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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv11 魔炎公

   [Ⅰ]


 俺とアーシャさんは全ての箱を開けると、中を確認していった。
 すると箱の中からは、見た事もないような武具や道具が沢山出てきたのである。
 その為、俺達はその都度、ラーのオッサンに確認してもらいながら、箱から取り出した武具や道具類を床に並べていった。とはいっても、オッサン自体も知らない道具が幾つかあったが……。
 まぁそれはともかく、一応、宝箱の中身は以下のような感じであった。

 キメラの翼×10枚
 世界樹の葉×1枚
 世界樹の滴×1個
 祈りの指輪×3個
 よく分からん指輪×1個
 氷の刃×1振り
 炎の剣×1振り
 名称不明の杖×1本
 炎の盾×1個
 水鏡の盾×1個
 精霊の鎧×1着
 賢者のローブ×1着
 水の羽衣×1着
 風の帽子×1個
 よく分からん腕輪×1個
 命の石×4個 
 古びた地図×1枚
 よく分からない黄色い水晶球×1個
 フォカールの魔法書×1冊

 箱の中から出して広げて見ると、結構な数のアイテムが入ってたというのが、よく分かる光景であった。
 しかも、武器防具に関しては大きい上に、その点数も多いので、余計にそういう風に見えるのである。
 だがとはいうものの、ゲームだと終盤に手に入りそうなアイテムも多いので、凄くありがたい品々ばかりであった。が、しかし……こうやって中身を広げた事で、1つ問題が発生したのである。
 それは勿論、俺とアーシャさんだけで、これだけのモノを一度に持っていくのは難しいという事であった。
 嬉しい悲鳴ではあるが、今はちょっと頭の痛い事なのである。
「しかし、沢山あるなぁ。こんだけあると、持ってくのが大変だわ……」
「ですわね。どうしましょう……。これだけの古代魔法文明の遺物は、あまり人に見せたくはありませんし……」
 アーシャさんも少し困った表情をした。
「お主等次第だが、簡単に解決できる方法があるぞ」
「は? 何言ってんだよ、オッサン。どう考えても、簡単に解決できそうな量には見えんぞ」
「フン……お主のような青二才の思考じゃ、そうなるな」
(クッ、この野郎……)
 今は、こんな事で熱くなってる場合じゃない。
 ここは適当に流しとこう。
「はいはい。じゃあ、どう簡単なのか教えてくれませんかね。自称、心の広い、ラーの鏡様」
「フン。口の減らぬ奴だな。まぁいい、教えてやろう。だが、1つ条件があってな。目覚めの洗礼によって、魔法を扱える様になった者でないと、この方法は駄目だ。お主等、魔法は使えるのか?」
 俺達は頷く。
「ああ、使えるよ」
「それなら大丈夫ですわ。私達2人共、未熟ではありますが、魔法は扱えますので」
「なら話は簡単だ。今、箱から出した物の中に、フォカールの魔法書があった筈だ。それを使えばいい」
「フォカールの魔法書? ああ、あの巻物みたいなやつか」
 俺はそこで床に広げた道具に視線を向ける。
 するとアーシャさんが、その中から赤茶けた巻物を手に取り、俺へと差し出した。
「はい、コータローさん。多分、これの事ですわ」
「すんません」
 俺はそれを受け取り、オッサンに確認した。
「フォカールの魔法書って、これの事だよな?」
「ああ、それだ。まずは封を解き、その魔法書を床に広げろ」
 俺は言われた通りに、巻物を床に広げる。
 すると、A3用紙ほどのサイズになった。
 そこには魔法陣を思わせる奇妙な紋様が上に1つ描かれており、その下に、古代リュビスト文字の羅列が数行に渡って記載されていた。
「魔法書を広げたぞ。で、これからどうするんだ?」
「後は簡単だ。上に描いてある魔法陣に触れて魔力を籠め、そこに書かれている呪文を唱えればよい。今のお主に、フォカールを扱える力量があるのならば、それで魔法は得られよう」
 一応、理解はできたが、大きな障害があるので、俺はそれを告げる事にした。
「あのさ……1つ大きな問題があってな。俺達、この文字読めないんだよね……」
「……」
 俺達の間にシーンとした沈黙の時間が訪れる。
 暫くすると、溜め息混じりのオッサンの声が聞こえてきた。
「フゥ……仕方ない。我が文字を読んでやるから、お主はそれに続いて唱えるがよい」
 流石に悪いと思ったので、俺は高校球児ばりに頭を下げておいた。
「お願いシャッス……」
「ではゆくぞ」
 というわけで俺は、オッサンに続いて呪文の詠唱を始めたのである。

【ナ・カイナ……キオノーモ・ナリン・ベニカ……】

 かなり長い呪文であったが、俺はオッサンの後に続いて慎重に唱えてゆく。
 そして、最後の呪文を唱え終えた、その時である。
「うぉッ!?」
 なんと、床に広げた魔法書が赤く発光し、燃え尽きたかのように、一瞬にして灰になったのだ。
 それだけではない。
 俺の中に何かが入り込んできたかのような感じも、同時に現れたのであった。
「なんだよ、今の感覚は……。それに、魔法書が灰になったじゃないか」
 アーシャさんも目を見開き、驚きの声を上げる。
「ど、どういう事ですの。何で魔法書が灰に……」
「上手くいったようだな。お主はもうフォカールを修得できた筈だ。心を穏やかにし、己の中を探してみるがよい」
「は? 今のでもう修得できたのか……。ちょっと待ってくれ、確認してみる」
 俺はそこで目を閉じる。
 そして、以前と同じように、呪文が刻まれているような感覚があるかどうかを探ってみた。
 すると、メラとホイミとデインの他に、フォカールという名の呪文が、俺の中で刻み込まれているのが認識できたのである。
 なかなか、凝った魔法習得法だ。
「へぇ……なるほどね。なんか知らんけど、ちゃんとフォカールを認識できるようになってたよ。で、どうするんだ?」
「では次だが、どちらの手でもいいから、まず、人差し指と中指だけを伸ばし、魔力の流れをその指先まで作れ。それからフォカールと唱えよ」
「おう、わかった」
 俺は早速言われた通り、右手の人差し指と中指だけ伸ばして、魔力を向かわせ、呪文を唱えた。
【フォカール】
 と、その直後、伸ばした2本の指先に、紫色の強い光が出現したのである。
「おお! なんかよく分からんけど、指先に光が現れたぞ」
「なら後は簡単だ。その指先を真下に向かって振り下ろせばいい」
「え、それだけ?」
「ああ、それだけだ。やればわかる。さぁ、やれ」
 いまいち要領を得ないが、俺は言われた通りにその指を振り下ろした。
 すると次の瞬間、なんと、空間に切れ目が現れたのである。
「うわ、なんだよこれ……。空間が裂けたじゃないか!」
「ど、どうなってるんですの!?」
 アーシャさんも驚きを隠せないのか、大きく目を見開いていた。
「このフォカールはな、空間に物を保管する為の魔法だ。だから、その切れ目の中に物を仕舞えばよい。空間を閉じる時は、逆に下から上へもう一度振り上げるだけだ。どうだ、簡単だろう? しかも、どこででも物を出し入れできる便利な魔法だ。有効に使え」
「マ、マジかよ……」
 想定外の魔法であったので、俺は素で驚いていた。
 話を聞く限りだと、まるでジョジ○に出てきたスタンド・スティッキーフィンガーズみたいな魔法である。
 まぁあそこまでの汎用性はなさそうだが……。
 とはいえ、かなり使えそうな魔法のようである。
 俺がフォカールに感心していると、アーシャさんが慌ててオッサンに訊ねた。
「ラー様ッ、魔法書が灰になりましたけど、この魔法は、今の魔法書がないと覚えられないのですかッ? わ、私には覚えることが出来ないのですか?」
「確か、魔法書は1つしかなかった筈……残念だが、そうなるな」
「そんなぁ……聞いてないですわよ……。こんな事なら、私がやればよかったですわ……ふぇぇん」
 アーシャさんは悲しい表情で、ガクンと肩を落とした。
 見た感じだと、相当落ち込んでいるみたいだ。
 俺もまさか、魔法書が灰になるとは思わなかったので、こればかりは少し悪い気がした。
 しかし、魔法書がもう既に無いので、今更どうしようもないのである。
「それはそうとお主達、この床にある武具や道具をそろそろ片づけたらどうだ?」
「そういえば、それが目的だったな。魔法の凄さを見た所為で、忘れてたよ」
「はぁ……そうですわね。片付けて、もう戻りましょう。疲れましたわ……」
 アーシャさんは元気なくそう言うと、道具類を空間の切れ目へと仕舞っていった。
 そして、俺もアーシャさんと共に、空間へとアイテムを収納していったのである。
(ごめんよ、アーシャさん……でも、悪いのは肝心な事を言わなかったラーのオッサンだからね……)
 と、心の中で謝罪しながら……。


   [Ⅱ]


 精霊王からの贈り物を全て片付けた俺達は、来た道を戻り、最初の部屋へとやってきた。
 そこでラーのオッサンが指示してくる。
「我を左側の壁に向けよ。その向こうに、帰りの旅の扉がある」
「了解」
 俺は左側の壁に向かい、ラーの鏡を向けた。
 するとその直後、鏡はカメラのフラッシュのような光を発し、先程と同じように、壁の一部が霧状になって、隠されていた茶色い扉が姿を現したのである。
 俺達はその扉を開き、向こうの空間へと足を踏み入れる。
 扉の向こうは、今いた部屋と同じような造りの所であった。が、しかし、一つ大きな違いがあった。それは何かというと、部屋の真ん中に、青白く光る煙が渦巻いていたからである。
(これが旅の扉か……ゲームだと何も考えずに飛び込んでいたが、リアルだと結構緊張するなぁ……)
 まぁそれはさておき、あとはこれを潜るだけだが、その前に確認しなきゃいけないことがある。
「なぁ、ラーのオッサン……ところで、この旅の扉は、どこに続いているんだ?」
 全然知らない場所に出る可能性があるので、これは潜る前に訊いておかねばならないのである。
 オッサンは言う。
「これの行き先は、お主達が入ってきた石版のある部屋だ」
「ってことは、あの大広間って事か。よし、では行く――」
 と、俺が言いかけたところで、オッサンが遮った。
「待て……その前に、お主達に1つ言っておくことがある」
「言っておく事?」
「なんでしょう、ラー様」
「実はな……ラーの鏡の事は秘密にしておいてもらいたいのだ。だから、この先にいるであろう、お主達の仲間に何か聞かれても、鏡の事は伏せておいてほしいのだよ。いいな?」
 アーシャさんは首を傾げる。
「何故ですの?」
「今はまだ、ラーの鏡の存在を知られるわけにはいかぬのだよ」
「でもなぁ……俺達と一緒に来ている人達の中にヴァロムさんという人がいるんだけど、その人はラーの鏡の事を知っているぞ。だから、俺達はここに来たんだし……あの人は騙せないよ」
 恐らくヴァロムさんは、俺の話とあの古い書物の記述とを照らし合わせて、ここが怪しいと睨んだ気がするのだ。
 なので、ヴァロムさんが俺をこの地に導いたも同然なのである。
 と、そこで、ラーの鏡に、ヴァロムさんやティレスさん達の姿が映し出された。
「……この中に、そのヴァロムという者はいるか?」
 それはまるで、監視カメラの映像のようであった。
「おお……こんな事までできるのか?」
「この神殿内には、強力な精霊の力が張り巡らされているからな。それはともかく……どうなんだ? ヴァロムという者は、この年老いた男の事か?」
「ああ、そうだけど」
「ふむ……この男ならば認めてやろう。だがそれ以外の者には、私や精霊王の贈り物の事はともかく、ラーの鏡の事については絶対に話してはならぬ。いいな?」
 なぜか知らないが、ヴァロムさんのことは認めてくれるようだ。
(ヴァロムさんはいいのか……えらくアッサリOKしたな……多分、何か理由があるんだろう)
 まぁそれはともかく、俺達は互いに頷き、返事をした。
「分かった。約束する。誰にも言わないよ」
「私も誰にも言いませんわ」
「頼むぞ。これは精霊王の指示だからな」
「でもそうなると、オッサンをフォカールで隠さないといけないな。ラーの鏡は大きいから、こんなの持って行ったら、他の守護隊の方々も、流石に不思議に思うし」
「それは心配せんでいいぞ。我は鏡の大きさを変化させられるからな。事のついでだ。お主達が携帯しやすいように、首飾りの形状へと変化してやろう」
 そう言うや否や、オッサンは、俺の掌の上で小さくなっていったのである。
「なッ!?」
 この現象には、俺もアーシャさんも言葉を無くしてしまった。
 しかもラーのオッサンは、直径5cm程度まで縮んだところで、首に掛ける金色の鎖も出したのだ。
(おいおい……6分の1くらいに縮んだぞ。おまけに鎖まで出すし……いったいこのオッサンは、どういう構造になってるんだよ)
 ハッキリ言ってデタラメな鏡であった。
 まぁとりあえず、ファンタジー世界なので、こういう事もあるのだろう。
 変態を遂げたところで、鏡から声が聞こえてくる。 
「よし、では急……ン? これは……」
「なんだ、どうかしたのか? オッサン」
「急ごうか、二人共……。なにやら不穏な気配が、この神殿に近づいておるようだ」
「なんだよ、その不穏な気配って……」
「恐らく……魔物達だろう。イデア神殿の封印が解かれたのを察知したのかもしれぬ。急ぎ、この神殿を後にした方が良いぞ」
 これを聞く限りだと、なにやらヤバそうな感じだ。
 俺はオッサンを首に掛けると、鏡を服の内側に入れた。撤収開始である。
「行こう、アーシャさん」
「ええ、急ぎましょう。お兄様にも、この事を伝えないといけませんわ」
 そして俺達は、旅の扉へと足を踏み入れたのである。


   [Ⅲ]


 旅の扉を潜った先は、試練の始まりである石版の前であった。
 俺はそこで、周囲を見回した。
 すると、石板の付近にいるヴァロムさんとティレスさんの姿が、視界に入ってきたのである。
 向こうも俺達に気付いたようだ。
 ヴァロムさんとティレスさんは、俺達へと駆け寄ってきた。
「アーシャとコータロー君、大丈夫だったか!」
「2人共、無事であったか。一体何があったのじゃ?」
 問いに答えたいのは山々だったが、今は不穏な気配の方が先だ。
 その為、俺はまずそれを告げる事にした。
「ヴァロムさん、大変です。詳しくは後で話しますが、魔物達がこの神殿に向かっているそうです」
「なんじゃと どういう事じゃ?」
「オルドラン様、私達は太陽神なる者に、そう告げられたのであります。そして急ぎ、この神殿を後にせよと言っておりました。ですから、早く撤収したほうが良さそうですわ」
「太陽神なる者だと……。アーシャ、それは本当か?」
 ティレスさんは眉根を寄せた。
「本当ですわ、お兄様。ですから、早く、帰りましょう」
「しかし、な……」
 ティレスさんとヴァロムさんは、そこで困ったように顔を見合わせた。
 2人の表情を見る限りだと、半信半疑といった感じであった。
 時間が無いが、少し中でのことを話して、納得してもらうしかない。
 というわけで、俺は簡単に、これまでの事を話す事にした。
「ヴァロムさん。実は俺達、太陽神の試練を乗り越えたんです。そこで色々と話を聞けたんですが、ついさっき、太陽神と名乗る者が俺達に忠告してきたんですよ。不穏な気配が迫っていると。なので、急いでここから立ち去った方がいいと思います」
「試練を乗り越えたじゃと、むぅ……」
 ヴァロムさんは思案顔になった。
 恐らく、判断に迷っているのだろう。
 程なくして、ヴァロムさんは口を開いた。
「……わかった。ここは、コータローとアーシャ様を信じよう」
 ヴァロムさんはそこで、ティレスさんに視線を向ける。
「ティレス様、引き上げじゃ。守護隊の者にもそう伝えてくれぬか」
「はい……オルドラン様がそう仰るのであれば……」
 ティレスさんはまだ半信半疑といった感じであったが、とりあえず、俺達はこの場を後にしたのである。

 来た道を戻り、神殿を出た俺達は、その先に続く石階段を降りてゆく。
 そして、下まで降りたところで、俺達は待機させていた馬と馬車に乗り、撤収を始めたのであった。が、しかし……イデア遺跡群の半ば辺りまで来た所で、前方を進む守護隊の方々から、大きな声が聞こえてきたのである。
【ティレス様にオルドラン様! 前方、北東の空に、見た事もない魔物の群れが現れましたッ。かなりの移動速度です。このままでは戦闘は避けれません!】
 俺はその声を聞き、馬車の窓から空を見上げる。
 と、次の瞬間、俺は思わず息を飲んだのであった。
(イ!? ア、アイツ等は!?)
 なんとそこにいたのは、ドラクエでも中盤の終わりに出てくるような、ちょっと面倒な類の魔物だったのだ。この遺跡にいる魔物よりも、遥かに強い敵だったのである。
 俺は思わず、魔物の名前を口にした。
「あ、あれは……バピラスとホークマン、それとドラゴンライダーか?」
 まだ遠くなのでハッキリと断言はできないが、とにかく、そんな感じの魔物の群れが見えたのだ。
 ティレスさんは魔物を確認すると、大声で守護隊の者達に指示を出した。
【総員、速やかに戦闘態勢に入れ! 敵は上空より攻めてくる。近接武器の装備者達は陣形の守りを固め、魔法を扱える者は魔法での迎撃に切り替えるのだ。そして弓を持つ者は、すぐに矢での迎撃態勢に入れ!」
【ハッ!】
 守護隊の意気揚々とした返事が聞こえてくる。
 どうやら、このまま戦闘に突入しそうな感じだ。
 だが俺は今、自分よりも遥かに強い魔物を見て、少し怯えていたのであった。

 外が慌ただしくなってくる中、俺は近づいてくる魔物を凝視し続けていた。
 すると次第に、群れの構成がはっきりとわかるようになってきた。
 空にいる魔物は、ドラゴンライダーみたいなのが1体、バピラスのような翼竜タイプの魔物が6体、ホークマンみたいな鳥人間タイプが5体という計12体の魔物の集団であった。
 それとどうやら、ドラゴンライダーのような魔物がリーダー的な存在のようだ。
 群れのど真ん中で一際存在感を発しているので、まず間違いないだろう。
(こいつ等がゲーム通りの強さだとしたら、かなり厄介だぞ……守護隊の人達は、どうやってこの難敵と戦うつもりだ……対応を間違えると大きな被害がでるぞ……ン?)
 と、その時である。
 魔物達は、こちらの進行方向へ先回りするかのように、途中で進路を変えたのである。
 恐らく、俺達の足を止める為に、わざわざ正面から襲うつもりなのだろう。
 こんな風に襲うという事は、この後、第2、第3の魔物達が来るのかもしれない。
 またそう考えると共に、非常に嫌な予感がしてきたのである。
(もしかして、これ以上に厄介な魔物が控えてるんじゃないだろうな……これが先発隊だとすると、かなり不味いぞ……)
 と、そこで、ヴァロムさんが小声で話しかけてきた。
「コータローよ……今、何か名前のようなものを言っておったが、空にいるのもアレに出てきた魔物なのか?」
 俺は後頭部をかきながら頷いた。
「はい、アレに出てきた気がするのです。俺も記憶が曖昧なんで、あまり自信は無いんですが……」
「ほう……で、どんな魔物なのだ?」
 馬車にはティレスさんとアーシャさんしかいなかったが、聞くかれると色々不味いので、俺はヴァロムさんに耳を打ちした。
「一応、あの御伽噺ではですが……。あの青い翼竜みたいなのはバピラスといって、かなり力がある上に、素早い物理攻撃をしてくる強敵です。ですが魔法は使えなかった気がします。それと鳥人間みたいなのは、攻撃力もさる事ながら、マホトーンという魔法を封じる呪文が得意だった気がするんで、魔法使いにとってはある意味天敵ですね。ただ2体とも共通してる事があって、ラリホーという睡眠魔法が苦手だったような気がするんです。まぁ俺も記憶に曖昧な部分があるんで、そこまで自信は無いんですが……」
 ヴァロムさんは顎に手を当てて興味深そうに聞いていた。
「ほうほう、なるほどのぅ……ラリホーに弱い可能性がありという事か。で、もう1体の竜に跨っておるのは何なんじゃ?」
「あれは多分、ドラゴンライダーという魔物で、御伽噺上では、かなり強い魔物だった気がしますね。魔法は使いませんが、竜が吐く炎と、それに跨る魔物の騎士による双方の攻撃が、かなり厄介な感じに記述されてました」
「竜の吐く炎か……それは厄介じゃな」
 俺は頷くと続ける。
「ええ……しかもその上、魔法にも結構耐性を持ってるらしくて、弱い魔法では話にならないような事が書かれておりましたね。まぁ俺の記憶が確かならですが……」
「弱い魔法は話にならぬ……か。ふむふむ、なるほどのぅ」
 そしてヴァロムさんは、目を閉じて無言になったのである。
 多分、今の話を整理してるのだろう。
 程なくして、ヴァロムさんはティレスさんに視線を向けた。
「少しよろしいかな、ティレス様」
「はい、何でございましょうか?」
「1つ訊きたいのじゃが、守護隊の者でラリホーを使える者はおるのか?」
 ティレスさんは頭を振る。
「いえ、今いる守護隊の中にラリホーを使える者はおりませんね。今回連れてきた半数は魔法戦士型の隊員ではありますが、火炎や冷気系魔法が得意な者と、回復魔法が得意な者だけです。このイデア遺跡群に出没する魔物を考慮しましたところ、補助的な隊員は必要ないと判断しましたので」
「そうか……。という事は、使えるのは儂だけという事じゃな」
 ヴァロムさんはそう言うと、目を細めて真剣な表情になったのである。
 この表情を見る限り、ヴァロムさんは何かを始めるつもりなのだろう。 
「ティレス様……一旦、守護隊の者達に止まるよう、指示を出してくれぬか」
「えっ? それはどういう……」
「敵は空じゃ。地の利は向こうにある。おまけに奴等は、我等の行く手を阻む為に先回りしようとしておるからの。そのような場合は、移動しながらでは応手は難しかろう。ここは敵の思惑通り、止まって迎え撃った方が良いと思うのだが、どうかの?」
「何か策があるのですか?」
「なに、策というほどのモノではない。とっとと終わらせて、帰ろうと思っているだけじゃわい」
 するとティレスさんは、笑みを浮かべた。
「という事は、オルドラン様も手を貸してくれるという事ですね。わかりました。ここら辺で止まり、迎え撃つことにしましょう」
「うむ」
 そしてティレスさんは、大きな声で告げたのである。

【全隊員に告ぐ! 馬を止めるのだ! 止まった状態で迎え撃つぞッ!】
【ハッ!】

 その言葉を皮切りに、馬はスピードを落としていった。
 馬が止まったところで、ヴァロムさんはティレスさんに言った。
「ではティレス様、儂が奴等の相手をしよう。もし討ち漏らしたのがいたら、守護隊の方で始末してもらいたい」
 ティレスさんは首を傾げた。
「え? オルドラン様……1人で戦われるのですか?」
「ああ、そのつもりじゃ。まぁ儂もたまには働かんとの。カッカッカッ」
 ヴァロムさんは豪快に笑った。
 だがそれを聞いたティレスさんは、なんとも言えないような微妙な表情をしていたのだ。
 まぁそうなるのもわからんでもない。
「……わかりました。では、オルドラン様をすぐに補佐できるよう、守護隊を背後に待機させておきます」
「うむ。そうしておいてくだされ」
 そこでヴァロムさんは、俺とアーシャさんに視線を向けた。
「コータローとアーシャ様は、この中で休んでおってくれればいい。あとは儂が何とかしてやろう」
「でも……1人で大丈夫なんですか? あの魔物達、結構強いと思いますよ」
 俺は思った事を正直に言った。
 とてもではないが、幾ら熟練の魔法使いとはいえ、1人では厳しいように思えたからだ。
 しかもこのドラクエ世界は、かなりの呪文が失われているという現実がある。
 その為、奴等を一掃できるほどの強力な攻撃魔法があるのかどうかも、怪しいのである。
 だがしかし……悲観的に思う俺とは対照的に、ヴァロムさんは非常に楽観的な表情をしていたのであった。おまけに、笑みすら浮かべているのである。
(1人で、あの魔物を相手にどう戦うつもりなのだろう……ここまで余裕の表情という事は、何か秘策でもあるのか?)
 ふとそんな事を考えていると、ヴァロムさんは俺に微笑んだ。
「まぁこれも勉強じゃ、コータロー。お主は、まだまだ学ばねばならん事が沢山ある。とりあえず、安全なところで、儂の戦い方を見学しておれ」
「……本当に大丈夫なんですか?」
 念の為、俺はもう一度確認をした。
 ヴァロムさんは頷く。
「心配は無用じゃ。ではティレス様、行こうかの」
「はい、オルドラン様」――

 馬車を降り、外に出たヴァロムさんは、魔物達へと向かって、1人歩を進める。
 そして、50mほど進んだ所で、ヴァロムさんは立ち止まったのである。
 どうやらそこで、魔物を迎え撃つつもりなのだろう。
 俺は次に、魔物の位置を確認する。
 魔物達はまだ離れた所にいるが、あと30秒程度で、ここに到達するくらいの距離であった。
 というわけで、もう間もなくである。
 その為、見ている俺も緊張してきた。
(ヴァロムさんはああ言ってたけど、本当に1人で大丈夫なのか……一体何をするつもりなんだろう……)
 あの魔物達が相手じゃ、魔法使い1人では無謀な気がするのだ。
 一応、ヴァロムさんの後ろには武器を構える守護隊の面々がおり、いつでもヴァロムさんのサポートに入れる状態にはなっているが、その不安を拭い去れるだけの決定打には、どうしても欠けるのである。
「ヴァロムさん、本当に大丈夫なんだろうか……」
 と、そこで、アーシャさんが俺の隣にやって来た。
「大丈夫だと思いますわよ。だって、魔炎公ヴァロムがそう言うんですもの」
 意味が分からんので、俺は訊ねた。
「さっきもそう言ってましたけど、どういう意味なんですか?」
「オルドラン様は、凄まじい紅蓮の炎を操る魔法使いにして貴族ですから、そこからついた二つ名みたいなものですわ。ですが、本人の前では言わない方が良いですわよ。オルドラン様は、その呼び方を嫌っているそうですから」
「だからなんですか。なるほど」
(要するに、魔炎公という事ね。で、ヴァロムさんは、この呼び方が嫌いと……覚えとこう)
 アーシャさんは続ける。
「コータローさんは知らないようですから言いますけど、オルドラン様は、その辺の魔法使いとは次元が違いますのよ」
「次元が違う?」
「ええ。なぜならば、オルドラン様の家系は、大賢者アムクリストの教えを受けた5人の弟子の系譜なのです。つまり、オルドラン様は、大賢者の編み出した数々の術を継承している魔法使いなのですから、もう次元が違うのですよ」
「大賢者アムクリスト……って誰ですか?」
 だがそれを聞くなり、アーシャさんはガクッとなった。
 どうやら、俺はまたKYな発言をしたようである。
「あ、貴方……大賢者の事も知らないのですか……はぁ……もういいです。後でオルドラン様から直接聞いてください。それよりも、今は目の前の戦闘に集中しましょう。魔物はもうそこまで来てますから」
「すんません。そうします」
 というわけで俺達は、ヴァロムさんへと視線を注いだのであった。

 魔物達はドラゴンライダーを筆頭に、真っ直ぐとヴァロムさんへ向かっていた。
 すると近づくにつれ、魔物達の声が、風に乗って聞こえてきたのである。

【ウケケケ、見ろよ。人間のジジイが1匹で、俺達を相手する気だぜ】
【あまりジジイは美味くねェが、まずはあのジジイから食ってやるか、ケケケ】
【じゃあ俺は、後ろの若い奴等にするぜ。骨までしゃぶりつくしてやる】
【ゲヘゲヘ、好きなのを食べればいいじゃねェか。どの道、こいつ等は皆殺しにしろと言われてるからな】
【そうだそうだ。後から来る奴等の分なんて残さなくていいから、全部食っちまえ。キャキャキャ】

 聞いてると胸糞悪くなる会話であった。
 そして俺は思ったのである。
 こんな奴等に喰われて死ぬのは、真っ平御免だと。

 魔物達はスピードを緩めず、こちらに向かって真っ直ぐやって来る。
 程なくして魔物達は、ヴァロムさんの魔法の間合いへと入った。
 そこでヴァロムさんが動いた。
 ヴァロムさんは両手を大きく広げ、宙に円を描くような動作をする。と、その直後、ヴァロムさんの身体全体がオレンジ色に輝いたのである。
 そして、ヴァロムさんは両手を斜め上に掲げ、魔物達に掌を向けたのであった。
 すると次の瞬間、魔物達の大部分が、まるで飛ぶのを止めたかのように、パタパタと地上に落ちてきたのである。
 それはまるでキンチョールやフマキラーを撒いて、蚊や蜂が落ちてくる動作とそっくりであった。
 だが、そこから更に信じられないモノを、俺は目の当たりにすることになるのであった。
 なんと、魔物が落ちた所に1つの爆発と1つの大きな火炎が突如襲いかかったからである。
 それだけではない。今のと同時に、直径5mはあろうかという巨大な火球がヴァロムさんの前に出現し、ドラゴンライダー目掛けて襲い掛かったのだ。
 そして瞬く間に、辺りは炎が埋め尽くす地獄絵図と変化していったのであった。
 その地獄の中を身動きできる魔物は1体もいなかった。
 あのドラゴンライダーでさえも、巨大な火球に飲み込まれ、成すすべなく火達磨になったのである。

 俺は今の一連の出来事が理解不能であった。
 なぜなら、今のヴァロムさんは、魔法を唱えたような感じが、全くなかったからだ。
 しかも、火炎と爆発と火球が、全て同時に発生したのである。
 俺には今の現象がどういう原理で起きたのかが、さっぱりであった。
 それどころか、魔法なのかどうかすらも、判断がつかなかったのである。
(なんだよ今のは……なにが起きたんだ一体……)
 と、そこで、アーシャさんの驚く声が聞こえてきた。
「あ、あれは……もしや、大賢者が伝えたという魔法詠唱術……。もしそうならば、恐ろしいほどの威力ですわ……」
「知ってるんですか、アーシャさん?」
「私も詳しくは知りませんが、大賢者アムクリストが編み出したという究極の魔法詠唱術があるそうなのです。恐らく、今のがそれだと思います」
 よく分からんが、とてつもなく凄いというのは伝わってくる。
 気になったので俺は訊ねた。
「今、究極の魔法詠唱術って言いましたけど……一体、何なんですか?」
「私も噂でしか聞いた事がないのですが……なんでも、無詠唱で幾つもの魔法を同時に行使する秘術と聞いた事がありますわ」
「マ、マジすか。同時に幾つもの魔法行使って、凄過ぎでしょ……」
 凄いというか、もはや規格外のチート魔法使いである。
 ゲームならば、バランスブロックな術だ。
「ええ、凄過ぎますわ。しかもオルドラン様は全盛期の頃、同時に6つの魔法を使えたと云われております。そのあまりの凄まじさから、魔炎公ヴァロムとまで呼ばれたそうなのですから」
「魔炎公ヴァロムの名は伊達じゃないですね。……今も十分に魔炎公ッスよ」
「ええ、確かに……。老いたりとはいえ、魔炎公は未だ健在というのを見せてもらいましたわ……」
 そして俺達は、目の前の地獄絵図を暫し無言で眺め続けたのであった。

 魔物を全て葬ったヴァロムさんは、暫くすると馬車へと戻ってきた。
 ちなみにだが、ティレスさんや他の守護隊の方々は、魔物が息絶えたかどうかの確認をしている最中なので、戻ってきたのはヴァロムさん1人だけである。
 まぁそれはさておき、アーシャさんと俺は、早速、労いの言葉を掛けた。
「御苦労様でございました、オルドラン様。それと、素晴らしい体験をさせて頂きましたわ」
「ヴァロムさん、お疲れ様でした。凄かったッスよ。あれは一体、何をしたんですか?」
 するとヴァロムさんは、なんでもない事のように、軽くこう告げたのだ。
「ン、あれか? あれはラリホーとイオラとベギラマとメラゾーマを使ったんじゃよ」と。
「なんだ、そうだったんですかぁ。ラリホーとイオラとベギラマとメラゾーマをねぇ……って、そうじゃない。違いますよ! どうやって4つも同時に使ったんですか? って事です」
 あまりに軽くいったもんだから、俺もついつい流されてしまった。
 しかも、メラゾーマを使えたというのが、ある意味驚きである。
 その辺の魔法は全て失われていると思ったからだ。
「いや、同時に使ったのは3つだけじゃぞ。最初のラリホーは、違うわい」
「え、3つだったんですか? まぁそれは良いですけど。でも、どうやったらそんな事できるんスか。あまりにぶっ飛んだ魔法の使い方なので、正直、わけが分からないですよ」
「カッカッカッ、まぁそこは追々な。今のお主に話してもまだ理解は出来ぬわい。でもまぁ、とりあえず、名前くらいは教えてやろう。あれはな、【魔生の法】というんじゃよ」
「マショウの法……」
 意味がよく分からないが、効果はさっき目の当たりにしてるので、凄い技だというのはよく分かった。
 ヴァロムさんは続ける。
「今から1000年以上前になるが、その昔、大賢者アムクリストという偉い人がおってな。その方は、失われた強力な古代魔法を違った形で再現させようと、この技を編み出したのじゃよ。とはいっても、誰にでも扱えるような簡単なモノではないがの」
 それを聞き、アーシャさんはウンウンと頷いていた。
「やはり、そうだったのですね。オルドラン様の家系は大賢者に仕えた弟子の系譜なので、そうではないかと思ったのです」
「お、良い勘をしておるの、アーシャ様。まぁそういう事じゃわい」
 どうやら、アーシャさんの言った通りみたいである。
 しかし……凄い技だ。
 同時に幾つもの魔法を使えるなんて、ゲームでも見なかった仕様である。
 とはいうものの、ゲームでそんな技が出て来たら完全にバランスブレイクなので、出ないのが当たり前かもしれないが……。
 まぁそれはともかく、教えてもらえるのならば、是非、習いたい技である。が、さっきヴァロムさんも言ってたように、誰にでも簡単に使えるモノではないようだ。
 今の時点では、その辺は未知数といったところだろう。
 なので、このマショウの法に関しては、ヴァロムさんの判断を待つ事にした方がよさそうである。

 それから暫くすると、ティレス様と守護隊の方々もこちらへと戻ってきた。
 ティレスさんは隊員達に、早く馬に乗るよう指示していた。恐らく、もう出発をするのだろう。
 後続の魔物が来る可能性が高いので、その方が賢明である。
「もう出発みたいですね」
「じゃろうの。早く行かねば、また魔物が来るからのぅ。……あ、そういえば!?」
 と、そこで、何かを思い出したのか、ヴァロムさんはポンと手を打ったのである。
 ヴァロムさんはアーシャさんに視線を向けた。
「ところでアーシャ様、例のやつじゃが、あれは今持ってきておるのかの?」
 アーシャさんは頭を振る。
「いえ、ここにはございませんわ。ですので、マルディラント城に着いてからお渡しします。それに……遺跡で手に入れた戦利品の山分けもしないといけないですからね」
 するとヴァロムさんはニヤリと笑った。
「アーシャ様のその口振りじゃと、かなり良い物があったようじゃな」
「ええ、良い物がありましたわ。ですが、それは城に着いてからという事で……」
「それは楽しみじゃわい。カッカッカッ」
 そしてヴァロムさんは、水戸の御老公のように、豪快に笑ったのであった。 
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