お人好し物語
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第1話
___君、「例のアレ」は順調かね?
はい、その件ですが事態は深刻化しており、あまり喜ばしい状態とは言えません。
二人の男が話し合っていた。一人は白髪で顎に髭を生やした初老の男。
もう一人は二十歳くらいの若い男だ。
「ふむ、そうか.....」
初老の男はしわがれた手で自分の顎をゆっくりと撫でた。
「ですが解決の糸口は掴めています。」
「ほう、それはよかったじゃないか。」
若い男は少し顔を曇らせ、ばつの悪そうな顔をして言った。
「ただ....それには少し問題が......」
「どうした?言ってみなさい。」
「はい、現状の予算では事態の解決は至難を極めます。」
「金か....幾ら掛かる?」
「人員の輸送に5000、装備の拡充に9000、兵糧に1000ほどは掛かると見積もっています。」
初老の男は自分の顎を撫でながら黙って聞いていた。
「どうか、作戦資金の追加をお願い致します。」
「........却下する。」
「そ、そんな!現状の予算では不可能です!」
「いや、私の計算では可能だ。」
若い男は悔しそうに唇をかみしめた。
「どうして、どうして貴方は私の......」
「私の就職活動を邪魔するのですか!」
「いい加減にしろ!陽介!どうせまた遊ぶ為の金をせびりに来ただけだろう!」
「違います!今回は本気です!」
「嘘をつくな!そもそもなんだ兵糧だとか装備だとか。」
ここぞとばかりに男は答えた。
「はい、まず人員の輸送ですが、これは面接会場までの移動費です。」
「普通5000円もかからないだろう。」
「いやいや、普通かかりますよ。タクシーなら。」
「電車で行け!」
「次に装備の拡充とは一体何だ?」
「ああ、それはスーツの費用ですね。」
「スーツは前に買ってやっただろう。」
「いや~そのままってのもアレだし、ネクタイくらいは変えようかな、と」
「変えんでよろしい!」
「えぇ......」
若い男は不満そうに顔を歪めた。
「最後に、まぁだいたいわかるが、兵糧というのは?」
「昼飯代です」
「 やっぱりか!食うな!」
しばらくの間部屋を静寂が包んだ。
しびれを切らしたかのように、初老の男が自分の財布に手をかけた。
「お前にやる金はこれが最後だ。」
そう言うと初老の男は財布から抜き取った 5000円をおとこに渡した。
「有り難き幸せ!大切に致します!」
そう言い放つと男はさっそく外へ出る準備をした。スーツではなく私服を着て。
「やっぱり嘘だったのか!」
「私服でも大丈夫な面接なんだよ。多分。」
「多分って何だ多分って!」
初老の男の小言を聞き流し、男は家を出た。
「晩飯までには帰るから!」
「二度と帰って来るな!」
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