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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv14 旅の仲間

   [Ⅰ]


 俺はアーシャさんの迫力にたじろぎ、彼女のガルテア行きを認めてしまった。が、その後も、俺達の打ち合わせは続いた。
 そして、旅の準備をする為に午後にもう一度会うという約束をして、この場は一旦お開きという事になったのである。

 洞穴の外に出たところで、アーシャさんは風の帽子を被り、俺に振り返った。
「では、コータローさん。お父様をお見送りした後に、またお邪魔しますから、それまでに少し準備はしておいて下さいね」
「了解です……。それではお気を付けてお帰り下さい」
「それじゃ、また後で」
 その直後、アーシャさんは白い光に包まれて、マルディラントへと帰って行ったのであった。
 俺はその光景を見ながら、大きく溜め息を吐いた。
「はぁ……何か、えらい面倒臭い展開になってきたなぁ。まさか、アーシャさんがここまで強引だとは……」
 と、そこで、首に掛けたラーのオッサンが話しかけてきた。
「コータローよ。疲れているところ悪いが、ヴァロム殿から言付かっている事がある」
「言付かっている事……まだ何かあるのか?」
 俺は少しゲンナリとした。
「ヴァロム殿はこう言っていた。10日経っても帰らない場合は、壁際の机の上にある黒い箱を開くように言っておいてくれ……とな」
「黒い箱? ああ、あの四角い箱の事か。でもあれはヴァロムさんの貴重品入れだから、鍵が掛かっていた気がするぞ」
「鍵は机の天板の裏に貼り付けてあると言っていた。だからそこを調べてみろ」
「天板の裏ね……」
 というわけで、俺は早速調べてみる事にした。

 洞穴の中に戻った俺は、机の天板の裏側を確認してみた。
 すると、オッサンが言った通り、天板の裏には小さな黒い鍵が貼り付けてあったのだ。
 俺はその鍵を手に取ると、黒い箱の鍵穴に挿して解錠し、箱の上蓋を開いた。
 箱の中には、折り畳んである白っぽい紙と革製の茶色い巾着袋、それと、ネックレス状になった金色のメダルのような物が入っていた。
 俺は3つの品を暫し眺めると、まず白い紙を手に取って机の上に広げた。
 するとそこには、この国の文字でこう書かれていたのだ――

 
 ――コータローへ

 今、お主がこれを読んでいるという事は、儂は王都から帰ってくることが出来なかったという事だろう。
 いや、もしかすると、ソレス殿下経由で、アーシャ様から儂の身に何かあった事を聞いたからかも知れない。
 まぁどちらでも構わぬが、心配はしなくても良い。
 これは全て想定していた事でもあるのだ。
 儂はこれから、王都で大きな波紋を起こそうと思っておる。
 この国……いや、この世界の在り方をも変えるほどの大きな波紋をの。
 凶悪な魔物の襲来によって滅亡した国々や、イシュマリアの様にそうなりつつある国々……程度の差はあれ、今の世は確実に悪い方向に傾いておる。
 そう遠くない将来、この世界が魔の世界へと変わるかも知れないくらいにの……。
 じゃが、儂はその流れを変えようと思っておる。いや、変えなければならぬのだ。
 しかし、流れを変えるには、お主の助けがどうしても必要じゃ。
 そこでお主に頼みがある。
 マール地方の北に位置する山岳地帯に、ガルテナと呼ばれる村があるのだが、そこへ至急向かってほしいのだ。
 ガルテナにはリジャールという名の年経た男が住んでおる。
 この男は儂の古い友人でな、先代のイシュマリア王に仕えていた魔法銀の錬成技師でもある男じゃ。
 儂はリジャールに、とある魔道具を作るよう依頼をした。
 お主は儂に変わり、リジャールからソレを受け取ってきてもらいたいのだ。
 この手紙と一緒に入れておいたオルドラン家の紋章を見せれば、リジャールは儂の使いじゃと信じるじゃろう。
 そして、それを受け取り次第、お主には王都へと向かってもらいたいのじゃ。

 以上が今後の大まかな流れだが、長旅には当然お金がいる。
 箱の中には、この手紙と紋章の他に、茶色い皮袋がある筈だ。その中に路銀として5000ゴールドを用意しておいた。
 これを旅に役立ててもらいたい。
 ちなみに、このお金はお主の物として自由に使ってもらって結構だ。
 だから、気兼ねなんぞせず、遠慮なく使ってくれ。

 さて、そういうわけで長い旅をさせる事になるが、今のお主ならば、必ずや乗り越えられると儂は信じておる。
 もし判断に迷うような事態に遭遇した時は、ラーさんに相談すると良い。必ずや力になってくれるはずじゃ。
 旅の仲間が必要ならば、マルディラントにあるルイーダの酒場を訪ねてみるがよい。
 あの酒場には、冒険をする者や魔物の討伐依頼を受ける者等、旅慣れた者達が沢山集まってくるからの。
 王都に向かう者を探せば、旅に同行してくれる者が、もしかするとおるやもしれぬ。
 まぁ見つかるかどうかは、お主の交渉次第じゃがな。
 だがルイーダの酒場で仲間を募る場合、同行する者には、儂の事や旅の目的は内密にしておいてくれ。
 これはあくまでも、お主と儂だけの秘密じゃからの。
 ではコータローよ。そういうわけで苦労を掛けるが、よろしく頼む。

    追伸

 実はな、儂はずっと、コータローに話しておきたい事があった。
 だが、お主が修行中の身であったが故、余計な雑念を入れないよう儂は黙っておったのじゃ。
 しかし、もうよかろう。
 機は熟したように思うので、それをここに書かせてもらうとしよう。
 こんな手紙という形でそれを言うのは気がひけるが、そこはどうか大目に見てほしい。
 では始めよう。

 思い返せば、お主と初めて出会ったのはジュノンの月であったか……。
 今でもあの時の事は鮮明に覚えておる。
 最初、ベルナ峡谷で気を失っているお主を見つけた時は、てっきり魔物に襲われたのかと思っておった。
 そして、目を覚ましてから奇妙な事を口走るお主を見た儂は、襲われた時の恐怖心により、頭の中が混乱しているのだろうと考えていたのだ。
 じゃがその後、お主と会話を重ねるにつれ、なぜか分からないが、それが本当の事ではないかと最近では思うようになってきた。
 お主は不思議な男である。
 この国の常識等は全く分からぬのに、儂でも初めて聞くような事を沢山知っておる。
 チキュウ・ニホン・トーキョー・ジドウシャ・パソコン・コンビニ……そして幻の大地とかいう御伽噺じゃったか……。
 他にもまだあったが、本当にあるのならば、ぜひ見てみたい物ばかりじゃ。
 しかし……儂は時々考えるのじゃよ。
 最初はアマツの民か、もしくはその血を引く者かとも思うたが、実は、お主はこの世界の住人ではなく、まったく別の世界の住人なのではないかとな。
 そして、こうも考えるのじゃ。
 この世界を取り巻く大いなる存在によって、お主は儂の元に導かれたのではないかと。
 まったくもって、馬鹿馬鹿しい話じゃがの……。
 まぁいずれにせよ、お主が一体どこからやってきたのかという疑問は、今も尚、気になるところではある。が……儂は詮索するような事はしない。
 いつの日か、お主自身が語ってくれると儂は思っておるからの。
 それまで気長に待つつもりじゃわい。
 さて、では次にいこう。

 お主が初めての洗礼を行った時の事じゃ。
 あの時、王位継承候補者しか使えぬ電撃の呪文をお主が修得したのを見て、儂は不思議と運命的な巡りあわせのようなモノを感じた。
 それだけではない。儂は直感的に、お主を鍛え上げて一人前にする事が、自分に与えられた使命のようにも感じたのじゃ。
 だから儂は、魔法使いとしての真髄をお主に修得させようと、普通の術者ならば逃げ出すであろう程の厳しい修練をこれまで課してきた。が、実を言うと、耐えられるかどうかが、少々不安ではあった。
 しかし、お主はそれらを見事に克服し、乗り越えてくれた。
 そして、今やお主はもう、一人前の魔法使いと呼んで差支えがないところにまで成長したのじゃ。
 儂もこれまで何人かの者を指導してきたが、わずか1年足らずで、ここまで成長したのはお主が初めてじゃわい。素晴らしい魔法の才じゃ。
 とはいっても、儂から見ればまだまだじゃから、これからも精進を続けねばならぬがの。
 じゃが、驚かされたのはそれだけではない。
 以前、陰ながらこっそりと、お主が毎朝行っている魔物との実戦訓練を見させてもろうたのだが、儂は驚いたぞい。
 剣士のような戦い方をする魔法使いというのを初めて見たのでな。面白い発想する奴じゃ。
 まだまだ荒削りではあったが、光るモノがある戦闘方法であった。
 中々、興味深い物を見させてもらったぞい。
 あれを見て、これからお主がどんな風に成長していくのか、儂も見てみたいと思ったわい。
 しかも、お主は妙に頭も回る。
 物事を上辺だけで判断せず、その中身や裏側を冷静に読み解こうとする。
 少し慎重過ぎるきらいはあるが、儂とよく似た物の考え方をする奴じゃ。
 だからであろうか。
 お主は弟子というよりも、相談しやすい親友の様に儂は考えておるのだよ。
 よって今回の事も、信頼のおける友人としてお主に頼んでおるつもりじゃ。
 そういうわけで回りくどくなったが、改めて言おう。

 我が友コータローよ、今回の件をよろしくお願いしたい。

 つまり、これを言いたかっただけなのじゃ。
 面と向かっては儂も恥ずかしいのでな。
 ともかくじゃ、よろしく頼んだぞい。

                       そなたの友人であるヴァロム・サリュナード・オルドランより――


(友人より……か)
 この手紙を見て、今までヴァロムさんが俺の事をどう考えていたのかが、少し分かった気がした。
 そして思ったのである。あの時、俺を保護してくれたのがヴァロムさんで本当によかったと。
 だがここにも書かれている通り、ヴァロムさんは俺が異世界から来たのではないかと、漠然とだが感じているみたいである。
 でも、あえて突っ込まないところがヴァロムさんらしい心遣いであった。
 いつの日か、ヴァロムさんにだけは本当の事を話さないといけないな。
 俺はこの手紙を読んで、そう考えたのであった。

 話は変わるが、ここに書かれているアマツの民というのは、遥か東方に住むと言われる民族の事らしい。
 ヴァロムさんから聞いた話によると、東方には空高くに浮かぶ島々があり、それら天の群島の事をアマツクニと呼んでいるそうなのである。
 つまり、そこの住民がアマツの民というわけだ。
 俺はこの話を聞いた時、凄く親近感がわいたのは言うまでもない。
 なぜなら、かなり日本チックな感じの名前だからである。
 一瞬、日本神話に出てくる天津神と関係があるのだろうかと思ったくらいだ。
 それに加え、ヴァロムさんが俺の事をアマツの民ではないかと考えた事からも、この民族が日本人みたいな風貌だと容易に想像できるのもある。
 なので、凄く気になる上に、親しみも湧いてきたのであった。
 そして俺は考えたのである。
 もしかすると、このアマツクニというのは、ドラクエⅢに出てきたジパング的な立ち位置の国なのかもしれないと。
 直接見たわけではないので何とも言えないが、そんな気がしてならないのだ。
 だが、遠方ということもあり、このイシュマリアとはあまり交流が無いとヴァロムさんは言っていた。
 とはいえ、アマツクニ出身の旅人も多少は行き来するので、そういった人達との交流はあるのだそうだ。
 空に浮かぶアマツクニとはどんな所なのかはわからないが、俺にとっては非常に気になる場所なのである。


   [Ⅱ]


 昼食を食べ終えて暫くすると、アーシャさんは俺を迎えにやってきた。
 しかも、ツインテールに丸メガネ、そして、茶色いフード付きのローブという出で立ちで……。
 いつもと違う格好なので『一瞬、誰やこの女の子は?』と思ったのは言うまでもない。
 恐らく、マルディラントの街の中を歩くので、顔を知る貴族や家臣にバレないよう変装してきたのだろう。
 まぁそれはさておき、時間が惜しいので、俺達はその後すぐ、マルディラントへと向かったのである。

 風の帽子の力で転移した先は、人気のない寂れた街の一角であった。
 建物なども数えるほどしかない所である。
「ここってどこなんですか? 初めて見る景色なんですけど……」
「勿論、マルディラントですわよ。この間、お兄様と外出した時に見つけた場所なんですの。城以外の転移場所も覚えておこうと思ったものですから。ですが、繁華街から離れた区域ですので、少し歩かないといけませんわよ」
「なるほど、そういう事ですか。確かにここなら人気もないし、転移場所にはうってつけですね」
 この子なりに、その辺の事は考えているみたいである。
「ところで、コータローさん……」
 アーシャさんはそこで言葉を切ると、俺をジロジロと見た。
「そのローブは確か……賢者のローブですわよね。出発は明日の朝だというのに、えらく気合が入ってるのですね」
「ああ、これですか」
 俺はそこで自分の身体に視線を向けた。
 そう……俺は今、賢者のローブを身に付けているのだ。
 この賢者のローブは、それまで装備していた『みかわしの服』と似たローブなので、着ていて非常に楽な衣服である。
 また、美しい純白の生地で作られており、裾や袖、それと首元部分に、青いストライプが入るというシンプルな見た目のローブであった。
 だがしかし、このローブには1つ大きな特徴があり、胸元に魔法陣のような丸い紋章が刺繍されているのである。しかも、この紋章から常に魔力の流れが感じられるのだ。
 確かゲームだと、賢者のローブには、魔法攻撃を低減させる効果と賢さを上げる効果があった気がしたので、もしかすると、この紋章がそれらの役目を担っているのかもしれない。断言はできないが、とりあえず、俺はそう考えたのである。
 まぁそれはさておき、俺はアーシャさんに、賢者のローブを着ている理由を説明する事にした。
「これはね、一応、仲間を見つける為の餌みたいなものですよ」
「仲間を見つける為の餌? どういう事ですの?」
「護衛の依頼をするのなら、そんな事は気にしなくてもいいんですが、仲間となると、貧相な装備をしている未熟な者には、多分、誰も興味を示さないですからね。特に、熟練の冒険者は足手まといと感じるでしょうし。ですから、只者ではないと思わせる必要があるんですよ。要するにハッタリです。どんな人間でも、まず最初は見た目で判断しますから」
 アーシャさんは感心したように頷くと、自分の服装を見回した。
「言われてみると、確かにそうですわね……私も、もう少し良い装備をしてくればよかったかしら……」
「まぁ、そこまで気にしなくてもいいですよ。それはそうとアーシャさん、ルイーダの酒場がどの辺にあるのか知ってますか?」
「確か、城塞の南門付近にあると聞いた事がありますわ。ここがマルディラントの西側ですので、向こうじゃないかしら」
 アーシャさんはそう言って、ある方角を指さした。
「じゃ、行きますか。でも離れないで下さいよ……俺達はこの街の中も初めてに近いんですから。それにこんな所で迷子になってたら、間抜け以外の何者でもないですからね」
「も、勿論ですわ。コータローさんこそ、迷子にならないよう、気を付けてください」
 そして俺達は、互いを確認しながら、慎重に、マルディラントの街中を進み始めたのである。

 ルイーダの酒場はアーシャさんの言った通り、城塞の南門付近の大きな通り沿いにあった。
 3階建ての四角い石造りの建造物で、見たところ、それなりに広いフロアを持ってそうな建物である。
 通りから見える正面の入口上部には、この世界の文字で『ルイーダの酒場』と書かれた、大きな木製の看板が掲げられていた。
 また、入口には、西部劇とかに出てきそうなスイングドアが取り付けられており、それが酒場っぽい雰囲気を演出しているのである。
 それと、外から見ていて分かった事だが、ルイーダの酒場は日中にも関わらず、人の出入りはかなり多いみたいだ。俺達が立ち止まって見ている間にも、あのドアを潜る冒険者達が沢山いたので、中はかなり賑わってそうである。
「さて……こんな風に眺めていてもしょうがないですから、中に入りましょう、アーシャさん」
「ええ、行きましょう」
 俺達は入口のスイングドアを潜り、ルイーダの酒場へと足を踏み入れた。

 酒場の中は予想していた通り、昼間だというのに活気に溢れていた。
 また、思ったよりも中は広く、俺の見立てだと床面積は100㎡くらいありそうであった。
 周囲を見回すと、丸い木製のテーブルが均等に沢山配置されており、そこには、飲み食いしながら談笑する冒険者達の姿があった。
 ドラクエっぽい格好をした冒険者みたいなのや、北○の拳に出てきそうな人相の悪い者達等、それは様々である。
 そして、酒場の奥に目を向けると、そこには木製のカウンターがあり、更にその向こう側には、ウサミミバンドをしたエロいバニーガール姿の女性が、笑顔で佇んでいるのであった。
 しかもスタイル抜群の綺麗な女性なので、思わずその豊満な胸に目が行ってしまうのである。
(まったくもって……けしからんバニーガールだ……モミモミしてやりたい衝動が込み上げてくる)
 などとアホな考えていると、俺はそこで、ある事を思い出した。
 ゲームだと確か、このバニーガールが受付をしてた気がするのである。
 受付嬢がバニーガールっていうのも意味不明だが、中を見回しても受付らしい場所が他にない。
 その為、俺はそれを確かめるべく、真っ直ぐにカウンターへと向かったのである。

 俺達がカウンターに来たところで、バニーさんが満面の笑顔で口を開いた。
「ルイーダの酒場へようこそ。さて、要件は何かしら? 仲間の募集? それとも仕事? はたまた仕事の依頼かしら?」
 やはり、このけしからんバニーガールが受付嬢のようだ。
 とりあえず、俺が交渉する事にした。
「えっと、仲間の募集をしたいのですが」
「仲間の募集ね。じゃあ、その前に冒険者登録証を見せてもらえるかしら」
「冒険者登録証? 何ですかそれ?」
 これは初耳であった。
「あら、じゃあ貴方達、ここを利用するの初めてなのね?」
「はい、初めてですね」
「そうだったの……実はね、ルイーダの酒場では、冒険者登録をしていない者への仲間や仕事の斡旋はしないことになってるのよ。仲間の募集をしたいのなら、ここの2階で冒険者登録を済ませてからね。すぐに済むから、上に行ってもらえるかしら?」
 バニーさんはそう言って、フロアの片隅にある階段を指さした。
(そういや、Ⅲだとこんな感じだったか……まぁあれは仲間作成工場って感じでもあったけど……)
 まぁそれはさておき、これをしない事には話は進まないようだ。登録するしかないだろう。
「すぐに済むみたいですから、行きましょう、アーシャさん」
「ええ」
 俺はバニーさんに返事をした。
「じゃあ、冒険者登録を済ませてから、また来ますね」
「ええ、待ってるわ」――

 俺達は2階で冒険者登録を済ませた後、1階のカウンターへと戻ってきた。
 掛かった時間は20分程度であった。冒険者登録は簡単な身体測定と、性別や名前、それと、使える魔法や特技等を書いていくだけだったので、バニーさんの言うとおり、すぐに済んだのである。
 バニーさんは俺達の姿に気付くと、笑顔で話しかけてきた。
「その表情だと、もう終ったみたいね。じゃあ、発行された登録証を拝見させてもらおうかしら」
「これです」
 俺とアーシャさんは、たった今発行されたネックレス状の金属プレートをカウンターの上に置いた。
 ちなみに、冒険者登録証の外観は、米軍の軍人さんとかが首からぶら下げている、ドッグタグと似た物である。
「じゃあ、ちょっと待っててね。さっき上から降りてきた名簿と登録証の照合をするから」
 と言うと、バニーさんは早速、登録証の確認を始めた。
 すると程なくして、バニーさんの驚く声が聞えてきたのである。
「あら、貴方達……優秀な魔法使いだったのね。今、優秀な魔法の使い手は不足してるから、仲間の募集はしやすいかもしれないわよ」
「そうなんですか。でも、一時的な仲間として募集したいんですけど、それでもいいんですかね?」
 バニーさんは首を傾げる。
「一時的な仲間? どういう事かしら?」
「俺達、これから少し遠回りではありますが、王都に向かわなくてはならないんです。ですので、もし冒険者の方で王都に向かわれる方がいるのでしたら、一時的なパーティを組みたいなと思いまして」
「ああ、そういう事ね。でも、王都に向かう予定の冒険者なんていたかしら……う~ん」
 バニーさんはそう言うと、顎に手を当てて考え込んだ。
 この仕草を見る限り、そう都合よくはいかなさそうである。
 と、その時であった。
「あ!」
 何かを思い出したのか、バニーさんはそこでポンと手を打ったのだ。
「そういえば……ヘネスの月に入った頃、王都に行こうとしてた3人組の冒険者達がいたわ。仲間が集まらなかったので、結局、諦めたみたいだったけど」
「本当ですか?」
「ええ、本当よ。しかも、この街にまだいる筈だわ。仲間の1人はこの近くで働いてるし。……ちょっと待っててくれるかしら」
 バニーさんはそう言うと、また名簿のような物をパラパラと捲り、何かの確認を始めた。
 そして、あるページのところで、捲る手を止めたのである。
「そうそう、このラミリアンの冒険者達だわ。しかも、まだ仲間の募集はしてるみたいよ」
「ラミリアン?」
 初めて聞く単語なので、俺は思わず首を傾げた。
 すると、アーシャさんが教えてくれた。
「ラミリアンは、ラミナスを治めていた種族の名前ですわ」
「ああ、あの国の……」
 どうやら、魔物に滅ぼされた国の方々のようだ。
 そういえば、ヴァロムさんも言っていた。
 魔物の襲来から逃げてきたラミナスの民が、このイシュマリアにも少しいるという事を。
 どんな種族なのか気になるところだが、今は置いておこう。
 と、ここで、バニーさんが訊いてきた。
「ねぇ、貴方達が良いなら、このラミリアンのパーティに掛け合ってみるけど。どうする?」
 そう言われても、判断材料がまったくないので、まずはそれを指摘する事にした。
「あの、どういう冒険者達なんでしょうか? 大雑把でも構わないんで、冒険者としての情報を少しは教えて貰わないと、俺も判断できませんよ」
「あら、ごめんなさいね。それを言い忘れてたわ。えっと……この冒険者達は3人で行動しているみたいで、男性が1名に女性が2名といった構成のようね。勿論、3名ともラミリアンよ。それと女性の内1名は、回復系が得意な魔法使いで、他の2名は戦士系ね。とりあえず、こんなところかしら」
(戦士系が2名に、回復系魔法使いが1名か……どうしよう……)
 これに俺達が加わると、パーティのバランス的には良い感じだ。
 とりあえず、アーシャさんの意見も訊いてみよう。
「どうする、アーシャさん。戦士系が2人いるそうだから、パーティとして動くには良さそうな気がするけど」
「これについては、コータローさんにお任せしますわ。戦闘関連は、私よりもコータローさんの方が経験豊富ですし」
「そう? なら、俺の判断で決めるね」
 というわけで、俺はバニーさんに言った。
「では、お願いしてもいいですかね?」
「わかったわ。それじゃあ、その辺の空いてるテーブルの席で、ちょっと待っててくれるかしら。実は、このパーティにいる男性の方が、隣にある訓練所で初心者の武術指導をしているのよ。だから、すぐに会わせられると思うわ」
「それじゃあ、少し待たせてもらいます」
「じゃあ、お願いね」
 そこでバニーさんは、近くにいる白いエプロン姿の若い女性に呼びかけた。
「あ、ナナちゃ~ん。ちょっとカウンターまで来てくれる~」
 呼ばれた女性はすぐにやって来た。
「はい、なんでしょうか、ルイーダさん」
「隣の訓練所にレイスというラミリアンの教官がいるから、ここへ呼んできてほしいのよ」
「はい、わかりました」――


   [Ⅲ]


 レイスという冒険者が来るまで、俺達はカウンターの近くにある空きテーブルで待つことにした。
「コータローさん、その冒険者達が、旅慣れた者だと良いですわね」
「そうですね。でも、今の話を聞いた感じだと、その辺は大丈夫な気がするんですよ」
「え、なぜそう思うんですの?」
「まぁなんとなくです。それに初心者相手とはいえ、武術指導できるほどの冒険者ならば、ある程度その道には通じてる筈ですからね」
「そういえば、先程の方はそんな事言ってましたわね……」
 アーシャさんはそう言うと、カウンターにいるバニーさん、もとい、ルイーダさんをチラッと見た。
「それと、これも俺の勘というか予想ですが、案外簡単に話はまとまるかもしれませんよ」
「どうしてですの?」
「ヘネスの月に入った頃から未だに仲間の募集をしているという事は、恐らく、今の彼等が持っていないもの、つまり、攻撃魔法や補助魔法の使い手を探しているのだと思います。まぁ裏を返せば、俺達にも当てはまる事ですけどね。要するに、パーティのバランスって事です。そう考えると、彼等と俺達は利害関係が一致するんですよ」
「ああ、そういう意味ですのね。確かにそうですわね……さっきの方も、優秀な魔法の使い手は少ないような事を言ってましたし」
「でもこれは、あくまでも可能性の話ですから、本当のところは会って話さないと、何とも言えませんけどね」
 と、その時であった。
 背後からルイーダさんの声が聞こえてきたのである。
「はぁい、コータロー君、お待たせ~。連れてきたわよ」
 俺は後ろを振り返った。
 するとそこには、ルイーダさんと共に、長く尖った耳をしたエルフみたいな男が立っていたのである。
 背は高く、俺が見たところだと190cmはありそうだ。それと、鋼か鉄かわからないが、金属製の鎧と剣を装備していた。
 また、顔は人形のように整っており、サラッとした艶やかな長い銀髪と、そこから見え隠れする尖った耳とが一際目を引く特徴であった。
 まぁ要するに、イケメンエルフといった表現がピッタリの男なのだ。
 しかも、結構、筋肉質な身体をしているので、俺の目にはそこそこ腕のある冒険者に映ったのである。
 ルイーダさんは、エルフのような男に俺を紹介した。
「こちらが先程言ったコータロー君よ。優秀な魔法の使い手みたいだから、話を聞いてあげてくれるかしら。それじゃあ、よろしくお願いね」
 そして、ルイーダさんはカウンターへと戻ったのである。

 呼んだのはコッチだから、まず俺から自己紹介しておこう。
 俺は椅子から立ち上がり、挨拶をした。
「初めまして。私の名はコータローと言います。お忙しいところお呼び立てして申し訳ありませんが、少し込み入ったお話があるのでよろしくお願いします。では、立ち話もなんですので、どうぞ、こちらにお掛けになってください」
 俺は空いている席に座るよう促した。
「では、お言葉に甘えて」
 男は頭を下げると椅子に腰かける。
 それから自己紹介をしてくれた。
「私の名はレイスという。ルイーダから聞いてもう知っているとは思うが、今はこの隣にある訓練場で武術指導をしている者だ。そして見ての通り、ラミリアンである」
 アーシャさんも簡単に自己紹介をする。
「私はアーシャと申しますわ。以後、お見知りおきを」
 そして交渉が始まった。
 まずはレイスさんからである。
「では、本題に入らせて頂こう。先程、ルイーダから、王都へ向かう為の仲間を探していると聞いたのだが、それは本当だろうか?」
「ええ、本当です。ですが、寄り道をしたいところがあるので、少し遠回りな旅の予定なのです。なので、それでもよければ、仲間になってもらえるとありがたいのですが」
「寄り道か……で、それはどの辺なのだ?」
「マール地方の北部にガルテナという村があるのですが、まずそこへ行ってから、王都へ向かうつもりです」
「ガルテナ? ……すまない、初めて聞く名だ。私もこの町に来てから、日が浅いのでな。ちなみに、そこは遠いのか?」
 俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。
 すると俺の心情を察してくれたのか、アーシャさんが説明してくれた。
「遠いといえば遠いですが、どの道、王都に向かうには北に行かなければなりません。ですので、そう考えますと、通り道とも言えますわ。ただ、王都への最短の道ではないというだけです」
「そうであるか……で、出発の予定はいつなのだ?」
「一応、明日の早朝か、遅くても明後日の朝には出発しようと思っております」
「むぅ、早いな……。という事は、結論は急がねばならんか……」
 レイスさんは目を閉じて腕を組み、何かを考え始めた。
 暫しの沈黙の後、レイスさんは口を開いた。
「コータローさん……私には他に仲間がいるのだが、今からその者達をここへ連れて来ても良いだろうか? 私だけでは決められないのでな」
「ええ、構いませんよ。それじゃあ、ここで待っていますので連れてきてください」
「すまぬ。では暫しの間、待っていてもらいたい」
 レイスさんはそう言うと席を立ち、酒場を後にしたのであった。


   [Ⅳ]


 俺達はレイスさん達を待っている間、果実酒と幾つかの料理を注文し、それらを食べながら、他愛ない世間話をして時間を潰していた。
 その間も酒場内の賑やかさは、相変わらずであった。
 ワイワイガヤガヤと至る所から笑い声や話し声が聞こえてくる。
 俺達の話し声を掻き消すくらいの賑やかさである。
 だがある時、酒場内のどこかから、こんな会話が聞こえてきたのである。

「――おい、それよりも、お前聞いたか? あの魔炎公が、城の地下牢に投獄されたって話」
「おお、聞いたぞ。でもガセじゃないのか? だってアレだろ、魔炎公って言えば、イシュマリア王の親友だって噂だし……」
「そうそう。俺もそう思ってたから、嘘だと思ったんだ。でもさ、どうやら本当らしいぜ。それに異端審問まで行なわれるって話だ」
「本当かよ……いったい王都で何が起きてんだ? 王様も最近なんか変だっていうしさ」
「でも、おかしいのは王都だけじゃないよな。ここ最近、魔物の数も増える上、見た事ない魔物の姿まで目撃されてるらしいし」
「ああもう、やだやだ。お前等さ、もっと景気の良い話とかは無いのかよ」
「へへへ、じゃあ、この前、俺と寝たイイ女の話でもしてやろうか」
「そんなもん聞きたくねぇよ。ガハハハ――」

 どうやら噂というものは、どこの世界でも一気に広がってしまうようだ。
(悪事千里を走るって(ことわざ)があるけど、その通りだな……もうこんな所にまでヴァロムさんの噂が来ているとは……)
 俺はそこでアーシャさんに目を向けた。
 すると、アーシャさんも今の話を聞いていたのか、不安そうな表情を浮かべていたのである。
「アーシャさん、大丈夫だよ。それに今の状況は、ヴァロムさんも想定してたと思うから」
「そ、そうですわよね。でなければ、コータローさんにあのような指示はしませんものね」
「そうですよ。ン?」
 すると丁度そこで、酒場の入り口からレイスさんが姿を現したのである。
 レイスさんは銀髪の女性1人と、背の低い青い髪の女の子1人を俺達のところへと連れて来た。
「コータローさん、遅くなってすまない。これが私の仲間だ。さぁ2人共、挨拶をするんだ」
 まず、ボーイッシュなショートヘアーをした銀髪の女性が、軽快な挨拶をしてきた。
「初めまして、私はシェーラと言います。よろしくね、コータローさん」
「こちらこそ、よろしく。シェーラさん」
 シェーラさんという方は明るい感じの女性であった。
 このシェーラさんもレイスさんと同じく、輪郭の整った美しい顔つきと艶やかな銀髪、それと尖った耳をしているので、モロにファンタジー世界の住人といった感じであった。
 それと、胸当てや剣を装備している事からも、この女性がもう1人の戦士のようである。
 次に、青く長い髪の女の子が挨拶をしてきた。
「わ、私はサナです……よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね、サナちゃん」
 人見知りをするのか知らないが、サナちゃんは少しオドオドしていた。
 容姿は、小学校4年から6年生くらいの女の子といった感じだ。
 それとサナちゃんは、白いローブと杖を装備しているので、ルイーダさんが言っていた回復系の得意な魔法使いとは、この子の事なんだろう。
 まぁそれはさておき、俺は3人に座るよう促した。
「さて、それじゃあ、空いてるところに掛けてください。腰を落ち着けて、ゆっくりと話をしましょう」
 3人は頷くと、空いてる席に腰掛ける。
 そして俺達は、パーティを組む為の交渉を始めたのである――

 ――で、その交渉の結果だが、俺達は互いに合意し、旅の仲間となる事で了承した。が、明日の早朝に出発するのは、レイスさん達も流石に難しいようであった。その為、俺達もそこは譲歩し、出発は明後日の朝という事で話がついたのである。
 まぁそんなわけで、今日は互いの親睦を深めるべく、俺達はこのルイーダの酒場で、酒を酌み交わす事になったのだ。めでたしめでたしである。 
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