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大洗女子 第64回全国大会に出場せず

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第11話 笑う角谷

 
 
 
 
 角谷は、筆記試験で受験してもすでに余裕で合格圏内であった第一志望の国立北総大学にAO入試で出願し、すでに合格を果たしていた。同じく合格県内の元副会長、小山柚子もあえてAO入試のみで出願し、同じく合格している。
 これは、元広報の河嶋桃が筆記試験では合格できる大学がないという惨状だったため、無限軌道杯に河嶋を隊長として出場し、その成果を持って北総大学のAO入試を突破させ、三人そろって同じ大学の門をくぐろうという角谷と小山の願いからだった。更に角谷は、第63回全国大会と大洗動乱の副将も河嶋だったということと合わせて生徒会トリオの働きにより母校の廃校を二度とも撤回させたという印象操作も加えて河嶋の合格を勝ち得た。
 そのために自分たちもAO入試のみで出願して、不合格のリスクと引き替えに話に説得力をもたせたのだ。ただ、当時の河嶋が実際にはどんな働きをしたかと言えば……
 その角谷が打ち合わせ場所に指定したのは、大洗中心市街地から離れたところにある「戦車カツ」が名物の、とんかつレストランだった。



「今日は貸し切りだから、ゆっくり話ができるよ」

 ツインテールをやめてしまった角谷というのは、何度見ても角谷に思えないというのがみほの正直な感想だった。
 3人で貸し切りもないだろうと思って見渡すと、他にも見知った顔が何人かいる。
 ナカジマ、スズキ、ホシノ、園みどり子、河嶋桃、小山柚子、つまりHNぴよたん以外の三年生全部と、さらにどうしてここにいるのか全く分からない知波単の西と、角谷同様ツインテールをやめて髪をカットした元ドゥーチェの安斎がいた。

「これでみんなそろったな。今日は店長さんのご厚意で、何食ってもいいからな」

 角谷は、まるで自分のおごりだみたいな言い方をする。
 しかし、華の他に西絹代がいるのに、それでいいのだろうかとみほは思う。
 案の定この二人は超重戦車カツ定食Ⅳ号付きを頼んでいる。通常の10人前だ。
 あとはみほ以外全員戦車カツ。これとて通常の3人前だ。
 みほだけ柔らかさが売りの「少なめ」定食だ。
 何でも角谷が「決勝戦前にここで戦車カツを食べたおかげで勝った」と吹聴しまくったらしく、それ以来験担ぎ目当ての客が増えて、かなり繁盛してるらしい。いまではさらに大洗動乱全面勝利と角谷らの有名大学合格までくわわって、行列店になったそうだ。
 そう考えれば、店長のご厚意も納得がいく。



 お食事タイムは、みんなでワイワイがやがやとおしゃべりしながらだったので、ゆうに1時間を超えてしまった。
 華と西絹代は、それぞれ「マウス」を3両ずつ撃破。
 今は皆でほうじ茶と、……干し芋をいただいている。

「で、西住ちゃんはそれが全部一本の糸でつながってるって思うんだ?」
「……ええ、まちがいなく」

 みほは今の自分の知る限りのことと、思いつく限りのことをすべて角谷に話した。
 角谷は、みほの推定は妥当なものと考える。ただ、角谷自身はいまだ戦車の目利きについては素人だ。だから武器の鑑定士と、自動車のエンジニア、そして機動戦のベテランにくわえて、西住流と真逆な戦車道を突き進む人間を呼んだ。

「でさ、ナカジマ。
 あいつって『乗り物』としてはどうなの?」
「重い車重にプアなサス、ピーキーでもないのにトルクが出ないエンジン。
 エンジンはスムーズに回ればめっけもの。
 まさに壊れるために走っているようなもの。小さな超重戦車だよ。
 ガタイがパンターよりデカい分、室内空間は良好だけど」
「で、西住ちゃん。『兵器』としては?」
「あの戦車は『昼飯の角度』も『ハルダウン』も、戦車壕に入れて砲塔だけ出しても、戦車自体がその効果をすべて打ち消してしまいます。
 いいところ密林の中にでも隠して、狙撃に徹すればというところですが、それで倒せるのは良くて1両まで。おそらくフラッグ戦では迂回されるだけでしょう」

 角谷も「やれやれ」という顔だ。超重戦車なんて味方の誰かが犠牲になれば確実に倒せると、決勝戦でも大洗動乱でも証明された。空襲や支援砲撃のない戦車道でさえ。
 そしてこの「新型戦車」にははったりすらない。ベテラン戦車道選手ならどんな戦車に乗っていても、喜んで撃ってくるだろう。
 最善は「フラッグ戦なら無視」すればいい。射程外を追いつけない速度で迂回すればいいだけのことだ。ノロマなら味方について行けず勝手に遊兵になる。
 フラッグにしたら? それこそ相手の思うつぼだ。
 大洗女子を全国大会で血まみれにしたい誰かは、はした金を与えてカタログスペックは立派なこの戦車を与えておけば自分から進んで蟻地獄に進んでくれると思っているようだが、角谷は自分自身も西住みほもそこまで間抜けじゃないと思っている。
 そして、今度は大洗クラスの情けない戦車を率いて戦っていたポン友のご意見を聞く。
 そのポン友、安斎千代美はバイヤーを介さずに、現地に乗り込んで直接戦車を購入してこられる人物だ。

「ちょび子ー、ハンガリーの戦車道ってどういう状況なの?」
「ちょび子と呼ぶな」
「でももう『ドゥーチェ』でもないでしょ」
「うっ……。
 ……まあそれはいい。向こうも日本の戦車道と大して変わらない。みんな輸入戦車だ。
 一つだけ違いがあるとすれば、向こうには『知波単』はないな」
「ちょっとー! 安斎さん。それどういう意味ですか?」

 安斎の台詞に、華ではない方の大食らいがかみついた。なにしろ自分の母校を名指しでディスられたと思ったから。

「私はほめているんだよ、西。
 文化財としての国産戦車を後世に残すことを勝敗より優先してるってね。
 逆に言えばあんたのところと大洗以外、みんな外国かぶれってことじゃない。
 そして、だからこそあんたの学校は高名な選手や優秀な機甲科隊員を輩出してる。
 紙装甲の戦車でティーガーやらチャーチルやらが相手でも臆せず突っ込んでくる。
 そういう断じて士気崩壊に陥らない、天井知らずの士気の持ち主が最新鋭の戦車に乗ったらどうなるかね? もはや最強だよ。
 それに知波単は大洗動乱以来、どれだけしぶとく戦うかを考える集団に変貌した。
 これからも選手育成という点では、知波単はこの国の中核であり続けるだろうね」

 それなら安斎自身もイタリアかぶれということなのかもしれないが、本来はイタリア人も向こう見ずだ。第二次大戦のイタリア軍をヘタリア軍にしたのは、男の方のドゥーチェとイタリア最後の国王だ。アンツィオ気質が本来のイタリア人だろう。むろんアンツィオにとっては知波単は似たもの同士だ。くさす理由などない。
 安斎が本当に言いたいのは、向こうには国産戦車のみのチームはないと言うことだ。
 当然日本にも、ハンガリーとの提携校はない。ポーランド(ボンプル)、チェコ(グレゴール)、ベルギー(ワッフル)、カナダ(メイプル)、ルーマニア(伯爵)、ノルウェー(ヴァイキング水産)、スウェーデン(ビゲン)、フィンランド(継続)、スペイン(青師団)、オーストラリア(コアラの森)、ブルガリア(ヨーグルト)、スイス(中立)の提携校がある。フランスに至っては2校(マジノ&BC自由)もある。あとは米英独ソ伊と独立校が2つ。しかし、ハンガリーはない。国産戦車を有する国であるにもかかわらず。

 戦車道においては日本とハンガリーは、似たもの同士なのだ。

「ではこれから私が指導者研修会でお姉ちゃ……、いえ西住まほ選手から聞いたことと、継続高校の隊長からきたメールについてお話しします」

 正直に言えば、まほの話もミカの提案も、いまの優花里にはとうてい聞かせられないことばかりなのだ。
 心の中で優花里に詫びながら、みほたちは密談を続けた。






 大洗町教委から示された、補助金申請の目安である3月20日まで2週間を切ったある日。
 2隻の学園艦が、伊豆大島の沖合でスラスターを回しながら停泊していた。
 大島には学園艦が寄港できる埠頭はない。
 2隻の学園艦にはそれぞれフェリーが横付けし、大型学園艦からは5両の、それより小さい方からは縄文土器以外の9両の戦車が乗りこんでいく。いくらなんでも偉大なる戦車の始祖を第二次大戦相当の戦場に引きずり出したら、「イギリスかぶれ」の聖グロリアーナ全員が怒る。
 こうして都合3回目となる聖グロリアーナ対大洗女子の交流戦が、大島の中央、三原山カルデラ火口原を舞台として行われることとなった。
 しかし今回は、聖グロリアーナ側の戦車は戦車輸送車に載せられて、カバーで覆われている。いつもと違うのはそれだけではない。

「聖グロリアーナからは、今回の交流戦は非公開としたいと言われましたが……」
「優花里さん。ダージリンさんが何かサプライズでも用意してるんでしょ。
 今回は優花里さんが手配した新兵器もあることだし。聖グロリアーナの戦車は変えようがないのだから……」

 別にみほは嘘はついていない。意図的に教えていないことがあるだけだ。
 それは口頭でいうより、経験した方が理解しやすいからである。





「このチャーチルとも、今日でお別れですのね」
「ダージリン様……」
「……ふう、仕方ありませんわね。自分で決めたことだというのに。
 ペコ、参りますわよ」
「今日は格言をおっしゃらないのですか?
 今回がダージリン様の、グロリアーナでの最後の試合になるのですが」
「Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning.」
「……チャーチル本人ですね。意味深です」

 ダージリンとオレンジペコは、歩いて戦車倉庫を出ていく。
 ……愛車であるチャーチルMk.Ⅶを、そこにおいたまま。
 
 
 
 
 
 
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