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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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=USJ襲撃編= F.T.P

 
前書き
From The Perspective、すなわち主人公以外の第三者視点で見た物語。  

 
 
 付母神つくもという少女がヒーローになる事を夢見たのは、幼い頃だった。

 なにもかもが思い通りにならない狭くて寂しい四角のなかで、つくもにとってはそれだけが鮮烈だったからだ。それだけが許されていて、憧れていて、いつだって自分もああなりたいと願っていた。

 でもそれは、羨望の一つ。
 あれもこれもと欲深に求め続ける子供の我儘の類。
 心のどこかで自分がそうなることはないだろうと感じていた。

 予想もまた、予想を超える何かにはなり得ない。運命が紡ぐ糸は気まぐれで、気が付けば自分の前には空想でしかなかった夢へと至る具体的な道が開けていた。感じたのは運命、そして決意。夢見る子供が、夢を見続けたい――そう思った。

 現実を、知った。

 個性の特異性によって若干の特別待遇を受けてはいるものの、常人を遥かに超えた能力を持ってはいるものの、心が追い付かなければ役に立たない。USJ襲撃事件にて、残酷なまでにそれを思い知った。

『付母神ちゃんは……俺たちの援護を頼んでもいいかな!』
『自己保存を優先し、余裕があればで良い。お前に危機が迫ったら我らも援護する』
『ムリスルコトナイゾー!』

 違うの、尾白くん。そんな気の遣い方をしてほしかったんじゃないの。
 違うの、常闇くんにシャドウくん。そんな事を言って欲しかったんじゃないの。
 違うのは、何?違うのは、現実を前にした私の心だった。

 悔しかった。事件が終わった後、私が無責任に甘えてしまった水落石くんが殺されかけたと知って絶望すら感じた。事件が終わって自分の部屋に戻った時、涙が止まらなくてしょうがなかった。


 変わりたい。そう思った。


「……それで私の所にか」
『はい……』

 目の前の巨漢――そして恐らく日本中の子供たちの憧れのヒーロー、オールマイトは少し考えるそぶりを見せた。そして、見慣れた人を安心させてくれる笑顔とは少し違った真剣な表情で答えてくれた。

「付母神少女、君は個性を一通り使いこなしている。しかし応用については少しばかり二の足を踏んでいるように感じる時がある。戦闘能力には問題ないのに実技での戦績が奮わないのもきっとそのせいだろう。……それを責めているという訳じゃない。他の生徒たちだって似たような問題を抱えていて、それを解決に導くのが我々教師の役割だからね。そのうえで言わせてもらうが……」
『はい………』
「君は、もし自分がヴィランだったらどう戦うか、どれほど考えた事があるかね?」

 それは、思いもしない質問だった。即座に首を横に振るくらいに、自分がヴィランだったときの事なんて考えたこともなかった。

「いつだったか言ったかもしれないが、ヒーローとヴィランは表裏一体だ。突き詰めていくと一定の社会ルールを守った暴力か、そうでない暴力かの違いでしかない。だから制約の少ないヴィランは、思いつく限りの自分が有利な戦い方を用いてくる」

 それはそうだ。個性は強力無比。それを無制限に使えるヴィランが有利だというのは、いつだかの実技授業でも習った事でもある。もっともその授業ではヴィラン側にも一定の制約を課されはしたが。爆豪の半ばルールを無視しかけた攻撃には身が震えた。

「ヒーローが戦うのはヴィランだ。だからヒーローは皆の希望でありながら、ヴィランの思考や戦い方をよく覚え、考えなければならない。例えば緑谷少年がよくノートにものすごい勢いで個性のメモをしているだろう?あれ、見たことあるかい?」
『は、はい………そんな使い方思いつかない、っていうようなことまで書いてあって驚きました』
「だろうね。あそこまで行くと一種偏執的とまで言えるが………ともかく、あれはヒーロー分析というだけでなく、その個性の持ち主と相対したらどんな戦法を用いるかという予測にもなっている。実際それで緑谷少年は爆豪少年と渡り合えた」

 緑谷くん、か。不思議な人だと思う。普段は臆病でどっちかというと自分に近く感じるのに、実戦では逆に誰よりも勇敢に――身を捨ててまでヴィランに戦いを挑んだ。あの勇気も、そのノートと関係あるのだろうか。

「少し話が遠回りになってしまったがつまり、だ。君は『相手を倒す』という考え方が弱いんだ。技を放つ事は出来るが、それを人に当てるときに躊躇うのは、攻撃で相手を倒すというところまでイメージできてないせいだと私は思う。ヒーローは確かに優しさも必要だが、時には多くの人々の平和の為にどんなヴィランでも打倒しなければならないという非情な面も存在する」

 傷つけるのが嫌だけど、傷つけなければならない。それがヒーロー。テレビの向こうでヴィランを吹き飛ばしているだけに見えたオールマイトの、イメージと違う重い言葉に、私は暫く言葉が出なかった。同時に、怒りが湧いた。

 私は変わりたいなんて言っておいて、また甘えた事を考えていた!
 こんなままではいつか本当に、水落石くんみたいに甘えた人の足を引っ張る!
 私のせいで誰かが傷つくなんて、絶対に自分を許せない!

 私の様子を見たオールマイトは、やがてその重い口を開いた。

「……ところで、もうすぐ雄英体育祭だね」
『えっ?あ、そうですね……?』
「雄英体育祭は世間も大きく注目する一大イベントだ。将来の所属先に関わるだけでなく、生徒内でも成績の善し悪しで新たな可能性を編入、或いは成績の悪い生徒を落とすという事もある。ここまで厳しくするのも、雄英の超実戦的教育方針によるだろう。そこで、だ。君に一つ、先生らしく課題を出してみようかと思う」

 最強のヒーロー、オールマイトから、まだ誰でもない――ヒーロー科の生徒としても相応しくなれていない私に出された課題。

「きみ、雄英体育祭でトップを目指しなさい」
『――!!』

 それは、あの同級生たちを、その同級生と同じくトップを目指す他のクラスの皆を、自力で打倒して一番上を目指せという事。言葉でいうのは簡単だが、それを聞いた瞬間、すごい重圧が全身を圧した気がした。

「きみは優しい。だが優しいことと競争しない事は別の事だ。高みを目指す人間はその僅かな気持ちの違いで勝敗を塗り替えてくる。だから君も、誰もが勝つ事を考える争いの中で、それを上回って自分が勝つ事を考え抜きなさい」

 こうして、私は人生で初めての――後に付母神つくもの原点(オリジン)となる戦いへ、足を踏み入れた。




 なお、その頃水落石はというと。

「発目っちー、この靴ローラーダッシュ的なの付けらんねーかな。やっぱ素の移動速度欲しいわ」
「ほうほう!いいじゃないですかローラーダッシュ!問題は噴射機構との付け合わせをどうするかですね!」
「外付け機構でよくね?邪魔になったら切り離して別の機能に早変わり!」
「うーん、ベイビーを使い捨てにするっていうのはちょっと躊躇われますね……どうせなら全部完成した機構にしたいですし」
「うーん。爪先の所にローラーつけて、踵の後ろにモーター付き車輪の後輪駆動ってどう?ダッシュ使う時だけ降ろすギミックで」
「成程!いやしかし、どうせなら前の車輪も回して4WDの方が!」
「足動かしにくくなりすぎると面倒だから前輪のモーターはほどほどにした方がいいな。ワイヤーの巻き取りモーターを改良してこんな感じで」

 雄英体育祭が自分不利なのをいいことに、なんか仕込みをしていた。

「いいか、もし俺が脱落したら緑谷を利用するんだ。あいつチョロいしファンタジスタだし道具の使い道とかすげー思いつくタイプだから」
「へー!誰だか知りませんがミドリヤですね!メモしておきます!」




 発目明と協力者になった!
  
 

 
後書き
ちょっとオールマイトが饒舌過ぎたか……?
オールマイトとしては、つくもちゃんは気持ち一つで大化けする可能性があるからここはデクくん同様発破をかけるという選択に出ました。

体育祭は変えると面倒な部分が多いので困りどころですが、困るんなら詳細に書かなきゃいいじゃないという二次創作最終奥義を撃つ準備はしてあります。(←余計な部分を全部飛ばす為に「主人公は今まで寝てた」を乱発する作者を見てその技術を盗もうと誓った人) 
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