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小ネタ箱

作者:羽田京
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東方
  ⑨01ATT(Anti Tank Trooper)

 
前書き
・パンプキンシザーズ面白いですよ! 設定が難しいですけれど。 

 
・人里からの敗残兵。妖精をみて嗜虐心。が、ATTに返り討ち。


男は逃げていた。


「くそッ、なんでこんな目に!」


先頭を走る男に続いて何人もの人間が悪態をつきながら、ただひたすら逃げていた。
男たちはつい先ほどまで、人間の里を守るために立ち上がった兵士だった。
それが今や逃亡兵だ。
ここは時代に取り残された人間と忘れ去られた妖怪の巣食う楽園 "幻想郷"。


「何が外界の連中なんて大したことないだ! とんでもねえ勘違いじゃねえか!」


ソ連が攻めてくると聞いたとき、幻想郷の人間と妖怪たちは、外界人など何するものぞと意気軒高だった。
時折幻想郷へと迷い込んでくる外来人の多くが、なすすべもなく妖怪に食われて死んでいる。
そのせいで勘違いしていた。外来人は雑魚妖怪にすら敵わない弱者の集まりだと。
そして、その勘違いの代償を支払うことになった。あまりにも高い代償を。


「あの聞いたこともないどでかい音は何なんだ! それに、あの数! 人間の里の人口より多いんじゃないか!?」


走りながら口から出るのは悪態ばかり。
幻想郷軍は人間の里前に布陣し、ソ連軍先遣部隊と睨み合った。
先に仕掛けてきたのは、ソ連軍だった。
地響きを鳴らすような音とともに数千門もの火砲が号砲をあげる。
つづいて、独特の音ーー人類連合軍はスカーレットのオルガンと呼んで恐れたーーとともに、飛来するカチューシャロケット砲。


とはいえ、これらの攻撃はすべて、妖怪の賢者、八雲紫によって防がれた。
だが、幻想郷軍、特に徴兵された人間の士気は急落していた。見たことも聞いたこともない現代戦の洗礼を受けた彼らは、強烈なショックを受けていた。
そこにウラー(万歳)と叫びながら突撃してくる10万のソ連軍。
その威容を見て男は、今更ながら幻想郷の不利を悟った。
そろり、そろりと陣を抜け出すと一目散に逃げ出したのであった。


「はあ、はあ、ここは……湖か」


息を荒げながら立ち止まると、いつの間にか湖に来ていた。
男についてきた人間たちも休息しようと集まってくる。
薄くだが霧が発生しており、視界は悪い。
と、そのときであった。
青い光がゆらゆらと揺れながら、こちらへと近づいてくるではないか。


「お、鬼火!? 妖怪か!」


お、お助けええ、と恐慌状態に陥る。
こんな場所で妖怪にかち合うなんて最悪だ。
だが、近づくにつれその姿を見て男は、思わず口角をあげた。
嗜虐的な笑みまで浮かべてしまう。なぜなら、その姿は、妖精だったからだ。
そして、真っ赤な旗を掲げている。ならば、答えは一つ、ソ連軍の妖精であり、敵だ。


妖精とは、自然から生まれる存在で、無邪気でいたずら好きだが、基本的に無害。
そして何よりーーーー弱い。
男は逃げだしても手放さなかった刀を握りしめた。
ついてないついていないと思っていたが、妖精が相手なら話は変わる。
何より相手は敵である。情け容赦する必要などない。
刀をさやから抜き、弱者をいたぶる自分の姿を妄想した。


だから、男は気づかない。妖精たちの異様さに。
腰に付けたカンテラから青い光が漏れ出でる。
何かに憑りつかれたような無表情でゆらゆらとまっすぐちかづいてくる。
そして何より、その手には、見たこともないほど巨大な銃が握られていた。


「ん? 変なもんを手に持っているな。おもちゃか何かか?」


へらへらと笑いながら妖精が近づくのを待つ男は、知らない。
幻想郷で生まれ育った男は、銃という兵器すら知らなかった。
その銃の威力を推し量ることなどできない。
そして、いたぶろうと妖精に刀を振りかぶった瞬間……銃声が轟き男の意識は永遠に途切れたのだった。


"ドア・ノッカー"


それがこの銃の名前だった。
使用者への負荷と整備性を無視した極限までの威力を追求した異端の巨大な銃は、戦車の装甲さえ貫く。ゼロ距離ならばだが。


"保身なきゼロ距離射撃"


これが、大祖国戦争にてドイツ軍(人類連合軍の中核部隊)の戦車兵を戦慄させた人命を無視した狂気の戦術だった。
戦車へと肉薄し装甲に直接銃口を当て、必殺の弾丸を打つ。
不死身の妖精だからこそ可能だったともいえる。


"沼へ誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)に導かれるまま、保身無き零距離射撃を敢行する"

"焼硬鋼(ブルースチール)のランタンを持った歩兵と会ったら、味方と思うな。だが決して敵に回すな。そのランタンは持ち主の魂をくべる炉。奴らは蒼い鬼火と共にやって来る"


ドイツ戦車兵の口づてに広まる噂。青い鬼火を見ただけで恐慌状態に陥る部隊まであったという。
そして、彼女たちの部隊名こそーーーー





「なーんか、大したことなかったわね。気持ち悪い顔してたから、何か企んでるかと思ったんだけれど」

「無事、作戦が成功してよかったわ、チルノちゃん」


つまらなさそうに口をとがらせるのは、空挺軍大将のチルノだった。
ほっとした様子の副官大妖精は、忙しそうに指示を出している。
突撃馬鹿のチルノは細かい指揮は大妖精に任せており、名コンビといえた。
あたりには、つい先ほどまで "人間だった" 破片が散乱している。
この惨状を引き起こした部隊こそが、


『⑨01・ATT(アンチ・タンク・トルーパー)』


である。戦闘狂という珍しい妖精ばかりを集めたチルノ直卒の精鋭部隊だ。
湖方面からの橋頭保は無事確保した。
これで幻想郷攻略はよりはかどるだろう。多方面作戦が可能なソ連を幻想郷側が防ぐ術はない。


「あたいったらサイキョーね!」


決め台詞とともに意気揚々と進撃を開始するチルノだった。 
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