異世界に転生したら、強くてニューゲームでした。(編集中)
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再開
酷く頭が痛んだ。
ここは何処だろう。気づけば、そこに横たわっていた。いつかの日のような、白くて、広い場所だ。唯々、広い。不思議と、何故ここにいるのか疑問には思わなかった。
さっきまで、僕お父様たちと……戦って…。
頭を抑えながら立ち上がり、思い出す。
え、お父様は!?お兄様は!?早く、早く戻らないとッ…!!
2人のことを考えると、居ても立っても居られなくなった。
ここから戻るには、どうすればいい?どうすれば、2人に会える?
思いついた魔法を片っ端から使い、試す。その度に爆音が響き、僕に期待させる。だけど、どれも効かない。効果がない。広すぎる。どこまで行っても果てがないせいで、攻撃の仕様がないのだ。魔法は、僕から離れた場所で、発動して消えるだけ。何度もそれを繰り返し、広がっていた白に、所々色がついた。
僕の、魔法が、効かない。
その思いは、そのまま絶望に繋がる。唯一の手段と言ってもいい。体力のない僕には、だだっ広いこの空間を、果てを探して歩くことなんて出来ない。魔力だって、いずれ尽きるのだ。身体強化も、役に立たない。
…………………………。
こんなことをしている間にも、2人は大変な目に遭っているのかもしれない。エトワールも危ないかもしれない。王家の信頼も……。
でも、どうしようもないのだ。非力な僕に、何ができる?
今まで、天使のくれたチートで、楽してきただけだったじゃないか!
なんで、お兄様のように体力をつけようとしなかった?
なんで、あのとき、違和感を感じたのに行動に移さなかった!?
魔力の高い僕なら、何か対抗魔法の一つでも出来たかもしれないのに!
視界が滲む。足元が揺らめいて見えた。
いや、実際に揺らめいたのだ。次に瞬きすると、白い空間に色がついて、すっかり変わっていた。思わず瞬きを繰り返す。
魔法でつけられた色なんかじゃない。僕が、よく見ていた色で、景色だ。
古くなり、少し汚れた黒板。落書きされた無数の机。うるさい話し声。そして、見覚えのある親友の姿。彼がいることを視認すると、ざわめきは遠くなり、やがて消えた。
彼は、僕から少し離れた机で、他のクラスメイトと話していたが、僕が彼に気づいたのを見ると、こちらへ近づいた。
『よう、開。久しぶりじゃないか。元気だったか?』
向けられたその表情は、前と変わらないがしかし僕は、僕がもう死んでしまったことを知っている。即ち、これが僕の、あるいは僕以外の第三者が生んだ幻想であることも承知していた。だけども、非力な自分に嫌気がさし、弱り切った僕はもう少し、この幻想に浸っていたいと、思ってしまう。
『うん、元気だったよ。◯◯はどう?変わったことはない?』
親友の名前を口に出そうとして、出したはずなのだが、僕は自分が彼を何と呼んだのか聞き取れなかった。思い出せない。
『変わったこと?』
◯◯は、僕の顔を見て嗤った。反射的に、目を逸らす。逸らした視線の先で、女の子のグループが大きく口を開けて笑っていた。彼の嗤い声とは違い、僕の耳には届かない。
『そんなこと、開が一番よく分かっているだろ?』
『……………………………………』
答えられない。僕が黙り、顔を俯けたのを一瞥し、話を続ける。
『開が亡くなった後、俺はずっとお前を見ていたんだ。転生した後、ずっと』
その言葉で、顔を上げる。◯◯の顔には、もう、およそ表情といえるものは無かった。只々、機械のように言葉を発すだけ。違う、慌てるな。これは、◯◯じゃない。本物が、転生した僕のことを知っているはずがないじゃないか。
『なぁ、開、お前。ずっと楽しそうだったよな。俺らが一緒にいたときより、ずっと。転生してから、俺のことなんか、一度も思い出してないだろ?』
反論しようとしたが、声が出ない。喉の奥で、ヒューっと掠れた音が出た。周りの風景は気づけば消え、広い、白い空間に僕ら2人は対峙している。
『俺は、ずっと辛かった。お前が死んだこともそうだけど、やっぱり一番は、お前があっちで楽しそうにしてたからだ。なぁ』
『お前、残された側のこと、考えたか?』
ヒュッと、喉が詰まった。
『お前の母さん。やつれたぞ。今じゃ、すっかり廃人状態だ。親父さんも、その状態のお前の母さんの世話しながら、会社通って…。全部、お前のせいだぞ』
そんなことが?いや、そんな訳ない。そもそも、これはニセモノなんだから。
『……でも、お前はここに来てくれた。ここには、誰もいない。なぁ、ずっとここに居たら良いよ。そんで、前みたいに話そうぜ』
いきなりの態度の急変に驚く。【前みたいに】。そのワードは、僕を強く惹きつける。ああ、でも、そうか。こいつの狙いは、僕をここに留まらせることなのか。
……それも、良いかもしれない。こんな僕が、あっちに戻ったって、誰も…。
そんな考えに流されかけ、ふと我にかえる。
いや、逃げちゃダメだ。今僕が戻らないと、2人が危ないかもしれないんだ。光魔法の使い手の半エルフは、少ないんだから。
「僕は、あっちに戻るよ。ここには残らない」
決意して口を開くと、もう喉は治っていた。ハッキリと、そう告げる。周りの景色に、また色がつき始めていた。
『何でだよ?ここにいた方が、絶対良いぞ?』
「そうかもしれない。でも、せっかく転生したんだ。今度は、しっかり生きないと、勿体無いじゃないか」
『その世界でも、何か起こるかもしれない。……気付いているだろ?』
何が、と聞こうとしたが止めた。聞きたくない。本当は、わかっていた。お父様は、僕が慣れてきたから1人で依頼を受けさせるって言ってたけど…。なにか隠してるのは、知ってる。
『ああ、もう、時間がない。あーあ、お前がここにいるって言ってくれたら、もっと話せたのに。仕方ないか』
足を動かすと、ジャリ、と音がした。スィエルが破壊した噴水の残骸だ。あっちの世界に、戻り始めている。
『ほら、戻りたかったんだろ?じゃあな』
◯◯の輪郭が揺らめく。最初、現れたときと同じように、無かったものとして消えてしまう。それが嫌で、手を伸ばした。感触はない。スカッと、空を切った。
意識が遠くなる。手を伸ばしたままの僕の視線の先で、彼は笑った。
ーー暗闇に、落ちていく。
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