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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  ウィザード・トーナメント開幕

今日は待ちに待ったウィザード・トーナメントの初日。世界各国の魔術士が頂点に至るために競い合う世界規模のイベントの1つだ。大会の会場は魔法やオカルトの類いを好む人々が多いと言われているイギリスにある。


ウィザード・トーナメントは1回戦が約10日間に渡って行われ、それから2日後に2回戦が行われる。大会の内容は衛生によって上空からリアルタイムで放送される。大会の内容もかなり濃いため、ウィザード・トーナメントの放送は大会が終わるまで終わらない。分かりやすく説明するなら「24時間テレビ」が何十日にも渡って続くような感じだ。


「なぁ知ってるか誠。今イギリスに向かってるこの飛行機。マーリン学園長の権限で貸し切り、俺たちは無料でイギリスに行けるんだってよ。ヤバいよな。」

「..........。」

(ヤバい.....。)


さっきから武者震いなのか緊張してるのか分からないが震えが止まらない。昨日の晩にイギリスに行く準備をしていた時からソワソワして「俺は遠足の前の夜の小学生か!」なんて自虐を吐きながら準備を終えたが、結果を言えばその後もろくに寝られず今は寝不足だ。


少しずつ強くなっていく震えと圧迫感と寒気と寝不足で今の俺はすごく体調が悪い。だがそんなに慌てることはない。飛行機が飛び立ってまだ数十分。これから数時間も掛けてイギリスに行くのだから寝るには十分だ。ひょっとしたら今寝てイギリスに着けば時差ボケを感じないで過ごせるんじゃないかとさえ思った。


深呼吸をして目を閉じ、頭の中を空っぽにする。やがて思考の及ばない深くまで入っていく。敢えてイメージを挙げるなら海に沈み始めて、やがて光が差し込まないところまで沈んで来たような気分だ。ここまで来ると意識しない限り思考が働くことはない。そして俺は死んだように眠り始めた。
















パチッと瞼が開く。寝たのは確かなんだろうが時間が経過した感覚がない。一瞬だけ瞼が閉じたような感覚だった。たまにこんなことがある。徹夜した次の日は無意識のうちに睡眠状態に入り、目が覚めても寝た感じがしない。瞬きのうちに時間が飛んだかのような感覚になる。


まだ飛行機の中だ。イギリスに到着するまでまだ数時間は時間が余っている。こんな時のために音楽プレイヤーを持って来ていて良かった。イヤホンを繋いで音楽を流す。もともと曲を聴くのが好きだったから俺の音楽プレイヤーには100曲くらい入っている。


(ちょっとトイレに行きたいな。)


催したというよりは単純に手洗いに行きたいだけだ。一度寝たとはいえまだ少し落ち着かない。隣りで寝る友達を起こさないように静かに座席を立ち、機内のマップでトイレの位置を確認すると、そっちに向かった。


トイレで手洗いを終わらせて席に戻ろうとすると、華澄とばったり遭遇する。互いに驚いたが、華澄はすぐに優しそうな笑顔を見せる。


「アナタも落ち着かないのですか?」

「あぁ...昨日の夜も眠れなくてさ。さっき寝たから少しはマシになったけど、まだなんかソワソワして。」

「フフッ、そうなんですね。そう言えば私の隣の席が空いているんですけど、アナタが良ければ少しだけ一緒にいてもらっても良いですか?」

「俺に?」


まるでハーレム系のヤングコミックのような展開だ。これがR-18ならこの後の展開はだいたい分かる。でもその先を言ってしまえば、なんか終わる気がするからそうだな「ご想像にお任せしよう」とでも言っておこうか。


「はい。私はそんなに多くの生徒と面識があるわけじゃありませんし、人に声を掛けるのは少し苦手で、だから知り合いのアナタがいると落ち着くんです。」

「なるほど、分かったよ。少しの間になるが暇つぶし程度に少し駄弁るか。」




















華澄の席まで行くと言った通り隣の席が空いていた。華澄が奥の方の自分の席に腰掛け、俺が手前に座る。だがここで問題が発生する。話題がない。


今までの俺は何か目的があって誰かと話していただけあって、何も無いのに話すのは苦手だと理解した。そんな俺の気持ちが華澄にも伝染したのか、何だか向こうまでソワソワし出している。何だこの空気は。


もう誰でも良いからこの空気をどうにかして欲しい。冷やかしでも良いからこの沈黙を破って欲しい。そう思った時だった。


「おやおや?機内で不純正行為だなんて、最近の若者は元気だねぇ。結構結構。」


その声は若々しいのに貫禄を感じる。振り向くとこちらを覗く若い男性がいた。俺たちはその男性が誰か知っている。一度知ったらその見た目と名前を忘れることはないだろう。マーリン学園の頂点にして、現時点で生きている魔術師の中で最も古いとされる。生きる伝説。「マーリン学園長」だった。


「イギリスか....私が仕えた遥か昔の王の国。まさかこんな形で戻ってくるとは思わなかったよ。まぁ、もう何度も繰り返していることだから慣れているけどね。」


マーリンは理想郷「アヴァロン」にて塔に閉じ込められた後、自分でその塔ごと自分を封印したらしいが、こうして本人が目の前にいるとその話の真偽は判断が難しい。マーリンは自身の行いを反省するために塔に篭ったらしいが、もう反省し終えたから出て来たのか、はたまた最初から塔になんて篭っていないのかもしれない。ただ、彼がどうしても否定しないのは遠い昔にブリテンの騎士王ことアーサー王に仕えていことだ。


俺も中学生くらいの頃に世界の偉人に興味を持ったから勉強していく中でアーサー王についても少し知ったんだが、どうにも昔の偉人というのはどこまでが真実か分からなくて信憑性がない。それはマーリンという存在があろうと無かろうと変わらない。


「ちっ...違いますって!別に不純正行為とかそういうことをしに来たわけじゃなくて.....。」

「まぁまぁ。若者の心中を察してやれない私ではない。それにこういうイベントは個人的に好きだよ。」


何を言っても手応えがない。主導権を取られた。沈黙は破られたが、この状況はむしろ沈黙よりも良くない。隣の席を見ろ。華澄はマーリン学園長の煽りで明らかに赤面している。そして、ひと通り荒らし終えた後、嵐のように彼は自分の席に去っていった。


微妙な空気を僅かに残しながら、再び俺と華澄だけの空間になる。今度は華澄から切り出してくれた。


「学園長さん、すごかったですね。人って長く生きるとあんな風になるんですかね。」

「いや、あの人は半分人間じゃないし。あの人を基準としてみるのは絶対に間違ってると思うぞ。」

「あら、乱暴ですねフフフッ.....。」


そう言うと華澄が黙り込む。俺は何か余計なことを言ってしまったんじゃいかと不安になる。だがそれは俺の思い込みで、華澄は傷付いているわけではなかった。


「私はアナタに感謝してます。」

「ん?何をだ?」


華澄はクスクスと笑って「秘密です。」と言って会話を切った。別に大したことではないと思って俺はその意味を追求することはなかった。














イギリスに到着する。
飛行機を降りると少し肌寒さを感じた。日本とイギリスだからかなりの時差で感覚的にも違和感がある。だが、そんな感覚よりも俺が最初に空港で感じ取ったのは明確な殺意だった。


全身の毛穴が開くような感覚。肌寒さはこの殺意から感じ取ったものなんだろうか。多くの生徒がこの殺意を感じ取っているような感じはしない。ただ、何人かの生徒は何だか不安そうに辺りを見回しているところから、この殺意はピンポイントで向けられたものだと理解する。


「ハハハッ...さぁどうやって楽しもうかなぁ....。」


マーリン学園の生徒の一行を少し離れたところから一人の青年が見ていた。後々、この青年はとある有名な殺人鬼の名を借りてマーリン学園の生徒に一時的な恐怖を与えることになるがまだ俺たちはそれを知らない。





俺たち生徒一行は空港を出た後、マーリン学園の生徒が泊まるために手配されたアヴァロンホテルに移動した。設備の充実した明らかに高価なこのホテルはマーリン学園の偉大さを間接的に証明していた。


「なんか、こう堂々と見せびらかされると逆に清々しく思うよな。諦めがつくというか。」


俺も同意見だ。それぞれの個室には俺の家のベットよりもよく眠れそうなベットが4つ置かれている。バス付きのシャワールームも全個室に完備され、それとは別に大浴場も用意されている。大浴場は24時間無休で運転していて、好きな時に入れる。


「ホントに俺たちは貴族か何かかよ。」


個室に戻る。柔らかそうなベットにダイブし、チマチマと時間の経過を肌で感じ取る。もし家でこんなことをしていれば親に怒られるのはほぼ必須だ。だがここはイギリスだ。口うるさい親もいないし、当たりのキツイ妹も女子用の個室にいて、男子用の個室に入ることは禁止されている。


「なぁ暮斗(くれと)。お前、ウィザード・トーナメントのレクリエーションとか書いてあるしおりって今持ってたりするか?」

「おう、持ってるぞ。」

「ウィザード・トーナメントのオープニングセレモニーは何時から始まるんだ?」


暮斗がしおりをペラペラ進める。しおりは全部で20ページ近くあり、しおりというよりはちょっとした冊子だ。なんでこんなにしおりが分厚いのかというと、このしおりは生徒にも教師にも配布されるものだからだ。


「あと3分後だ。テレビ点けてみ。」


暮斗に言われるがままテレビを点けてウィザード・トーナメントを放送するチャンネルに変える。すると、ちょうど今からオープニングセレモニーが始まるところだった。テレビは毎年お馴染みの「誓の場」を映していた。


そこに3人の人物が現れる。一人は我が校の学園長であるマーリン学園長。一人は「ベルズ院」という学園の学園長をしている女学園長。「リミア・マーカー学園長」。最後の一人は「ブリッツ学園」という学園の学園長をしている男の学園長。「エンドワール・アイゼンバッハ学園長」。


3人とも世界でもトップクラスの魔術士が集まる学園の学園長をしているくらいだからその実力は世界的に見てもトップクラスなことに間違いはない。エンドワール学園長については「属性魔法」の原点を生み出した人物として魔術師史にもその名前が記されている。


誓の場に立つ3人はそれぞれが片手に剣を持って同時に剣を斜め上に伸ばし、重ねる。そして3人が息ピッタリに誓いの言葉を口にする。


「遠き魔術の祖たちよ。我らはここに神聖なる魔術の祭典を開催することを宣言する。存分にご堪能あれ!」


ちなみにここだけの話だが、この3人の学園長たちは常々仲が悪い。とくにリミア学園長とエンドワール学園長は犬猿の仲と言っても過言ではない。いやむしろそれでも過小評価しているかも知れない。


なぜそんなことが言えるのかという話だが、これもウィザード・トーナメントのお約束企画の1つにある。「学園長同士の対談」があるのだが、それぞれの学園長が変わってからもう5年。毎年のように揉めている。マーリン学園長もこの2人については完全に「触らぬ神に祟りなし」と見切りをつけている。


そうして思ってたよりもあっさりと俺たちのウィザード・トーナメントが始まることとなった。 
 

 
後書き
今回はここまでです。
次回もお楽しみに。


【現時点の容姿まとめ】
○日比谷 暮斗《ひびや くれと》
 風早翔太(君に届け)

○マーリン学園長
 マーリン(Fate Grand Order)
 
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