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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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七 宣告

 
前書き
大変お待たせいたしました!
こんな長い話にお付き合いしてくださり、いつも本当にありがとうございます!
何卒、これからもよろしくお願いします!!


 

 
木がしなる。
二・三枚散った木の葉が、駆ける四人の後ろへ飛んでゆく。

攫われた我愛羅を取り戻す為に、パックンを先頭に走るのは、波風ナル・畑カカシ・山中いの、そして砂隠れの里のチヨだ。

「ナル…!いくら急いでいるからって隊は乱しちゃダメでしょ~!」
先を急ぐナルに、いのが注意する。後方のチヨを気遣っての発言だったが、当の本人であるチヨは「年寄り扱いするでない」と不貞腐れたように唇を尖らせた。

「ナル、だったか?遠慮せんと、もっとスピードあげても良いぞ」
「話のわかるばあちゃんだってばよ!!」

別里にもかかわらず、和気あいあいとするナルとチヨに、いのは軽く肩を竦めた。
暴走がちのナルを抑えてほしい、という日向ヒナタの頼み事に応えてやろうと思えど、ナル本人がこんな調子なので、彼女の要望にあまり応えられそうにない。

砂隠れの里に未だ残っていた敵のトラップに引っ掛かり、毒ガスを吸ってしまった砂忍の治療をする為に、ひとり、砂隠れの里に残っているヒナタに、同じ医療忍者であるいのは、内心謝罪した。


「ナル、そう熱くなるな。落ち着け。自来也様にもそう言われてるんじゃないか」

カカシの一言で、ナルは気まずげに視線を彷徨わせた。
カカシの推測通り、すぐに熱くなって暴走してしまうナルは、その欠点を自来也によく指摘されていたのだ。


少しスピードを落としたナルに苦笑するカカシの隣に並んだチヨが「ほう…?あの三忍の自来也があやつの師なのか?」と興味深けに問うた。

「ええ。ナルには常に自来也様がついていた。だから『暁』も今まで手が出せなかったんでしょう」

カカシの発言を聞いて、チヨは訝しげに眉を顰めた。


「…いや?わしが得た情報では、『暁』が今になって動き出したのは、もっと別の理由があると聞いた」


チヨからの新たな情報に、カカシを始めとした三人は顔を引き締めた。
『暁』の匂いを辿るパックンも走るスピードこそ落とさないものの、聞き耳を立てている。


「人に封じられる尾獣を引き離すにはそれ相応の準備が必要と聞く。その準備に手間取ったのじゃろう」

己の推測を語るチヨだが、ナルトがそう『暁』のメンバーに周知させた為に、彼らの尾獣狩りの行動を抑制させていたという真実までは知る由も無かった。



「尾獣…?」

聞き慣れぬ語に首を傾げるいのに、チヨは「綱手の弟子のくせしてそんなことも知らんのかい?」と聊か呆れの雑じった声をあげる。
次いでのチヨの一言に、ナルの顔が一瞬強張った。

「木ノ葉には『九尾』がおるじゃろう?」


人知れず、顔を伏せたナルをちらりと見遣って、カカシは「九尾のことは木ノ葉では完全に極秘扱いですので」となんでもないように説明する。
その説明を受けて納得するチヨに反して、ナルを気遣わしげに見つめていたいのは顔を顰めた。


極秘情報のわりには、里の人間はナルを九尾と同一視し、忌避していた。
幼少期から大人達から冷たい扱いを受けていたナルを、幼馴染であるいのは、ずっと傍で見ていたのだ。
幸い、いのの両親を始めとした幼馴染達の家族は皆、ナルに対しては優しかった。
他の里人のように、ナルを疎ましい存在だとはしなかった。


結局、人の口には戸が立てられないのを、あの頃の木ノ葉の里は体現していた。
ナルが九尾をその身に宿していると知っては、表向きには目立った暴行すら加えないものの、陰口か陰湿な行為は絶たなかった。もっとも、これでも随分マシになったそうだ。

ナルが四代目火影の波風の姓を名乗るその昔は、もっと酷い仕打ちを彼女は受けていたらしいと何処からか耳にしたことがある。
はたして何時からだったのか、幼少期よりも冷たく酷い仕打ちとは何だったのか、今となっては知る由もないけれど、幼馴染であるいのがナルの境遇に常日頃不満を抱いていたのは確かな事実だ。
ナルの不遇に真っ先に異論を唱えたのも、その原因に逸早く思い当ったのも、同じ幼馴染である某面倒くさがりなのは言うまでもない。




やるせない想いを抱いて、いのはナルと肩を並べた。
急に自分の隣へ跳躍してきたいのに、ナルは伏せていた顔を上げる。

「…私もナルが木ノ葉にいない間、ただ修行していたわけじゃないわ。綱手師匠の書斎に勝手に入り込んだり、外に出て調べられるだけ調べた」

ナルの顔を覗き込んだいのは、小声で「アンタの中にその尾獣がいるってのも、知っているわ」と何気なく呟く。肩を大きく跳ね上げたナルに気づかないふりをして、いのは話し続けた。


「でもだからって、私の大事な幼馴染で大切な友達なのは昔からずっと変わらない」


キッパリそう言い切ったいのは、動揺するナルの顔を真っ直ぐ見据えた後、前方へ視線を向けた。

「…調べたのは、九尾だけじゃないわ~。サスケくん…そしてサクラが里抜けして向かった先――大蛇丸についても少しだけど調べた。アイツも、元『暁』のメンバーの一人だったそうよ…。だから『暁』に近づけば大蛇丸の情報も、そして…―――」

一度、息をついたいのは、強い眼差しをナルに向けた。
確固とした決意を告げる。


「おのずと、サスケくんにも―――あのバカサクラにも近づける」



いのは、親友であったサクラが自分に何の相談も無しに、サスケを追った事が許せなかった。
こう言ってはなんだが、うちは一族の生き残りであるサスケが天涯孤独の身であるのに反して、サクラには両親も家族も友達も仲間もいた。その中でも、親友の自分はサクラにとって気の許せる相手だと、いのは思っていた。
だがそれはいのの単なる独りよがりだったらしい。

何か悩んでいるサクラがその悩みを打ち明けてきれなかった事や、何も言わず里抜けした事よりも何よりも、何も気づけなかった己自身がいのは許せなかった。


「サスケくんとサクラ、二人を取り戻すわよ」

一緒に、と言外に伝えられたいのの強い決意に、ナルは大きく頷いた。













前方で何やら話しているナルといの。
特に我愛羅奪還に必死になっているナルの背中をじっと見ていたチヨは、訝しげな視線をカカシに投げる。

「何故、あのナルという娘は他の里の我愛羅をあそこまで助けようとする?」

木ノ葉の里からの応援と言え、所詮、別里だ。自分の里の人間でもない相手を必死になって助けようと駆けるナルの強い想いを、チヨには理解できなかった。

チヨの疑問に、カカシは暫し眼を細める。
ほんの一時の沈黙ののち、カカシはナルの背中を見つめながら答えた。

「アイツも…――『人柱力』です」

思いも寄らぬ返答に、眼をみはったチヨに構わず、カカシは言葉を続けた。

「それも、『九尾』を封印された…―――我愛羅くんと同じですよ」


走る速度は落とさず、話し続けるカカシの言葉を聞き漏らすまいと、チヨは耳を澄ませる。

「ナルにとって砂隠れや木ノ葉といった里の違いは関係ないでしょう。しかし、砂隠れの誰よりも、ナルは我愛羅くんの気持ちがわかってしまう」

強大すぎる力には恐怖し、避け、畏怖するのが人間だ。故に、人柱力がどんな扱いを受けてきたか、どの里においても大差ない。


「だから、ナルにとって我愛羅くんは、同じ痛みを知る仲間なんです」


衝撃的な真実を告げながらも、カカシは幾分嬉しそうだった。ナルの背中を眩しげに、微笑ましげに見つめる。


「交わす言葉こそ少なくとも、誰かの心に寄り添い、その者と打ち解けられるのがナルなんです」


幼少期からの不遇な境遇にも耐え、辛さと痛みを乗り越えてきたナルだからこそできる所業であり、彼女の長所でもある。

誇らしげに語るカカシに、チヨは顔を伏せた。苦渋の表情を浮かべる。

「我愛羅に一尾を封じたのは、わしじゃ」


逆に衝撃の事実を知り得たカカシは、一瞬動揺したものの、顔には出さなかった。

「我が砂隠れの里の為、良かれ、と思ってしてきた行為だったが、間違いだったのかもしれない」


俯き加減で、半ば独り言のように、チヨは語る。
ややあって、チヨは顔を上げ、目の前を駆ける若い少女の――我愛羅と同じ人柱力であるナルを見やった。


「だが、今はどうだ?」

チヨの話に口を一切挟まず、カカシは無言で聞いていた。
飛び乗った木の枝の、ミシリ、という軋んだ音だけがやけに響く。


「里を守る為の行いが、結果、里を苦しめ、その上、同盟を信じず、避けてきた他の里によって助けられようとしておる…―――わしのしてきた事は、間違いばかりだ」

自嘲気味に語るチヨは、カカシに否定も肯定も何の返答も望んでいない。
それを察しているからこそ、カカシも無言で応えた。


「その上、老い耄れて諦め癖までついた……カカシよ」

名を呼ばれたカカシはそこでようやくチヨに視線を向けた。
チヨは羨ましげにいのと、そしてナルを見つめていた。


「若いとはなんという可能性を秘めていることか…」

羨ましいのぉ、と続くチヨの言葉に、ようやっとカカシは意見を返した。

「まだまだこれからですよ。十分お若いですし」


微笑むカカシに、お世辞だとわかっていながらも、チヨは楽しげに笑った。一頻り笑った後、彼女は伏せていた顔を大きく上げる。



「そうさのぉ…ワシにもまだ、できることがあるかもしれんのぉ…」
まだ、出来ることが。



同じ人柱力でありながら、我愛羅を誰より必死になって助けようとしている、九尾の人柱力の波風ナル。
先を急ぐ彼女の背中を見つめるチヨのその双眸には、年齢にはそぐわない、強い光が湛えられていた。

























【不可視の領域】。

【写輪眼】や【白眼】をもってしても、視ることが決して叶わぬ結界の内、ナルトは目の前の激しい応酬に、大きく溜息をついた。
うちはサスケとイタチとの間を取り持った時と同じく、【零尾】の力を借りている為に、この領域はナルトに支配下だ。それがたとえ、我愛羅の中であっても。

よって、我愛羅も一尾である守鶴もお互いチャクラを使えないのだが、双方は先ほどから激しい舌戦を繰り広げていた。




話し合いの場を設けたところで、そうすぐに仲良くなれるとは毛頭考えていなかったが、先が思いやられる。
四代目風影である我愛羅は生真面目すぎる性格であり、反して守鶴は意外にファンキーな節がある。
気が合うとはお世辞にも言えないだろうと予想はしていたナルトだが、再度溜息をつく。

まぁ、双方とも姿形と性格を知れただけでも良しとしよう。現段階では、白と君麻呂のような間柄であっても、お互い何も知らないままよりはマシだろう。
それに、もう時間が無い。

結界の内にいても、事前に仕掛けた術によってナルトには外の様子が手に取るようにわかる。そろそろ砂隠れの里から我愛羅奪還の為の追い忍が洞窟の前へ来るだろう。
そのうちの一人が波風ナルだと知っているナルトは、今まで貫いてきた沈黙の構えを解いた。



「話の最中、悪いが打ち止めだ」

いい加減不毛な言い争いを止めるべく、我愛羅と守鶴の間に割って入る。





「邪魔すんじゃねぇえええ!!」

ナルトの力で動けはしないものの、口だけは達者な守鶴が喚く。それを一瞥して、ナルトはわざとらしく肩を竦めた。
話し合いで済めば良かったのだが、そうも言っていなれない。手荒な手段に移らせてもらう。


「やはり所詮、一尾。九尾に比べれば品が無いな」
「……―――あ?」

ぶわりと毛が逆立つ。全身で不快感を露わにさせる守鶴に、ナルトはわざと挑発の言葉の数々を投げつける。

「力を始め、品の良さも心の広さも尾の数によって変わるのかな?九尾は人柱力に助力しているというのに」



尾の数を昔からずっと気にしている一尾『守鶴』。特に九尾に対しての対抗意識は強い。
その点を利用して、ナルトはわざと挑発めいた言葉を続ける。


「九尾は己の宿主に力を貸すという、広い心と器と強さを持ち合わせている。反してお前は……――」



そこであえて言葉を切って、わざとナルトは大きな溜息をついた。何も言わない事が更に守鶴の劣等感に火をつける。
押し黙り、怒りで全身の毛を逆立てる守鶴を、ナルトは涼しげな顔で見上げた。



「やはり『一尾は九尾には勝てない』という噂は本当だったようだ」



その一言は大いに効いたらしい。

凄まじい形相で守鶴はナルトを睨んだ。ナルトの術で動けないのが、更に守鶴の怒りを煽る。

膨らませてゆく濃厚な一尾の殺気に、ナルトは全く物怖じしない。
反面、守鶴の凄まじい殺意に、我愛羅は身体を強張らせて身動きできずにいる。



「これ以上話しても無駄だな―――行こう、我愛羅」

そう言うや否や、ナルトはパチン、と指を鳴らした。



その瞬間、溶けたはずの鎖が守鶴の足場である砂中から幾重にも出現する。
まるで鎖自体が意志を持っているかのように、ジャラジャラと音を立てて高く伸び上がったかと思えば、守鶴の身に纏わりつく。
何百本といった鎖が守鶴の身を覆い尽したかと思うと、それは当初と同じ茶釜へと変貌した。


寸前と全く変わらない釜の中へ封じられた守鶴は、忌々しげに唸り、喚く。
だが、ナルトは全く気にせず、我愛羅を悠然と促した。

ナルトが我愛羅を促してその場から離れようとするのを見て取って、守鶴は聊か焦りの雑じった声音で呼び止める。


「……ま、待ちやがれ……っ!!」


人知れず、口角を吊り上げたナルトの背に、守鶴は大声で喚き散らす。

「九尾のヤローにできて、この俺様ができないわけないだろーが!!バカにすんじゃねぇ!!」

上手く口車に乗せられているとも気づかず、守鶴は我愛羅をじろりと見据えた。


「……仕方ねぇ…。仲良くなんて柄じゃねぇけど、九尾のヤローに負けるのは癪だからな…。俺様が力を貸してやるんだ!感謝しやがれ!!」


何がなんだかわからず、ぽかんと口を開けている我愛羅をよそに、ナルトはほくそ笑む。

『木ノ葉崩し』前における、波風ナルへ力を貸して欲しいと頼んだ九尾と同様の手法だったが、上手くいったようだ。
一尾も九尾もお互いに気の無いふりをしていながら対抗意識を燃やしている。

よって、ナルトはわざと守鶴の劣等感を刺激した。
九尾の自尊心を傷つけ、ナルに力を貸すように仕向けたのと同じ原理だ。


卑怯なやり方だとは理解しているが、こういった荒療治でもしないといつまで経っても状況は変わらない。
今まで『守鶴』と名前を呼んでいたのに、急に一尾と呼び方を変えたのも、ナルトの計算の内だ。




再び封印した守鶴の茶釜に、ナルトは背中を向ける。
あれだけ口喧嘩していたのに、気遣わしげに釜の中の守鶴を見やる我愛羅を横目で見て、案外歩み寄るのは早いかもしれないな、とナルトは満足げに頷いた。

尾獣と人柱力が仲良くなれるのなら、ナルトは己自身がどれだけ憎まれても恨まれても構わない。
たとえ敵と見なされても、そう思われるだけの非道な行為をしている自覚が彼にはあった。



踵を返したナルトに手を引かれ、我愛羅が困惑顔で茶釜から離れる。
猶も喚き散らす守鶴を、ナルトは肩越しに振り返った。微笑。


「相変わらずお前は、九喇嘛への対抗意識が強いね。守鶴」





その瞬間、守鶴は喚くのをやめた。口を噤む。
彼の姿が、遠い昔慕っていた人物と重なった。大きく目を見開く。


「…じじい……?」



その呼び掛けに、ナルトは応えなかった。























ひんやりとした冷たさを背中に感じて、我愛羅は眼を開けた。
ゆっくり瞼を押し上げる。


「こ、ここは……」

砂隠れの里で『暁』の一人であるデイダラと闘って力尽きた後からの記憶が無い。
ぐらぐらする脳に加えて、眩暈がする。
ぼやける視界の隅で、白いフードを被った誰かが、我愛羅の顔を静かに見据えていた。


「起きて早々、申し訳ないが」

淡々とした冷たく澄んだ声が、我愛羅のいる洞窟の奥に染み渡る。
ぼんやりと霞む視界の中、我愛羅は目覚めた直後に、とんでもない宣告をされた。


フードの陰に隠れたその双眸の青には、動揺も戸惑いの色も何一つ無い。
ただ淡々と、ナルトは我愛羅へ静かに囁いた。














「死んでくれないか」

 
 

 
後書き

不穏な終わり方で失礼します。

今年最後の投稿でございます。来年もどうぞよろしくお願い致します。
それでは、よいお年を!!  
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