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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第92話 魔界衆との戦い(その五)

 十兵衛も但馬守も刀身を担ぐような構えで対峙していた。が、その時、風を斬るような音が十兵衛を襲った。
 それは、天草の失くした十本の指の付け根から蛇のようにうねうねと動く髪切り丸が十兵衛を襲う音だった。
「邪魔をするな、天草!!」
 但馬守が怒声を上げ、十兵衛を襲う十本の髪切り丸をたたき落とした。
「但馬!!!!!」
 天草は但馬守の行動に苛立った。
「邪魔をするなら、貴様を先にたたっきるぞ」
 但馬守は天草を睨み付けた。
「ふん。私が死ねばこの城は瓦解する。それでもよいのか、但馬?」
 天草はにやりと笑った。
「フフフ。そんなことはどうでもよいわ。貴様が死のうが城が崩れようが我らの戦いには詮無いことよ。それでも、死に急ぐか、天草四朗?」
 但馬守は剣先を天草に向けた。
「おのれ、但馬守!!では、十兵衛を確実にしとめよ」
 天草は歯ぎしりをして但馬守に言った。
「貴様に命令されずとも十兵衛は、この柳生但馬守宗矩が倒してやるわ」
 但馬守は再び十兵衛と対峙した。
「土方殿、貴公は貴公の決着をつければよい」
 十兵衛は、土方を見ることなく言った。
「俺のするべきこと?」
 土方には、その真意がなんなのか初めはわからなかった。が、すぐに理解できた。
(俺のすべきこと。それは、この戦いを終わらせること)
「あい、わかり申した。十兵衛殿、ご武運を」
 土方はそう言い残すと姿を消してしまった。

 歯ぎしりをしながら天草が見つめる先には、十兵衛と但馬守の死合いが静かに始まろうとしていた。
 そして、大山は逃げる隙をうかがっていた。
 化物対化物。決着は一瞬であろう。が、但馬守は十兵衛の父であり、師でもあり、新陰流の長である。その一瞬を捉えることは難しい。
 よく、前回の戦いに勝利できたものだと十兵衛は感じていた。
 武蔵もそうであるように父・但馬守も難敵であり、倒さなければならない相手であった。
「親父殿、この十兵衛の首、そんなほしいですか?」
 十兵衛は、構えを変えずに但馬に聞いた。
「ふん。わしは、お前の首がほしいわけではない。剣士として最強であること。剣を学び、剣を極めることこそが剣士の本懐であろう、十兵衛?」
 但馬もまた剣を担ぐかのように構えた。
「そんなことのために何度も蘇るとでもおっしゃるか?」
 十兵衛は目を細めた。その瞳の中に鋭い光を宿して。
「馬鹿め。剣士たるものより強いものと戦いと思って何が悪いというのだ?
 十兵衛、お前もそうであったろうが」
 但馬と十兵衛は言葉を交わしながら押しては引き引いては押すという具合に間合いをとっていた。
「確かにその通りでござる。が、そのために外道に落ち、何度も蘇りたいとは思いませぬ」
 十兵衛は、但馬の考えをきっぱりと否定した。
「ほざけ、十兵衛!!」
 但馬は、怒りに身をまかせ、十兵衛の頭目がけて剣を振り下ろした。が、そんな大振りは効く訳もなく、なんなと交わし、但馬の右腕を目がけて刀を振った。
 但馬は、辛うじて交わし、左手に持ち替えた刀を十兵衛の首目がけて突き入れた。が、十兵衛はそれを右側に傾けてなんなく交わした。と同時に、十兵衛は但馬の右わき腹を狙った。が、その攻撃を但馬は小太刀を抜いて交わす。
 しばらくの間、鍔迫り合いをしたのち、但馬は小太刀を十兵衛の刀に沿って滑らせ、逆に十兵衛の右腕を狙った。が、十兵衛は、右腕を剣から外し、その攻撃をつばで受け、その反動を利用して後ろへ飛んだ。
 それを見た但馬は、今度は長差しで、十兵衛の左肩を狙う。
 それを見るや、十兵衛は体を回転させ、それを交わし、但馬の足を払う。
 その攻撃も但馬は空に軽く飛んで交わす。
「楽しい、楽しいなぁ、十兵衛!! 
わしはお主とこんな死合いがしたかったのだ。
 わしは、お前のような好敵手を昔から望んでおったのだ」
 但馬は、再び長刀を肩に担ぐように構え、十兵衛を見据えた。
「親父殿・・・・・・・・・・・・」
 十兵衛は、悲しげな目で但馬をみつめた。
「さぁ、お前の本気をみせてみろ。で、なければ今度こそお前を斬る」
 但馬は、にやりと微笑んだ。
「親父殿、この一撃が俺と親父殿の今生の別れとなろう」
 十兵衛は、刀を鞘に納めてまま、構えもなく目を閉じ両拳をぎゅっと握りしめた。
(柳生新陰流究極の奥義・奥義の太刀)
  但馬の表情が十兵衛の構えをみて変わった。
 全く殺気も感じられず、目の前にいるのは十兵衛であって十兵衛ではない。
 かつて、但馬も転生し、城で大暴れしたときに何十人もの者達を一気に切り倒したときに使った技でもあった。が、すでに時は遅し。
 但馬が奥義の太刀を使おうと構えたとしても、それは十兵衛に隙を与え、一瞬のうちに倒されているだろう。
 ゆえに、但馬は十兵衛の攻撃を待つか自ら攻撃しなければならなくなっていた。
 但馬の顔から笑みが消えた。額には汗がにじみ、一筋頬に流れた。
 その時、十兵衛の姿が陽炎のように触れたように但馬には見えた。
(来るか、十兵衛)
 但馬は何ふり構わず、二刀を構え、右手に持った太刀で陽炎のように揺れている十兵衛の姿向かって何度もきりつけた。が、その瞬間、その右腕は空に飛んでいた。
 それと同時に、視界が上下に裂けて見える。十兵衛はいつの間にか但馬の後ろに立っていた。
「さらばだ、親父殿。貴方は遊びすぎたのだ」
 十兵衛は、但馬を見ることなく背中越しで言った。
「ハハハ。さすがは十兵衛。お前が言ったようにわしは遊びすぎた。相手がお前であったのにのぉ」
 但馬は大声で笑うとその体は真っ二つに裂け灰となって消え失せた。
 
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