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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の挑戦状・1

「ねぇねぇ提督、今日もクイズ出してよ」

 酒で顔を赤らめながら、俺にそうねだって来たのは遠征帰りにウチの店にやって来た鬼怒だった。今、ウチの店では空前のクイズブームが巻き起こっている。最初はお遊びで俺の出した問題に答えられたら一杯奢ってやる、という物だったのだが、あれよあれよという間に飲兵衛共に集られて、毎日誰かしらに問題を出してくれとせがまれるようになってしまった。

「ったく……毎回問題を考えるのも大変なんだぞ?」

「へへへ~、今日こそは正解しちゃうかんね!」

「じゃあ問題だ。『ヨシザワ氏は酷い虫歯で苦しんでいます。しかし、彼は歯医者に通わず、何故か毎日皮膚科に通っています。それは何故でしょう?』」

 鬼怒は問題文を聞いて固まり、眉間に皺を寄せてウンウン唸り始めた。

「え~……?虫歯で通うのって、普通は歯医者さんでしょ?なんで皮膚科に通うの?」

「あ、因みに解答権は1回だからな?よ~く考えろよ?」

「えぇ!?1回だけ~?うーん……解んないよぉ」

「ギブアップか?」

 う~……と暫く唸っていた鬼怒だったが、諦めたかのように両手を挙げた。

「無理。全然解んない……提督の問題マジパない」

「じゃあ答えな。答えは『ヨシザワ氏は皮膚科医だから』だ」

 鬼怒は答えを聞いて、目が点になっている。

「え、そんだけ?」

「そんだけだが?」

 虫歯が痛い位で仕事なんて休めねぇだろ、常識的に考えて。

「うわぁ……なんかすっごい騙された気分」

「そんな言葉が出てくる内は、まだまだ頭が固いんだよ。クイズってのは柔軟な思考が問われるモンだ」

「きぃ~、悔しいっ!」

 そう言って鬼怒は飲んでいた『レゲェ・パンチ』を飲み干すと、勘定を払って帰っていった。不正解だとしても特に罰ゲームの様な物は無い。正解したら奢るのは本当なので、暇潰しのお遊びの一環である。




「ふっふっふ~、提督。球磨も挑戦してやるクマ!」

「何だ、今度はお前がやんのか?球磨」

「意外に優秀な球磨ちゃんの名は伊達じゃないクマよ?」

「ふ~ん……なら、簡単な英語のテストだ」

「どんとこいクマ!」

「英語でトラは?」

「簡単クマ。tiger(タイガー)!」

「じゃあゾウは?」

「簡単簡単、elephant(エレファント)!」

「やるなぁ。んじゃカッパは?」

 う、と言葉に詰まる球磨。そう、トラとゾウは序の口。本命は『カッパは英語で?』なのだ。これも閃く奴は俺のミスリードにすぐに気付いて……おっと、口が滑るといけねぇや。

「か、カッパってあの河童クマ?」

「球磨がどのカッパを言っているかは知らんが、カッパはカッパだろ?」

 う~……と唸り続けている球磨の隣で飲んでいた多摩が、手を挙げた。

「提督、多摩が答えてもいいかにゃ?」

「む、お前は英語得意だしなぁ……奢りの権利は無いが、答えは聞いてやる」

「残念だけど……仕方ないにゃ」

 多摩は俺にぼそぼそと耳打ちする。その答えは見事に正解。俺の引っ掛けにも掛からず、正解を導き出していた。

「正解だ、多摩」

「やっぱりにゃ。ねーちゃん、見事に提督の思うツボにゃ」

「クマぁ!?どういう事クマ!教えろクマ~っ!」

「ねーちゃん……あんまり、揺すらないで…にゃ」

 ガタガタと揺すられる多摩。飲んでる状況下で頭をシェイクするのは止めてやれ、球磨。

「答えはなぁ……rain coat(レインコート)。つまりは合羽だ」

 そう、俺が先にトラとゾウを例題にしたのが既にトラップ。その例題を出された時点で球磨が勝手に『生き物の名前を英語に直すんだ』と勘違いした為、球磨が悩んだ訳さ。つまりは先入観を持ってしまった球磨の自爆だな。

「うがああぁぁぁ!悔しいクマ~!」

 頭をバリバリと掻き毟る球磨。そんな様子を苦笑いしながら眺めているのは妹の多摩と木曾だ。本当は北上と大井も一緒に来る予定だったらしいが、あいつらは今ヨーロッパに遠征中だからな。

「木曾ぉ~、姉ちゃんの仇を取って欲しいグマァ~っ!」

「うわっ、ちょっ!汚ねぇ!姉ちゃん鼻水と涙が制服に付いちまうって!」

 何だかんだ言いつつ、木曾がリベンジをかけて俺の問題に答える事になったらしい。……ちょっとからかってやるか。

「なら、木曾にも球磨と同じような英語のテストで行くか」

「お、おぅ!どんとこい!」

「んじゃまずは小手調べ。英語で頭は?」

「ヘ、ヘッド!」

「じゃあ顔は?」

「フェイス!」

「胸は?」

「バ、バスト!」

「お腹は?」

「ウェスト!」

「じゃあ尻は?」

「ヒ、ヒップだ!」

 生真面目な木曾め、完全に俺の術中に嵌まってやがる。顔が真っ赤になって照れてるのがいい証拠だぜ、ケケケ。

「じゃあ最後な。……アソコは?」

「はっ?」

「だから、英語でアソコは?」

「なっ、なっ、なっ、ななな、何言わせようとしてんだよこのスケベ親父!」

「あん?何勘違いしてやがる。英語でアソコはthere(あそこ)だろうが。ナニと勘違いしてんだオイ」

 嵌められたのだと気付いた木曾の顔が、どんどん赤くなっていく。

「おやおやぁ?木曾、お前アソコって言われて何を……いや、ナニを想像したのかな?俺をスケベ呼ばわりしてたが、お前の方がよっぽどのムッツリスケベじゃねぇか、えぇ?」

 もはや茹で蛸のように赤くなった木曾は

「ちくしょおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 と叫びながら勘定も払わずに店を飛び出して行った。

「あ、待つクマ木曾!」

 球磨もそれを追いかけるように飛び出して行ってしまった。こっちも勘定を忘れてやがる。

「やれやれ、世話の焼けるねーちゃんと妹だにゃ」

 よっこらせ、と立ち上がった多摩が3人分の支払いをしてゆっくりと去っていく。

「毎度あり」

「提督、あぁ見えて木曾は純情な奴だにゃ。あんまりからかわないでやって欲しいにゃ」

「わ~ってるよ、たまの悪ふざけだ」

「それならいいにゃ」

 んじゃまた、と手を振って多摩も去っていった。店内に客が居なくなったな……と思っていたら、さっきの騒ぎを聞き付けて他の客がやって来た。




「いらっしゃい」

「ねぇ提督、廊下が騒がしいけどまた川内が騒いでるの?」

 そんな言葉をこちらに向けながら入って来たのはビス子ことビスマルクだった。

「違ぇよ、ちと俺が木曾の奴をからかいすぎたんだ」

 そこで俺はクイズの話をしてやる。こういうの、意外と好きなんだよビス子。

「へぇ……面白そうじゃない!私にも問題出してみなさいよ!」

 ふむ。なら、折角だしドイツに因んだブラックユーモアクイズを1つ出してやるか。

「じゃあいくぞ。

『第二次世界大戦も間近のベルリンで、「ヒトラーはバカだ」と叫んで回った男が逮捕され、裁判で禁固20年の判決を受けた。罪状を確認すると、20年の禁固の内5年は侮辱罪だった。残りの15年の禁固の判決の原因になった罪は、次の3つの内のどれ?

1.国家特別反逆罪

2.国家機密漏洩罪

3.国家騒乱煽動罪』

さぁて、解るかな?」


「ねぇ、これってブラックユーモアなのよね?」

「あぁそうだ。まともに考えると答えにゃたどり着けないぞ?」

「簡単じゃない、答えは……」

  
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