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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第93話:人生、楽ありゃ苦もあるさ……でも苦労の方が多い気がする

 
前書き
色んな人が苦労してます。
誰が一番苦労してるんだろうか? 

 
(グランバニア城・中庭)
リューノSIDE

「はぁぁぁぁぁ~~~~………」
学校も終わり、マリーが次のコンサートの為に練習してる今……私はウルフと中庭でささやかなティータイムを楽しんでいる。だが(ウルフ)の方は、ティータイムを楽しむ余裕も無くなっていた。

「大丈夫ウルフ?」
「大丈夫じゃ無い……もうやだ。この板挟み、もうやだ」
ラングストンさんに作り方を教わったフォンダショコラを彼に振る舞ってるが、味わって貰えてない。何か寂しい……

「何が板挟みなの?」
紅茶を用意してくれたジョディーさんがウルフの代わりに、私の作ったフォンダショコラを美味しそうに食べているのを横目に、ウルフの悩みを聞き出そうとする。

「マリーが……俺の想定以上に才能無かった。その所為俺は、ピエッタさんから突き上げを喰らっている」
「突き上げって?」
少しでも可愛さを出そうと、マリーがよくやる小首を傾げた尋ね方をしてみた……効果は薄そうだ。

「アイツ……本当に努力しないんだよ。でも歌は上手くないんだよ。だから音楽に関しては妥協できないピエッタさんが、俺に『マリーちゃんに練習するよう言って下さいよ!』って要求してくるんだよ。だけど現状、あのコンビは人気が出てきてるから、マリーは練習の必要性を感じてないんだよ」

「うわぁ……マリーらしいっちゃ、マリーらしいわね」
ある意味、予測しようと思えば予測できた事態に、ジョディーさんも苦笑いして聞いている。私の作ったフォンダショコラを頬張りながら。

「でもウルフ閣下。閣下も言いましたがマリー&ピエッサは結構な人気者になってますよね。現状の歌唱力で大丈夫なのでは無いですか?」
何があったのか分からないけど、ウルフに敬意を払うようになったジョディーさんが素直な疑問を提示する。

「ダメなんだよプロ(ピエッサさん)からの感覚じゃ……」
「何でよ……立場的に彼女が妥協するのが妥当な状況じゃ無いの?」
私としても立場とかを盾にしたくないけど、常識的に考えて彼女の方が遠慮すべきな気がする。

「アレでも妥協してるんだよ。マリーからは、現在発表してる曲以上に多くの楽曲を提供されてて、マリー的には何時でもファンの方々に披露する事が出来るらしいのだが、曲の中にはスローテンポなバラード曲ってヤツも含まれてて、今のマリーじゃ大惨事にしかならないらしい」

「バ、バラード曲?」
「ああ……今はアップテンポな曲でマリーの音程外しを誤魔化してるけど、スローテンポな曲になると誤魔化しが利かなくなるらしい。マリーの実力じゃぁ、それはもう音痴に聞こえてくるんだってさ!」

「ではマリー様に有りの儘を伝えて理解を求めては如何ですか?」
「流石は上級メイド様は言う事が違うね。俺もそう思って言ったさ! でもさ『良いのよ音程くらい外したって! だって私は歌姫(アイドル)なのよ。可愛さ勝負で押し切れるの!』って聞く耳持たないんだよ」

マリーの言ってる歌姫(アイドル)って何なの?
何で歌の方じゃ無く、容姿の方で押し切れると思ってるの!?
一体何を基準に歌姫(アイドル)を構成してるの???

「更に問題なのがリュカさんからの指示だ」
「え、何? お父さんからも何か言われてるの?」
あんまりウルフを苦しめないで欲しいわ。

「俺もさ、マリーが歌唄いになるって決まってから、リュカさんに報告したんだよ。そしたらさ物凄く顔を顰めてさ……言葉に出して反対はしなかったけど、100%同意出来ない雰囲気を醸し出したんだ。でもマリーがやりたいって言った事を止める気はなく、俺と一緒に直ぐさまマリーの下へ赴いて、とある条件を突き付けたんだ」

「とある条件?」
「あぁ……世間に発表する歌の歌詞に制限を設けた」
「制限って何ですか?」

「リュカさんもマリーも、この世界には存在しない歌を唄ってるんだけど、歌が存在しないって事は歌詞の内容に存在しない物事が盛り込まれてる可能性があるんだ。個人的に歌うだけなら、歌詞の内容について説明義務も存在しないけど、金を取って発表する物になると意味の解らない事には説明義務が生じるってリュカさんが言うんだ」

「まぁそうね。私もお父さんの歌で、よく分からない歌詞が気になる事があるもの」
「そうなんだ。でもリュカさんには説明義務は無いから、仮に歌詞の内容について質問されても『知らねぇ。ノリで歌った』って言えば良いんだ」

「なるほど……お父さんにはそれで良くても、マリーにはそれじゃ問題が出てくるのね?」
「その通り。だからリュカさんは『世間に発表するのなら、この世界で常識になってる歌詞しか歌っちゃダメ』って言われたんだ」

「ふ~ん……でも私が聴く限り、この世界でも通用する歌詞しか無いと思うけど?」
「それはマリーが歌詞の手直しをしてるからだ」
歌詞の手直し? この世界ではマリー発の楽曲なのに、既に手直しが必要って何だか混乱するわね。

「……んで、その手直しのチェックを俺が行う事になってるんだ」
「……………何でよ!?」
ウルフは関係ないじゃん。

「だってさぁ……俺が色々段取りしてデビューさせちゃったしさぁ……アイツが、人々が知らない単語の歌詞を生み出す理由を俺は知ってるしさぁ……この世界で通用する歌詞か否かを判定出来る頭脳の持ち主なんて俺以外に居ないしさぁ……」

「災難ですねぇ閣下も(笑)」
「笑い事じゃねぇんだよ! マリーも最初の内は頑張って歌詞の変更をしてたんだけど、段々面倒臭くなってきて『ねぇウルフ。テレビ作ってよ!』とか『携帯電話発明してよ!』とか、世の中をアイツの生み出す歌詞に変えようとし始めたんだ!」

「まぁ~、大変ですねぇ閣下も」
表情も台詞もウルフを心配する感じになってるが、その言葉に一切の重みを感じさせないジョディー。
それが解るウルフは彼女を睨んで、そして直ぐにテーブルへ顔を憂っ伏した。

「もうやだ。ホントやだ! 何でアイツがやりたい事をやらせてるのに、アイツ本人は努力をしないんだよ!?」
こんなに弱音を吐くなんて珍しい。
流石にジョディーも気まずそうだ。

「ピエッサさんから発表曲の制限を受けて、唄いたい歌が歌詞的に問題があり唄えず、そのストレスが全部俺に向かってきてる……俺のストレスは誰に向かわせれば良いの?」
「お、お父さんに向かわせては……?」

「向かわしたさ! でもリュカさんに『お前が巻き起こした問題事だろ。僕に文句言うなよな。あの娘(マリー)の我が儘っぷりを過小評価してたお前の責任だろうが!』って、何も言い返せない反撃を受けたんだ」

最悪ね、あの娘……
あの()がもう少し努力をしてくれれば、ウルフの苦労も軽減されるのだろうに。
如何すれば良いのかしら?

「リューノ様……貴女からマリー様に文句を言ってあげれば、多少は考え方を変えるのではないですかねぇ?」
「私が!? 効果あるかしら?」
急なジョディーの提案に、戸惑いつつもウルフの顔色を覗った。

「逆効果だな。あのマリーが音楽の素人(マリー的感覚)の姉妹に指摘を受けたって、むしろ意固地になってしまうだろうよ」
「やっぱりウルフもそう思うわよね。私も同じ意見……私やリューラ達が何かを言っても、むしろ頑なに努力を拒絶する気がするわ」

「厄介な女ねぇ」
「そうなんだよ……厄介なんだよ。あの血筋……いや、純血種は! 兄貴は童貞を拗らせてるかと思いきや娘が産まれた途端、極度の親馬鹿だし……姉貴は他国に嫁いだクセに、ちょくちょく我が国の内情を伺おうとするし……」

う~ん……ティミーもポピー姉さんも無関係な気がする。
二人ともそれなりにクセは強いけど、マリーのクセの強さは彼女単体の物だと思うわ。
まぁでもウルフの言うように、純血種って言う意味では灰汁が強いわね。

「あ、そうだわ! ねぇウルフ……マリーの説得をあの人に託しましょうよ」

リューノSIDE END



(グランバニア城・娯楽室)
ピエッサSIDE

昨日の帰り際、突如ウルフ閣下に呼び止められて『明日の午後にラインハットの王太子と王太子妃が、お前等の歌を聴きに来るから。よろしく』と通達があった。
本当に突然!

ラインハットはグランバニアの最友好国であり、その王太子妃様は元王女様である事は知ってるけど、昨日の今日で知らされても困惑が増すだけ。
ましてラインハットからなら片道でも数週間は掛かる距離なのだから、もっと事前に連絡があっても然るべきハズなのに……

そんな文句を微塵も表さないで佇んでいたのに、ウルフ閣下が申し訳なさそうに『無表情のところ申し訳ないけど、本当に先程決定した事柄なんだよ。君に伝えてるのも最短なんだよ』と言い訳してきました。

詳しく確認すると、ラインハットの王太子妃様……元グランバニアの王女様は魔法の天才で、古の超高位魔法のルーラを使用出来るそうです。
その為、思い立ったら直ぐに行動するらしく、本当は昨日の内に私達を観に来る勢いだったそうなんですが、流石にウルフ閣下が翌日にしてくれたみたいです。

幸か不幸か私達の噂はラインハットまで轟いており、マリーちゃんのお姉様も気になり、血族である事を利用して歌を聴きに来る事に決定した……
そういう事であればお聞かせする曲目も厳選しなければ大問題になるだろう。

何故ならばマリーちゃんの歌唱力で、姉とは言え現状は他国の王族に聴かせられる曲など限られてるからだ。
アップテンポで音程を外しても気付かれにくい曲……
そんな狭い選択肢を考えているとウルフ閣下が、

『スローテンポで凄く難易度の高い曲を厳選して披露してよ』
と、ぶっ飛んだ事を私にだけコッソリ仰ってきました。
何でそんなリスキーを飛び越えてデンジャーなチャレンジを敢行しなければならないのか困惑してると、意味ありげにウィンクをして私に何かを伝えようとするウルフ閣下。

昨晩は一晩中悩んでウィンクの意味を考え、今日の昼過ぎにようやく気付きました。
つまり……マリーちゃんのお姉様に彼女の下手さ加減を見せ付けて、説得して貰おうと考えているのだと思います……多分。

もし私の予測が間違っていれば大惨事になるのだけど、私は宰相閣下に言われたとおりの事をするだけ……その後の事までは責任持てません。
そんな訳でマリーちゃんから提供された“Everything”を披露しようと思います。

初めてマリーちゃんから教わった時は感動しすぎてトリップしちゃった曲。
でも彼女が歌ってくれた途端、その雑さに怒鳴りそうになった曲でもある。
私自身も凄く気に入ってる曲の為、一人でピアノ弾きながら歌ったりしてる曲だ。

だから何れは人々に披露したい曲ではあるのだけど、ボーカルの彼女が練習をしてくれず何時まで経っても披露出来る状態にならない。
私の耳にも周囲からの評判が聞こえてくるのだが、『歌詞が良い』とか『メロディーが素晴らしい』等言われてる……だけど誰一人として『歌唱力がある』的な評価は聞こえてこない。

学校(芸高校)の友達から等は、『何であんな下手くそと組んでるの?』と言われる始末。
断れる物なら断りたい気持ちで一杯だが、それが出来ないから『凄く可愛くて良い()なのよ』と言葉を濁して遣り過ごしている。

“可愛い”は問題無いとしても、何を以て“良い()”なのかは分からない。
多分“良い曲を沢山知ってる()”の略だろう。
本当に何であの()がお姫様として産まれてきたのだろうか?

さて……この娯楽室にウルフ閣下等の声が近付いて来たわ。
私の読みが当たってる事を祈って、彼女には歌唱不可能な曲を披露しましょうか……

ピエッサSIDE END



 
 

 
後書き
リューノはラングストンを師匠にしてパティシエの道を進み出した。
人選は兎も角、頑張っている事は解る。
マリーの方はと言うと……師匠は良いのだと思うけど…… 
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