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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第24話 シオンの碁

 
前書き
タイトルは将棋漫画『しおんの王』とかけてみた。 

 
H13年11月前半 全日本早碁オープン戦 優勝会見

「東堂シオンだ。イゴ、よろしく!」

 東堂シオンには準決勝で座間王座、決勝で畑中新名人を破り全日本早碁オープン戦で優勝。
 新聞の一面を飾った「好機到来! チャンスだ! レッツイゴー!」で大きく知られることになった囲碁とかけた彼女の口癖であるイゴは今年の流行語大賞にノミネートした。

 東堂シオンが優勝会見で記者の質問に対し大会に参加した理由を答えていく。

「以前、桑原先生からの弟子入りとプロ入りの誘いを断ったとき――。
 私は『囲碁の世界には以後10年は私に敵うものは現れない』と言って囲碁界から身を引いた」

「しかし昨年だが桑原先生から送られてきた棋譜を見て強い衝撃を受けた」

「誰の棋譜ですか?」 礼儀知らずな若い記者が会見の途中に口を挟む。

「今や多くの人が知ることになった正体不明のネット棋士、和-Ai-の棋譜だ」

「ご存知の通り今や和-Ai-という存在は無名のアマチュアが簡単に挑戦できる相手ではない。
 そこで私は和-Ai-に挑戦するに値する碁打ちとして名を挙げたいと思い。
 アマチュアでも参加できる全日本早碁オープン戦に出場することを決めた」

 今まで明かされていなかった同期が明らかになり記者席から大きなざわめきが巻き起こる。

「次は棋戦優勝の資格を持って国際棋戦のオープン戦に参加する予定だ。
 世界の舞台で結果を残し私こそが和-Ai-と戦うに相応しい碁打ちであることを証明したい。
 対局はネット碁で構わないが早碁の一発勝負ではなく3~4時間の持ち時間での番勝負を希望する。
 有言実行、和-Ai-を倒すのは、この私だ!」

 彼女が席を立って行った宣言に一斉にカメラのフラッシュが焚かれた。

 それから記者達からの質問が続くが東堂シオンは一刀両断し彼女のマネージャーがフォローする。
 アイパラTVでの活動は中学で卒業になるが、プロの棋士にはならず今後もアイドル活動は続けるとのことだ。

「はい、投了」「えっと…、これで質問は終了します」

「ちょっと待ってください。最後に和-Ai-に一言お願いします」

「合縁奇縁、どちらが時代を代表する最強か決めよう!」

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side-Asumi

 彼の瞳に映ってた感情は驚き?困惑?それとも……喜び?

 今まで殆どテレビを見ることが無かった彼が衛星放送の囲碁将棋チャンネルと契約した。
 女流棋聖戦もテレビ棋戦として放送されていて、私が一番やる気を出して頑張っている女流棋戦。

 けど、彼が見てたのは私ではなくって優勝会見を行った東堂シオンだった。

 彼女の存在を知った彼はアイパラTVも見るようになった。
 不満げに「面白いの?」と聞いてみたら、「今まで見たことないタイプの番組だから逆に新鮮で」って返って来た。
 低年齢層向けの番組なんだけど慣れてくると確かに面白い。ライブシーンなんか凄い。

 東堂シオンは中性的な話し方で塔矢アキラのような凛とした雰囲気を持つ女の子。
 王子様役もできそうなイケメンボイスで、たまに覗かせる素顔と可愛らしい表情が魅力的。
 かわいい・かっこいい・美人の三拍子揃ったアイドル。

 彼が待ってた相手は彼女なの?
 和-Ai-を破るのは彼女?私は?
 彼女が……東堂シオンが……桐嶋和なの?

 私、怖くて……とても聞けないよ。

 会見の後に彼が嬉しそうな表情で「それなら舞台を用意しない」と呟いた。


 彼女に会うのが怖い。

 けどNHNのテレビ対局は受けてしまった。

 今更、断ることなんてできない。


 私の手には彼に手渡された和-Ai-のノートパソコンがあった。

 彼から東堂シオンが和-Ai-の存在に気付くか試して欲しいと頼まれた。

 もし彼女が和-Ai-の存在に気付いたとしたら……。

 今まで和-Ai-に気づいたのは私だけだった。私と彼との二人だけの秘密だった。

 二人で共有してた世界が壊れてしまう。それがとても恐ろしい。


 私は彼女に勝てるのだろうか?

 早碁とはいえタイトル保持者を破り棋戦優勝を果たした相手に――。

 私は今まで和-Ai-は先生で、桐嶋和さんは心の師匠。
 二人に本気で勝とう思ったことなんて一度もなかった。

 けど、東堂シオンは和-Ai-に勝つつもりでいる。

 それは私が目指す天元の位よりも高い頂で……私が望みもしなかった舞台。

 足下が崩れるような気がした。

 私はただの囲碁棋士で、彼女は正真正銘のアイドル。

 ……勝てっこないよ。

 棋力も、魅力も、意志も、夢みる舞台の大きさも――。

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side-Akira

 塔矢アキラは東堂シオンの優勝会見が終わった後、幼い頃の記憶を手繰る。
 父、行洋が世界囲碁選手権で連覇を重ねる東堂シオンを自宅に招いた日のことを――。

 彼女は置石3子で父と対局し勝利した。その時の自分は父とは置石5子で指導を受けていた。

 初めて見つけた同い年のライバルに対し目を輝かせながら「ボクと打とう!」と声をかけた。

 しかし「打たぬ!」と彼女に一蹴された。

 父に彼女と打ちたいと目を向けるが、父は黙って首を横に振った。

 後日、彼女と対局した碁を並べながら父が桑原先生と話し合っているのを盗み聞いた。

「私が彼女の碁から感じたのは“哀しみ”というものだった。
 囲碁を愛しているにも関わらず、互いに高め合う相手がいない者の慟哭だ。
 そんな棋士に会ったのは初めてだった――」

「碁は一人では打てんからの。孤高の才能を受け入れる器が今の棋界にはないか。残念じゃ」

 そして彼女はプロになることなく囲碁の世界から身を引いた。
 僕は父の反対を押しのけてアマチュア参加して世界囲碁選手権に出るべきだったと後悔した。
 進藤を追うために海王中で強引に大会に出たのはその時の心残りがあったからこそだ。

 父との対局の置き石が3子になって、2子に減ってもプロになる決断がすぐにできなかった。
 彼女のことがあったから僕はライバルの存在に人一倍強くこだわっていたのだと思う。

 プロになってから彼女がアイパラTVという番組でアイドルとしてデビューしていることを知った。

「シオン先輩ってデザートは白と黒のものしか食べないってホント?」

「確かに昔は豆大福とコーヒーゼリーしか食べていなかったが……今は違うぞ」

 テレビに映る彼女の姿は輝いて見えた。それこそ囲碁を打っていたときよりも……ずっと。

「アイドルになって、世界が輝いて見えたんだ。でも、きっと最初から輝いてたんだろうな」

 そう言って笑顔で歌う彼女を見て……もう彼女と囲碁を打つ機会は二度とないのだろうと諦めていた。

 彼女は白と黒の世界を離れてライバルたちと高め合い自分が輝ける場所を見つけたんだと悟った。

 だから週刊碁で彼女の名前を見つけたときは驚きを隠せなかった。

 けど彼女の活躍を知ったときには既に予選で関西の石橋九段に敗れ本戦出場を逃した後だった。

 僕はまた彼女と対局することができなかった……。

 そして彼女は僕が思ってた以上に強かった。昔は分からなかった彼女の強さが今になって分かる。

 早碁とはいえ予選の持ち時間は1時間、本戦は2時間ある。
 一次予選、二次予選、最終予選、本戦とプロを相手に11連勝。
 王座、名人を破っての棋戦優勝。15歳、中学生の棋戦優勝はプロでも存在しない大記録だ。
 それを成し遂げてしまった。彼女は今のボクより強い。

 彼女との対局を望むなら「プロになってから10代で名人になってみせろ」と言った父の言葉を思い出す。あれは子供を奮起させるための大袈裟な例えだと思ってたが、父は本心で言っていたのかもしれない。

 進藤がボクを追ってくるように、ボクは昔から彼女を追っていたのだ。

 和-Ai-、父を倒した正体不明のネット棋士。

 自分をライバルと認めなかった東堂シオンが対局を望む相手。

 彼女が目指すならボクも和-Ai-と本気で戦いたい!

 そして、もう一度「ボクと打とう!」と彼女に声をかける。 
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