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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv8  太陽神

   [Ⅰ]


 俺が冗談半分で唱えたアバカムに、なぜか石の扉は反応した。
 そして、その直後、光と振動と轟音を発しながら、ゆっくりと、巨大な石の扉は横にスライドしていったのである。
 どういう構造になっているのか分からないが、非常に不思議な現象であった。
 俺はその様子をただ呆然と眺める事しかできなかったが、アバカムを唱えてから10分程経過したところで、この建造物の奥へと進む入り口が姿を現したのである。
 俺は生唾を飲み込みながら、その奥を凝視した。が、しかし……その先は深い闇で覆われている為、俺には何も見えなかった。
 また、永い間、石の扉に閉ざされていた所為か、扉が開かれると同時に、奥からカビ臭い空気がこちらへと流れ込んできたのである。
 少し鼻につく臭いであったが、今はそれどころではない。ある意味、異常事態である。
 とはいうものの、どうしたらいいのか分からないので、俺は扉が完全に開いた後も、暫し呆然と立ち尽くしていたのだ。
 そんな中、ヴァロムさんが俺に近寄り、小声で話しかけてきたのである。
「コータローよ……いったい、何をしたのだ? もしや、この建物もアレにでてきたのか?」
 俺はブンブンと頭を振り、ヴァロムさんに耳打ちをした。
「い、いや、こんな建物の事はアレには出てきてないです。ただ、扉を開ける呪文というのがあったので、やってみたら、こうなったんですよ。正直、わけわかんないッス」
「扉を開ける呪文じゃと……」
 ヴァロムさんはそこで、少し離れた所にいるティレスさんとアーシャさんをチラ見した。
 2人は今、こちらへと近づいているところであった。 
「オホンッ、と、とにかくじゃ、これからは勝手な行動はするでないぞ。何かするときは、儂にまず相談するのじゃ。よいな?」
「は、はい。以後、気を付けます」
 まさかアレで扉が開くとは思わなかったので、俺は今の言葉を肝に銘じたのである。
 程なくして、アレサンドラ家の2人は俺達の所へとやって来た。
「オルドラン様、一体何があったのですか? まさかとは思いますが、この扉はコータローさんが開けたのでしょうか?」と、アーシャさん。
 ヴァロムさんは頭をかきながら、惚けたように答えた。
「いや、儂も今それを訊いたんじゃがな。コータローが言うには、あの青い水晶球を弄ってるうちに、扉が開いてしまったそうなのじゃよ」
「水晶を弄っていたらですって!?」
 アーシャさんは俺を睨みつけ、怒った口調で忠告をしてきた。
「コータローさん……貴方、素人なんですから、不用意に何でも触らないでください。今回は結果的に扉が開いたので良かったですが、こういった古代の遺跡には罠が仕掛けられている可能性だってあるんですよ。まったくもう、これだから素人は……。素人なら素人らしく、大人しくしてくださいませんか。勝手にウロチョロされると迷惑なんですから」
「は、はい。申し訳ありませんでした」
 なんて嫌な言い方する女なんだ。
 顔は可愛いけど、なんかムカついてきた。
(ここは我慢だ……と、とりあえず、深呼吸して落ち着こう。たまにバイトで遭遇する嫌な客だと思えばいいんだ……)
 などと考えながら、俺はカチンときた頭を冷やすことにした。
 と、そこで、ティレスさんがアーシャさんを(いさ)める。
「アーシャ! 言いすぎだ。すまないね、コータロー君」
「いや、今回のは自分が悪いのです、ティレス様」
「そうですわ、お兄様。悪い事は悪いと言うべきなんです」
 アーシャさんはそう言うと、怒ったように腕を組むのであった。
 まだご立腹のようだ。
(はぁ……ツンツンした子やなぁ……こりゃソレス殿下が頭を悩ませるのもわかるわ)
 俺がそんな事を考えていると、ヴァロムさんが話に入ってきた。
「まぁまぁ、アーシャ様も落ち着いて。事情はどうあれ、行く手を阻む物も無くなったのじゃ。これはもう終わりにして、次に行きませぬか?」
「そ、そうですわね。それが目的なんですし」
「ではオルドラン様、外には魔物もおりますので、ここにいる守護隊の半数を、入口の守りに配置したいのですが、それでもよろしいですか?」と、ティレスさん。
 ヴァロムさんは頷いた。
「うむ。それで構わぬ」
 どうやら、更に少ない面子で中へと進む事になりそうである。
 戦力が少なくなるので不安ではあったが、かといって、後ろから魔物に襲い掛かられるのはあまり嬉しくはない。なので、今はこの方法がベストなのだろう。
 まぁそれはさておき、ティレスさんが守護隊への指示を終えたところで、ヴァロムさんは腰から杖を取り出した。
「さて、それでは出発の前に、明かりを灯すとするかの……レミーラ!」
 するとその直後、ヴァロムさんの掲げた杖の先端に、眩く輝く光が灯ったのであった。
 それはまるで、ナイター照明とかで使われる水銀灯のような輝きであった。
 これならば、相当明るく周囲を照らせるだろう。
 レミーラ……懐かしい呪文である。
 以前プレイしたドラクエⅠ(リメイク)では、松明よりも明るかったので、結構お世話になったのを思い出した。
 これを見る限り、松明なんか話にならない明るさだ。
 だがこの呪文、時間が経つと段々と消えてゆくのが難点なのである。が、今となっては懐かしい思い出だ。
 ヴァロムさんは明かりを灯すと、皆に告げた。
「それでは今より、この奥へと進もうと思う。じゃが、その前に言うておく事がある。中はどんな仕掛けがあるか分からぬ。危険を未然に回避する為にも、迂闊に何にでも手を出さぬよう、気を付けるのじゃ。よいな?」
【ハッ】
「では行くとするかの」
 そして、俺達は奥の暗闇へと、足を踏み入れたのである。


   [Ⅱ]


 俺達は周囲に気を配りながらも、極力、余計な物には触れずに奥へと進んでゆく。
 石の扉の向こうは、通路が真っ直ぐに伸びていた。扉と同じような幅の通路なので、結構大きい。その為、あまり窮屈な感じはしなかった。 
 また、見たところ、周囲には無機質な石の壁があるだけで、特に気になるような物は何もなかった。が、天井が入口部分の様な吹き抜けではなく、だいぶ低い位置となっているのが、少し気になるところであった。
 俺の目測だと、天井高さは10mくらいはあるだろうか。なので、別に低過ぎるという事はない。
 だがここは、高さが30mくらいある建造物である。よって、これが意味するところは一つであった。つまり、この上には、2階部分があるに違いないという事だ。
 まぁそれはさておき、30mくらい進んだところで、俺達は十字路に差し掛かった。
 俺達はそこで一旦立ち止まり、どちらに行くのかを話し合う事になった。
 とはいっても、話し合うのは、ヴァロムさんとティレスさんとアーシャさんの3人だけだったが。
 そして、話し合いの結果、右側の通路を選択する事になり、俺達はまた移動を再開したのである。
 右側の通路も、今までと同じような造りの所であったが、暫く進むと、上へ続く階段が前方に見えてきた。
 そこでティレスさんは、ヴァロムさんの意見を仰いだ。
「オルドラン様……上に続く階段です。どうしますか?」
「ふむ……これは上るしかあるまい」
「そうですわね」
 そして俺達は、前方の階段へと歩を進めたのである。

 階段を上った先には、広大なフロアが広がっていた。
 しかもこのフロアは、天井や壁に光る石が嵌め込まれている為、レミーラが無くても十分に明るい。
 また、パッと見た感じだと、通路のようなものは見当たらない上に、天井高さも下のフロアと同様、10mくらいありそうな感じであった。
 その所為か、学校の体育館を思わせるくらいの広さに、俺は感じたのである。
 それと、下にあった十字路を左側に向かったとしても、どうやらこのフロアに出てくるようであった。
 なぜならば、俺達が上ってきた階段の反対側にも、同じような階段の手摺りが見えるからである。
 まぁそれはさておき、ヴァロムさんはフロアの真ん中へ行き、ぐるりと周囲を見回した。
「ふむ……ここはどうやら大広間といった感じじゃな。それと、奥に見える幾つかの像に囲まれた四角い物は、何かの祭壇であろうか? 分からんが、とりあえず、行ってみようかの」
 ヴァロムさんは奥へと歩き始めた。
 他の者達もヴァロムさんの後に続く。
 進むにつれて、奥の様相がハッキリと見て取れるようになってきた。
 どうやら奥にある祭壇らしきものは、人の倍以上はありそうな、大きな長方形の石板のようであった。
 しかもその石版は、縦ではなく、横に寝かせて台座の上に置かれている為、俺は一瞬、石の棺でも置かれているのかと思ったのである。
 それと、この石板の四隅には、ローブ姿で頭にフードを被った老人の石像が4体置かれていた。ちなみにそれは、隠者のタロットカードに描かれている老人の姿に似た石像であった。
 だが、この石像……向きが少し変であった。
 なぜなら、この4体の石像全てが、中心にある石板を覗き込むような仕草をしているからである。おまけに姿勢も、前に乗り出したような感じなのだ。
 いかにもココに何かあります、と言っているような構図であった。
(この石版と石像はなんなんだろう……わけがわからん……ン?) 
 と、そこで、前を歩くヴァロムさんが立ち止まった。
 他の者達もそこで立ち止まる。
 そこは石板のある位置から、少し離れた所であった。
 微妙な位置で止まったので、俺はヴァロムさんに訊ねた。
「ヴァロムさん、どうしたんですか? 祭壇はもう目と鼻の先ですよ」
「初めて入る建造物じゃ。用心するに越した事はないじゃろう」
 どうやら、罠が無いかを確認するという事なのだろう。 
 それから暫しの間、ヴァロムさんは床や天井にジッと視線を向け、不審な個所はないか確認していった。
 そして、一通り確認したところで、皆に告げたのである。
「ふむ……恐らく、罠や仕掛けの類は無いじゃろう。では、祭壇を拝ましてもらうとするかの」
 俺達は移動を再開する。
 程なくして祭壇の前に来た俺達は、暫し無言で、石版に視線を注いだ。
 すると、石版の中心には太陽の絵のようなものが描かれており、その周囲には、あの古い書物で見たのと同じような文字が、沢山刻み込まれていたのだ。
 もしかすると、これが古代文字というやつなのかもしれない。
 と、そこで、アーシャさんの声が聞こえてきた。
「これは古代リュビスト文字……私には分からない文字が多すぎますわ。オルドラン様、解読できそうですか?」
 ヴァロムさんは顎鬚を撫でながら返事をした。
「ふむ……そうじゃな。解読は出来ると思うが、ここまでびっしり古代リュビスト文字が書かれておると、流石に時間がかかるの。じゃが、かといって手をこまねいているわけにもいくまい」
 そこで言葉を切ると、ヴァロムさんは皆に告げた。
「では、これより儂は石版の解読作業に入る。守護隊の者は暫し休んでくれて構わぬぞ。ただし、余計な物には触れぬようにな」
【ハッ】
 続いてヴァロムさんは、アレサンドラ家の2人に視線を向けた。
「それからティレス様とアーシャ様は、儂の解読した言葉を何かに控えてほしいのじゃが、良いかの?」
「分かりました」
「分かりましたわ」
「うむ、では始めよう」
 そしてヴァロムさん達は、解読作業に取り掛かったのである。


   [Ⅲ]


 解読を始めてから、1時間くらいが経過した。
 ヴァロムさんは依然と、石版と睨めっこ中であった。
 この様子を見る限りだと、まだまだ時間がかかりそうな雰囲気である。
 ちなみに今、この石版の周囲にはティレスさんとアーシャさん、そしてヴァロムさんと俺の4人しかいない。
 守護隊の方々は俺達から若干離れた所におり、一応、周囲の警戒に当たってくれているみたいである。頼もしい人達だ。
 それから、ティレスさんとアーシャさんだが、2人は先程の指示通り、ヴァロムさんの隣で、解読した言葉を紙に書き写している最中であった。
 その為、この中では俺だけ何もする事が無いので、とりあえず、その解読作業を見ているだけなのである。が、しかし、内心はこんな感じであった。
(あぁ……超ヒマだ。長い間、わけの分からん作業を無言で見ているのが、これほど退屈だったとは……この解読作業、いつまで掛かるんだろ? まさか日が暮れるまで掛かるんじゃないだろうな……)
 正直、こんな言葉しか出てこないのである。
 だがそれもソロソロ終わりが来たようだ。
 なぜならば、解読班が作業の手を止めたからである。
 ヴァロムさんは、石板を覗き込む顔を上げた。
「よし、解読できたぞ」
「本当ですか、ヴァロムさん。良かったぁ……朝まで掛かるのかと思いましたよ」
 退屈で死にそうだった俺は、思わず本音がでてしまった。
 すると即座にアーシャさんのお叱りがきたのである。
「コータローさんッ。その言い方は何ですか? 貴方は弟子なのですから、苦労されたオルドラン様をもっと労ったらどうなのです」
(面倒くさい子やなぁ、もう……まぁでも、今のは怒られても仕方がないか……)
 などと考えていると、ヴァロムさんは俺達の間に入ってきた。
「ええんじゃ、ええんじゃ。そう気にしなさるな、アーシャ様。儂とコータローは、気楽に話しするのが本来の姿じゃからの。今まではコータローが気を使って、丁寧な言葉づかいをしておっただけなんじゃ」
「そ、そうなのですか……しかし」
 アーシャさんは何か納得してないようであった。
 その為、戸惑ったような表情を浮かべているのである。
 まぁそれはさておき、ヴァロムさんは石版に視線を向け、話を進めた。
「さて、では説明しようかの。まず、この石版に書かれておる内容じゃが……これには、太陽神・ラーという真実を見通す神の話が書かれておるんじゃよ。じゃが、その殆どが、太陽神ラーの偉大さや武勇伝についての記述じゃった」
「へぇ……そうなんスか」
(ラーって、神様の名前だったのか……まぁこの世界ではかもしれんけど……)
 ヴァロムさんは続ける。
「じゃがの、最後の方にこんな記述があったのじゃよ」
 そこでヴァロムさんは、石版の端に書かれている文字を指でなぞった。
「ここにある文字列を解読するとこういう文章になる。……我が力を得ようとする者よ……知性と勇気とその精神を我に示せ。さすれば、真実の道は開かれよう」
「知性と勇気とその精神……。この文脈を見る限り、なんとなく試練の様なものに聞こえますわね」
「うむ。恐らく、そのような解釈で間違いなかろう」
 ティレスさんは顎に手をやり、首を傾げる。
「しかし、オルドラン様。太陽神・ラーなどという神の名は初めて聞くのですが、これは古代に信仰されていた神なのでしょうか?」
「……じゃろうの。じゃが、イシュマリア誕生以前の歴史については、今では手掛かりとなる文献も殆ど無いので断定はできぬがな」
 それを聞き、アーシャさんは残念そうに溜め息を吐いた。
「今から2000年以上前、イシュラナ神殿の大神官が、古代文明の文献や記述を全部悪という風に位置付けて、焚書扱いにしたのが悔やまれるところですわ」
「まぁの……。じゃが、それを今言っても、もう始まらぬ。それに儂等は今、何千年もの間、誰も見る事が出来なかった古代文明の一端を垣間見とるわけじゃ。じゃから、今はこれらについて考えるとしようかの」
 よくわからないが、どうやら歴史上の話で、色々と込み入った事情があるようだ。
 まぁそれはさておき、俺はヴァロムさんに問題点を指摘した。
「でも、ヴァロムさん。今の内容ですと、あまりにも大雑把過ぎるので、試練といっても、どこから手を付けていいのかよく分かりませんよね」
「確かにの……。ふむ、そうじゃな。まずは、この建物内を隈なく調べるとするかの」
「ですわね」
 というわけで、俺達はさっきと同様、手掛かりを探す為、建物内を奔走する事になったのである。


   [Ⅳ]


 俺達は1時間程かけて、1階と2階の確認できる範囲を全て見て回った。
 だが、幾ら探せども、手掛かりらしいものは何一つ見つけられなかったのである。
 その為、俺達はもう一度石版の前へ集まり、今後の方針について話し合う事にしたのであった。
 勿論、話し合いは、ヴァロムさんとティレスさんとアーシャさんの3人によってである。
 というわけで、俺はさっきと同様、また蚊帳の外なのだ。
(さて、どうやって時間を潰そうか……どこかで横になって寝るのが一番いいんだけど……)
 などと不届きな事を考えていると、ヴァロムさんが俺に話を振ってきた。
「コータローよ。お主はどう思うかの?」
「はへ? ど、どう思うとは?」
 無防備だったので、思わず気の抜けた返事をしてしまった。
 するとアーシャさんが、ムスッとしながら口を開いた。
「あの試練の内容についてに決まっておりますわッ」
 とりあえず、アーシャさんについては適当に流しとこう。
「ええっと……知性と勇気とその精神を我に示せ……の事ですよね。ン~、そうですねぇ……」
 俺は古畑○三郎のような仕草をしながら暫し考えてみた。
 これがゲームならば、もう少し気の利いたヒントがありそうだが、今まで見た感じだと、これ以上のヒントは何も無いようである。
 もしかすると、この石版に書かれている内容で、何か見逃している事や間違った解釈をしている可能性があるのかもしれない。
 というわけで、ヴァロムさんに訊いてみる事にした。
「ヴァロムさん。この石版に書かれているのは、太陽神・ラーの話が殆どらしいですけど、具体的にどんな話なんですかね?」
「一応、全文を訳すとこんな話じゃ――」

 ヴァロムさんは石版に書かれていた内容を事細かに話してくれた。
 で、その内容だが、太陽神・ラーがどういう存在なのか、そしてどういう部下がいてどういう家族がいるのか、そんな話ばかりであった。
 なんとなく、ギリシャ神話みたいな人間臭い感じの物語だ。
 しかも、この太陽神・ラーは、光り輝く眩い自分の姿を映すために、ある鏡を部下に作らせたような事も書かれているのである。この流れから察するに、多分、これがラーの鏡の事なのかもしれない。
 まぁそれはさておき、石板の内容は全体的に、第三者の視点から太陽神・ラーを礼讃するだけの、わけの分からん話であった。が、しかし……俺はこの話を聞いている内に、あべこべになっているというか、やや奇妙な引っ掛かりを覚えたのである。
 またそれと共に、4体の像についても違和感を覚えたのであった。

「――まぁとりあえず、こんな感じじゃな。どうじゃ、コータローよ。なにか気になる点はあったかの」
 俺は引っ掛かった部分を話すことにした。
「……あの、ヴァロムさん。この石版は太陽神・ラーを散々礼讃しておいて、最後に『……我が力を得ようとする者よ……知性と勇気とその精神を我に示せ。さすれば、真実の道は開かれよう』となっておりますが、これって不自然な文ですよね」
「不自然?」
「なにが不自然なんですの?」
 アーシャさんとティレスさんの2人は首を傾げた。
「不自然とは、どういう意味じゃ?」
「だって、礼讃している部分は他人の記述のようだし、最後の一文は本人の記述みたいになってるんですよ。おかしくないですか」
「まぁそう言われるとそうじゃな……確かに妙じゃ」
 そこでヴァロムさんは顎鬚を撫でる。
「でしょ。そこで思ったんですけど。最後に記述されている試練を思わせる文章は、石版自体を太陽神・ラーだとして考えろって言ってる気がするんですよ。真ん中に太陽の絵もありますしね。ですからそう考えると、他人視点の礼讃部分は、力を得ようとする者の知性を試す為に、わざとこんな書き方にしてるんじゃないですかね」
「何を言うのかと思えば……なぜそんな考え方をしなきゃいけないのかしら。馬鹿馬鹿しい」
 アーシャさんはそう言って鼻で笑った。
 だがヴァロムさんは対照的に、少し思案顔になったのである。
 暫くするとヴァロムさんは口を開いた。
「……そうか。確かにこれは、知性と勇気と精神を示せという、太陽神・ラーの謎かけなのかもしれぬ。何より真実を謳う以上、偽物で試すという事は大いにあり得る。ならば、そう考えると……」
 ヴァロムさんはそう言うと、4体の像へと視線を向かわせたのである。
 どうやら気づいたようだ。
「そこなんスよ。この石版を太陽神だと考えると、4体の石像の位置はおかしいんですよね」
「は? 何がおかしいというのかしら?」
 アーシャさんは首を傾げていた。
 理解できないといった感じである。
 つーわけで、俺の見解を述べておいた。
「決まってるじゃないですか。眩い太陽神に向かって、まともに視線を向けているこの像はありえないんですよ」
「うむ。そうじゃな。そう考えると、この石像の位置は不自然じゃ。コータローよ、あの石像をまず調べてみてくれ」
 ヴァロムさんは4体あるうちの1体を指さした。
「はい、ヴァロムさん」
 俺は頷くと、早速、行動を開始したのである。

 石像へと近づき、俺は入念にチェックした。
 触ってみた感じだと、石膏を思わせる真っ白な石像であった。
 次に俺は、上から順に何か仕掛けがないか確認をしてゆく。
 そして、石像の足元付近に、小さな切れ込みが入っているのを俺は見つけたのである。
 もしやと思い、俺は石像を回してみた。
 すると思った通りであった。やや重かったが、石像は回転扉のように回ったのである。
 そこでヴァロムさんの声が聞こえてきた。
「回ったのぅ……コータローの言う通り、この石像に何か秘密があるようじゃ。とりあえず、4体とも石版から目を逸らす位置に回そうかの」
「はい、オルドラン様」
 ティレスさんとアーシャさんも、石像へと移動して回し始める。
 続いてヴァロムさんも、残りの1体を回しに向かった。
 そして、この4体の石像は、中心の石版からそっぽを向いた構図に変わったのである。

 俺達はそこで石版に視線を向けた。
 だが、何も変化が現れなかった。
(これじゃないのだろうか……いや、まだわからない)
 俺は石版に近寄り、何か小さな変化が無いかを確認する事にした。
 石板の前に来た俺は、暫くの間、ジッと様子を窺う。
 するとそこで、アーシャさんが俺の隣にやって来たのである。
「何でも勝手に触ったらダメですわよ。触る時は、オルドラン様の指示を仰いでからですわ」
 どうやら、俺を監視しに来たようだ。
 アバカムの時、俺が水晶球を弄ってた事になってるから、それに対して不信感を抱いてるのだろう。
「はいはい、触りませんよ。ただ、変化が無いか確認しに来ただけですから」
「本当かしら?」
 アーシャさんは冷ややかな流し目を送ってきた。
「だから、本当ですって……ン?」
 と、その時であった!
 なんと石版の中心にある太陽の絵から、青白く輝く煙のようなモノが立ち昇ってきたのである。
 そして瞬く間に、それは大きな渦へと変化していき、俺とアーシャさんを石版ごと包み込んだのであった。
「な、なんですの、この青い煙みたいな渦は!?」
「なんだよ、コレ!」
 俺とアーシャさんは、この突然の事態に焦った。
 ヴァロムさん達の慌てた声も聞こえてくる。
「コ、コータロー!」
「アーシャ!」 
 しかし、その声が聞こえる頃にはもう、俺達は青い渦に完全に飲み込まれる状態になっており、周囲の様相が分からないところまで来ていた。
 そしてその直後、地に足のつかない浮遊感と、キーンという耳鳴りの様な音が聞こえてくるようになったのである。
(いったい何なんだよ、この現象は……聞いてないぞ、こんなの。というか、ここ最近、何で俺ってこんな展開ばかりなんだよッ)
 突如現れたこの現象に対して、俺の脳内は少しパニックを起こしかけていた。
 だがそれも僅かばかりの間であった。
 程なくして、地に足がつくような感覚が戻ってきたからである。
 またそれと共に、青い煙状の渦も少しづつ収まってきたのだ。
 俺はホッと胸を撫で下ろした。
「アーシャ様、今の内にこの外に出ましょう。またさっきみたいになるかもしれないですよ」
「そ、そうですわね。早く出た方が良さそうですわ」
 俺とアーシャさんは、脱出すべく、足を前に踏み出した。
 そして、青い煙の中から完全に抜け出たところで、俺は背後を振り返ったのだ。が、しかし……視界に入ってきた光景を見るなり、俺は驚愕したのであった。
「な、なんだこの狭い部屋は!? さっきの場所と全然違うじゃないかッ。どこだよッ、ここッ……」
 アーシャさんも驚きのあまり目を見開いていた。
「ここはいったい、ど、どこですの? お兄様やオルドラン様は? な、なんで私は、こんな所にいるんですの!?」
 そう……俺達はいつの間にか、20畳程度の小さな部屋の中にいたのである。
 やっと青い煙から出られたと思ったら、あの石版のある場所じゃなかったのだ。
 視線の先にある青い煙の渦は、今にも消えそうになっていた。というか、今、フッと消えてしまった。
 そして、シンとした静寂が辺りに漂い始めたのである。
 俺とアーシャさんは青い煙が消えた後も、この突然の事態に、暫し呆然と立ち尽くしていた。
 だが時間が経つにつれて、だんだんと冷静に考えられるようになってくる。
 そこで俺は、今の青い煙状の渦を思い返してみた。
 すると次の瞬間、ドラクエをやっていた時によく利用した、とある装置の事を思い出したのである。
 俺はボソッとその名を口にした。
「い、今のは……もしかして……た、旅の扉なのか?」
 しかし、答える者は誰もいなかった。
 ただ不気味な静寂だけが返ってくるのである。 
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