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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第47話 甘くて苦いコーヒー

 
前書き
~あらすじ~
 
大地が準備をしながら過去を振り返るだけのお話 

 







「そんで、作成は順調なのか?」
「うん、穂乃果ちゃんと花陽ちゃんのおかげで可愛い衣装のアイデアが浮かんできたよ」
「穂乃果が役に立ったんだな?」
「え、え~とぉ......あはは」




ことりはあはあはと笑って目を背ける。
多分寝てただけなんだろうなーと、俺は穂乃果に視線を向ける。希にバーベキューの極意とやらを教えてもらいながらもぐもぐも口を動かして、ついでに凛も便乗して両手に串を持ちながら聞いている。


「大地こそ、お疲れ様です」
「あざ。海未も、今回も暴走したようで?」
「暴走......ですか?私はいつも通りでしたが」
「山に登って凛を泣かせたとか希から聞いてるぞ?」
「あれは凛に根性が足りないからです。なにをしに山登りに来たと思ってるんですか?」
「お前こそ何しに来たんだよ」



園田海未は登山マニア。また新たな趣味を知った瞬間であった。グループ別に別れた時の海未の持ち物から嫌な予感はしたけれど。


「それにしても、久しぶりの山登りで気持ちよかったです。筋肉痛にならなかったのは日頃の鍛錬を怠らなかったおかげでしょうか」
「おい、やるべき事はやったのかよ!?」
「当然です。イメージは湧きました。後は紙に書いてまとめるだけです」



ここまで来て忘れてましたと言われたらどうしようかと思った。たった1日を無駄にした訳ではなさそうだからいいのだが、目的よりも娯楽を優先したという珍しい行動に、『出来ればいつも通りであって欲しかった』と切に思った。





~第48話 甘くて苦いコーヒー~




ちょっと遅めの夕飯をみんなと一緒にとり、ある程度片付けを終えたところでちょっとした難問にぶつかってしまった。


椅子とかバーベキュー器具はみんなで片付けたし、ゴミも真姫がまとめてくれたおかげで、使う前より綺麗な芝生となっていた。みんな忙しいのに手伝ってくれて、申し訳なさ故に俺は余計な一言を放ってしまったのだ。



───食器洗いは俺がするよ



そう言ったばかりにキッチンは大変な状況になっていた。


「そっか、紙皿とか使ってたわけじゃないから全部洗わなきゃならんのか......」


 そういう事である。何を勘違いしたのか、皿とか箸とかコップとか。人数の都合紙モノを使っているという認識になってしまい、こいつらの存在をすっかり忘れていたのだ。

 付け加えるとバーベキューの鉄板3枚という強敵。油ギットギトのソレは、悪戦苦闘の未来をほのめかしている。どんなに頑張ってもコイツを倒すのに30分はかかるだろう。


「......これはめんどくさいな」

 油処理が面倒なので、基本的に家でも油を大量に使った料理はしない。唐揚げや天ぷらなどが例として挙げられるが、そもそも母さんも油っこいのを苦手としているために自然と油っこい料理を避けるようになっていったのだ。


つまり、油処理に手慣れていない。


「とりあえず、キッチンペーパーで軽く拭いておくか」


 ガタゴト、とキッチンの戸棚を漁ってキッチンペーパーを探す。真姫の別荘なのだから無いものは無いという思い込みが、キッチンペーパー発見まで至らせてくれなかった。


「マジかよ無いんすか......おーい真姫ー!出てこーい!」


 別荘全体に届くように大声で叫ぶ。真姫じゃない誰かの声......これは凛の声だろうか?、が悪ふざけで反応してきた。しばらく経ってもやって来る気配がしないので、仕方無くまた黙々と探索を続ける。


「そりゃそうか。真姫はもう少しかかるとか言ってたもんな」


 真姫グループは作曲担当で、同メンバーのにこと絵里は夕飯と食べ終えた後すぐに自分たちが設営したというテントに戻っていったのだ。いい感じになってきているが、まだみんなに聴かせられるレベルではないとのこと。ある程度出来上がり、一人で充分なんとかなると言って部屋にこもることりと海未以外はリビングでぐでーっとしている。


「暇なら手伝えよ」

 しかし、俺がするといった手前言いづらい。
はぁっとこぼしたため息はいつもより長い気がした。しかし、愚痴ったりぼうっとしているわけにもいかない。次の仕事もあるのだから早く終わらせる必要がある。



「やっほ~お仕事頑張ってる~?」
「……能天気に達観してるなら少しは手伝ってくれよ穂乃果」


 案の定穂乃果は俺の側にとてとてとやって来てはちょっかいをかけ始めてきた。最近やたら俺の隣をちょこまかしているなと、なぜこうなったのかは言うまでもない。

「ん~まぁこっちだけなら手伝うよ」
「こっちって……お前それは手伝うとは言わない。なんならそこの皿洗ってくれよ」
「え~!でも自動の食器洗いってあるんじゃないの?」

 穂乃果にそう言われてはっとする。
言われるまで失念していた。そう、真姫の別荘なのだからあってもおかしくは無い某Pa〇〇sonicの自動食器洗い機。真姫の別荘ならあってもおかしくないだろう。穂乃果に言われてすぐさまキッチンの引き出しを片っ端から開ける。

 一番奥に、ソレはあった。
『うっわ……なんじゃこりゃ』と、人生初の自動食器洗い機に感嘆の声が漏れる。使用頻度は少ないせいか、きらりんと輝くステンレス製の棒が使おうという気持ちを削いでいく。


「(これ、使っていいのか!?)」

 一つ設置するのにどれくらいかかるのか俺は知らない。だけど、一般家庭の自動食器洗い機よりも遥かに高そうな気がしてきて、手を出せずに戸惑っていると、脇の方から穂乃果がずかずかとのぞき込んでくる。


「な~んだ、あるじゃん。早く洗っちゃお!」
「お、おい待て穂乃果。そんな気軽に―――」


 時すでに遅し。
手に持った皿とか箸とか。その他諸々をどんどん慣れた手つきで詰め込んでいく。こういうところに鈍感というか、無関心というか。気が付いた時にはキッチンにあった食器全部が、機械の中に埋まっていた。

「これでよし。で、これからどうすればいいのかな?」
「知らないのかよ!?慣れてる感じだったから使い方知っているもんだと思ってたわ!」
「穂乃果が知ってるわけないじゃーん」


 ドヤ顔でそう言われても、威張れる要所はない。
仕方なく、説明書らしき紙が無いか周りをキョロキョロ歩く。当然そう都合よく見つかるはずもない。俺はスマートフォンを取り出して『自動食器洗い機 使い方』と検索をかける。流石は情報化社会。便利すぎて助かります。






~☆~





 無事自動食器洗い機も稼働し、沸かしてあるお風呂(西木野家自信作の露天風呂)に各自時間を見つけて入り終わるころには22時を過ぎていた。前回と違うのはお風呂でのハプニングが無かったこと。男として少しだけ残念なような、ほっ安心したような気分だ。
 ハプニングなんて無いに越したことは無いけども、なんだかもったいないような気がしたのも事実。
女の子9人に対して男は俺一人。以前の俺はそんな環境に嫌気がさしていたけれど、慣れというのは恐ろしい。このハーレムじみた状況に慣れているのだ。



 風呂上がりの俺は、肩にかけたタオルで髪についた水滴をふき取りながら冷蔵庫の中を開ける。
何故か奥底にお酒(・・)の缶があるけど当然スルー。見て見ぬふりをして、その隣の缶コーラを手に取る。

 最近缶コーラをどこにいても見かけない故に、手にした瞬間変な感覚を覚える。
プルタブを引っ張り、炭酸独特の空気が抜ける音がし、そのまま口を付ける。


「んんめぇぇぇーっ!!!やっぱ風呂上りは炭酸だろこんちくしょう!!」

 喉を通る刺激が癖になり、思わず大声で叫んでしまった。
すぐに周りを見渡して誰も聞いていないのを確認して息を落とす。


「つか、みんなどこ行った?」


 風呂から上がって、誰ともすれ違わない。それどころか、人の声一つしないのだ。
もう寝たのだろうか?とはいえ、夜の10時を過ぎている。もう寝ている子がいてもおかしくないだろう。
 それでも、耳を澄ませるとかすかに聞こえるピアノの音。
真姫が最後の仕上げでもしているのだろう。聴く限り、メロディーにつっかえもなくスムーズで、三共の完成が近いと思われる。

「サビの部分か?今までにない曲調だな」

 必死に纏め上げているのだ、珈琲の一杯くらい差し入れでもしよう。
そう思って、残りのコーラを飲み干してごみ箱に投げ捨て、戸棚からコップやら何やらを取り出す。真姫は……多分ブラックでもいけるだろう。特に砂糖とか添えずにそのまま持って行くことにした。







 ノックは三回。正確なのは忘れたが、確か二回だとトイレに人がいるかいないか確認するときの回数だった気がする。そんなことはどうでもよくて、『どうぞ』という真姫の声が聞こえたので、音を立てずにゆっくりとドアを引く。
 


「なんだ、貴方だったのね」
「なんだとはなんだよ。俺じゃ不満でしたか?」
「別にそんなこと言ってないわよ。それより何?もう少しで曲出来上がるから邪魔しないでほしいんだけど……」
「邪魔しに来たわけじゃねぇって。ほれ、差し入れだ」



真姫は俺のが持っているカップを見て小さくため息をつく。


「はぁ、なんで珈琲なのかしら」
「……飲めないのか?」
「違うわよ!寝る前に珈琲飲むと眠れなくなるでしょって話!!」
「あ、あぁそうか。それはすまんかった。別の持ってくるよ」

 「めんどくさいからいいわよ」と言って、俺の手からカップを奪い取り、静かにピアノ脇のテーブルに置く。表情からするに、飲めないわけではなさそうで一安心。


「楽しみにしているからな」
「ええ、任せて。絶対みんなで……ラブライブ!出場するんだから」
「強気な発言で結構。まぁ真姫のことだからスランプというか、先輩の為に―――なんて考えてたんじゃねぇのか?」
「あのね、勝手に人の思考読まないで。確かにそうだけど……今はそうじゃないから」

 きっとグループ活動の時に何かあったんだろう。そしてこういう時に何かいいアドバイスをしてくれるのがにこという先輩。いつも弄られたり先輩としての扱いに欠けるものがあるけれど、こういうところは他の三年生にはできない要素だと思う。それはにこの長所であり、魅力だ。


「ま、ことりも海未も順調らしいし、明日には練習できそうだな。予定通りにいかなかったけど」
「それは悪かったと思うわ。しつこいわね」



 仏頂面でピアノの鍵盤をしまい、カラカラとテラスの扉を開けて出ていく。薄いカーテンを透かして月の明かりが射し込んでくる光景に惹かれたのだろうか。
彼女の背中を追って、テラスに出てみると、夜空には真ん丸な月が光輝いていて俺たちを明るく照らしてくれている。
 俺は手すりに体重を乗せて珈琲を一口。苦いし濃いけど、ちっとも舌にもたれてこない。そもそも珈琲は得意ではないが、自然と体に染み入ってくるような自然な味わいに自然と笑みがこぼれる。

「何一人で笑ってるのよ、気持ち悪い」
「…いや、珈琲旨いなって」
「そうね、私も好きよ?珈琲は」

 そう言う彼女だけど、ミルクもガムシロップも入れていないままの珈琲を一口口に含むと、一瞬酸っぱそうな顔をしていていた。一見の見慣れていそうな彼女だけど案外そうでないのかもしれない。真姫の新たな一面を知った瞬間だった。


 
「ねぇ大地」
「ん~?」
「大地って、穂乃果と何かあった?」
「……なんでそう思う?」
「なんとなく、かしら」

 それはどういう意味の質問だろうか?そんなこと聞かれるとは思わなかったので、どう答えるべきか迷った末に放った回答は、



「……穂乃果に告白された」



隠すこともなく、俺は正直に告げる。これで弄られようが何言われようが耐えるしかない。真姫に限ってそんなことは無いと思うけど、それでも問題はあるかもしれないから。


「は?嘘はやめてよね」
「そう思いたきゃそれでいいさ。俺だって整理できてねぇんだから」

  恥ずかしさを隠すために珈琲をがぶ飲みしながら視線を逸らす。そんな挙動不審な俺の態度に『ほんとなの?』と驚愕を露わにする真姫。


「にこちゃんにはバレないようにしなさいよ」
「……なんも言わんのか」
「別に人の恋愛に入り込む様なことはしたくないわよ。ただ……思うことはあるわ」

  哀愁漂う真姫の表情に、身構える俺。
一体何を思っているのか想像できないけども、何か大切なことを話しそうな勢いなので生唾を珈琲で流し込む。


「だって、どう見ても穂乃果は大地の事大好きじゃない。まぁ貴方は他の事に夢中で気づかなかったでしょうけど」
「それについては否定しねぇ。告白されるまで気づかなかったぞ」


 事実、穂乃果はそういうのに興味ない女の子だと思い込んでいたから、告白されて衝撃を受けたのと同時に今までの彼女の言動が紐を解くようにつながったのだ。


「いや、そりゃもちろん嬉しかったし、俺だって穂乃果のことは好きだ。好きだ……けど」
「けど?他に好きな人がいるとか?それとも穂乃果をそういう目でみることができないとか?」
「……いや、そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだ」

 『どういうこと?』という真姫の質問に返せずに俺は押し黙る。
穂乃果と付き合うことになったら―――という未来は描ける。穂乃果だけじゃない、海未やことり……μ`sのメンバーとそういう関係になれたらという、あくまでなれたら(・・・・)の想像はできる。

 だけど俺にはそれを実現できる人間ではないのだ。
……違う。正確に言うと実現できる人間ではないかもしれない(・・・・・・)のだ。俺は記憶が無い。過去に何をしたのか知らない、覚えていない、思い出せない。


 
 でも、時々夢に出てくる光景が俺を縛り付ける。
廃工場、泣き喚く子供たち、数人の男達、黒く艶光する何か。そして一面の赤い液体。何度も何度も夢に出てくるその光景を見て、それは正常だと思えず、ただただ恐怖を植え付けられている。


「ただ、今の俺と付き合ったら……穂乃果を巻き込んでしまいそうで怖いんだ」
「……なにそれ意味わかんないんだけど。痛い病気にでもかかった?」
「そう思いたければそれでいい。まぁ簡単に言うと俺には恋愛は似合わないってことさ」


 嘘。本当はそんなのが理由じゃないのは俺が一番わかっている。だけど本当の理由を言葉にどう言い表したらいいのかわからいだけ。感覚でしかわからないのだ。

「……」

 特に反応を返さず、こくりと喉を鳴らして珈琲の流し込む真姫。事情アリと察したのかそれ以上は言及して来なくなり、俺としては気が楽になった。
 

「まぁ大地の恋愛事情なんて私は興味ないわ」
「ツンデレか?ツンデレなのか?」
「ピアノで殴られたいの?」
「その前にお前ピアノ持てるのかよ!?そっちの方が怖いわ!!!」


 やはりこの話は誰にも信じてもらえそうになく、いつもの如く隠し通すしかないと俺は思った。俺が記憶喪失であることは花陽しか知らない。しかも断片的なところだけ。彼女が口を漏らさなければ面倒なことに巻き込まれることは無いだろう。


「さて、寝るか……明日も早いし、真姫もあまり遅くまで起きてんじゃねぞ~」
「だったらこの時間を返してほしいわね」


 先にベランダに出たのは真姫だろうに、という言葉をおくびにも出さずに俺は軽く手を振って室内に戻る。少しだけ冷え切った珈琲は、何故かさっきよりも甘く感じられた。




「さむ。この時期の夜は冷えるなぁ……」










――――翌日

 

 作詞、作曲、衣装各々の準備が整い、ようやく練習が始まった。
昨日のグループ活動で、それぞれの間に新たな絆が芽生えたのか、厳しい練習であるにも関わらず、生き生きとしていた。


 あっという間の一泊二日の合宿は二日目三時ごろ終わりを迎え、俺たちは二週間後のラブライブ!東京都予選に向けて最終調整を行い、いよいよその時がやってくる。



 舞台はUTXの屋上。穂乃果が優勝すると決意したその日に彼女は綺羅ツバサにアポイントメントを取り、屋上で魅せることになる。



―――μ`sの新たな世界を。


―――μ`sのユメノトビラ(・・・・・・)を。




覚悟しろA-RISE。
これがμ`s(俺達)の実力だ。






そして、その日はやって来た。




ラブライブ!東京予選、いよいよ開幕である。
 
 

 
後書き



真姫に気づかれた……というか、真姫に自白した大地。何故穂乃果の気持ちに応えないのか。それは記憶が無くても心の中に存在する”無意識の罪悪感”が奥底にあり、それが彼の言動の歯止めとなっているから。

 それに気づかず今後も大地は、過去に縛られたままもがき苦しみ、現実を知ることになる。
そのきっかけはいつか、彼の目の前に前触れもなくやってくる。


静かに、しかし着実にその日は近づいていることも知らずに……




読了ありがとうございました。

 
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