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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv36 邂逅の酒場・ルイーダ

   [Ⅰ]


 グランマージから100m程行った所にルイーダの酒場はあった。
 それと付近に厩舎もあったので、俺達はそこで馬車を預かってもらい、酒場へと向かったのである。
 酒場の前に来たところで俺は立ち止まり、建物を眺めながらボソリと呟いた。
「へぇ、マルディラントにあるルイーダの酒場とそっくりな建物だな。まぁ、規模はこっちの方が大きいけど」
 やはり、それだけ冒険者の数も多いという事なのだろう。
「ルイーダの酒場は誰が見てもわかるように、どの地域でも同じような外観なんですよ。ここは冒険者への依頼を一手に引き受ける場所であり、尚且つ、沢山の冒険者が必ず寄るところですからね」と、ラッセルさん。
「なるほど、確かにそうですね」
 これは頷ける話であった。
 考えてみれば、この世界における冒険者の役割は、何でも屋である。
 聞いた話によると、護衛や魔物退治や捜索や探索だけでなく、危険地帯に荷物を届ける宅配業務まで請け負う事もあるそうだ。
 俺が住んでいた現代日本でそれらの業務を行なうには、警察や自衛隊に私立探偵、警備保障会社、猟友会、そして運送会社等の力が必要だが、この世界においては冒険者がそれを一手に引受けているのである。
 つまり、この世界における冒険者というのは、人々の生活に密接に関わっている為、社会構造的に斬っても切り離せない重要な職業なのだ。
 その為、それらを一元管理するルイーダの酒場は、誰が見てもわかる存在でなければならないのだろう。
「さて、それでは中に入りましょうか、コータローさん。ここで待っていても、料理は出てきませんからね」
「ですね」――
 
 ルイーダの酒場に入った俺達は、幾つかある空きテーブルの1つへと移動する。
 ちなみに中も、マルディラントにあるルイーダの酒場とそっくりな内装であった。多分、内装も外装も統一させているのだろう。
 まぁそれはさておき、テーブルに備え付けられた木製の椅子に全員腰掛けたところで、まずラッセルさんが口を開いた。
「さて、それじゃあ、遠慮せず注文してください。今日は俺が奢りますから」
「何かお勧めの料理ってあるんですかね?」
「お勧めってほどでもありませんが、ここで今、人気のある料理というと、ラパーニャですかね」
「ラパーニャ? どんな料理ですか?」
 聞いた事のない料理であった。
「ラパーニャは、500年ほど前にアマツクニから伝わったと云われるコメという穀物と、この地方で採れた野菜や魚介類を使った料理です。少し辛いかもしれませんが、中々美味いですよ」
 コメ……って米か?
 だとしたら久しぶりに食べてみたいところである。
 つーわけで、もう確定だ。
「へぇ、そうなんですか。じゃあ俺はそれにします。ミロン君とラティはどうする?」
「僕もそれで」
「ワイはそれに加えて、バンバの実の盛り合わせやな」
「わかりました。ではそれらに加えて、肉を使った他の料理を幾つかとヴィレアも一緒に注文しますね」
 ヴィレアとは、このイシュマリアで庶民に広く飲まれている酒で、簡単に言うと、少し甘味のある常温のビールみたいなものだ。
 冷えてないのがアレだが、弱い炭酸ガスが湧いてるので、まぁまぁなのど越しの酒である。
 味もビールに似ているので、もしかすると、中世ヨーロッパで庶民によく飲まれていたという、エール酒に似た物なのかもしれない。
「ええ、お願いします」
 ラッセルさんはその後、酒場の給仕を呼び、料理を注文していった。
 そして俺はというと、椅子の背もたれに寄りかかり、大きく背伸びをしながら周囲に目を向けたのである。
 酒場内は今が昼時という事もあり、かなり賑わっていた。
 デカい口を開けて大きな笑い声を上げる冒険者達のグループが、そこかしこに見受けられる。
 またそれと共に、忙しそうに駆け回る給仕達の姿も視界に入ってきた。
 ゲームではパーティ編成の為にしか来なかったが、リアルだと、まさに酒場といった感じである。
「普通の酒場は夜だけが忙しいんでしょうけど、ルイーダの酒場は昼も夜も賑やかですねぇ」
「ここは酒場と名乗ってはおりますが、冒険者への仕事の斡旋所でもありますからね」
 ラッセルさんの言う通りである。
 酒場とついてるので、そこが紛らわしいところだ。
「ところでコータローさん、先程、マルディラントと言ってましたが、もしかして、マール地方から来られたんですか?」
「ええ、そうですよ」
「では、オヴェール湿原の敵には相当苦労されたんじゃないですか? 他の街道と比べると、アルカイム街道側はここ最近、新種の手強い魔物が増えてますからね。特に、あのオヴェール湿原の辺りは今、熟練の冒険者でも命を落とすことがある区域ですし」
 今の話を聞く限りだと、どうやら俺達は、最悪な道順で王都に来たのかもしれない。
 ピュレナを抜けてから他の旅人と出会う事は、ほぼ無かったので、俺もおかしいなとは思っていたのだ。
「仰る通り、凄く苦労しましたよ。魔法に抵抗力のある魔物も多かったですからね」
 と、ここで、ラティが話に入ってきた。
「でも、そこまで危ない局面は無かったんちゃうか? コータローって、敵の弱い部分を見抜くの上手いから、結構すんなり倒してた気がするけどな」
「そうでもないよ。俺も戦闘の時は、ハラハラしてんだから」
(余計な事を言うな、ラティ……)
 すると案の定、ラッセルさんが反応してきたのである。
「え? コータローさんは、魔物の弱点を見抜くのが得意なのですか?」
「別に得意ってわけじゃないですよ。たまたまかも知れませんから」
「そういえばウォーレン様が言ってましたよ。コータローさんは状況を的確に判断できる男だって」と、ミロン君。
「は? なんで? そんな風に思われるような事したっけか」
 意味が分からん。
「昨日、ラッセルさん達の治療を終えた後に、また魔物がやって来たじゃないですか。あの時、コータローさんは魔物達の移動する速さを見て、瞬時に逃げる選択をされたからですよ」
「そんなに驚く事か? あれはどうみても俺達が不利だったからだよ」
「でもウォーレン様はあの時、戦うか逃げるか、少し迷ったらしいんです。一度追い返している上に、新たな戦力として、コータローさん達もいたので」
「いや、俺達がいても犠牲者が増えただけだよ。例え、勝てたとしてもね。大体、ベギラマを使う魔物があんなに沢山いたんじゃ、回復が追いつかない。それにウォーレンさんも言ってたじゃないか、ミロン君の魔力が尽きた上に、薬草も尽きたと。つまり、あの状況下での回復手段は限られていたわけだから、逃げられるのなら、逃げた方がいいんだよ」
「ええ、その通りです。ウォーレン様もコータローさんの忠告を聞いて、それに気付かされたと言ってました。だからですよ」
 ラティはニカッと俺に微笑んだ。
「へへ、第1級宮廷魔導師にそないな事言われるなんて、やるやんか、コータロー」
「褒めても何も出んぞ」
「下心なんてないって。ワイの素直な気持ちや」
 俺達がそんなやり取りをしていると、ラッセルさんは肩を落とし、悲しげな表情になったのである。
「……俺もあの時、コータローさんのようにしっかりとした判断を下す事が出来れば……。そう思うと、悔やんでも悔やみきれない。そうすれば、仲間をあんなに惨い死に方させずに済んだかもしれないんだ……何で俺は……うぅぅ」
 と、その直後、俺達のテーブルだけがシーンと静まり返ったのである。
 ミロン君とラティも少し表情を落としていた。
 明らかに、余計な事を言ってしまったという表情である。
(流石にこの空気は重いな。話題を変えた方が良さそうだ。何の話をしよう……ン? お、グッドタイミング!)
 丁度そこで、こちらに向かって料理を運ぶ2人の給仕が見えた為、俺はこれ幸いと皆に伝えたのであった。
「どうやら、料理が来たようだね」
 ラティとミロン君も同じ思いだったのか、俺に続く。
「アッ、ホ、ホンマや。美味そうな料理が来たでぇ。ええニオイがしてきたわぁ。楽しみやわぁ」
「ほ、本当だ。美味しそうですね」
 給仕達は俺達のテーブルにやってくると、料理や飲物にスプーン、取り皿だと思われる小皿などを次々と並べてゆく。
 と、その時、俺は1つの料理に思わず目が行ったのであった。
 なぜなら、パエリアのような見た目の具沢山な米料理が、大きな木の皿に盛られていたからである。
 俺はこれを見た瞬間、心の中でガッツポーズをした。
(ウホッ! これ米や、ライスや、ご飯や! 久しぶりに米料理が食べられるぅ!)
 そのご飯は一粒一粒に張りと艶があり、熱いのか、ほんのりと湯気も立ち昇っていた。出来立てホカホカといった感じだ。
 ただ、色が少し茶色がかっていたので、やや塩辛そうではあった。が、若干カレーに似た香りがするので、もしかするとドライカレー風味のコメ料理なのかも知れない。ちなみにだが、ドライカレーは好きな料理である。
 だがそうはいうものの、少し気になる点もあった。
 それは何かというと、料理に使われている米は日本人が食べるジャポニカ米ではなく、東南アジアとかヨーロッパで食べられているインディカ米のような細長い品種だったからだ。
(この米、なんかタイ米みたいな形だな……が、まぁいい。本当は日本のコシヒカリが食べたかったところだが、今は贅沢は言えん。とりあえず、米が食べられるので良しとしよう)
 全ての料理がテーブルに置かれたところで、ラッセルさんは仕切り直しとばかりに皆に言った。
「さっきはすいませんでした。唐突に暗い話になってしまい。さて、それでは今日は私が奢りますので、どんどん食べてください。それと、こちらの料理が先程言ったラパーニャです」
 思った通り、ラパーニャは目の前にある米料理のようだ。
 ラッセルさんは続ける。
「それから、もし追加で欲しい物があったならば、遠慮なさらずに言ってくださいよ」
「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいます」
 そして俺達は料理に手を伸ばしたのであった。

 俺はまず、パエリアのようでいて、仄かにカレーの香りが漂うラパーニャから食べる事にした。
 皿に備え付けられた取り分けスプーンを手に取り、ラパーニャを自分の取り皿へと移してゆく。と、その際、粘りの無いパラパラとした米が、俺の取り皿に降り注いだ。予想していた事だが、やはり、インディカ米のような特性の米のようだ。
 まぁそれはさておき、まずは料理の味である。
 俺は早速、ラパーニャを食べてみる事にした。
 木製のスプーンを使い、艶と張りがあるラパーニャを掬い上げ、口の中へと持ってゆく。
 すると次の瞬間、懐かしい食感と共に、少しピリッとくるやや塩辛い味が口の中に広がったのである。
 それに加え、カレーのような風味と、食材からでたであろう、ほんのりとした甘みが、俺の舌を包み込んだのだ。
 初めて食べる料理であったが、一口食べただけで、美味いとわかった。
 俺は思わず、感嘆の言葉をこぼしていた。
「う、美味い。……美味いわ、これ」
「本当ですね。美味しいです」
 ミロン君も驚いていた。
 この様子だと、初めて食べる料理なのだろう。
「そんなうまいんか。ほな、ワイも食べてみよ」
 俺達の感想を聞いたラティは、そこで長い尻尾を器用に使ってスプーンを掴み、ラパーニャを自分の口へ持ってゆく。
 それからモグモグと噛みしめると、俺達と同じ反応をしたのである。
「お、ホンマや。これ、美味いわ。ええやん、ええやん。素敵な味やんか」
 ラッセルさんはそんな俺達を見て微笑んだ。
「皆さんのお口にあったようで、良かったです。ン?」
 と、そこで、女性の声が聞こえてきたのである。

【ラッセルじゃない。身体の方はもう良いの?】

 俺達は食べる手を休め、声の聞こえた方向に振り返る。
 するとそこには、見覚えのある若い女性が2人立っていたのだ。
 1人はボーイッシュな髪型をした金髪の女性で、もう1人は長く赤い髪をポニーテールにした女性であった。
 2人共スリムな体型で、上はスポーツブラジャーのような衣服に、下はホットパンツのような物を穿いていた。また、両足には太腿まである皮のブーツを履いており、腰のベルトには道具袋と短刀が備わっているのである。
 簡単に言うと、ドラクエ8のゲルダに似た、肌の露出が多い格好である。
 年齢はどちらも20歳前後といったところで、背丈も良く似ていた。見た感じだと、身長150cmくらいだろうか。
 また、中々に可愛らしい顔つきをしている上に、身体のラインもセクシーなので、少し小悪魔的な魅力を感じさせる女性達であった。
 とまぁそれはさておき、2人は俺の顔を見た瞬間、目を見開き、驚きの声を上げた。
「あ、貴方は昨日の!」
「え? なんで、貴方がここに……」
「おお、シーマにマチルダじゃないか。丁度良かった。コータローさん、紹介するよ。こっちの髪の短い方がシーマで、髪の長い方がマチルダです。もう気づいているかも知れませんが、2人共、俺の仲間です」
 とりあえず、俺は自己紹介をする事にした。
「昨日はどうも。今、ラッセルさんが仰いましたが、私の名前はコータローといいます。先程、大通りで色々とありましてね、その時の流れで昼食をご一緒させて頂くことになったんですよ」
「僕はミロンです」
「ワイはラティや」
 するとシーマさんとマチルダさんは、慌てて昨日の礼を言った。
「あ、あの、昨日はどうもありがとう。貴方達のお蔭で命拾いしたわ」
「昨日はゴメンなさいね……お礼も言えなくて。改めてお礼を言うわ。助けてくれてありがとう」
「ああ、いいですよ。気にしないでください」
「それはそうと、今日はどうしたんだ? 依頼を探しに来たのか?」
 2人は頭を振る。
「ううん。私達も食事に来たところよ」と、シーマさん。
「そうか……じゃあ、席はまだ3つ空いてるし、そこに座ったらどうだ?」
 ここでシーマさんが俺に訊いてきた。
「ラッセルはこう言ってるけど、ご一緒させてもらってもいいかしら?」
「全然、いいですよ。気にせず、お座りになってください」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 シーマさんとマチルダさんが椅子に腰かけたところで、ラッセルさんは2人に話しかけた。
「今日の夕方だったな、フェリクスやバネッサ達の葬儀は……」
 するとシーマさんは少し涙ぐみ、絞り出すように言葉を紡いだ。
「ええ……。実は私達、馬車の中に置きっぱなしになっていたフェリクスの形見の剣を、さっき家族に返してきところなの。彼の愛用してた剣だったから……埋葬される前に返さなきゃと思って……」
「そうか。で、エレンは今どうしてる?」
「私達が行った時、彼の棺の前で泣き崩れていたわ」
「……無理もない。最愛の恋人に旅立たれたのだからな。今はそっとしておこう」
「ええ」
 ラッセルさん達の悲しい話を俺達は黙って聞いているだけであった。
 しんみりとした重い空気になっているのは言うまでもない。
 だが、冗談を言って和ます空気でもないので、ここはもう黙っているしかないのである。
「ところで、ラッセルは動いて大丈夫なの? 昨日は結構酷い怪我してたけど」と、マチルダさん。
「ああ、それは大丈夫だ。コータローさん達のお蔭で、今はこの通りさ」
 ラッセルさんはそう言って、ガッツポーズをした。
「よかった。じゃあ、リタの方はどう?」
「妹も体調は戻ってきたみたいだが、バネッサがあんな事になったからな……今はどちらにしろ休養が必要だ」
「リタはバネッサを姉のように慕っていたから辛いでしょうね……」
 マチルダさんはそう言って溜息を吐いた。
「ああ」
 どうやらラッセルさんには妹がいるようだ。
 もしかすると、あの時、隣で倒れていた女戦士の事かもしれない。
 というわけで俺は訊いてみた。
「妹さんというのは、俺が治療した時、隣にいた方ですか?」
「ええ、そうです」
 思った通りだ。
 気が強そうな顔ではあったが、中々に綺麗な女性だったのを覚えている。つまり、美男美女の兄妹ということだ。羨ましい限りである。
 ラッセルさんは続ける。
「コータローさんの治療もあって、怪我の方は大丈夫だと思うんですが、あの時、大切な友人を失くしてしまいましてね……。それで、リタは精神的に参ってしまっているんです。なので、今しばらくは、そっとしておこうと思ってます」
「そうですか。……心の傷を癒すには時間が必要ですからね。お大事になさってください」
「お気遣いありがとうございます」
 と、ここで、ラティが話に入ってきた。
「ごめん、話は変わるんやけど、ラッセルはん達のパーティ階級って、なんぼなん?」
「俺達のパーティは第2級だ。まぁ所謂、金の階級というやつだな」
「ほえ~金の階級なんか。凄いなぁ。ベテランやんか」
 そういえば、王都に来るまでの道中、冒険者にも階級があるとアーシャさんが言っていた。
 だがそれらは個人に対して与えられるものではなく、パーティに与えられるものらしい。なんでも、依頼を達成した成績によって上の階級にいける仕組みだそうだ。
 そして階級が上がるに従い、実入りの良い大きな仕事を引き受ける事が出来るようになるみたいである。
 また、階級は1級から4級まであり、それらは色によって区別されているらしい。
 ちなみに4級が青銅で、3級が銀、2級が金で、1級が白金となっているそうだ。ある意味、某聖闘士漫画のような階級設定である。
 まぁそれはさておき、ラティは話を続ける。
「しかし、ラッセルはん達みたいな金の階級の冒険者が、こないに酷い目遭うなんてなぁ……。これじゃ、皆、オチオチ旅も出来へんようになるで。一体これからどうなるんやろ、このイシュマリアは……」
 ラティの言葉を聞き、テーブルにいる者達は全員、溜息を吐いた。
「ああ、全くだ。この国は、一体どうなるんだろうな……。俺達も新手の強力な魔物に対応できるよう、他の冒険者達と共同で依頼を受けたのだが、あの有様だった。あんなに強力な魔物が沢山現れたら、流石にもう、お手上げだ」
 ラッセルさんはそう言うと、疲れた表情を浮かべた。
 俺は今の話で気になる点があったので、それを訊ねる事にした。
「今、他の冒険者達と共同で依頼を受けたと言いましたが、普段は何名で行動しているのですか?」
「俺達ですか? 6名です。一応言いますと、俺と妹のリタ。それと、ここにいるシーマとマチルダ。それからここにはいませんが、エレンという名の魔法使いと、フェリクスという名の戦士を加えた計6名で俺達は普段行動してました。まぁ昨日、1名亡くなりましたが……」
「そうですか……。では昨日亡くなった殆どの方々は、いつも行動する方達ではないのですね?」
「まぁ確かにそうですが、全く知らない冒険者ではなく、親しい間柄の者達ですよ。以前、俺達が良く面倒を見ていた後輩の冒険者達ですから」
「後輩の冒険者達ですか……なるほど。ではもう1つ。さっき、『俺達も』と仰いましたが、王都では他の冒険者達と共同戦線を張る事が多いのですか?」
 これにはシーマさんが答えてくれた。
「ええ、その通りよ。以前はそうでもなかったんだけど、ここ最近、王都では未知の強力な魔物が出現するようになって、名うての冒険者達ですら命を落としているのよ。だからルイーダの酒場では、このアムートの月に入ってからというもの、難易度の高い依頼を受ける際は、10名以上の集団で行動するように注意を促しているのよ」
「そうだったんですか。まぁ確かに、この近辺の魔物はかなり強かったですからね。俺達も王都に来るまでの道中、結構、魔物に苦労したんでわかりますよ」
 マチルダさんは溜め息を吐き、ボソリと言った。
「はぁ……嫌な世の中になったものね。私達もそのお陰で酷い目にあったし。しかも最近じゃ、イシュマリア城内の様子も変だって言うしね。ほんと……どうなっちゃうのかしらね、この国は……」
「オルドラン家のヴァロム様が投獄されたという件ですか?」と、俺。
「まぁそれもだけど、王様の様子もおかしいって噂だし、おまけに、次期国王と言われているアヴェル王子も、やる気がないのかフラフラしてるっていうからね。この国の先行きが、本当に不安だわ」
「国王だけでなく、王子の様子も変なのですか?」
「アヴェル王子は元からよ。でも、幾ら王位継承権第1位とはいえ、フラフラとやる気がないんじゃねぇ……。今では、弟君のアルシェス王子の方が、国王になるのではないかという噂よ。アルシェス王子もデインを使えるしね。それに教皇や大神官達からの評判も上々みたいよ」
「え? 継承順位を飛ばすなんて事できるんですか?」
 これにはミロン君が答えてくれた。
「この国の王位継承は、建国以来、戴冠式の前に教皇から事前承認を得るのが習わしなのです。ですから、アズライル猊下が望まぬ場合は、そういう事もあり得るかも知れませんね。とはいえ、今までそんな事は無かったそうですが……」
「へぇ、そうなんだ。教皇って凄い権力もってんだね。王位継承にまで影響力あるなんて」
「そうなのよ。だから、影の王と言う者までいるわ」と、マチルダさん。
「影の王ですか……」
 そういえば以前、聞いた事がある。
 中世ヨーロッパでも皇帝に即位となると、神から冠を戴くという名目を得る為に、教皇の承認を得ていたような事を。
 今の話を聞く限り、恐らく、それに近い宗教儀礼なのだろう。
「ふぅん。ところで今、デインという名前が出てきましてけど、その魔法を使える王族って、他にもいるんですかね?」
 マチルダさんは頷く。
「ええ、いるわよ。王は5人の子供を授かったのだけど、確かその内の3人が、デインを使える筈よ」
「デインを使えるのは、アヴェル王子と弟君のアルシェス王子、それから次女のフィオナ王女ですね」と、ミロン君。
 フィオナ王女……確か、ピュレナで沐浴の泉を見学しに行ったときに遭遇した、あの綺麗な女性だ。
 あの子もデインを使えるみたいである。
「王様以外に3人もデインを使えるのか。思ったより多いね」
 ミロン君は頷く。
「過去に例がないそうですよ。今までだと、デインを使える王位継承候補者は、多くても2人だそうですから。なので、アズライル猊下や大神官達も、それを知って大変驚いたそうですよ」
「へぇ……ン?」
 と、その時であった。

【ラッセル!】

 またラッセルさんの名を呼ぶ声が、近くから聞こえてきたのである。
 俺達は声の聞こえた方向に視線を向けた。
 するとそこには、青いの鎧に身を包む、口髭をはやした男前な戦士が立っていたのだ。
 身長や歳はラッセルさんと同じくらいで、長い金髪をうなじで束ね、額にはドラクエⅢの勇者を思わせるサークレットを装着していた。
 鍛えられた肉体が鎧の肩口から見え隠れしており、全体的な印象としては、武人といった雰囲気が漂う男であった。
 ちなみにだが、この青い鎧は多分、魔法の鎧だろう。マルディラント守護隊の鎧と非常に似ているので間違いない筈だ。
 まぁそれはさておき、ラッセルさんは男に返事をする。
「おお、バルジか。どうしたんだ?」
「聞いたぞ、ラッセル……色々と大変だったようだな」
 男はそう言って、こちらへとやって来た。
「ああ、酷い目に遭ったよ」
「そうか……」
 と、そこで、シーマさんが男に話しかける。
「久しぶりね、バルジ」
「おお、シーマとマチルダもいたのか。久しぶりだな。ところでラッセル、ココ、今、空いているか?」
 男は俺とミロン君をチラ見した後、空いてる席を指さした。
 ラッセルさんは俺に視線を向ける。
「いいですよね、コータローさん?」
「構いませんよ。どうぞ」
「じゃあ、座らせてもらうか。お~い、そこにいる給仕のネェちゃん。ちょっとこっちに来てくれ」
「はい、ただいま~」
 付近にいた給仕の女の子は、小走りでコッチにやって来た。
「ご注文ですか?」
「ああ。まずは酒だな。ヴィレアの特大を1つと、それから料理はここにあるのと同じのを頼む」
 続いてシーマさん達も注文をする。
「ついでだから、私達も同じのをお願いするわ。そのかわり、私達のヴィレアは普通のでね」
「はい、畏まりました。では少々お待ちください」
 給仕の女の子が去ったところで、男は声のトーンを少し下げ、静かに話し始めた。
「さて……昨日の今日でこんな話をするのもアレだが……お前達ほどの冒険者が手こずるなんて、一体どんな魔物と出遭ったんだ?」
 ラッセルさんは暫しの沈黙の後、元気なく口を開いた。
「……ベギラマやマホトーンを使ってくる羽が生えたサーベルウルフみたいな魔物と、首に羽を生やした紫色の大蛇だ。どちらも初めて見る魔物だったが、強さは今まで見てきた魔物と段違いだった。俺達は奴等に致命傷も与えられず、成すすべなくやられたのだからな。あの時、宮廷魔導師のウォーレン様が通りかからなければ、俺達は全滅していただろう……」
「そうか……。もしやと思ったが、やはり、新種の魔物だったか」
「バルジ達は、まだ新種の魔物とは遭遇してないの?」と、マチルダさん。
「まぁ遭遇はしたことはあるが、今のところ、対応できる範囲内の魔物ばかりだ。しかし、ここ最近、上級の冒険者達が相次いで命を落としている事を考えれば、俺達も何れ、強力な魔物に出遭うのは避けられんだろうな。……嫌な世の中になっちまったもんだよ」
「本当よね……」
「それはそうとラッセル、身体はもういいのか? 怪我をしたと聞いたが」
「ああ、もう大丈夫だ。昨日、そこにいるコータローさんに治療してもらったのでな」
 男は俺に視線を向ける。
「おお、貴方がラッセルの治療をされたのか。友人を助けてくれた恩人ならば、礼を言わねばなるまい。ラッセルを救って頂き、感謝する」
「いえいえ、お互い様ですから、そんな気にしないでください」
「ついでだ。名乗っておこう。俺の名前はバルジという。このオヴェリウスで活動する冒険者だ」
 バルジ……そういえば、さっき大通りで、ラッセルさんがこの名前を口にした気がする。
 確か、あのスキンヘッド野郎の兄貴の名前だったか……。
 まぁとりあえず、本人かどうかはわからないので、今は置いておこう。
 つーわけで俺も自己紹介をしておいた。
「私はコータローと言います。私も一応、冒険者です」
 ミロン君とラティも、俺に続いて自己紹介をした。
「僕はミロンと言います。宮廷魔導師の見習いです」
「ワイはラティや。ヨロシクな、バルジはん」
「ああ、ヨロシクな。しかし、……面白い組み合わせだな。冒険者と宮廷魔導師見習いと、ドラキー便の配達員という組み合わせは、初めて見たよ」
「まぁ成り行きみたいなもんですよ」と俺。
「ははは、成り行きか。まぁこんな世の中だ、そう言う事もあるか。さて……」
 そこで言葉を切り、バルジさんはラッセルさんに視線を戻した。
「それはそうとラッセル、お前達が受けていたオヴェール湿原の洞窟調査だが、あれはどうなった?」
「ゼーレ洞窟の調査の件か?」
「ああ」
「それなら、もう断ろうと思っている。あそこに向かったが為に、フェリクスやバネッサ達もあんな事になったからな」
「そうか……なら、今度は俺達と一緒にどうだ?」
 ラッセルさんは首を傾げる。
「バルジ達と? どうしてまた」
「実はな、少し気になる話を聞いたんだよ」
「気になる話?」
 そこでバルジさんは少し前屈みになり、顔をテーブルの中央に寄せ、周囲の者達に聞かれないよう注意しながら、囁くように話し始めたのであった。
「アムートの月に入ってから、幾つかのパーティがあの洞窟に向かったのは、お前達も勿論知っているな?」
「何組かの冒険者達が消息を絶ったという話の事だろ。勿論、知っているよ。それがあったから、今回の洞窟調査依頼があったんだしな」
「じゃあ、これは知っているか? その内の1人が、命からがら洞窟から逃げ帰ってきたという話を」
「それは初耳だ。……帰って来た者がいたのか?」
「ああ、それがいたんだよ」
「それって、いつの話?」と、シーマさん。
「帰ってきたのは一昨日の晩だ。しかも、薄汚れたみすぼらしい姿でな」
「一昨日の晩か……俺達と行き違いだな。で、その帰ってきた冒険者がどうかしたのか?」
 バルジさんはラッセルさんに向かい、笑みを浮かべた。
「実はな、その男に俺も直接会う機会があってな、そこで色々と洞窟内での話を聞けたんだよ。それで奴の話によるとだが、どうやら魔物達の親玉みたいなのが、洞窟の奥に棲みついているらしいんだ」
「なんだって!? それは本当か」
「確証はないが、嘘を言っているようにも見えなかった。だから、俺は本当じゃないかと思っている。そこでだが……実はな、ラッセル達に頼みたい事があるんだよ」
「頼み?」
「他の冒険者達にも声をかけているんだが、俺は今、魔物の親玉を退治する為の討伐隊を作ろうと思っているんだ。それにラッセル達も加わって欲しいんだよ」
「討伐隊……」
「ああ、討伐隊だ。ここ最近、魔物も強くなってきているから、少数では危険だからな。それに親玉を倒せば、あの辺りの魔物も少しは大人しくなるだろうし。だからさ」
 ラッセルさんは腕を組み、眉間に皺を寄せる。
「……でも、俺達は仲間を失ったばかりだからな」
「言っておくが、魔物の討伐自体は、ルイーダの酒場が正式に引き受けた依頼だから、ちゃんと金は出るぞ。しかも、討伐隊に参加したパーティは1組につき、10000ゴールドだ。おまけに、親玉を倒したら、さらに追加で10000ゴールド貰える事になっている。上手くいけば20000ゴールドだぞ。どうだ、悪い話ではあるまい」
「金額は確かに大きいけど、それってどこから出るお金なの?」と、マチルダさん。
「聞いて驚くな。依頼主はイシュラナ大神殿だ。実は昨日の晩、イシュラナ神殿側から正式にルイーダの酒場へ依頼があったんだよ。だから、お金の心配はしなくていい」
「まぁ確かに稼ぎは得られそうだが……俺達は沢山のパーティと合同で仕事をした事なんてないからな……」
 すかさず、バルジさんは話を付け足した。
「ああ、言い忘れたが、戦闘に関しては各パーティのやり方というのものがあるだろうから、俺もそこまで干渉はしない。だから参加してくれないか? 強力な魔物が多いだろうから、腕のある冒険者が必要なんだよ」
「しかしだな……」
 ラッセルさんはそこで言葉を切り、シーマさんとマチルダさんに視線を向ける。
 まずシーマさんが口を開いた。
「幾ら報酬が高いといっても、大切な仲間を失ったばかりだから、私はあまり気乗りがしないわね……」
「私もシーマと同じよ。それに、20000ゴールド程度じゃ、流石に命を掛けるわけにいかないわ」
 2人の言葉を聞き、バルジさんは不敵な笑みを浮かべる。
 それから口元で人差し指を振り、「チッチッチッチッ」と舌を鳴らしたのである。
「そう結論を焦るな。話はまだ終わっていない。ここからが本番さ」
「本番?」
 ラッセルさん達3人は首を傾げた。
「実はな、逃げ帰ってきたその男から、もっと面白い話を聞けたのさ。あの辺りにある洞窟のどこかに、大盗賊バスティアンの隠した財宝が眠っているという噂は、お前達も聞いた事があるだろう?」
 するとシーマさんは、溜息まじりに言葉を発した。
「でも、それってあくまでも噂でしょ。今までその噂を信じて馬鹿を見た冒険者は数知れないわよ」
「だが今度は少し事情が違う。なぜなら、逃げ帰った男が、こんな物を持って帰ってきたんだからな」
 バルジさんはそう告げた後、懐から布に包まれた細長い物体を取り出し、テーブルの上に置いたのである。
 そして、バルジさんは布を解き、周囲の者達に見えないよう注意しながら、俺達に中身を見せたのだ。
 包まれていたのは、眩い光を放つ金の延べ棒であった。
 ラッセルさんはそれを凝視すると、驚きのあまり目を見開いた。
「……こ、これは……第33代国王・アルデバラン王の刻印……1000年前の金塊じゃないか。どこでこんな物を?」
「その男はこう言っていた。洞窟内に隠れて潜んでいた時、魔物達が沢山の財宝を発見したのを見たとな。そして、魔物達の目を盗んで、これを幾つか持ち帰ってきたと。どうだ、ラッセル? 俄然、興味が湧いてきただろう」
「本当なのか?」
「ああ、本当だ。大盗賊バスティアンが、この辺りを荒らしまわっていたのが1000年前という事を考えると、見事に合致する。これは行ってみる価値があると思わんか?」
「大盗賊の財宝……」
 ラッセルさん達3人は、テーブルに置かれた金塊を食い入るように見つめながら、ボソリとそう呟いていた。
 10秒程、無言の時間が過ぎてゆく。が、暫くすると、ラッセルさんは頭を振り、項垂れるように口を開いたのであった。
「残念だが……俺達は今、面子が足りない。特に魔法を使える者がいないんだ。フェリクスがあんな事になったから、エレンも来るとは言わないだろう。やはり、引受けるわけには……」
「ならコータローさんがいるじゃないか」
「はへ、俺?」
 無防備で話を聞いていた為、俺は思わず気の抜けた声を上げてしまった。
「バルジ、コータローさんは駄目だ。コータローさんは、俺達とは違うパーティの方なんだから」
「そうなのか。ではコータローさん達はどうだ? といっても、討伐隊の参加資格は金の階級以上のパーティになるが」
 俺は正直に言う事にした。
「残念ながら、俺達のパーティは王都についた時点で解散してるんで、討伐隊には参加できませんよ。それに階級なんてない、急造のパーティですしね」
「なら丁度良い。どうだ、コータローさん? ラッセル達のパーティに加わって、一緒に討伐隊に入ってくれないか?」
 この際だ。はっきりと断っておこう。
「全然、丁度良くありませんよ。得体の知れない魔物と戦うのは、心身が疲れるんで嫌なんです。ですから辞退させて頂きます」
「ははは、まぁそう言わずにさ。ラッセル達もコータローさんが仲間になってくれるんだったら、討伐隊に参加してくれるんだろ?」
(う~ん、しぶとい……でも、ラッセルさん達はウンとは言わないだろう。あまりに強引すぎるよ)
 などと思っていると、ラッセルさんはボソリと、予想外の言葉を口走ったのである。
「まぁ……コータローさんほどの魔法の使い手が仲間になってくれるのならば……」
(なぬッ!? そこは断るところだろ、おいッ!)
 するとシーマさんやマチルダさんも、ラッセルさんに続いた。
「確かに、コータローさんほどの使い手が仲間なら、安心よね……魔導の手を使えるんだから、エレンよりも凄い、魔法の使い手だし……」
「そうよね……コータローさんが仲間になってくれるなら、考えてもいいかも。私も大盗賊バスティアンの財宝を、見れる物なら見てみたいし」
(アンタ達もかい!)
 なんか雲行きが怪しくなってきた。
 と、その時である。
 よりにもよってラティが、ここでKYぶりを発揮したのであった。
「言っとくけど、コータローは凄いでぇ。ワイが見てきた中でも、そうはいない程の優秀な魔法使ッ、ンガ、クックッ……」
 俺は慌ててラティの口を手で塞ぎ、抱きかかえた。
「あはは、何言ってんだよ。本当、冗談の好きな奴だなぁ。俺みたいなボンクラが、皆の役に立てるわけないだろ。ったくもう。本当、コイツは冗談の好きな奴でして」
 と言いながら、俺は皆の顔を見た。
 ラッセルさん達は悲しげな表情でジッと俺を見詰めていた。何かを訴えかけるような視線だ。正直、痛い視線である。
 俺達の間に暫しの沈黙が訪れる。
 程なくして、バルジさんが口を開いた。
「まぁ……その、なんだ。返事は今すぐってわけじゃない。一応、ゼーレ洞窟に向かうのは5日後を予定している。3日くらい悩んでくれて構わないから、よろしく頼むよ、コータローさん。ラッセル達は貴方の事を信用しているみたいだからさ」
「えぇ!? そんな事言われてもねぇ……ハッキリ言って、行きたくないんですけど」
「そう言わずにさ。この都を救うと思って、頼むよ」
 ぐぬぬ、仕方ない。
 断るのを前提で、考えるフリだけでもしておくか。
「はぁ……じゃあ少し考えさせてください。また後日、返事しますから。ですがその前に……幾つかお訊きしてもいいですかね?」
「ああ、何でも訊いてくれ」
「バルジさんは先程、討伐隊の参加資格は金の階級以上と仰いましたが、依頼主であるイシュラナ神殿側は、腕利きのパーティで討伐隊を組むよう指示しているんですか?」
「いや、そんな指示はしていない。だが難度の高い依頼で登録されているから、必然的に腕利きの冒険者だけになってしまうのさ。おまけに、パーティ1組につき、イシュラナ神殿側はお金を払うと言っているから、出来るだけ多くの冒険者達に参加してもらおうと思っているんだよ」
「そうですか……」
 依頼内容に少し引っ掛かりを覚えるが、それが何なのかが分からない。
 なので、とりあえずは置いておく事にした。
 俺は質問を続ける。
「では、一昨日の晩に帰ってきたというその男ですが、今、どこにいるのですか?」
「男は今、イシュラナ大神殿にいる。なんでも、ボロボロの男を見つけた門の守衛が、イシュラナ大神殿に運んだんだそうだ。まぁそんなわけで、男は神殿で傷の手当てを受け、今は安静にしているところだな」
「という事は、イシュラナ神殿側は男からその話を聞いて、ルイーダの酒場に依頼を出したのですね?」
「ああ、多分そうだろう」
「なるほど……。ちなみに、その帰ってきた冒険者の男は戦士系ですか? それとも魔法使い系ですか?」
「魔法は少し使えるが、魔法の使い手って程でもない。そこにいるシーマやマチルダみたいな感じの冒険者だな」
 つまり、盗賊系って事か。
「では最後に1つだけ。大盗賊バスティアンについてですが、私は王都に来て間もないので、今初めて知ったのです。ここでは有名なのですか?」
「ああ、有名も有名さ。バスティアンの隠し財宝伝説は、長い間、多くの冒険者を虜にしたからな。未だに冒険者達を熱くさせる伝説さ」
「へぇ、そうなんですか」
 話のニュアンスからすると、徳川埋蔵金みたいな伝説なのだろう。
 未だに見つかっていない眉唾伝説に違いない。
「さて、他に質問はないか、コータローさん」
 他にも気になるところはあるが、断るつもりなので、これ以上はやめておこう。
「まぁ今のところは」
「じゃあ、決心がついたら、ラッセルに伝えておいてくれ」
「ええ、そうさせてもらいます」
「頼んだぜ、コータローさん」
(絶対断ろう)
 とまぁそんなわけで、また妙な厄介事に巻き込まれそうになる俺なのであった。 
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