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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百三十一話 終演への道


次回でクロプシュトック侯事件は終了予定です。
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第百三十一話 終演への道

帝国暦483年8月5日 午後1時

■ノイエ・サンスーシ グリューネワルト伯爵邸

一難が去ったアンネローゼに近づく影があった。
「グレーザー、私のせいで、あれほどの多くの方の命が・・・・」
「伯爵夫人、余りお考えになりますとお体に障りますぞ」
「けれど・・・」

「それならば、責任をお取りになるために、御自害為さるが宜しいかと」
「な・・」
「全ての罪を伯爵夫人に取って頂かないと、私が困るのですよ」

「グレーザー貴方は?」
「気がつかれませんでしたか、さる御方の命で伯爵夫人を監視していたのですよ。さあ此処に、毒酒がございます。御自害なされませ」

ジーク助けて!
アンネローゼは心の中で叫んでいた。

密かにその一部始終を見ていたグリンメルスハウゼンよりアンネローゼの監視及び護衛を任されているメイドのハンナが、アンネローゼを助けるべく、付近に居る護衛、メイドやアンネローゼに仕えているコルヴィッツなどに聞こえるように、如何にもアンネローゼに飲み物をお出しする際に襲われている姿を見て驚いたように、お盆にのせたコーヒーセットを派手に落とし、金切り声をあげたのだった。

「伯爵夫人、コーヒーを・・・・キャーーーーーーーーーー!!!伯爵夫人が!!!!」
声量については自信のあるハンナであるから、その声は屋敷中に響き渡るような状態になった。
アンネローゼににじり寄っていたグレーザー医師はハンナの金切り声に驚き、慌て始めた。

結局は原作でいざというと逃げた男であるから、最後の最後でチキンな心が出てしまったのであろう、その隙をついてアンネローゼが素早く持った置物を持ちグレーザー医師に投げつけたのである。当たりはしなかったがそれによりアンネローゼとグレーザー医師との間が開くと、アンネローゼはハンナと合流し逃げようとするが、部屋の隅に追い詰められた。

グレーザー医師は2人を逃がすまいと懐からナイフを出してアンネローゼを人質にしようとするが、アンネローゼとハンナが、持てる物全てをグレーザー医師に投げつけ始めたために近づけない状態で有る。

投げるモノが無くなりつつ有り、にじり寄ってくるグレーザー医師であったが、騒ぎを聞きつけたグレーザー少佐が押っ取り刀で急行しアンネローゼを襲おうとしているグレーザー医師を発見し銃を構えながら叫んだ。

「其処までだ、グレーザー!!大人しくナイフを捨てて投降せよ」
同じ名字同士の睨み合いであるが、方や重装備の正規兵、方や医者では勝負が付かない状態で有る。
「判った、撃たないでくれ!」

余りに情けなくアッサリとグレーザー医師はナイフを捨てて投降した。
グレーザー医師を素早く拘束したグレーザー少佐であったが、同じ名字の奴がこうやって捕まるのは非常に嫌な感じだと思っていた、更に此奴親戚じゃ無いだろうなという、心配事もあったが、後に調べたが何の関係もない事が判りホッとしたそうだ。

「伯爵夫人、お怪我は御座いませんか?」
グレーザー少佐の問いかけにアンネローゼは気丈に答える。
「ええ、皆さんのおかげでこうして無事で居られます、ありがとうございました」

寵姫である伯爵夫人からの丁重な挨拶にグレーザー少佐は恐縮してしまった。
「はっ」
「伯爵夫人、お召し物をお替えになりませんと」
メイドが戦闘で乱れきったアンネローゼの姿を見て身支度をするようにと薦めた。

「けれども未だ陛下の」
「伯爵夫人、陛下も御無事で御座いますし、我々が館を護りますのでご安心下さい」
「陛下が御無事ですか、良かった」

こうして、アンネローゼの危機は去ったが、この事件を知ったらラインハルトとキルヒアイスがどれ程怒るかは想像出来ない状態であった。


帝国暦483年8月5日 午後6時

■オーディン

午後6時までにクロプシュトック侯が企んだ事件は殆どが鎮火した。内務省にはオットー・パウマン大佐率いる武装憲兵隊が突入し制圧した。一番にフレーゲル内務尚書に狙われ易かった内務次官ハルテンベルク侯爵は警察総局に居た為にテロの犠牲にならずに済み、グリンメルスハウゼン憲兵隊総監と協力し合いながら、市内におけるテロ行為に断固たる攻撃を行っていた。

社会秩序維持局にはワルター・フォン・ラフト大佐率いる武装憲兵隊が突入し制圧した、此処にルドルフ大帝以来、市民の恐怖の的であった社会秩序維持局は落日を迎えたのであった。

又皇太子宮殿には宮中警備隊が捜査に入り皇太子妃イリーナと皇太孫エルウィン・ヨーゼフを保護した。その後で皇太子宮殿の関係者全てを拘束し取り調べを始めていた。

又宇宙空間でも脱出したクロプシュトック侯爵領軍の捕虜に対する尋問が始まっていた。

ノイエ・サンスーシでは、近衛兵の武装解除が行われ、一時的にせよ宮中の警備を宮中警備隊と共に装甲擲弾兵が担う事になり、装甲擲弾兵の士気は天にも昇るが如く高まった。近衛総監部に残っていた反逆者を排除後に、近衛総監ラムスドルフ上級大将の殺害が判明し、その最後を聞いた皆が感じ入ったようで黙祷を捧げた。



帝国暦483年8月5日 午後6時

■オーディン ノイエ・サンスーシ ローエングラム大公館

そうした一連の流れの中で、未だ危険であるという事で皇帝フリードリヒ4世は御座所を完璧に護られてていた、ローエングラム大公館へと移し、そこへラプンツェルからテレーゼが到着し親子の感動の再会と相成った。

「父上、御無事で何よりです」
「テレーゼ、よう無事で」
「父上こそ」

がっちりと抱き合う親子の姿にその場に居た者達は一様に感動して涙を見せて居る者すら居る。
挨拶が済むと、皇帝とテレーゼからそれぞれに礼が述べられた。

「卿等のお陰で、予もテレーゼも無事にこうして再会する事が出来た、皆大儀であった」
「皆のお陰で、父上も母上も妾も無事であった、皆の献身忘れはない」

些か堅い挨拶であるが、此処に集まった者達はそんな事を気にせずに、陛下と殿下のお礼の言葉に感じ入っていた。

その後緊急に会議を開く事となりその前に箝口令が発せられた。今回の事件自体が皇太子が親である皇帝の弑逆を諮ると言うデリケートすぎる案件の為であり、関係者全てが許可のでない限り今回の事を喋らないように勅命が下った。

実際の所、テレーゼに考えが有って、完全に皇太子の関与を隠す狙いがあったのであるが。

皇帝陛下の言葉で会議が始まった。

参加者は皇帝フリードリヒ4世、皇女テレーゼ、国務尚書リヒテンラーデ侯、幕僚総監クラーゼン元帥、装甲擲弾兵総監ライムバッハー上級大将、装甲擲弾兵副総監オフレッサー大将、憲兵隊総監グリンメルスハウゼン上級大将、憲兵隊総監高級副官ケスラー准将、ランズベルク伯など事情を知るもの達が集まっていた。

「さて、今回の自体じゃが、多くの謎が残りおった。更にルードビィヒの事とエルウィン・ヨーゼフの事もある。遠慮は無用じゃ率直な意見を述べて欲しい」

「陛下、皇太子殿下の死は余りにも帝室の権威を失墜させる故、自然死と致すのが宜しかろうと存じます」
リヒテンラーデ侯の言葉に、何人かが頷くが、陛下とテレーゼは渋い顔に見える。

「侯はそう言うが、このままで行けば、皇太子殿下は謀反人で無くなる。そうなるとエルウィン・ヨーゼフ殿下の皇位継承権が発生するではないか」
クラーゼン元帥の言葉には謀反人の子などに仕えるのはまっぴら御免との感情が見え隠れする。それにライムバッハー上級大将やオフレッサー大将が頷いて賛成の仕草を見せる。

「恐れ多き事なれど此処でエルウィン・ヨーゼフ殿下を廃嫡すれば、皇位継承の争いになるやも知れませんぞ」
リヒテンラーデ侯の言葉も尤もなのであるが今ひとつ説得力が足りない。

「このままで行きますと、テレーゼ殿下が皇位継承第一位となりますが、殿下の御心境は如何な物でありますか?」
ジーッと話しを聞いていたグリンメルスハウゼン上級大将が目を開いてテレーゼに質問してきた。その言葉に参加者の視線がテレーゼに集まる。

「妾が、継承権第一位とは、母上がお聞きになれば、御喜びになるであろうが」
テレーゼは全く喜んで無いように聞こえる話し方で坦々と呟く。
「テレーゼ殿下が立太子なされませば、ベーネミュンデ侯爵夫人が皇后陛下に成られる可能性が御座いますな」

「テレーゼ様が皇太子と成られるのであれば、我ら装甲擲弾兵全てが命をかけ、テレーゼ様をお守りする所存!」

ランズベルク伯が目出度いという感じで話すと、多くの参加者が賛意を述べるが、テレーゼ自身は余計な事を言うなという感じでランズベルク伯を見ている。

テレーゼ自身は自分的な考えが有って未だ未だ皇位継承権の争いの目を残して置きたいので、僅かな時間で考えを纏めて発言する。

「陛下、宜しいでしょうか?」
何時もと違う話し方に違和感を持ちながらもフリードリヒ4世はテレーゼの話しを聞く。

「今、エルウィン・ヨーゼフ殿下を廃嫡したら、皇太子の死が今回の事と関係していると勘ぐる者達も多く出てくるでしょう、そうなると余り良くない状態になるやも知れません。此処は皇太子殿下はクロプシュトック侯が陛下に対して不敬を働いた三十年前の謝罪を仲介中にクロプシュトック侯のテロに御倒れに成られたとして、エルウィン・ヨーゼフ殿下の皇位継承権を形だけでも残しておくべきかと存じます」

テレーゼの欲のない話しに、参加者は驚きを隠せないが、皇帝、グリンメルスハウゼン、ケスラーはテレーゼが何か企んでいるなと感づいていたが、敢えて何も言わなかった。

「殿下、殿下は帝位をお望みでは御座いませんか?」
些か不敬なリヒテンラーデ侯の言葉に嫌な顔をせずにテレーゼは答える。
「銀河帝国開闢以来、女帝は誰1人として誕生しておりません、此処でその慣習を破るわけにはいきません」

「しかし殿下、それでは恐れ多き事なれど、謀反人の子孫が帝位を継ぐ事に成りますぞ」
クラーゼン元帥が、それは止めないと駄目ですと力説するが、それに対しても反論する。
「陛下の男児を誰かが身ごもるかも知れません」

その言葉に陛下の年齢がと顔を見合わせる参加者達にテレーゼが実例を挙げる。
「地球の歴史では70代80代で新たな子を儲けた為政者は多くいます、それに陛下の御子を害していた輩は此処に潰えたのです、未だ可能性が無いわけではありません」

その言葉に参加者も仕方なしに賛同する事に成り、此が元になり、荘園へ隠棲しようとしたグリューネワルト伯爵夫人が後宮に残る要因と成るのであるが、此もテレーゼの策略であった。

結果的に発表された今回の事件と皇太子殿下の死は、テレーゼの策謀通り“クロプシュトック侯が陛下に対して不敬を働いた三十年前の謝罪を仲介中にクロプシュトック侯のテロに御倒れに成られた”として国葬が行われたのであった。

此により皇位継承者4人が並ぶ事になったが、リッテンハイム侯はテレーゼ暗殺未遂事件の関係者として権威を失墜させた為、ブラウンシュバイク公が元気になったのである。
 
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