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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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溝-グレイヴ-

 
前書き
感想なかなか来ないけど、それでもその先を書きたくてしょうがない 

 
意識がはっきりしていくうちに、鳥の鳴き声が聞こえる。
夢を見てたのだろうか。それにしても、なんだか体の疲れが未だに抜け切れていない。ずっと寝ていたいのに、さっきまで一日分動いていたかのようだ。夢の内容も、どんなものだったのかすっかり忘れてしまった。
傍らには水の音も聞こえる。視線を傾けると、小さな水桶からタオルを絞っている白い手が見えた。
「…誰か、いるのか…」
「ッ!」
シュウがふと口に出した声に反応して、手の主が手を止めて、驚いたようにこちらを見て硬直した。
「…よかった、目が覚めたのね」
久しぶりに聞いた声だ。顔を上げると、同じく久しぶりに見た顔がそこにあった。
「…ティファ、ニア…か」
彼女を見たのはアルビオンのロサイス港以来だった。しかし、目覚めたばかりのシュウは一つ気がかりに思ったことがあった。
「…俺は…確か…」
そうだ、メフィストと戦った後、その変身者でもあるメンヌヴィルに、コルベールが過去の因縁への引導を渡したところで、自分は戦いのダメージで意識を手放した。何度目だろうか、あんな形でぶっ倒れるのは。コルベールたち学院にいる人たちが無事であればいいのだが…
「ッ!そうだ、学院は!?」
学院のことを思い出して、シュウは、意識を手放す直前までメフィストの脅威にさらされていた魔法学院のことを思い出し、思わず立ち上がる。テファはそんな彼を落ち着かせようと、近づいて言葉をかけた。
「落ちついて!大丈夫、学院は無事よ。ここ、学院の空き部屋なの」
シュウはそういわれ、ちょうど窓から学院の外観を見る。確かに学院は襲撃の傷跡こそあるが、資材が校庭内に集められ、修繕作業のために人が少し多く行き来している。
「シュウが闇の巨人と戦ってすぐ、お城に知らせが届いたの。私やサイトたちもそれでここに来たんだ。今、お城の人たちと学院の人たちが一緒に校舎を直してるの」
「…無事なんだな?学院の人たちは」
「ええ…全員、じゃないそうだけど」
「じゃあ、出たんだな。犠牲者が」
「……」
テファは黙って頷いた。少しの間二人の間に沈黙が漂った。すると、シュウはテファを振り返らないまま、窓の外の景色を眺めながらテファに尋ねた。
「村の…みんなは?無事か?」
「…ええ。あなたとアスカさんが、あの時頑張ってくれたから。今は街の修道院にいるわ」
ウエストウッド村のみんなも無事のようだ。元々戦災孤児たちの集りでもあった。突然村を、自分やテファを狙うシェフィールドとかいう女の放った怪獣のせいで村を破壊されてしまい、子供たちは特に怖い思いをしたに違いない。…怖い思いをした原因は、俺にもあるだろう。ムカデンダーとやらを殺したとき、そしてあの男と戦っていたときの自分は、思えば殺意をつみ隠すことなく振りまいていた。自分でも恐ろしいとさえ思えるくらいに。
「そういえば、アスカさんは?」
「…アスカは、いない。俺のせいで…捕まった」
「え!?」
テファはそれを聞いて目を見開いた。
彼女が炎の空賊たちと共にアルビオンを脱出した直後、メンヌヴィルに捕えられた自分をアスカが救出してくれた。しかし脱出する直前のタイミングで奴の妨害が入り、自分が当然のようにメフィストと戦おうとしたところで、アスカが強引に自分を脱出させ、彼はただ一人メフィストに立ち向かっていった。脱出の際にダイナとなったアスカの作り出した空間の歪みの中へ投げ入れられ、気が付いたときには魔法学院にいて、アスカが捕まったかどうかは学院を襲撃したメンヌヴィルから聞いた…そこまで話したところで、テファの表情が曇った。
「アスカさん…」
そんな彼女の顔を見て、シュウは自分に対する怒りを募らせた。
(なんで…俺はいつもこうなんだ…!!)
自分に手を差し伸べてくれた人たちが、次から次へと自分のせいで傷ついていく…もうたくさんだと思ったのに、未だにしつこく発生しは自分の心に傷を負わせていく。なぜ、こんなことばかりが起こるのだ?
…いや、考えても無駄だ。そんなことよりも大事なことがある。アスカが、自分をテファを狙ってきた奴らに捕まってしまったのだ。自分も実験されたことは感覚的に覚えている。彼も同じ目に…いや、それ以上に最悪の事態になりかねないことをされている可能性が高い。
すぐにシュウは自分の装備を確認する。エボルトラスターやパルスブレイガー…すべてそろっている。コルベールやアスカが、いつぞや無理をするべきじゃないとは言っていたが、そんな悠長なことを言っている場合じゃない。
すべての装備品はそろっている。シュウはすぐにドアのほうへと歩き出す。それを見て反射的に、テファが引き止めてきた。
「待って!どこに行くつもり!?」
「時間がない。すぐに助けに行かないといけない」
「助けに行くって、今からアスカさんを!?」
突然すぎるシュウの決断にテファは目を見開いた。
「だめよ!まだあなた、起き上がったばかりじゃない!」
先日、闇の巨人と激しい激闘を繰り広げていた。わずか1日の休息では、きっと体調も万全じゃないはずだ。というのに、そんな状態で戦いに向かうなんて無謀すぎる。世間をまだ疎い状態のテファでもそんなことはすぐにわかった。
「こうしている間にもアスカが何をされているのかわかったもんじゃない。今すぐにでも助けに行かないと、アスカの命の危険が高まる」
しかしシュウは引く気を見せなかった。助けに行ける方法があるのだ。それに、本来ならもっと早くそうするはずだった。コルベールが自分へおせっかいとも思える気遣いを見せたことでだいぶ遅れたが、これ以上遅れてしまえば、アスカに最悪の事態が訪れかねない。シュウはそう考えていた。
「シュウ、あなたは…!」
明らかに無茶をまたやらかす気満々のシュウに、テファは離れ離れとまったく変わらない彼に苛立ちさえも感じ始めた。
「いい加減にしときな」
それに同調するかのように、シュウが開けようとした扉から、マチルダが新たに入ってきた。傍らにはリシュもくっついてきている。
「マチルダ、さん…あんたまでいたのか」
シュウの言い方にマチルダは眉を潜める。
「いたのか、とはずいぶんだね。あたしはあんたにいろいろ文句を言ってやりたくなっていたというのにね」
「文句、だと…?」
「まさか何も自覚がないなんてことないよね?あんたテファにずいぶんと冷たいこと言ってくれたじゃないか」
そのときのマチルダは、町で出くわしていきなり因縁をつけてきたチンピラのように、シュウのすぐ目の前で彼を睨み付けた。しかしそのうちに宿した怒りは、その比ではない。
「これまであんたのおかげで、あたしやテファ、村の子達は命を救われた。確かに、あたしたちはあんたから見れば足を引っ張る存在でしかないだろうさ。
でもね、何があんたをそこまでさせるかは知らないけど、ものには限度があるんだよ」
「…限度がきたから、俺にもう戦うなとでも言うのか?」
「ああ、あんたの無茶がどれだけこの子を苦しめたと思ってるんだい?」
テファを指差しながら、マチルダはシュウに言う。
シュウに対しての不満を抱いていたテファも、普通なら姉の鋭い言葉に対して、何かしらシュウを擁護する言葉を言うはずだったが、言い返さなかった。
「お兄ちゃん、リシュたちを置いてどこかに行っちゃうの?」
切なげな視線を、リシュは送っていた。見るからに離れたくない、言ってほしくないと訴えている。
対するシュウは無言だった。テファに対する冷たい言動、そして自分の無茶な戦いを目の当たりにしたことで彼女が苦しんだことについて、自覚がないわけではない。彼女の性格を考えれば、自分が傷つく姿を見るたびに彼女自身も心を痛めることなど想像し易い。それに、ただ傷つく以外にも、彼女を不安にさせていた原因はあることも認知している。ムカデンダーや、ロサイスでのメフィストとの戦いで、自分は怒りに我を忘れて暴走していた。そのときに、自分の中にある『どす黒い何か』が大きくなっていたことも、あの暴走という形で反映されているだろう。
だが…。
「俺は……」
脳裏にどうしても、今の彼を形成した要因である過去の光景が浮かぶ。
戦場で、自分がビーストから人を守るために開発した武器で、守るはずだった人々が死んでいく。果ては、守ると誓ったはずの少女が命を散らす、あの光景が、どうしても頭から離れずにいる。…いや、忘れるなんて、そんなことが許されるとは思えない。それだけの罪を犯したのだから。
「なんだい?守ってやってるんだからつべこべ言うな、とでも言いたいのかい?」
「…別に」
目を背け、そっけなく適当に言い返すシュウに、マチルダはイライラを強めた。
「愛梨さんのことが、忘れられないの?」
その怒りを遮らせるように出てきたテファの問いに、シュウがピクッと身を震えさせる。
「アイリ?」
聞きなれない名前にマチルダは首をかしげる。しかし、シュウは二人に向けて返事をしない。何かあるなと、マチルダは思った。アイリという名前、どうもシュウと関係があると見た。
「……」
目を合わせないシュウを見て、テファは図星を突いたと確信を得る。
それと同時だった。今度はサイトが部屋を訪れてきた。
「シュウ、目が覚めたのか!」
「平賀…」
サイトの後に続いてハルナ、ルイズそしてもう一人覚えのない男が来訪した。
「あんたは…?」
「春野ムサシ。あたしたちとはそれぞれ違う異次元からきた人だ」
そう言ってハルナがムサシを紹介する。ふとシュウは、まだ数えるほどしか会ってないとはいえ、以前と比べてハルナの態度が違うことに気がついた。
「…お前、高凪か?妙に態度が違うようだが」
「あ、あ~…それなんだけど、後でおいおい説明するよ。けど、それよりもお前に何があったのか、聞かせてくれよ。お姫様の前で」
少々面倒くさくなるので、サイトはハルナ(今はアキナだが)が二重人格者となったことは後回しにさせ、シュウの身にいったいこれまで何が起きたのか、それは別の場所で話をさせることにした。



学院の塔内にある客間。
アンリエッタも実はこの学院に来ていた。彼女もまた、ウルトラマンであるシュウの無事と、同時に報告された闇の巨人による魔法学院の襲撃の件を聞き、自分もこの目で現場を見なければならないと考え、サイトらと共にここへやって来たのである。傍らにはアニエスも帰りの護衛として同伴していた。そしてこの場に、ルイズやジュリオも呼び出されていた。リシュは着いていくとぐずっていたが、子供がこのような大事な会合の場に出すのはふさわしくないので、いったんシエスタに預けている。
「サイト、ご主人様が迎えに来るようにって言ってたのに他の方を優先するなら、せめてちゃんと一言言ってからにしなさい。しかも…私に内緒でハルナと一緒に…」
一方で、そのルイズは不機嫌そうにサイトに問い詰めてくる。学院の修繕作業には、在学している生徒たちも参加している。ルイズも当然参加していたのだが、アンリエッタの呼び出しの前にサイトがシュウの見舞いに自分を呼ばなかったうえに、ハルナと一緒に同伴させていたのがちょっと気に食わなかったらしい。
「お前忙しそうだったし、あんまり邪魔したくなかったんだよ。まぁ…何も言わなかったのは悪かったよ。でも、なんでハルナと一緒なのを気にするんだ?」
「~~~!!」
「…はぁ…」
変なところで鈍感さをさらけ出し、全く乙女心を察してもらうこともなかったルイズはいきり立ち、横ではアキナ、そして今は心の中から見ていたハルナは深いため息を漏らした。
「相変わらずサイト君は鈍感だね。もしかして気付いてないふりをしているのかな?」
やれやれ、と両手を上に返してため息を漏らすジュリオ。まぁ、そんな軽めのやりとりは置いておくとしよう。
「ミスタ・クロサキ。お元気そうでよかった」
待っていたアンリエッタは、シュウの姿を見て安堵の笑みをこぼした。
「それに、またあなたに返さねばならない恩義ができてしまいましたね。魔法学院を闇の巨人から救っていただき、ありがとうございました」
アンリエッタもルイズも、シュウがウルトラマンであることを知っている。少なくともこの場にいる全員が知っているのか。ティファニアやマチルダはこの場の空気と話の流れからそれを察した。
ちなみにUFZメンバーのギーシュ、マリコルヌ、レイナール、モンモランシーは呼び出されていないのも、シュウの正体を公にするべきじゃないという判断からだった。口の軽いギーシュとモンモランシーにはラグドリアン湖にてバレていたのだが、どうせもう会わないだろうとシュウ自身が適当に切り捨てていたところもあって気に留めていなかった。実際ギーシュは軽い気持ちで「人間がウルトラマンに変身したのを見た」と同級生らに口を滑らせたが、夢でも見たんだろとか、女子から構ってほしいだけだろと、誰も信じてくれなかったのでさすがのギーシュも言わなくなったとか。シュウが魔法学院に保護されてからも同様だが、騒ぎを恐れたサイトからも口止めを受けたので言っていない。
「…いや、この学院を守ったのは俺じゃない」
謙遜などでない。正直にシュウはそう答えた。この学院を守りきれた…とは言えなかった。自分は奴を倒し損ね、せいぜい変身不能に追い込んだ程度。その後で止めを刺したのは、奴と20年ほどの因縁を持ったコルベールだ。ちなみに今コルベールは、他の教員や城から派遣された作業員、そしてアンリエッタの呼び出しを受けていない生徒らと共に、学院の修繕作業を続けている。
「ミスタ・コルベールももちろんですが、それ以前にあなたが身を挺して、この学院を守ってくれました。この国の未来を担うメイジが途絶えてしまうことは、このトリステインにとってあまりに大きすぎる損失となったに違いありませんから」
「…俺の仕事は、人に害をなすものと戦うこと。礼を言われるようなことでは、ありません」
「女王陛下直々なんだから、普通の貴族でも大変な名誉なのに、相変わらず無礼な奴ね」
「ルイズさん、私たち日本人は基本的にあんな風に、最初は遠慮するものなんですよ」
例を受け取らなかったシュウに目くじらを立てるルイズ。彼女のように貴族とは、時に命よりも名誉を優先するため、シュウのように平民は愚か、上流階級を除く大半の貴族が王族から贈られた感謝の言葉を受け取ろうとしないのはあり得ないことなのだ。そんなシュウをフォローするため、表に出てきたハルナがコソッとルイズに耳打ちし、釈然としない様子だがルイズは、文化の違いによるものも一因していると納得してくれた。
それにしても、最後に会った時と比べて、その顔が妙に険しい。
アンリエッタも特に気にしない。ここしばらく、トリステイン貴族でありながら祖国を平気で裏切る輩を目にしてきたためか、名誉に目がくらむ者よりもシュウの態度は快く受け取れるものだった。
「主であるティファニアとも無事、再会できてよかったですね」
朗らかに語るアンリエッタ。しかし、それを聞いたシュウ、そしてテファやマチルダもまた、その顔を曇らせた。
「あの、いかがなされたのですか?」
もしや何か悪いことを口にしてしまったのだろうか。申し訳なさと気まずさを覚えながらも、シュウに尋ねる。
「…いえ、女王陛下が謝ることではありません。すべて…自分の招いた結果です」
シュウは自分に非があると告げ、首を横に振り、そして頭を下げた。
「シュウ、そろそろ話してくれないか?一体、テファたちと逸れた後、あんたにいったい何があったんだ?」
サイトが、聞きたがっていたことを率先して問う。ムサシも聞き逃さないように、シュウの話に耳を寄せた。
ウエストウッド村をシェフィールドに、逃亡の際もメンヌヴィルことダークメフィストに狙われ続け、そしてテファたちと逸れてしまったこと、そして先日魔法学院に襲撃を加えてきたメンヌヴィルと戦ったことまではわかっていた。だがテファと別行動を取ってから魔法学院で発見されるまでの間は、シュウの口から聞かないとわからない。
「…わかった」
シュウはテファにしたのと同じように、彼女らと逸れた後でシェフィールドやメンヌヴィルによって、レコンキスタの隠れ基地に捕まったこと、そこをアスカが救出しにきてくれたこと、しかしそれと引き換えにアスカは今もアルビオンに残り、先日交戦したメンヌヴィルの口によると、現在はレコンキスタに捕縛されてしまったことを明かした。
話を聞いて、サイトはアスカを出会えなかったことを残念に思った。テファの話だと、そのアスカもまた、ムサシとはまた別の次元のウルトラマンであるらしい。個人的興味も含め、ぜひ会って話をしたいと思っていたが、シュウを救うために敵に捕まってしまったとは。
「なんてこと…!レコンキスタにウルトラマンが一人捕縛されるなんて…!」
アンリエッタもこれを由々しき事態と受け止めた。怪獣や星人などの驚異をもたらしたレキンキスタ。そんな奴らにウルトラマンが捕まった。しかも、テファらを保護した際はにせのネクサスが現れ、危うくシュウが敵になったと錯覚させられかけた。間違いなく、アスカを利用して何かを仕掛けてくる。
「しかし、これでまた一つ、口実ができました」
「口実?姫様、それは…」
以前のアンリエッタとの会談の際に、彼女がいずれ予定していたことを思い出し、問うようにルイズが言うと、アンリエッタはそれに頷いた。
「ええ。今後の予定として、我がトリステイン軍は、レコンキスタ打倒のためアルビオンへ侵攻します」
「戦争…」
サイトとムサシの口から同時に、自分たちには馴染むことがないはずの単語が漏れる。
だが、レコンキスタのこれまでの悪行を考えると、たとえ星人や闇の巨人が絡んでいなかったとしても、こちらから攻めるだけの十分な口実を得ている。
「事実上アルビオンへの宣戦布告となります。ですがこちらには、異界の侵略者から、アルビオンという古き親戚の大地を奪還するという大義名分があります。ただの侵略ではなく、この世界を守る聖戦として、今一度各国に協力を要請します」
聖戦。聞こえはいい。しかしその実態もまた結局は戦争。でも…このままレコンキスタと、その中に巣食っている侵略者を倒さなければ、ただでさえ文明レベルでは異星人たちに圧倒的に劣るこの星は近いうちに滅ぼされてしまう。だから…してはいけない、とまではサイトは強く言い出せなかった。ムサシも別の世界の邪悪な存在がこの世界を狙うのなら自らも表に出ることを惜しまないが、国の長の決定にまでは干渉することは許されないと己を律し、静観することにしていた。
「その前に、まず以前タルブ戦役の際で乗っていた竜の羽衣…ウルトラホークで隠密に送り込み、その間の囮は我が軍で編成したトリステイン偵察部隊、そして炎の空賊の方々に協力を頼むつもりです。突入部隊にはアルビオンへ侵入し次第、敵の拠点の状況を把握、可能ならば破壊します」
「敵の懐に飛び込むということですか。レコンキスタは怪獣を飼い慣らしているから、これまでよりも危険度は増すだろうね」
ジュリオがそのように呟く。自分も怪獣を操る身だからか、その恐ろしさが身に染みているのだろう。
だが、行かないわけにいかない。もう一人のウルトラマン…アスカを救出するためにも。
「その様子、あなたもアルビオンへ行かれるおつもりだったようですね」
「ええ…」
自分のせいでアスカが捕まってしまった以上、そのツケを払わなければならないと考えていたので否定はできない。シュウは頷いた。
「ッ…!待ってください陛下!シュウは…」
「ティファニア、言いたいことはわかります。救われた身でありながら、それもあくまで怪獣と戦う勇者であるあなたにこうして頼むのは筋違いかもしれません。ですが、私はこの国の未来のためにも、どうか理解してほしいんです。
その代り、これまであなたに助けられてきた者たちの代表として…私たちも全力で彼に助力します」
シュウがウルトラマンだとわかったうえで協力を求めてきたアンリエッタにテファは反射的に止めようとし、マチルダもまた言葉を出さなかったが、アンリエッタに対してキッと鋭い視線を向けた。シュウの正体を知っていることに驚いた一方、それをいいことに、自国の都合のいい強力な兵器として捉えているのではと、黒い疑惑を寄せていた。
だがアンリエッタにも、あくまで国ではなく、人を守ることで平和を保つ存在であるウルトラマンを遠回しに道具扱いしているのではという葛藤があった。それをシュウは察し、否定することはなかった。寧ろ国の王として相応しい振る舞いをしてほしい、ラグドリアン湖で亡霊としてよみがえったウェールズから彼女を助けた時、それを誓わせたのだから。それを胸の内に留め、彼女はマチルダの鋭い視線に耐えていた。
「サイトさん、あの機体は今も操縦できますか?」
「さっきコルベール先生に聞いた限り、シュウも修理に力を貸してくれてたみたいで大丈夫です。いつでもフライトできますよ、お姫様」
「でも……」
「心配すんなってテファ。シュウには俺も全力で協力するぜ。俺も借りばっかりもらってたからな」
「サイト、その前に私にも同意を求めなさいよ。私の使い魔なんだから、もう…」
テファを安心させるように言いながら、サイトはやる気を見せている。
同じウルトラマンとして、彼の力になりたいという意志が強く現れているサイト。願ってもないことだ。自分のせいでみすみす彼が捕まってしまったツケを払ういい機会になる。

…だが、それはつまり…アスカの二の舞になる存在が、また自分の周りで現れる可能性がある…ということ。

自分の犯したミスを、別の誰かの力で肩代わりしようとしていることだ。


「…陛下、俺に助力はいりません」
「え…?」
心に芽生えた不安から、シュウは冷たい声で拒否した。
「俺一人でアスカの救助に向かいます。アスカが捕まったのは俺一人の責任だ。俺の手で、始末をつけます」
「シュウ!」
「あんた、まだそんな…!!」
やはりそう答えたシュウにテファとマチルダは大声を出した。
「お、おい待てよ!本気で一人で行く気か?」
もう自分の話は終わったとばかりに、部屋を出ようとするシュウを、サイトは肩をつかんで引き留める。
「これは俺の問題だ。この事態を招いた俺自身の手でカタを付けることに意味がある。他人が関わることじゃない」
「他人って…!久しぶりにやっとテファたちと会えたじゃんか!?なのにそんな冷たい態度はないだろ!」
さっきから冷たさを感じる態度ばかりを保ち続けているシュウに、サイトは全く持って納得できなかった。この世界に来てからずっと一緒だったはずのティファニアたちを、どうしてここまで頑なに遠ざけようとしているのか、理解できないでいた。
「同意見ね。あんたティファニアの使い魔でしょ!だったら傍にいてテファを守ってあげなさいよ!」
「そうですよ!黒崎さん、考え直してください!今のあなたを見て、いったい誰が喜んでくれるんですか!?」
ルイズとハルナも、口々にシュウに反論を加えた。
「…頼む、このまま黙って一人で行かせてくれ」
言いたいことはわかるし、理解はできる。しかし、シュウは一度伏せていた過去を上げ、苦しげな声を出してサイトたちの方に視線を向けて懇願するように言った。
「俺は、俺のために誰かが傷ついたり死んでいくのを見たくないんだ。頼む…!!」
かつては人のためを思う夢を抱いていた青年。しかしその夢は邪悪な怪物たちによって不幸にも潰され、これまで多くの人たちが彼に手を差し伸べてきた。だがその人たちでさえ、彼のために消えて行った。シュウは、もう限界だった。
「だったら…私や村の子たちの気持ちだってわかってるはずでしょ!?私たちだって、あなたがボロボロになっていくのは…」
一方でテファも同じだった。自分をとことんまで追い詰めようとする彼に反論する。
そんな時だった。逆にシュウの意見を肯定する意外な者がいた。
「いいんじゃないか?一人で行かせてあげようよ」
「「「!!?」」」
シュウを除く全員が、信じられないことを聞いたようにジュリオに視線を集中させた。
「どうせ何を言っても、彼は自分なりの責任を果たすために、一人でウルトラマンとして戦う。そのつもりなんだろ?だったら僕らがなにをいったところで無駄さ」
「ジュリオ、お前何言ってんだよ!!ここは何が何でも止めるところだろ!」
「無理強いしたって、彼は一人で行く。だったら最初から一人で行かせるのがいいんじゃないかな?」
「てめえ…!!」
言っていることは間違いじゃないかもしれない。だが、こいつのあの顔…こんな時になってもいつも通りの憎たらしい笑みを浮かべているのがむちゃくちゃ腹立たしい。わざとふざけたことを言っているようにしか見えないジュリオに、サイトは激高する。
今ここでシュウが離れるなどあってはいけない。聞けば、シュウとテファは互いの間に溝ができている。これ以上掘り進めば、手遅れになるほどに二人の関係が冷え込んでしまう。それ以上に、シュウ自身の命にもかかわることになる。ティファニアから最近のシュウについての話を聞いた時もそうだが、たった今だって無茶前提の姿勢を見せているのだ。自ら死を選ぶ選択を取りかねない。そんなこと…気づいた以上止めないわけにいかない。
「僕はそう思わないな」
そんな時だった。ムサシが口を開いてジュリオに反対意見を出す。
「どうしてそう思うのかな?ミスタ・ハルノ」
「これ以上自分を追い詰めて一人で戦っても、何も得るものはない。自分も周りも無意味に傷つけるだけだからだ。
黒崎君、君とは今日初めて会ったけど、今の君はどう考えても普通じゃない。自分のやろうとしていることの無謀さもわかっているんじゃないのかい?」
「…回りくどいな。はっきり言ったらどうなんだ?俺に『行くな』と言いたいんだろ?言っておくが行くなと言われても行くぞ」
シュウは少し煩わしく思いながらも、ムサシにそのように問い返す。
「…わかった。じゃあ、こうしよう」
意地でも梃子でも折れようとしない。ここまでの姿勢を見せた人物は、ムサシの記憶の中でもほとんどいなかった。ならばと…ムサシはアンリエッタにあることを申し出た。
「女王様、偵察任務には黒崎君も連れて行きましょう。その際、僕とサイト君たちに彼の監視をお願いします」
「何…?」
シュウはそれを聞き、女王に申請するムサシを細目で睨んだ。


自分のせいでアスカが捕まってしまった。
ティファニアたちも、アルビオンを脱出しなければならないことになった。
自分の周りでは、あらゆる形で必ず不幸が降りかかる。
だから自分の力のみで、誰の助けも借りずに助けに行くつもりだった。だが、それは許されなかった。今後の方針を決めるあの会談の後、あのムサシという男が、常にシュウが一人でアルビオンへ向かわないように、シュウとは向かい側の部屋に自分も構えて監視し続けている。さらには、リシュがムサシに言われてシュウと同じ部屋で寝かされている。少しでも彼が一人で学院を出ようとする素振りを見せたらすぐに知らせるように言われている。サイトたちも彼が逃げないように、見ていないところで目を光らせているそうだ。事情が事情なので、テファやマチルダは別室だ。
アスカを捕えている連中よりも、行きたくても行くことのできないこのもどかしさと悪戦苦闘する羽目になった。万が一強引に変身しても、即座にサイトが自分を捕まえに来ることになっている。
「完全に囚人扱いだな、旦那」
「……」
テファが介抱してくれていたこの部屋も、監視のために与えられたものとなったとたんに無機質な牢のように思えてきた。まぁ、こんな俺にはお似合いかもな…と心の中で呟いた。
「なんか返してくだせぇよ。あっしだけじゃただの独り言ですぜ。久しぶりにあんたと一緒に暴れられると思ってうずうずしてたんっすよ」
机の上から、インテリジェンスナイフの地下水がうるさく言ってくる。一時マチルダが預かっていたのだが、退屈だからとギャーギャー喚いた結果、シュウのもとに突っ返されたのだ。かつては、己を握った人間の肉体を一時的に乗っ取る能力を用いてガリア王国の北花壇騎士という汚れ役の仕事を引き受けていたのだが、それらの仕事やシェフィールドに思いのままに使われることがよほど嫌だったらしい。かつトラブルに何度も巻き込まれ続けるシュウの方が、一緒にいて飽きないという。
「…一人じゃなくて一本だろ」
「おっと、こりゃ一本取られたぜ、ナイフなだけに」
「…処分するか」
ウザいギャグをかましてきたので黙らせようと思ったシュウが残酷な宣告を下そうとすると、地下水は慌てて許しを乞うてきた。
「ち、ちょい待って!?軽いジョーク言ってきただけっしょ!?」
「そんな下らんジョークを聞く気になれるか」
シュウはそう言ってベッドに横になる。窓際の方にはリシュが眠っている。
不幸などとは縁遠い、安らかで無垢な寝息と寝顔。姫矢准も訪れたあの戦場の惨劇を結果的に激化させ、果ては愛梨という大切な幼馴染を失ったあの時から、時々あの惨劇を悪夢で見てしまい、まともな睡眠ができずに起きてしまうことが多くなった。だからこうして眠っているリシュを内心では、羨ましく思えた。
とんとん、と扉をノックする音が聞こえてきた。
…時々、思ってしまうことがある。あの内戦地の惨劇が、愛梨の死が、全て夢であれば…と。
地球でも、この世界でも経験した辛い悲劇全て、何もかも忘れて、皆と共に平和な世界で平凡に生きられたら、と。
でもそんなことを願うこと自体間違っている。自分の罪を忘れてのうのうと生きるなんて許されない。だから、自分のすべてを投げ捨てて、ナイトレイダーとして、ウルトラマンとして戦ってきた。今度こそ、自分が守りたいと思った人たちを守るために。彼らが、かつての自分がそうだったように、夢を打ち砕かれ大切な人を失って絶望することがないように。
レコンキスタの秘密基地からの脱出時にアスカが言っていたことも頭では理解できる。自分はあの時、自分の未来を見つめ直そうと思っていた。アスカやティファニアが自分にそれを望んでいたように…自分の未来にもう一度希望を持つことを。
でも、自分を気遣い、暖かな言葉をくれたアスカさえも巻き込んで危険に追いやった以上、もはやそんなことが許されないのは決定的だと思えてならない。いや、許されない。
だから、ナイトレイダーになったあの日から今まで続けてきたことを、この先も続ける。自分の犯した罪を背負えるのは自分だけ。自分だけしか、その責任を抱えられない。
次の作戦で万が一、力を貸してくれる平賀たちが命の危機にさらされてしまうことがあっても、いつも通りやればいい。自分の命を捨ててでも、彼らを…そしてティファニアたちを守る。たとえ二度とわかりあうことがなくても、己で決めたその使命は変わらない。
その後は、アスカとの別れ際で決めたように、皆の元を離れて孤独に戦って死んでいこう。


――――俺はどうなっていい、地獄に落ちてもいい、どう思われてもいい…

――――だからどうか……

――――これ以上、ティファニアやリシュのような優しい人たちを…



眠っているリシュの頭を撫でながら、シュウは強く願いながら、その日は眠りについた。



シュウが自分に与えられた部屋に閉じ込められている間、テファは自分とマチルダのために用意された部屋で待機していた。
「飯、持ってきたよ」
待っていると、マチルダが食事を台車に乗せてやってきた。温かいスープと野菜サラダ、パンが皿の上に並べられていた。
「ありがとう、姉さん」
ティファニアは、シュウとの間にできてしまった溝を忘れるかのように、食事にありついた。
「おいしい…ご馳走様でした」
彼女が間食し終わったところで、マチルダが普通に食事をとった彼女に安心感を覚え笑みをこぼした。シュウのことを気にし過ぎて食事にもあまり手を付けなくなるのでは、と思ったが、杞憂でよかった。
「それ、シエスタって子が賄いをくれたんだ。まったく、村の子たちは残さず食うのに、ここの坊ちゃんたちは好き嫌いが多いもんだね」
学院の生徒への陰口を、冗談交じりに口にする。破壊の杖ことMACバズーカを盗んで換金するために学院に潜り込んだ時から思っていたことだった。
すると、再び扉がノックされる音が聞こえる。
「やぁ、ティファニアちゃん、そしてマチルダさん。こんばんは」
マチルダが扉を開くと、隙間からムサシが顔を出してきた。
「ムサシ、さん…?」
少し驚いたように顔を上げるテファ。
「あいつは、今どうしてるんだい?」
マチルダはあいつ…部屋に押し込められているシュウのことをムサシに尋ねる。
「今はおとなしくしている。リシュちゃんやあの地下水ってナイフにも、逃げないように絶対見張っててくれって頼んだ。万が一彼がアスカって人を助けるために脱出を図ろうとしても、僕ならすぐに駆けつけられる」
さらに加えると、サイトもいる。シュウが変身という強引な手を使っても、こちらも目には目を、変身には変身を、というスタンスで監視を続けている。今はサイトが、ムサシが戻るまで彼の部屋の前で監視を続けている。
「…そう、ですか」
せっかくシュウと再会できたというのに、全く彼女の表情は晴れなかった。
ムサシは、テファのような、心に重いものを抱え込んだ人間の相手を何度もしては、その心をコスモスや仲間、そしてその人間の関係者らと共に救ってきたことがある。テファもまた彼らと同じように見えて、放っておくことができなかった。
「…ムサシ、あの馬鹿はこれ以上、あたしでもどうにもしようがない」
率直に、マチルダは思った。もうシュウのことは、今度はテファに二度と近づけさせないことも考えていた。自分がテファに、結果的にだが彼を召喚させた責任を放棄させないことを覚えさせるためにも、どんなにシュウが愚かな選択を選ぼうとしても見守ろうとした。でも、再会してテファがシュウへの気遣い故に苦しんでいることを指摘しても、シュウは戦うことを辞めようとしなかった。
「正直、見捨てる一歩手前だったよ。場合によっては、テファに記憶を消させることも考えた。あんたなら、どうにかしてやれるのか?」
「それはわからない。でも、なにかしら手を打つべきだろう。この世界のためにも、ティファニアちゃんのためにも、彼には考えを改めてもらわないと」
でなければ、シュウの一件でティファニアは心に消えない影を背負うことになる。ムサシはそう読んだ。
「ティファニアちゃん、まだ彼を助けたい?」
「……はい。でも……」
無理やり召喚し故郷である地球から引き離すことになっても、彼は自分たちを恨むことはなかった。それどころか必死になって自分たちを守ってくれていた。じゃれついてくる子供たちに対しても、子供は苦手だなんていいながらもなんだかんだで付き合いの良さを見せてくれていたし、ティファニアの口ずさむ歌と演奏を素直に褒め称えた。ハーフエルフであることに対しても、何一つ恐れなど感じることなく普通に接してくれた。
そのこともあり、たとえ怒りで暴走する様を見せていても、見る見るうちに落ちようとしている姿を見ていて、何とかしなければと思った。助けたいと思った。ムカデンダーが村を襲った時、魔法を使って怪獣から記憶を奪い、自分なりに混乱を誘おうとしたこともあった。愛梨のことを初めて知ったあの時、彼が精神面でまずいと思った時は自分の言葉で引き留めようとも図った。
でも、自分は彼のために結果を残したことはなかった。
やはり、自分は…あの時彼が言っていた通りなのか?結局『ただの足手まとい』でしかないというのか。アンリエッタが今回自分たちにも伝えた、アルビオン大陸への偵察、潜入作戦。それにシュウも、ウルトラマンであることを知られたうえで選ばれた一方で、自分は同じ虚無の担い手でもあるルイズと違って、作戦メンバーにもくわえられなかった。
テファは自分の無力さを呪う。結局、ただ見ている事しかできない、弱い自分が…歯がゆかった。…いや、違う。
怖いのだ。また彼から拒絶されることが。そして…

彼の狂っていく様を見るのが…。

――――私じゃ、シュウの支えにはなれないの…?

――――愛梨さんのようには、なれないというの…?

そんな心の呟きも彼には届かない。
今の自分では、シュウを支えられない。いや…何をしても彼に対して何かができるという確証も自信もなかった。
「いいかい。どんな結果が待っているとしても、最後まで決して諦めたらいけない。今の彼には傍で支えとなる人が必要だ。君のような人が、ね?」
ムサシは、元気のない彼女に向けて、太陽のような笑顔を見せて元気づけようとする。
話に聞くと、彼女は森の中で平和に暮らしていただけの女の子。悪意ある者の手にかかったり、運命に翻弄されて辛い目にあっていいはずがない。それなのに
「とにかく、次の作戦では僕がサイト君たちと共に彼を見てくる。もし彼が危険な状態に陥ったらすぐに助けるし、彼が無謀な行動に出ようとしたらすぐに止めるつもりだ。
だから僕らと、彼を信じてあげて?」
「…お願いします」
今は、この人に託すしかない。そう思ったテファは、ムサシの言葉に頷いて見せた。



そして、また夜は更けていく。
 
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