共自身にコピーさせUPさせるとは驚きですな」
まあヒントは尖閣諸島沖の漁船追突の映像暴露なんだけどね。
「向こうの民のネット依存度を考えたらそうなると思いました」
「なるほど」

「まあ今回は別にそのヤン中尉とかを虚仮落とすのが本来の事じゃ無かったしね」
「どの様な事ですかな」
「4つほど有るのよね」

「1、叛徒の政府と軍のいい加減な報道を民に思い知らせる、
まあこれは期待してませんけどね」
 
「2、今回はフェザーン資本のTV、新聞、出版社、ネット業者を使い報道を流しました、
その結果叛徒とフェザーンの間に緊張感を与えることが出来ます。
しかも叛徒の政府に居るフェザーンからリベートを貰っている者と貰わない者の亀裂を作れるでしょう」

「3、この報道により叛徒は益々報道規制やネットの規制を始めるでしょう、
自由の国と言いながら報道規制が凄い民の知る好奇心を止める事は不可能ですからね。
したがって、政府に対する不満が増す」

「4、リンチ司令官以下の家族に対するバッシングを止めさせる、
そうすればリンチ司令官以下は帝国に負けた恨みより自分の家族に危害を加えた叛徒により恨みが行くでしょう」

本当はヤンを弄るのもあるんだけどね。
書類は凄すぎだ。

「しかし良くあんな書類を偽造できたましたね」
「まあ当人のサインさえあれば意外と簡単にできる物です」
ケスラー流石だよね、些かやり過ぎな感覚はあるけど。

「なるほど、リンチ少将達は騎士道精神の勇者として其れなりの待遇をしてあげて下さいね、
少ししたら、彼らをローエングラム星系へ移し新規収容施設を造り其方へ移して優遇しましょう」
「待遇改善と言うものですな」

「そうです、勇者には勇者なりの待遇をすれば向こうから亡命とか降伏がし易いでしょう、
それに矯正区に一旦送られた俘虜をローエングラム領に引き取り其処でまともな生活をさせれば、
地獄に仏で感謝されるし、帝国に対する信奉者を増やせますよ」

「なるほど、矯正区の凄ざまじい環境から出られればそうなりますね」
「そう言うことです、前回の俘虜は叛徒共に潜在的な不信感を与えました、
次回以降は本当に不審だけではなく危険をも与えかねない俘虜になると言う事ですよ」

まあ俘虜対策等は、
482年に亡命してくるはずの、リューネブルクに対するメッセージも込めてるようなもんだけどね。
本当はワルター・フォン・シェーンコップが超欲しいんだけどね、
シェーンコップは元々好きなキャラだし、
彼に護衛をして貰えば貞操の危機は有っても命の危機はほぼ無いからね。

あとはローゼンリッターごとスカウトしたいな、
ブルームハルトが赤毛の美人が札束持ってきたら寝返りたいと言ってたから、
そう言うシチュエーションを作ってやるかな。

「今回もご苦労様でした、お父様には私から伝えておきますね」

さて、明日は疾風が帰国だし、エヴァちゃんの出産もまもなくだから楽しみだね。
庭園も段々出来てきてるし、書道用具も出来てきた、来年も忙しくなるぞー。

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次回はこんにちは赤ちゃんです

増補です

「まあ今回は別にそのヤン中尉とかを虚仮落とすのが本来の事じゃ無かったしね」
「どの様な事ですかな」
「4つほど有るのよね」

「1、叛徒の政府と軍のいい加減な報道を民に思い知らせる、
まあこれは期待してませんけどね」
 
「2、今回はフェザーン資本のTV、新聞、出版社、ネット業者を使い報道を流しました、
その結果叛徒とフェザーンの間に緊張感を与えることが出来ます。
しかも叛徒の政府に居るフェザーンからリベートを貰っている者と貰わない者の亀裂を作れるでしょう」

「3、この報道により叛徒は益々報道規制やネットの規制を始めるでしょう、
自由の国と言いながら報道規制が凄い民の知る好奇心を止める事は不可能ですからね。
したがって、政府に対する不満が増す」

「4、リンチ司令官以下の家族に対するバッシングを止めさせる、
そうすればリンチ司令官以下は帝国に負けた恨みより自分の家族に危害を加えた叛徒により恨みが行くでしょう」

本当はヤンを弄るのもあるんだけどね。
書類は凄すぎだ。


 
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