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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv10 ラーの鏡

   [Ⅰ]


 漆黒のローブを身に纏った2体の不気味な存在は、俺達へゆっくりと近づいてきた。
 俺とアーシャさんは奴等の動きに合わせて、ある程度の間合いを取りながら後退してゆく。
 それから俺は、すぐに撤退できるよう、入ってきた扉へと視線を向けたのである。が、しかし……俺はそこで我が目を疑った。
 なぜなら、今入ってきた黒い扉が、どこにも見当たらないからだ。忽然と姿を消していたのである。
「アーシャさんッ、大変です。入ってきた扉が消えていますッ!」
「何ですってッ」
 アーシャさんはそこをチラ見した。
「ほ、本当にありませんわ……という事は、もう進むしかないのですね……」
「ええ……そうみたいです」
 どうやら、この試練を作った何かは、俺達に後戻りを許さないみたいだ。
(はぁ……マジかよ。こんな展開は聞いてないぞ……生きて帰れるんだろうか、俺……)
 閉じ込められた不安感を抱きながら、俺は前方に佇む不気味な存在と対峙する。
 だが、こいつ等の不気味さに気圧されて、俺とアーシャさんはジリジリと後退を余儀なくされていた。 
(後退ばかり続けていても仕方がない。すぐに後が無くなる。それに俺達の目的は、こいつ等を倒す事ではなく、黄金の扉の向こう側に行くことだ。なんとか掻い潜って、扉まで行かないと……。それはともかく、この不気味な黒い化け物は何なんだいったい……。こんな敵は、俺がプレイしてきたドラクエには出てこなかった気がする……でも、今の状況から考えて、あの声が言っていた立ち塞がる困難というのは、こいつ等でまず間違いないだろう……チッ……面倒な事にならなきゃいいが……)
 俺はそこで、背後の壁をチラッと見た。
 今の俺達と背後の壁までの距離は、凡そ15mといったところであった。
 早めに対処を考えないと不味い状況である。
 と、そこで、アーシャさんが話しかけてきた。
「コータローさんは、どんな魔法を使えるのですか?」
「……俺が使えるのはメラとホイミだけです。ですから、はっきり言ってレベルは低いですよ」
 他にデインという魔法も俺は使えるが、あれは人前での使用を禁じられているので、あえて名前はださないでおいた。
「……来る時にオルドラン様も言ってましたが……ほ、本当に入門したてなんですのね」
「はい、その通りです。ペーペーです。ド素人です」
 俺はそう答える事しかできなかった。
 アーシャさんは少しがっかりしてたが、事実なので仕方ない。
 今のこの状況で、知ったかこくわけにはいかないのである。
 俺も訊いてみた。
「アーシャさんはどんな魔法使えるんですか?」
「私は、メラとヒャドとスカラ、そしてピオリムの4つですわ」
 俺よりも良い呪文を使えるみたいである。
 この辺りの呪文を使えるという事は、ドラクエ風に言うならレベル5から6といったところだろうか。
 そして、これがゲームならば、俺よりもアーシャさんの方が使えるキャラという事である。
「今の現状だと、アーシャさんが一番頼りになりそうですね。ところで、アーシャさんは戦闘経験とかあるんですか?」
「あ、あるわけありませんわ。あのお父様が、そんなことを許すとでも思っているのですか」
 一応そんな気はしていた。
 大貴族の娘だし、これは当然だろう。
 というわけで、俺も正直に言う事にした。
「そうなんですか……じゃあ、俺と同じですね。……俺も戦闘経験ないです」
「最悪ですわね……」
 俺達は互いの事実を知ることで、更に不安になってしまった。
 そんな中、不気味な存在に動きがあったのだ。

【スカラ】

 アーシャさん側にいる奴が、擦れた様な声でスカラを唱えたのである。
 その直後、唱えた奴の周りを青白い光の霧が包み込み始めた。
 するとそこで、今度は俺の前にいる奴が、擦れたような声で呪文を唱えてきたのであった。

【メラ】

 次の瞬間、20cm程の火の玉が、俺に向かって襲い掛かってきた。
 俺は咄嗟の判断で、身体を仰け反らせてかわそうとするが、避けきれず、肩口に直撃した。
「グワァッ!」
 火の玉は肩口で爆ぜる。
 当然、顔にも火の粉が飛んできた。
 俺は慌てて火の粉を振り払う。
 そして、即座に後ろへと下がり、こいつ等との間合いを広げたのであった。
「コータローさん! 大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫です。肩口に当たっただけですから」
 とはいうものの、内心は、痛みとそのインパクトで、俺は恐怖していた。
 なぜなら、初めて魔法攻撃というものを受けたからである。
 その為、今の攻撃は身体的にはそこまで大したことないが、精神的にはかなりくるものがあったのだ。
(怖ぇよ……メラ。初級魔法なのに、結構痛いじゃないか、クソッ……)
 俺は負傷の確認をしようと、左肩をチラッと見た。
 すると不思議な事に、みかわしの服には、当たったような痕跡は殆どなかった。
 そういえば昨日、武器屋の店主がこんな事を言っていた。
 このみかわしの服は、羽のように軽い生地に、守護の魔力を付加して作られた魔法の衣服であると。
 これ見る限りだと、メラ程度なら十分耐えられる仕様なのかもしれない。
 またそう考えると共に、俺は少しづつ落ち着きを取り戻していったのである。
(装備品はそれなりだから、何とか戦えるかも……)
 と、そこで、アーシャさんの声が聞こえてきた。
「コータローさん。向こうは私達を敵だと思っていますわ。こちらも反撃しますわよ!」
「はい」
 アーシャさんは杖を奴等に向け、呪文を唱えた。
【ヒャド!】
 その直後、小さな氷の槍が杖の先に出現し、不気味な化け物に放たれたのである。
 氷の槍は化け物にモロに命中する。
 そして、ヒャドをまともに喰らった化け物は、後方に勢いよく吹っ飛んでいったのだ。
 思ったよりも凄い威力であった。考えてみればヒャドは、歴代のドラクエで、初期限定の最強呪文として君臨している魔法だ。俺は今の威力を目の当たりにし、それがよく理解できたのであった。
 まぁそれはさておき、次は俺の番である。
 俺は呪文節約の為に、魔道士の杖に秘められた力を解放させた。杖の先にメラの火の玉が出現する。そして、目の前にいる化け物に火の玉を放ったのだ。
 火の玉が化け物に命中すると、爆ぜて火花が飛び散り、化け物は炎に包まれていった。が、しかし……止めを刺すには至らなかったのか、2体ともそれほど間をおかずに、また俺達の方へと向かい動き出したのであった。
「まだピンピンしてるッ。効いてないのか!?」
 なんとなくだが、俺達の攻撃はあまり効いていないように見えた。
「でも、この調子ですわ、コータローさん。奴等に間を与えず、ガンガンいきますわよ」
 アーシャさんはそう言うと、呪文を唱えた。
【ピオリムッ】
 と、その直後、俺とアーシャさんの周りに、緑色に輝く霧が纏わりついたのである。
 それに伴い、重石が無くなったかのように、体がフワリと軽くなっていったのだ。
「ウホッ、身体が軽くなった」
 どうやらこれが、ピオリムの素早さを上げる効果なのだろう。
「さぁ行きますわよ。コータローさん」
「ええ、アーシャさん」
 そしてスピードを増した俺達は、漆黒のローブ姿の化け物へ、怒涛の魔法攻撃を開始したのであった。

 俺達は攻撃の手を緩める事なく魔法を放ち続け、漆黒のローブ姿の化け物を後退させてゆく。
 だがこいつ等は、魔法攻撃を幾ら受けてもすぐに立ち上がり、何事も無かったかのように行動を再開するのである。それが不気味であった。
 とはいえ、攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった。
 なぜなら、少しでも間が出来ると、すかさずこいつ等もメラやヒャドといった呪文を唱えてくるからだ。
 しかし……どう考えても、俺達の攻撃でダメージを受けているような様子が見受けられない。
 その為、俺達の中にも次第に、焦りと迷いが生まれてきているのであった。

 俺は魔道士の杖を行使しながら、アーシャさんに言った。
「アーシャさん! こいつ等、もしかして俺達の攻撃が全然効いてないんじゃないですかッ。おかしいですよ。痛がったり弱ったりするような素振りを全然見せないです」
「で、でも、私達には攻撃するしか他に手はありませんわ。この2体の魔物を何とかしない限り、あの扉には辿り着かないのですから」
 アーシャさんの口調は明らかに狼狽えていた。
 やはりアーシャさんも、内心では駄目かもと思っているに違いない。
「ですが、アーシャさんの魔法は、俺と違って道具の力じゃない。このままの調子ならば、扉に辿り着く前に魔力が枯渇してしまいますよッ」
「そんな事は分かってますわッ! でも後がない以上、先に進むにはこうするしかないのですッ。……ヒャド!」
「しかし……無……いや、何でもないです」
 俺は無駄という言葉が出そうになったが、飲み込んだ。
 なぜなら、現状、アーシャさんの言う通りだからである。
 剣や鎧といった重装備ではない俺達は、これを続けて進み、あの黄金の扉まで行くしか方法がないのだ。が……その道は物凄く遠い。すぐそこなのに、目の前の不気味な存在が、それを許してくれないからである。

 俺は魔道士の杖を使いながら考える。
 この化け物は一体、何なのだろうかと……。
 またそれと共に、俺の中で気になっている事が2つあるのであった。
 まず1つは、幾らメラやヒャドとはいえ、十数発も浴びれば、相当なダメージが蓄積しているということである。これがゲームなら、もう既に150~200ポイントのダメージは与えている筈なのだ。
 それともう1つは、奴等がメラやヒャドを唱えてくることや、その動きを考えると、それ程強いレベルの敵には思えないという事であった。精々、俺達と同程度の強さな気がするのである。
 で、何が言いたいのかというと……要は、こんなに打たれ強いのに、その攻撃能力はあまりに弱いという事だ。
 俺がプレイしたドラクエには、少なくとも、こんなアンバランスな敵はいなかった気がするのである。その為、違和感を覚えると共に、奇妙な引っ掛かりも感じたのであった。
(この化け物達はなんかおかしい……手応えが全然感じられない。まるでサンドバックを攻撃してるような気分だ。本当に倒せるんだろうか……こいつ等を……)
 俺はそんな事を考えながらも、魔道士の杖からメラを放ち、化け物を転倒させてゆく。
 そして徐々に前へと進んで行くのだが、黄金の扉まではまだまだであった。
(……いつになったらあそこまで辿り着けるのだろう。たった10m程度なのに、なんて遠いんだ……ン?)
 と、そこで、アーシャさんに異変が現れた。
 なんとアーシャさんは、床に片膝をついてしゃがみ込んだのである。
「ハァ、ハァ、ハァ」
 アーシャさんは肩で息をしていた。
 俺は即座に攻撃の手を止め、アーシャさんに駆け寄った。
「大丈夫ですかッ、アーシャさん!」
 アーシャさんは苦しそうに口を開く。
「す、少し……魔法を使い過ぎたみたいですわ。ハァ……ハァハァ」
 かなり息が荒い。
 額からは幾つもの汗が流れ落ちている。
 恐らく、アーシャさんはもう限界なのだろう。
 俺はとりあえず、アーシャさんにホイミをかけてみた。が、やはり、思ったほどの効果は現れなかった。
 魔力疲労は肉体的な損傷とは違うので、それ程の効果は望めないようだ。
「コータローさん……今は私よりも、アッチです」
 アーシャさんはそう言って、化け物を指さした。
 すると2体の化け物は、まるでビデオを逆再生させたかのように、スッと起き上がって来たところであった。
「クッ、しつこい奴らだな。なんで動けるんだよ」
 攻撃を大量に受けたにもかかわらず、化け物は平然としながら俺達へと向かって歩き出す。
 と、その時であった。
 化け物の1体が俺達に向かって右手を突き出し、呪文を唱えたのである。

【デイン】

 その刹那、俺達に向かい、以前見たあの電撃が襲いかかってきた。
 俺は慌ててアーシャさんをかばう。
 そして、俺はデインの直撃を受けたのだ。
「グアァァ!」
「コ、コータローさん!」
 電撃が俺の身体を走り抜ける。その痛みはメラの比ではなかった。
 強烈な痺れと共に、刺すような痛みが全身を走り抜け、一瞬、気を失いそうになるほどであった。が……俺は両膝を付いて四つん這いになりつつも、なんとか持ちこたえた。そして、俺は化け物を凝視したのである。
(グッ……デインがこれほどキツイとは……なんでこいつがデインを使えるんだよ……)
 この呪文を使える者は数えるほどしかいないと、ヴァロムさんは以前言っていた。それと、自分の知る限り、デインを使える魔物はいないとも……。
 俺の中で更に疑問が深まってゆく。
「い、今の呪文は、まさか……イシュマリアの王位継承候補者しか使えない電撃呪文……。なぜ、こんな化け物が使えるんですのッ」
 どうやら、アーシャさんも俺と同じ見解のようだ。
 やはり、おかしいのである。
(どういうことだいったい……モシャスとかで俺の能力をコピーしたのなら、それも理解できるが……ン? モシャス? ……いや、違う。これはモシャスではない。まさか……こいつ等の正体とは……)
 この時、俺の中にある仮説が浮かび上がってきた。
 と、そこで、アーシャさんの悲鳴にも似た声が響き渡ったのである。

【コータローさん! また化け物がッ!】

 俺は奴等に視線を向ける。
 すると、デインを放った奴が、俺達に向かって、また右手を突き出していたのである。
(やばい……この動作はデインの気がする。この体勢じゃもう避けれない……今、もう一度喰らったら、確実に死んでしまう。何か方法は……アッ!)
 この時、俺の脳裏に、とある光景が過ぎった。
 そして、俺は一か八かの賭けで、それを実行に移したのである。
(上手くいってくれよ……)
 俺は魔光の剣を手に取り、魔力を籠めて光の刃を出現させた。
 と、次の瞬間。 
【デイン】
 また奴の手から電撃が放たれたのである。
 俺は青白く輝く光の剣を縦にして、電撃を受け止めるように前に突きだす。
 その直後、バチバチとスパークする稲妻が魔光の剣に命中し、光の刃に絡みついたのであった。
 どうやら上手くいったみたいだ。
 映画・スターウ○ーズでは、シスの暗黒卿が放ったフォースの電撃を、ジェダイの騎士がこうやって受け止めていた。それを参考に一か八かでやってみたのである。
 両方とも魔力で作られたモノなので、なんとなく上手くいくような気もしたのだ。
 だが、完全には無理であった。
 防ぎきれない電撃が、俺の手を伝ってくるのである。
(イタタタ……ビリビリと痛いけど、この程度なら、十分我慢できる範囲だ……)
 程なくして電撃は消え去る。
 デインを凌いだところで、俺はすぐに薬草を使い体力回復に努めた。
 そして、アーシャさんに指示したのである。
「アーシャさん、また奴等の攻撃が来るッ。一旦、下がろう」
「は、はい、コータローさん」
 俺はアーシャさんの手を取ると少し後退し、化け物との間合いを広げた。
 そこでアーシャさんが訊いてくる。
「この化け物達はいったい何なのですの? 攻撃は効かない上に、王位継承者が使う強力な魔法まで使ってくるなんて……」
「アーシャさん……俺の勘だと、こいつ等は倒せません。いや、俺達が死なない限り、倒せない気がします」
「は? 意味が分かりませんわ。どういう事なんですの?」
 アーシャさんは首を傾げた。
「これはあくまでも俺の想像なのですが、こいつ等は俺達自身が創り出した化け物のような気がするんです」
「私達が創り出した? 何を根拠にそんな事を……ならば、目の前の敵は、私達の分身や影だとでもいうのですか?」
「そうです。あれは……影……ハッ!? 影だって! ……まさか……真実の扉って」
 その時、アーシャさんの一言がスイッチとなって、今まで疑問に思っていたものが俺の脳内で目まぐるしく動き始めたのである。
 俺達と対峙する2体の存在。その向こうに見える黄金の扉。消えた入口。扉に書かれていた試練の内容。そして……それらをつなげるプラトンのイデア論。
 それらパズルのピースが全て繋がった気がしたのだ。
「……そういう事かッ。なんてこった……俺はとんでもない思い違いをしていた。この扉は実物、いやイデアではないんだ。なら、イデアは――」
「コータローさんッ、また奴らがッ!」
 俺は慌てて振り向く。
「クッ、しまったッ!」
【メラ】
 なんと、化け物達の1体が俺達へと近づき、メラを唱えてきたのだ。
 もう避けれないと思った俺は、腹に力を入れて火の玉を身体で受け止める事にした。
 ヴォンという破裂音と共に、俺の胸元で火花が飛び散る。
「あちちちッ」
 糞熱かったが、何とか持ちこたえた俺は、即座に魔道士の杖を使い、火の玉を一発お見舞いしてやった。
 火の玉が爆ぜて化け物は転倒する。
 だがこれで終わりではない。もう1体の方も、俺達へと近づいていたのである。
 俺は慌てて魔力を指先に向かわせると、もう1体の方に自前のメラを放った。
(こんなくだらない茶番は、とっとと終わらせないと……)
 化け物がメラで吹っ飛んだところで、俺はアーシャさんに言った。
「アーシャさん! 後ろの壁まで走るんだ。真実の扉は、俺達の背後の壁にあるッ」
 しかし、アーシャさんは意味が分からないのか、ポカンとしていた。
「え? ど、どういう事ですの?」
 埒が明かないと思った俺は、そこでアーシャさんの手を取った。
「話は後ですッ」
「ちょっ、ちょっと、コータローさん。どうしたんですの急に」
 アーシャさんは戸惑っていたが、今は時間がない。
 というわけで俺は、アーシャさんの手を引きながら、後ろにある鏡の壁へと駆け出したのである。

 後の壁まで戻ったところで、俺は化け物の位置を確認した。
 すると奴等も、俺達の動きに連動するかのように、同じようなスピードで後に付いて来ていた。
 その為、俺達とはそれほど距離は空いていない。この辺は流石に、俺達の影といったところだろう。
 まぁそれはさておき、今、奴等に襲われるのは不味いので、俺が奴等の足止めをする事にした。
「アーシャさんッ、俺が奴等を暫く足止めしておきます。ですから、その間に扉を開いてください」
「と、扉と言われましても、後ろにあるのは鏡の壁じゃないですか。扉なんてどこにもありませんわッ」
「いいですかアーシャさん、向こうに見える黄金の扉は影なんです。ですから真実の扉は、絶対に影と正反対の位置にある筈です」
「影って……そういう意味だったんですの……分かりました。探してみますわ」
 アーシャさんもようやく理解したようだ。
 次は俺の番である。

 俺はこの2体の化け物を同時に相手する為に、1つ試したい事があった。
 それは魔法を両手で行使するという事である。
 ついさっきメラを使った時に、魔力の流れを簡単に操作できたので、やれそうな気がしたのだ。
 今になって気付いたが、ヴァロムさんにやらされたあの修行のお蔭で、魔力制御がだいぶ上達してたのである。
 そう考えると、あの憎たらしい呪いの武具も、ある意味、凄いモノなのかもしれない。
 まぁそれはさておき、以上の事から、俺は同じ魔法を両手で行使しようと思うわけだが、小さな火の玉を放つメラ程度では、すぐに奴等も行動を再開してしまう。
 その為、俺は試しにあの呪文を唱えてみる事にした。
 アレならば、魔力供給さえ止めなければ、暫く持続できる気がしたのだ。
 だが懸念はアーシャさんであった。が、もうそんな事は言ってられないので、後で事情を話して黙っていてもらうしかないだろう。
 それに考えてみれば、こいつ等が俺達の影のような存在という時点で、アーシャさんがそれに気付くのも時間の問題なのである。
 もうどの道、この事については諦めるしかないのだ。

 俺は両手を奴等に向かって真っ直ぐ伸ばすと、魔力の流れを両手に作り始めた。
 そして、流れが完全にできたところで、俺はあの呪文を唱えたのである。
【デイン!】
 その直後、俺の両手から稲妻が迸る。
 稲妻は瞬きするまもなく、奴等へと一直線に命中した。
 するとまるで痙攣でも起こしたかのように、奴等は全身を震わせながら動きを停止したのである。
 そこから俺はひたすら魔力を制御し続ける。
 だが予想以上に、俺がやっている事は厳しい事であった。
 なぜなら、魔力の消費スピードが半端じゃないからである。
(く、苦しい……この感じだと、精々、あと数十秒程度しか行使し続けられない……早く扉を見つけないと、アウトだ……)
 俺は背後にいるアーシャさんをチラ見した。
「アーシャさん……と、扉はまだですか?」
「もう少し待ってください……壁に触れてみましたら凸凹していましたので、何かあるのは分かるのですが、扉自体が見えないので、取っ手がどれか分からないのです」
「なるべく早めにお願いします。俺もそろそろ限界に近くなってきましたから」
 俺は柔らかめに言ったが、実際は『早くしてくれぇェェェ!』と言いたい気分であった。
 それほどに今の状態は厳しいのである。
「わ、分かっています。もう少し待って下さ……ン? これかしら?」
 アーシャさんはそう言って、何かを掴み、引っ張るような仕草をする。
 それと共に、ガチャリという音が聞こえてきた。
 と、次の瞬間、なんと、後ろの壁が眩く光り輝いたのであった。
「キャッ」
 そこで、アーシャさんの小さな悲鳴が聞こえてきた。
「大丈夫ですか、アーシャさんッ。何があったんです!?」
「だ、大丈夫です。いきなりで眩しかったものですから」
「よかった。……また何か出てきたのかと思いましたよ」
 今の状況で魔物に出てこられたら、もはや打つ手なしだ。
 なので、俺はそれを聞いて心の底からホッとしたのであった。

 後の壁から発せられる光は、次第に収束してゆく。
 それから程なくして、先程と変わらない元の光景へと戻っていった。
 俺はそこで、目を大きく見開いた。
 なぜなら、漆黒のローブ姿の化け物達が、跡形もなく消えていたからだ。
 周囲のどこを見回してもいないので、俺はそこで魔力供給と止め、デインを終わらせる事にした。
「あいつ等がいない。今の光で消えたのか……」
「本当ですわね……。どこにもいませんわ。それにあの黄金の扉も、消えてしまっていますわよ」
 それを聞き、俺は奥の壁へと視線を向けた。
 すると確かに黄金の扉は消えており、そこには鏡の壁があるだけなのであった。
 それだけではない。先程まで消えていた黒い扉も、ちゃんと見えるようになっていたのである。
「どうやら、まやかしは解けたようですね」
「ええ、そのようですわ。それにしても、よくこの謎が解けましたね、コータローさん……私では無理でしたわ。流石、オルドラン様がお認めになった弟子なだけあります」
「何言ってるんですか。この謎が解けたのはアーシャさんのお蔭なんですよ」
 アーシャさんはキョトンとした表情になる。
「え、私のお蔭?」
「あの時、アーシャさんが影と言ってくれたお蔭で、謎が解けたようなもんですからね。それまでは俺も、チンプンカンプンだったんですから」
「でもそれだけで、謎が解けたのですから十分凄いと思いますわ」
 そしてアーシャさんは、優しく微笑んだのである。
 俺はそこで、プラトンの洞窟の比喩を口にした。
「……人間は洞窟の中にいて、後ろを振り向く事が出来ない。入り口からは太陽が差し込んでおり、イデアを照らし、洞窟の壁に影を作り出す。 後ろに真の実体があることを知らない人間は、その影こそを実体だと思いこむ……」
 アーシャさんは首を傾げる。
「なんですの、その言葉は?」
「これはイデア論と言いまして、俺の故郷にいた大昔の哲学者が残した言葉なんです。実はですね、さっきの試練がこれとそっくりだったんですよ。だから気づいたんです。なので、たまたま解けただけなんですよ」
 アーシャさんは顎に手を当てて、ちょっと興味深そうな仕草をしていた。
「イデア論……そんなものがあったのですか」
「ええ。だから、アーシャ様がこれを知ってたのなら、多分、解けたと思いますよ」
 俺はそこで言葉を切ると、後ろの壁に視線を向けた。
 するとそこには、さっきまで反対側にあった黄金の扉が、仄かな光を放ちながら、厳かに佇んでいたのである。
 というわけで、後はもう、この扉の向こうへ行くだけだ。
「ではアーシャさん、障害も無くなった事だし、先に進みましょう」
「その前に……ちょっとよろしいかしら?」
 アーシャさんはそう言うと腕を組み、ジトーとした流し目を俺に送ってきたのである。
「コータローさん……貴方、先程、デインを使ってましたわよね。しかも両手で。一体、どういう事ですの?」
「あ、いや……そのまぁ……俺も何といってよいやら、ははは……色々と事情がありまして」
 俺はアーシャさんの雰囲気に気圧されてシドロモドロになってしまった。
 アーシャさんは更に凄んでくる。
「へぇ……じゃあ、その事情とやらを【是非ッ】聞かせてもらえませんかね?」
「は、はは……実はですね――」

 俺はとりあえず、簡単に説明する事にした。
 ヴァロムさんの立会いの元、イシュラナの洗礼を受けたら、デインを使えるようになった事や、ヴァロムさんから、この呪文の事を誰にも話さないように言われた事等を……。
 アーシャさんはそれらを茶化さずに、静かに聞き入っていた。
 この様子を見る限りだと、一応、理解はしてくれているみたいである。

「――というような事があったので、俺はデインが使える事を隠していたんです。ですので、アーシャさんも秘密にしておいて頂きたいんですよ」
 するとアーシャさんは目を閉じて無言になった。
 何か色々と考える事があったのだろう。
 暫くするとアーシャさんは口を開いた。
「とりあえず、隠していた理由は分かりましたわ。それと、オルドラン様が隠せという判断を下したのも、十分に理解できます。なので、私も他言は致しませんわ」
「ありがとうございます」
 俺はホッと胸を撫でおろした。
 アーシャさんは続ける。
「ですが、不思議ですわね……この国の歴史上、イシュマリアの子孫以外で、この魔法を使える者はいない筈ですのに……」
 どうやら、その部分だけは合点がいかなかったのだろう。
 考えてみれば、ヴァロムさんも最初はこんな感じだった。
 これらの反応を見る限り、やはり、この呪文は秘密にしておくのがいいようである。
 まぁそれはさておき、今はそれよりも、この先に進むのが先決だ。
「アーシャさん、道も開けた事ですし、そろそろ先に進みませんか?」
「そうですわね。後で【じっくりと】貴方に話を訊かせてもらえばいいのですからね。それに貴方の魔法を見ていたら、魔炎公ヴァロムの修行がどんな物なのかも気になりましたし。ウフフ」
 マエンコウヴァロムの意味がよく分からないが、アーシャさんはそう告げると共に、不気味な微笑みを浮かべたであった。
「はは……お手柔らかに」―― 


   [Ⅱ]


 黄金の扉を開き、その向こうへと足を踏み入れたところで、俺達は周囲を見回した。
 するとそこは、旅の扉に運ばれた最初の部屋と同じような感じの所であった。
 だが1つだけ違うところがあり、部屋の中心部には、マヤのピラミッドを思わせるような、大きな石の祭壇が鎮座していたのだ。
 祭壇の中央にある石板のようなモノには、大広間でみた太陽のシンボルマークみたいなのが刻まれている。
 その為、祭壇は太陽神との関係を深く匂わせる様相をしていた。 
 また、そんな祭壇の天辺には、仄かに白い光を放つ丸い鏡があり、訪れる者を静かに待ち受けているのであった。
「コータローさん……あの鏡が気になりますわね」
「そうですね。近くで見てみますか?」
「ええ」
 俺達は祭壇の前へと行き、暫し鏡を眺めた。
 その丸い鏡は、台に立てかけられるようにして置かれている。
 真円を描く形状で、大きさは直径30cm程度であろうか。
 外周部分には、金属のような銀色の何かで縁取られていた。
 とりあえず、そんな感じの鏡であった。

 この鏡を見てまず思ったのが、『これがラーの鏡なのだろうか?』という事であった。
 ゲームでは頻繁に出てくる名前だが、実物というのを見た事が無いので、俺には分からないのだ。が、しかし、眺めているだけでは事態は進展しないので、俺は更に祭壇へと近づいて、鏡を覗き込んだのである。
 だが、至近距離でこの鏡を見るなり、俺は首を傾げたのであった。
「あれ、この鏡……なんか変だ」
「何が変なんですの?」
「だって、俺達の姿が映っていないんですよ。他の壁や床は映ってるのに……」
 それを聞き、アーシャさんも鏡を覗き込む。
「ほ、本当ですわね……映ってませんわ」
「でしょ。何なんですかね。この鏡……」
 と、そこでアーシャさんがポンと手を打つ。
「分かりましたわ。この鏡は多分、まやかしを映して、真実を映さないという鏡なんだと思います。ですから、これを使って真実を探せって事だと思いますわよ」
「あ、なるほど、多分、それですよ」
 アーシャさんの言う通りかもしれない。
「じゃあ、早速、始めますわ。私が鏡で周囲を映しますので、コータローさんはそれらを確認していってください」
「分かりました」
 と、その時であった。
 どこからともなく、藤岡弘ばりの低い声色が聞こえてきたのである。

【……その必要はない。見事だ。お主等が全ての試練を乗り越えた事を認めよう】

「だ、誰だ!」
「誰ですの!」
 俺達は思わず叫んだ。
【我が名はラー。真実を見通す者。そしてまやかしを打ち払う者である。さぁ偽像を映す鏡で、祭壇の中央にある太陽の印を映すがよい。そこに鏡を納めるのだ】
 俺はこの突然の展開に少し混乱していた。
(ラーって……本人じゃんか。何だよ、この展開は……こんなのドラクエになかったぞ)
 などと思いつつ、俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。
 アーシャさんは頷く。
「コータローさんにお任せしますわ」
「じゃあ、俺がやりますね」
 そして俺は、祭壇の上にある鏡を手に取り、太陽のシンボルマークを映したのである。
 するとなんと、鏡に映る太陽のシンボルマークの部分は、丸い窪みとなっていたのだ。
(この窪みに鏡を納めろってことかな……まぁいい、やってみよう)
 というわけで、俺はその窪みに鏡を納めた。
 するとその直後、祭壇は閃光のような物凄い光を発したのである。
 それはまるで太陽光を直視するくらいの眩しさであった。
 俺達はあまりの眩しさに、思わず顔を背けた。
「もう……またですの」
 アーシャさんのウンザリした声が聞こえてくる。
 確かに、アーシャさんの言うとおりである。
 この遺跡に来てから俺達は、眩しい体験ばかりしてるのだ。
 そんなわけで、いい加減、俺達の目もチカチカしてるのである。
 まぁそれはさておき、暫くすると光は徐々に収束してゆき、この場は元の明るさへと戻っていった。
 俺達はそこで祭壇に目を向ける。そして、驚愕したのだ。
「な!? 祭壇が消えているッ!」
「あの祭壇は、どこにいったんですの!?」
 そう、あの祭壇が綺麗に無くなっていたのだ。まるで消失マジックのように……。
 俺とアーシャさんは慌てて周囲を見回した。
 すると、えらく低い位置から、あの声が聞えてきたのである。
【どこにも行っとらん。お主等の目はどこについておる。我はここだ】
 俺は祭壇があったであろう床に目を向ける。
 だがそこには、先程と同じような丸い鏡が1つあるだけで、他には何もないのであった。
 1つ違いがあると言えば、鏡の縁取り部分が銀色から金色へと変化した事くらいだろうか。
 とりあえず、視界に入ってくるのはそれだけなのだ。
 俺は溜め息を吐くと言った。
「あの、ラーさんでしたっけ。祭壇はどこにも行ってないとか、我はここだとか、今言いましたけど。鏡しかないですやん」
「そうですわ。何言ってるのかしら」
 アーシャさんも俺に同調してくれた。
 すると、謎の声は呆れたように、こう告げたのであった。
「あのな……お主等の目は節穴か? 試練を乗り越えたというのに、ここでそれに気づかんとは……わざとやってるんじゃないだろうな」
「まさか、鏡がそうだとか言わないでしょうね。喋る鏡なんてあるわけないやんか」
「本当ですわ。あまり馬鹿にしないでください」
 すると謎の声は、ボソリと呟いたのである。
【喋る鏡で悪かったな……】
 それを聞いた俺とアーシャさんは、眉間に皺を寄せながら顔を見合わせる。
 そして驚くと共に、叫んだのであった。
【鏡が喋ってるぅぅぅ!!】――


   [Ⅲ]


 ラーの鏡が喋る事を知った俺達は、とりあえず、冷静になって話し合う事にした。
「ところでラーのオッサンさ。ここからそろそろ出たいんだけど、帰るのはどうすんだ? 俺達、ここに来るとき、旅の扉みたいなので運ばれたんだけどさ」
「いきなり、オッサン呼ばわりか……。まぁいい。こんなのでも一応、試練を通過した奴だ。許してやろう。我は心が広いからな。お主みたいに、貧相な上に、マヌケそうで、それでいて頭が悪そうで、馬鹿者で、礼儀知らずで、世間知らずで、糞野郎な青二才に、そうそう目くじらは立てん。ありがたく思え」
「……思いっきり心狭いやんけ。まぁいいや。で、どうやって帰るんだ?」
「出口は、お主達が来た最初の部屋の隣にある。我をその部屋の壁に向けろ。そうすれば、まやかしは解けて扉が見えるようになる」
 どうやら、旅の扉で連れてこられた部屋の事を言ってるんだろう。
 一旦そこまで戻らないといけないようだ。
 と、そこで、アーシャさんがオッサンに訊ねた。
「1つお聞きしたいのですが、ラー様は太陽神なのでありますか?」
「太陽神? ああ、あの石版に書いてあったのを見たから、そう言っておるのだな。実を言うとな、あれはただの演出だ。ああやった方が、盛り上がるからな」
 俺は思わず言った。
「盛り上がるって……お前なぁ。その演出とやらの所為で、俺達がどれだけ苦労したと思ってんだよ」
「試練だから仕方ないだろう。お主達がやった試練は、我が考えた事ではないわ。あれは、精霊王が考えた試練なのだ。我はそれに従っただけにすぎん」
 精霊王……ファンタジーRPGでは、最高峰クラスの肩書である。
 これより上と言えば、神様か大魔王くらいしか思い浮かばない。
 まぁそれはさておき、アーシャさんは質問を続ける。
「それで話を戻しますが、ラー様は太陽神ではないのですね?」
「太陽神ではないが……まるっきり嘘というわけでもない。なぜなら、今より遥かな昔、我は人々に太陽神と崇められた事もあったのだ。まぁその時代の名残だと思ってくれればよい」
「な、名残なんですの……」
 アーシャさんはそう呟くと、ポカンとした表情を浮かべたのだった。
 なんとも珍妙な話である。
 そして今の話を聞いた俺は、苦労して謎解きをしてきたのが馬鹿らしくなったのであった。
 もう、やってらんねぇといった感じだ。撤収したい気分である
 というわけで、俺はアーシャさんに言った。
「アーシャさん。そろそろ帰りませんか。ティレス様やヴァロムさんも待ってるだろうし。まぁ戦利品はこのオッサンの鏡だけだけど」
「オッサンの鏡って言うな! ラーの鏡と呼べ!」
 そんなやり取りを微妙な表情で眺めながら、アーシャさんは溜め息を吐いた。
「はぁ……これ以上長居しても、しょうがありませんものね」
 と、そこで、オッサンは言った。
「お主達、奥にある壁に向かって我を掲げよ」
「壁に何かあるのか?」
「この奥に精霊王からの贈り物がある。一応、試練を乗り越えた者に渡せと云われとるんでな。まぁお主みたいな奴にくれてやるのは、我もシャクだが……。あ、アーシャさんは別だぞ」
「はいはい、壁に鏡を向ければいいのね」
 かなり捻くれたオッサンのようだ。
(この野郎……まだ根にもってやがる。どこが心広いんだよ。しかもアーシャさんだけ名前で呼んでるし……むかつくオッサンだが、まぁいい。とりあえずは、その贈り物とやらを拝ませてもらおうじゃないか)
 などと考えながら、俺はオッサンを壁に向かって掲げた。
 すると次の瞬間、鏡が眩く発光し、壁の真ん中が霧状になったのである。
 そして霧が晴れたその先に、白い扉が現れたのであった。

 俺達は白い扉を開いて、その向こうへと足を踏み入れる。
 扉の向こうには、今いた部屋と同じような広さの部屋があった。
 また、この部屋の真ん中には、大きな宝箱みたいな箱が幾つかあり、それらが一列に並べて置かれていたのである。
 どうやらこの中身が、精霊王からの贈り物なのだろう。
 中に何が入ってるのか分からないが、少し、興味が湧いてきたところである。
 アーシャさんはオッサンに確認する。
「この中に贈り物とやらがあるのですか?」
「うむ。そうだ。多分……」
 俺はすかさず突っ込んだ。
「なんだよ、多分て……。自分のいた部屋の隣の事くらい覚えとけよ」
「う、うるさい。我は意思はあっても自由はないのだ。その辺は大目に見ろ」
 と、そこでアーシャさんが仲裁に入ってきた。
「まぁまぁ2人共、落ち着いて。まずはこの中を見るのが先ですわ」
「そうですね。じゃあ、これから行きますね」
「どうぞ」
 俺は一番手前にある箱を開けた。
 すると中には、美しい装飾が施された鳥の翼みたいなのが、何枚も入っていたのであった。
 その翼には金の装飾パーツや水晶といったものが使われており、どことなく美術品を思わせる品物のように俺には見えた。が、同時に、ドラクエの説明書か何かで、これと同じような物を見た気がしたのである。
「あら綺麗……何ですの、それは」
 俺は丁度そこで、説明書に書かれていたコイツの名前を思い出した。
「多分、これはキメラの翼だと思いますよ」
 続いてオッサンも。
「そうだ。これはキメラの翼だ。間違いない。我が保証する」
 するとアーシャさんは目を大きく見開き、信じられない物を見るかのように叫んだのであった。
「キ、キキ、キメラの翼ですってェェェ!?」
(何をそんなに驚いているのだろう? 珍しいのか?)
 俺は訊いてみた。
「アーシャさん。キメラの翼がどうかしたんですか?」
 するとアーシャさんは、力強く解説を始めたのである。
「だってコータローさん、キメラの翼ですわよッ。これは古代魔法文明の全盛期ではそれほど珍しくはなかったらしいですが、今ではもう、失われた魔道具の1つとされている物なんです。それがここにあるんですよ。これが驚かずにいられますか! というか、なんで貴方はそんなに冷静なんですの!」
 俺は思った。
 キメラの翼まで失われていたのかよと。
 またそれと共に、こうも思ったのである。
 一体、どれだけのドラクエアイテムや魔法が失われているんだよと……。 
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